〜 花もひと時 〜






 塀に囲まれた細い石畳の道を、彼は一人、歩いていた。
 大勢がいるはずの本丸なのに、なぜか声一つ聞こえない。
 見上げれば、すぐ目の前に櫓があるにもかかわらず、そこへ到達する道は今のところ、見つかってはいなかった。
 「迷った・・・」
 額に汗を浮かべて、一文字則宗が呟く。
 「どこだ、ここは・・・。
 どこの丸にいるんだ、僕は・・・」
 この本丸に顕現した際に、案内の坊主から、ここが城郭建築だということは聞いていた。
 ゆえに、自分がいる場所もおそらく、どこかの曲輪(くるわ)だろうとは思うのだが・・・。
 空を見上げても、張り巡らされた鋼線が日を弾くばかりで、既に自身がどこから来たのかさえ覚束ない。
 「好き勝手改築しおって・・・」
 とはいうが、本丸の増改築は、審神者の特権でもある。
 そこに政府は口出ししない。
 「あ、そうだ!
 こんな時のために、あれを使えばいいのだな!」
 ようやく光明が見えて、袖の中や懐を探すが、持ち慣れない携帯端末はどこかへ置き忘れたらしく、どこにもなかった。
 「た・・・助けてくれー!誰かー!」
 呼びかけると、傍らの塀の上から誰かが顔を出した。
 「どうした、迷い子か?」
 逆光でよく見えない顔に向かって、則宗はほっと吐息する。
 「・・・あぁ、助かった。
 坊主、すまんが本丸御殿に連れて帰ってくれんか」
 「坊主、とな」
 くすくすと笑う声に、則宗は目を見開いた。
 ようやく慣れてきた目に写ったのは、
 「小烏丸・・・様?!」
 声を引き攣らせた彼に、小烏丸はまた楽しそうに笑う。
 「誰そ彼時にはまだ遠いぞ、坊や」
 「は・・・!」
 恐縮のあまり、額に汗を浮かべる則宗の元へ、塀を越えた小烏丸がひらりと降りた。
 「どれ、父が手を引いてやろう」
 「いえ・・・ご遠慮いたします」
 差し出した手は固辞する彼へ、小烏丸がまた、くすくすと笑う。
 「さようか。
 ならばついてまいれ」
 はぐれるなよ、と、子ども扱いの小烏丸へ言い返すこともできず、則宗はほとんど無言で従った。


 ようやく戻った部屋で、寝転がる猫を見た途端、則宗はわしゃわしゃと頭を掻きまわしてやった。
 「なんにゃ!!」
 驚いて飛び起きた南泉を抱きしめて、更にわしゃわしゃと頭を撫でる。
 「猫を撫でると落ち着くというだろう?
 ちょっとびっくりしてしまったから、撫でさせておくれ」
 「にゃっ!!
 だったら、五虎退の虎でも撫でてるといいにゃ!!
 にゃんで俺っ!!」
 「探しに行ったら、また迷ってしまうかもしれないじゃないか。
 同じ一文字のよしみで、じじぃを慰めてくれよ」
 「にゃああああああああっ!!」
 嫌がってもがく南泉の鳴き声に、何事かと障子が開いた。
 「御前、どら猫がうるさいので、ご容赦ください」
 「あぁ、日光の坊主。
 ちょっと聞いてくれよ」
 と、困り顔でため息をつく。
 「さっきな、城内で迷子になって、小烏丸様に助けてもらったんだが・・・。
 まさか、刀剣の父というべき古いお刀様が、野菜かごなんか担いで農作業中だとは思わないじゃないか。
 逆光だったこともあって、うっかり坊主なんて呼んでしまって、気まずいと来たら・・・」
 またため息をこぼした則宗に、日光はあっさりと頷く。
 「ええ、内番は割とお好きなようですよ。
 畑だけでなく、二の曲輪に置いてある花への水やりも日課のようで」
 そう言った彼の、口の端がやや歪んでいることに気づいた則宗の目が吊り上がった。
 「なんで教えんのだ、坊主なんて呼んじゃったじゃないか!」
 「聞かれなかったので」
 「そういう地味な嫌がらせよくない!!」
 口を尖らせた則宗は、この隙に逃げようとしていた南泉を引き留めて頬ずりする。
 「まったく、山鳥毛の育て方が悪いから、敬老の精神を持たない坊主になってしまって!
 でもネコチャンはそうじゃないよなぁネコチャン!」
 「にゃああああああああ!!!!」
 ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、南泉が悲鳴をあげた。
 「静かにしろ、どら猫。
 御前、周りへの迷惑ですから」
 「なんだい、ネコチャンが黙って撫でさせてくれたら済むことじゃないか。
 ネコチャンはこーんな意地悪な坊主になっちゃいかんぞー。
 じじぃとの約束だ!」
 「俺は猫じゃないにゃ!!」
 思い通りにいかない隠居と騒々しい猫の鳴き声に、日光は眼を細くする。
 「どら猫、命令だ。
 御前のお相手をして差し上げろ。
 そして黙れ、騒々しい」
 眼光鋭く睨まれ、南泉は息をのんでこくこくと頷いた。
 「おやおや、可哀想になぁ、ネコチャン。
 あんなに言わなくてもいいのになぁ」
 「失礼しますよ」
 則宗の声は聞かなかったことにして、日光は背を向ける。
 「・・・あぁ、そうだ。
 本日は、主の就任六周年の宴ですから、遅れずにいらっしゃるように。
 どら猫、迷わないように案内して差し上げろ」
 肩越しに言うや、鋭い音を立てて閉まった障子にびくりと怯えた南泉を、則宗は慰めるように撫でてやった。
 「あぁ、それで、曲輪に誰の声もなかったのか。
 それにしても日光の坊主の堅苦しいことよ。
 確かに僕は、この本丸へは監査官としてまみえたけれど、今はただの一振りとして同じ主に仕える身だ。
 あんなに警戒することはないだろうになぁ」
 「日光の兄貴は・・・お頭の片腕だからにゃ・・・」
 しょげたように呟く南泉を、則宗は和んだ目で見つめる。
 特に何も言いはしないが、先を促された気がして、南泉は祖の胸に背を預けた。
 「俺は・・・お頭のなんにもなれてないけど・・・」
 「そうだなぁ。
 日光の坊主が左腕なら、右腕はおそらく、あやつだろうが・・・」
 南泉の頭を撫でてやりながら、則宗は継いだ。
 「猫の坊主には坊主にしかできないことがあるさ。
 なぁに、気にすることはない。
 きっと僕は、そのためにここに寄越されたのさ。
 未熟な坊主たちを鍛えなおすためにね」
 「・・・そーゆう上から目線、良くないにゃ。
 それで長義の奴は、主にめちゃくちゃ叱られたにゃ」
 嬉しそうにほくそ笑む南泉の顔を覗き込んだ則宗が、不思議そうな顔をする。
 「長義というと、僕より先に派遣された監査官か。
 彼がどうかしたのかい?」
 すると南泉は、くすくすと笑い出した。
 「長義の奴、よりによってウチの主に、職務怠慢とか不満があるなら反乱を起こせばいい、なんつって!
 主をめちゃくちゃ怒らせてたにゃ!
 ここは第一刀が歌仙だし、他の刀が止めてなけりゃ、主は本当に反乱を起こしてたにゃ!」
 「おいおい・・・。
 穏やかじゃないな」
 しかし、と、則宗は、この本丸の戦績を思い出す。
 「僕が顕現した途端、すごく怖い目をした主と歌仙に見せられたのだけど、確かに・・・うん、言い方が悪かったね、僕は。
 とても頑張っているね、ここは」
 「全部の本丸がここくらいがんばったら、敵なんてもう残ってないはずだ、って、長谷部が吠えてたにゃ。
 すごい勢いで、政府の政策批判してたにゃ」
 そもそもの、敵勢力の情報が誤りだったのではないかと、辞書ばりの厚さの抗議書を送っていたという彼に、則宗は苦笑した。
 「今、政府に居なくてよかったよ。
 そんなもの読まされたくないからね」
 「長谷部は戦況分析が大好きにゃ。
 この城も、長谷部と同田貫が建てたそうにゃ」
 「あぁ、道理で。
 なんだか性格の悪いやつがいるな、と思ったよ」
 散々迷った道を忌々しく思い出した則宗はふと、思い至って天を指した。
 「ところであれは、なんだい?
 なんで空に、蜘蛛の巣みたいなものが張り巡らされてるんだ?」
 問うと、南泉は『あぁ』と頷く。
 「防御の・・・にゃんとか。
 上空から攻めてきた敵を、細切れにするんだそうにゃ」
 「え」
 「詳しくは知らないにゃ」
 誰か知ってるやつに聞け、と、そっけなく言って、南泉は寝転がった。
 「おーい。
 じじぃの相手してくれよー」
 しつこくつついてやるが、南泉は無視を決め込んで、動かなくなってしまった。
 「誰かって言ってもなぁ・・・誰だろう」
 こういう時は歌仙だろうかと襖を見やるが、また迷子になるかもしれないと思うと、部屋を出ようという気は中々湧いてこなかった。
 「お。
 そうだ、こういう時のあれか!」
 相手をしてくれない南泉を放って、自室に戻った則宗は、卓上に放置していた携帯端末を取り上げた。
 「えぇと・・・。
 歌仙歌仙歌仙・・・これか?」
 画面を押すと、すぐに呼び出し音が鳴り、返事があった。
 『はいー?
 なによ、じいさん。何の用?
 俺、今忙しいんだけどー?』
 「お?!
 おぉ?!
 加州の坊主か!
 僕は歌仙にかけたんだが・・・」
 『あーねー。
 俺と歌仙、並んでるからよく間違えられるんだよねー。
 じゃ、かけなおしてー』
 「待て待て坊主!
 もし知っていたら教えてくれ!」
 『なによー?』
 加州のうるさげな口調に負けず、本丸上空に張り巡らされた鋼線のことを尋ねると、『あぁ』と、頷く気配がある。
 『他の本丸だけど、審神者が直接狙われた、ってとこ、いくつかあったじゃん。
 それで主が、結界だけじゃ心もとないから、物理で攻撃できる防御システム作ろう、って言いだして』
 「性格が悪いのは主か!」
 『今更何言ってんの』
 くすくすと笑って、加州が続けた。
 『一旦鋼線を張ってから、ヘリ・・・子豚?じゃないか、なんか空飛ぶやつを借りて、時間遡行軍の代わりの人形を何度も落として実験してさ、いい位置に張ってるんだって』
 「へぇ・・・。
 よくわからんが、大変そうな作業だな」
 『お金はだいぶかかったらしいけどねー、必要な支出だって、うちの経理担当も納得したって。
 整備のために、何か月に一度、子豚借りて点検をしてるみたいよ』
 「子豚は空を飛ぶのか・・・」
 『いやゴメン、豚じゃなくて・・・』
 「飛べない豚は」
 「それ以上は黙って」
 言うや、通話を切った加州は、笑いを堪えている主へ、気まずそうな顔をした。
 「もっかい目つぶって。
 まったく、アイライン引いてる時に電話かけてくるなんて、間の悪いじいさんだよ」
 「でもその間にボクが手を進められたから、無駄はなかったよ。
 あるじさん、髪の毛できたよ!」
 目をつむったままの主の手を取って、乱が自分の頭に乗せた。
 撫でられて嬉しげな彼を、しかし、篭手切が引きはがす。
 「乱、着崩れますからくっつかない!
 清光、メイクが終わったら私が帯を結びますから、早く終わらせてください」
 「うるっさいなー。
 そっちにもちゃんと時間取ってるんだから、急かさないでよ」
 その時、襖が開いて、光忠が顔を出した。
 「準備終わったかい?
 それとも、僕が迎えに来るのを待ってた?」
 「そんなわけないだろう。
 どいてくれ、光忠。主は俺が運ぶ」
 さぁ、と、跪いた巴を、加州と篭手切が揃って睨む。
 「まだ終わってないから!急かさないでよ!」
 「連れて行くなら乱をどうぞ!」
 「へ?!」
 突然篭手切から押し出され、たたらを踏んだ乱が目を丸くした。
 「あ、乱くん、用事終わったんならお手伝いしてくれる?」
 受け止めた光忠の、魅惑の声に思わず頷いた後、慌てて首を振る。
 「ボク、まだあるじさんに・・・!」
 「髪、終わったって言ったじゃん」
 「着崩れ防止のために、出て行ってください」
 「はぁ?!ちょっ・・・えぇ?!」
 冷たい加州と篭手切に追い出された乱が、音を立てて閉まった襖を悔しげに睨んだ。
 「なんっだよ!
 ボクもいたっていいじゃない!!」
 「気持ちはわかるけど・・・用が済んだなら、こっちを手伝ってくれないかなぁ。
 あらかた済んではいるんだけど、次郎さんが、お酒を持ってった端から飲んじゃうからさ、引き留めてくれない?」
 困り顔で見下ろしてくる光忠を、乱は精一杯見上げる。
 「なんでボクが!太郎さんは?!」
 「一緒に飲んじゃってるから。
 乱くんなら、カドを立てずに止められるでしょ。
 主くんが来てくれるなら、それに越したことはなかったんだけど・・・君の力が必要なんだ」
 魅惑の声と共に手を握られて、乱はため息をついた。
 「しょうがないなぁ、もう・・・。
 わかったよ、行くよ」
 「ありがとう!
 さぁ、巴君も行くよ!」
 「いや、俺は・・・」
 断ろうとする巴へ、光忠は首を振る。
 「主くんを抱えて運んだら、帯が崩れるでしょ。
 篭手切くんを発狂させないためにも、ここは退いて」
 有無を言わせない口調に、巴は渋々頷いた。


 その頃、歌仙から大広間へ来るようにと呼び出された古今伝授の太刀は、その広さと賑やかさに、思わず息をのんだ。
 松の間だけでも十分な広さがあるものだが、今日は続く竹の間と梅の間の仕切りとなる襖が外されて、二百畳近い広間となっている。
 そこには既に膳が並べられ、なぜか既に出来上がっている大太刀と槍が、騒々しく酒を酌み交わしていた。
 短刀達は忙しく配膳に行き交い、その目まぐるしさに眩暈がしてしまう。
 「騒々しい・・・。
 わたくしをこんな場所に呼び出して、歌仙はどこにいるのです?」
 「知らない」
 傍らの地藏行平に問うが、彼はそっけなく言うと、広間へ歩を踏み入れた。
 「あ!地蔵!
 先に行かないでください・・・!」
 人見知りの気がある古今が、慌てて兄弟の袖を掴む。
 「い・・・一緒にいてください・・・!
 こんな騒々しいところ、わたくし一人では・・・」
 すっかり怖気てしまった兄弟に、地蔵はため息をついた。
 「席次は決まっているのだから、そこにいればいいのだろうに。
 そら、あそこだ。琉球の脇差がいるだろう」
 「あんな明るい刀の傍にいたら、枯れてしまうではありませんか!
 やまとの花に直射日光はよくないのですよ・・・!」
 「そんな話は聞いたこともないが」
 懸命に引き留めようとする古今を腕に絡めたまま、地蔵は自身の紋が添えられた膳へと歩を進めた。
 「ま・・・待ってください、せめて・・・歌仙を待ちましょう?!」
 「そのうち来るだろう。
 吾は琉球刀と交流しているから、古今はそこでしばらく待って・・・」
 「おいて行かないでください、地蔵!
 行平は寂しいと死んでしまうのですよ?!知らないのですか?!」
 「知らない、聞いたこともない。吾は平気だ」
 「わたくしは平気ではありません!」
 袖を引きちぎらんばかりに掴む兄弟に、うんざりする地蔵ごと、突然背後から押しのけられた。
 「聞いていればごちゃごちゃと!
 邪魔だ!どけ!!」
 あまりの狼藉に絶句する古今の肩を、後から来た鶯丸がぽんぽん、と優しく叩く。
 「乱暴者ですまないな。
 おい、大包平。
 すっかり怯えてしまったじゃないか」
 「はっ!軟弱な刀だな!」
 「まぁ・・・!」
 上から見下ろされて、さすがにむっとした古今が、袖で半面を覆った。
 「・・・あなかしかまし 花もひと時」
 「ふん!
 いづれの人か つまで見るべき、か!」
 「生意気です・・・!」
 悔しげに肩を震わせる古今へ、大包平が得意げに胸を張る。
 「この!俺を!舐めるな!」
 「何を騒いでいるんだい?」
 大音声に、何事かと寄ってきた歌仙を見つけた古今が、彼の背に隠れた。
 「狼藉者に絡まれてしまったのです・・・!
 なのに、地蔵は助けてくれなくて・・・!」
 「楽しそうだったじゃないか」
 「あぁ、楽しそうに見えた」
 「目が悪いですよ、お二人とも!!」
 のんきな地蔵と鶯丸を、古今は歌仙の肩越しに睨みつける。
 「あなたが、雅でない者ともつきあいなさい、なんて言うから我慢していましたのに、もう心折れそうです・・・!」
 「なんだ!俺の歌が不満か!」
 「そのように声を張り上げて、歌に失礼だと言っているのです」
 むぅ、と、口をとがらせる古今に、鶯丸が笑い出した。
 「確かに、こんなにも粗雑に読まれては、情緒も何もないものだ」
 「その件については、僕はとうに諦めたよ」
 肩をすくめて、歌仙は手を叩く。
 「ほら、君たち。
 そろそろ主が見えるから、中に入ってはどうだい。
 こんなところにたむろしていては、邪魔者扱いされてしまうよ」
 「それもそうだ。
 大包平、今年は口に気をつけろよ。
 また、折れるほどに蹴られるぞ」
 「・・・・・・わかっているさ」
 ぽす、と、口を覆った大包平に歌仙も笑い出した。
 「・・・ふんっ!
 心あてに 折らばや折らむ」
 「あぁ?!
 香をたづねてぞ 知るべかりける、とでも言えばいいのか!!」
 「まぁ!!」
 「ほら、ケンカしない!
 主のお出ましだよ!」
 歌仙が示した先に、加州と篭手切を伴って、主が現れた。
 言祝ぎに、まず進み出た三条の一門から飛び出した今剣をしかし、二振りがものすごい剣幕で阻む。
 なにやら悶着があったのち、渋々と退いた今剣が、着座した主の前に並ぶ一門の席に加わった。
 それでもなお、おもに篭手切が、血走った目で辺りを睨みまわし、近づく者は全て排除しようと警戒している。
 「・・・あれは何をやっているのか」
 見苦しいほどの警戒ぶりに、呆れた地蔵が問うと、歌仙は肩をすくめて苦笑した。
 「昨今、着物警察と呼ばれるようなことだよ。
 ほんの少しの着崩れや隙を、生死にかかわるがごとくあげつらう者達のように、主に僅かな着崩れも生じさせないよう、抱きついてきそうな短刀達を警戒しているのさ」
 「まぁ・・・。
 衣は身に添ってこそでしょう。
 あまり窮屈では、良い歌も詠めませんよ」
 眉をひそめる古今に、歌仙が頷く。
 「清光もね。
 化粧崩れを防ぐために、主に飲食をさせないつもりだよ、あれは」
 「それはさすがに気の毒すぎる」
 呆れた鶯丸が、進み出た。
 「せめて、清光くらいは引き離して来よう。
 行くぞ、大包平」
 「命令するな!」
 鶯丸に引きずられていく大包平の姿に、ようやくほっとして、古今は歌仙の背後から出て来る。
 「主への言祝ぎは、刀派ごとに差し上げるのですか?
 あなたが最初なのでは?」
 第一刀だろうに、と問われた歌仙は、笑って首を振った。
 「君もここに来てしばらく経つのだから、この本丸の雰囲気はわかっているだろうが、主はとかく、格差を嫌う方でね。
 お気に入りには絶対に権力を渡さないし、古参だからと言って、新参より優位というわけでもない。
 僕は唯一、主の代理ができる立場ではあるけれど、それだけだよ」
 「もしや・・・」
 ふと、地藏が呟く。
 「顕現して一週間以内に戦力を最大限にまで高めておけ、と命じられたのは、その格差を失くすためか?」
 「ご明察」
 頷いた歌仙に、古今は改めて主を見遣った。
 「なんて無茶なことを仰る方か、と思っていましたけれど・・・」
 やや、感心した様子の彼に、歌仙は満足げな笑みを浮かべる。
 「刀帳に載っている順番で挨拶に行けばいいから、もうしばらくは一緒にいてあげよう。
 光忠ご自慢の肴はいかがかな?」
 座を勧められた地蔵が、困惑げな目で歌仙を見やった。
 「主を差し置いて宴とは・・・。
 蜂須賀家でもあり得ないことなのでは?」
 「おや、地蔵は蜂須賀家の宴に興味があるのかい?
 ならば・・・」
 と、歌仙は徳利を握って飲酒を強要している蜂須賀へ声をかける。
 「あるはら、とやらをやめたまえよ君。
 水心子が泣いているじゃないか。
 それより地蔵を構ってやってくれ。
 蜂須賀家の宴に興味があるのだそうだ」
 「は?!」
 目をむく地蔵に、嬉しげな蜂須賀が駆け寄って来た。
 「それはいい心がけだよ、君!
 見所がある!」
 「い・・・いや、吾は・・・!」
 助けを求めて見遣った歌仙は笑って手を振り、古今も嬉しげに微笑む。
 「わっ・・・吾は古今ほど酒に強くはないのだ!」
 行くなら一緒に、と縋る地蔵を、古今は意地悪く見下ろした。
 「地蔵だってさっき、わたくしを見捨てたではありませんか」
 「いや、だってあれは楽しそうに見えて・・・!」
 「あなたたちも楽しそうですよ。
 構ってもらえて嬉しいですね、地蔵」
 古今がにこにこと見守る中、蜂須賀に猪口を渡された地蔵は、なみなみと注がれた酒を前に固まる。
 「さぁ、宴を楽しもうじゃないか!
 古今、君もどうかな?
 豊後の刀は酒が強いと、和泉守が呻いていたからな!」
 さぁ、と、渡された猪口を、古今も受け取った。
 「若い鶯が、潰れて儚く鳴く様を見るのは、なんとも憐れが深くて愉快でしたねぇ。
 そういえば、今日はどちらに?」
 部屋を見回す古今へ、歌仙が苦笑する。
 「古今・・・。
 あまり、いずみをいじめないでくれよ」
 「あら、せっかくなら、共に楽しみたいではありませんか」
 「そうだな、和泉守を呼んでこよう!
 梅をかざして楽しく飲まめ、と言うからな!」
 さぁ行こう!と、地蔵を小脇に抱え、古今の手を引いて行く蜂須賀を見送って、歌仙は肩をすくめた。
 「なぜ万葉集なんだ・・・」
 「それ、次郎さんが好きな歌だよね」
 「酔っぱらいの頭に残る歌なんじゃないの」
 安定と、彼に襟首を掴まれて不満顔の清光が寄って来る。
 「やぁ、清光。
 主をきれいにしてくれたのはいいのだけど君、飲食させないつもりだったよね?」
 ちらりと睨むと、清光は鼻を鳴らした。
 「頑張ったんだよ、リップグロスのグラデーション。
 あれがとれちゃうなんて、許せないじゃない。
 主なら、2、3時間飲まず食わずでも平気でしょー」
 「可哀想だよ!!」
 思わず突っ込んだ安定に、歌仙も頷く。
 「周り中、おいしい匂いに満たされているのに、我慢ができる御仁でもないだろう。
 ご機嫌が悪くなる前に、篭手切も引き離して来ようか。
 ひどく抵抗するだろうが仕方ない。
 粟田口の挨拶が終わったら君達、行ってくれないか」
 「てっ・・・抵抗する彼をっ・・・拘束っ・・・するのかい?!」
 話を聞きつけるや、鼻息荒く迫って来た亀甲を、安定があきれ顔で見遣る。
 「ついさっきまで、だいぶ遠いところにいたよね?
 どんな耳してるの」
 「君が、暴れる清光をシメて連行するところから見ていたよ!」
 「そこからかよ・・・」
 既に目をつけられていたと知って、清光が肩をすくめた。
 「篭手切を拘束するなら、ぜひ僕も仲間に入れておくれ!
 きっとご主人様に満足していただけるような、見事な拘束をして見せるからさ!」
 うふふ・・・と、楽しそうに笑う亀甲から、歌仙がそっと離れる。
 が、亀甲は逃がすまいと、すかさず彼の腕を掴んだ。
 「ちょっ・・・!放したまえよ、君っ!」
 「つれない素振りもたまらないよ!
 ご主人様にそっくりなドSの君だもの、きっとご満足いただけると思うよ!」
 「誰が・・・!」
 「ねぇ亀甲」
 抵抗する歌仙の陰から、安定が顔を出す。
 「君が言う真のドSって、どんなの?」
 興味本位で尋ねてみると、亀甲は歌仙の腕を掴んでいた手を放し、薄紅に染まった自身の頬を包んだ。
 「今のご主人様だよ!」
 主を見つめながら、うっとりと言う彼に、安定は首を傾げる。
 「いや、主が鬼なのはわかってるんだけど、何が真で何がただの乱暴者なの?」
 「あぁ、そのことか」
 問われて、亀甲は人差し指を立てた。
 「ただの乱暴者というのは、ストレートな乱暴狼藉だね。
 苛立ちから暴力までの動きがそのままだけど、腹には何もない」
 「ふぅん・・・じゃあ、ねちねちいたぶる系?」
 その問いには、あっさりと首を振る。
 「それはただの陰険。
 そこに愛はなく、ただ自分の鬱憤を晴らしたいだけさ」
 「あぁ・・・そうか。
 じゃあ、愛があるドSってなに?」
 「だから、今のご主人様さ!!」
 ひと際声を張り上げた亀甲に、安定はむっとした。
 「・・・同じ質問させないで」
 眉根を寄せてしまった彼に、亀甲はくすくすと笑い出す。
 「つまりね、ご自身が上に立つために、努力を惜しまない方のことだよ!
 例えば歌。
 歌仙を第一刀に選んだ時点で、ご主人様は古今和歌集をはじめとした勅撰和歌集や万葉集、果ては漢詩までも、読める物はすべて読んだそうさv
 そうだろう?と問われて、歌仙は微笑みを浮かべた。
 「だいぶ時間はかかってしまったけれどね。
 でもそのおかげで今、古今伝授の太刀にまで、膝を折らしめているだろう?」
 自慢げな歌仙に、亀甲も満足げに頷く。
 「ちなみに今は、俳句を暗記中だそうだよ!」
 「あ・・・そういうことか。
 自分が上だってことを、実力でわからせるってことか」
 ようやくわかりかけてきた、と、顎を摘む安定へ、亀甲は何度も頷いた。
 「そのためには、相手をよく研究して、何をもってすれば相手を跪かせることができるかを知っておかないとね!
 つまり、愛!なんだよ!」
両手でハートの形を作る亀甲に頷いた安定は、傍らの清光を見遣る。
 「努力と執念もありそうだけど・・・確かに、本丸カラオケ大会の採点で、篭手切を負かして高笑いしてたし、史実も逸話も、僕たち自身より知ってたりするしね」
 「山姥切渾身の手紙に、『うん、知ってた』って言ってたよ、って教えたらあいつ、本気で膝折れたからね」
 面白かった、と笑う清光に、亀甲が詰め寄った。
 「そう、それに・・・!
 ちょっと恥ずかしい逸話なんかを、知ってるぞ、って言われた時って、なんだか羞恥プレイみたいで・・・ぞくぞくするだろう?!」
 「ぞくぞくはしないよ!!」
 すかさず言った安定の隣で、清光は頬を染める。
 「でも・・・確かに恥ずかしいけど、そんなことも知っててくれてるんだ、って、ちょっと・・・うん、まぁ・・・」
 「それだよ!
 それが、愛のあるドSで、つまりご主人様なんだよ!!愛!!」
 「なんか・・・ちょっとわかった気がしちゃった」
 思わず頬を染めた安定に頷き、清光は更に赤くなった顔を両手で覆った。
 「気がする、じゃなくてわかっちゃったよ・・・。
 ヤダ俺、主の顔見られない・・・!」
 「ちなみに」
 吐息混じりに、歌仙が口をはさむ。
 「何を読めばいいか、と尋ねられて、選書をするのは僕だよ」
 「あんたかよっ!」
 声を揃えた安定と清光に『似た者同士が!』となじられて、歌仙が笑い出した。
 「なんだか、似た者同士と言われることに慣れてしまったね。
 ・・・そら、粟田口の言祝ぎが終わった。
 そろそろ篭手切を捕らえに行こうか」
 「捕縛とはまた、穏やかじゃないな」
 跳ねるような足取りで行ってしまった亀甲の後から、遅れてやって来た則宗に声をかけられて、歌仙は振り返る。
 「おや、いなかったのか。
 山鳥毛と日光はとっくに来ていたから、一緒にいるものだと思っていたけれど」
 「なによ、じいさん。
 ここから電話してたんじゃなかったの?」
 てっきりここにいると思っていた、という清光に、則宗は目を和ませた。
 「おぉ、加州の坊主。
 子豚の話は、僕の部屋からかけていたんだ」
 「子豚って?」
 「いや、それはいいから」
 興味を引かれた安定を制す加州へ、南泉が身を乗り出す。
 「順番まで寝てようと思ったのに、御前に案内させられたにゃ。
 せっかくだから、飲み食いさせろ」
 「あぁ、もう並んでいる料理は、適当につまんでくれて構わないよ。
 ただ君、酒はよした方がいいのじゃないかな」
 苦笑した歌仙は、短刀達が集まる卓を指した。
 「あちらが酒肴を置いていない席だよ。
 則宗は?
 酒肴をご所望かな?」
 「僕はどちらでも構わないよ。
 まぁ、せっかくだから、うちの坊主たちに嫌がらせでもするかな」
 日光への腹いせだ、と、悪い笑みを浮かべる則宗に、加州が肩をすくめる。
 「じいさん、若い連中に口出しするのは悪い癖だよ。
 もう自分の時代は終わったって、認めたらどうなのさ」
 「にゃっ!御前に無礼にゃ!」
 さすがに腹を立てた南泉に、安定も意地悪く笑った。
 「おじいちゃんはたくさんいるけど、そっちは世代交代しちゃったんでしょー?
 あんまり構うと嫌われるよ?」
 「そーそー。
 爺さんたちとお茶でも飲んでなよー・・・って、ダメだ。今日は酒宴モードだ」
 やばい、と、加州は眉根を寄せる。
 「天下五剣が飲み始めると、とんでもないことになるから、近寄らない方がいいよ」
 「おや、喧嘩でも始まるのかい?」
 触らぬ神に祟りなし、と、歩を引いた則宗に、歌仙が首を振った。
 「いいや、仲は良いよ。
 ただ、盛り上がりすぎて際限がなくなるから、知らず知らず杯を重ねて、よほどの酒豪でもない限り、記憶がなくなってしまうんだそうだ」
 「そりゃ恐ろしいな」
 「鬼丸なんて、俺の酒が飲めないのか、ってグイグイ来るからさー。
 兼さん潰れちゃって、次の日まで動けなかったんだよ」
 「古今さんと二人がかりだもん・・・。
 兼さん、お酒強くないのに意地っ張りだから、受けちゃってさー」
 ねー、と、顔を見合わせて小首を傾げる加州と安定の頭を、則宗が笑って撫でる。
 「坊主たちは仲がいいなぁ!
 うちの坊主たちも、少しはジジィに優しくしないものかねぇ。
 ジジィを構ってくれるのはもう、ネコチャンだけだよ、ネコチャン」
 「うぐ・・・」
 べったりと抱きつかれ、わしゃわしゃと頭を撫でられても抵抗できない南泉が、せめてのしかめ面で対抗した。
 そこへ、
 「ねぇ。
 たむろされてると、邪魔なんだけど」
 下からの不満げな声を見下ろすと、蛍丸がふっくらと頬を膨らませている。
 「来派の順番だぜ!
 どいたどいた!」
 隣で元気に声をあげる愛染が進み、彼に手を取られた明石が、適当に会釈しながら続いた。
 「どうも、すんまっせん。
 先に行かせてもらいますわ。
 蛍丸?どうしたんや、行くで」
 足を止めている蛍丸へ声をかけると、じっと則宗を見上げていた彼が、頷いて足を速める。
 「?
 なんだろうね?」
 不思議そうに蛍丸の行く先を見やれば、亀甲に拘束された篭手切が、じたじたと抵抗していた。
 「粟田口が終わったって!
 まだ短刀はいるでしょうが!!
 私は、主の着崩れを何としても防ぎたいのですよ!!」
 「そうは言うけどさ、愛染は分別があるし、うちの太鼓鐘なんて、衣装に関しては君よりもうるさいよ?
 そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
 「は?ちょっと聞き捨てならないこと言わなかった、徳川の?」
 「うちの弟達だって、分別はある」
 むっとした鯰尾と骨喰に迫られるが、亀甲はむしろ嬉しげに笑う。
 「分別、ある子とない子がいるじゃないか。
 まぁ、ご主人様の衣装に関しては、お行儀良くしてくれたようだけど」
 「当たり前でしょ!
 そんなのボクが許さないよ!」
 ヘアメイク担当の乱が、憤然と仁王立ちになった。
 「今日はみんな!
 あるじさんに、おさわり禁止だからね!!」
 「俺から触ったりはしないけどさ」
 とことこと進み出た蛍丸が、ちょこんと座る。
 「主さん、六周年おめでとぉ」
 ぺこりと頭を下げた彼に、主の目が和んだ。
 「色々言う奴がいて、ムカつくこともあるだろうけどさ。
 俺は、主さんががんばってるの、ちゃんとわかってるからね?」
 「ほたー!!!!」
 「あるじさんんんんんんんんんんんん!!!!」
 「着崩れえええええええええええええ!!!!」
 蛍丸に自ら抱きついた主へ、乱と篭手切が悲鳴を上げる。
 一方の蛍丸は、してやったりと言わんばかりの笑みで、真っ青になった面々を見渡した。
 「へへー!
 じゃあ、今日の守り刀は俺ねー!」
 しがみついて寝る!と、嬉しげな蛍丸に、毛利が目を輝かせる。
 「じゃあ僕は!
 あるじさまに添い寝する、小さい子に添い寝したいです!」
 「なんでだよ、蛍!!
 今日は俺が懐に入れてもらう役だったのに!
 毛利も横入りしないで!!」
 と、信濃が二人を押しのけて主へ抱きつく。
 「ちゃんと!順番守って!!」
 「おや、風紀紊乱というものかい?」
 にこにこと状況を見守っていた則宗が言うと、安定が呆れ顔で肩をすくめた。
 「何、のんきなこと言ってんのさ。
 夜襲があるかもしれないのに、主を一人で寝かせられるわけないじゃない」
 「本丸ったって、戦場だからね。
 常在戦場、って、あんたが言ってたんでしょー。ちゃんと自覚してる?」
 「ご・・・ごめんなさい」
 清光にまでなじられて、則宗が首をすくめる。
 「やれやれ、叱られてしまった。
 さてはあの坊主、僕をこんな目に遭わせるために、主にあんなことを言ったのだね」
 「え?蛍って、そこまで考えるかな?」
 「結構、単純っぽいけどねー」
 と笑う安定と清光に、歌仙は苦笑した。
 「以前はともかく、蛍丸はもう、立派な神剣だよ。
 男子三日会わざればすなわち刮目して見よ、というだろう。
 君達も、数年前とは全く違っているだろうに、いつまでも最初の認識でいるのは良くないよ」
 「う・・・はい・・・」
 「おっしゃる通りです・・・」
 則宗とそっくりに首をすくめてしまった安定と清光に、歌仙は笑い出す。
 「さてさて。
 そろそろ僕たち、古参組の順番だ。
 せいぜい、気の利いたことを言わないと・・・蜂須賀!
 いい加減、あるはらをやめたまえ、君!!」
 古今と二人がかりで和泉守を捕らえ、潰そうとしている蜂須賀から身内を救うべく、歌仙は歩を踏み出した。




 了




 










審神者就任六周年のあれやこれやでした。
この先続けようかとも思いましたけど、歌仙の愚痴が長くなりそうだし、蛇足なのでここで終了。
元監査官は最初にシメるのが弊本丸の決まりですよ。
そして古今と大包平のやり取りについて補足です。
騒々しい大包平へ古今が、『あなかしかまし 花もひと時』と言うのは、僧正遍照の
『秋の野に なまめきたてる 女郎花 あなかしかまし 花もひと時』
を引いて、『はしゃいで騒ぐ姿が騒々しい』と言ったのですけど、武骨で歌なんか知らないだろうと思っていた大包平に、
『秋くれば 野辺にたはるる 女郎花 いづれの人か つまで見るべき』
と返されてしまって悔しいよ、ということでした。
大包平は、『咲き誇っている女郎花を摘まずにはいられないように、こういう場ではしゃいで何が悪い』と言っています。
しかしこの話は1月27日のことなので、二振りとも季が違う『女郎花』は避けて、下の句だけ詠んでいます。
その後、鶯丸にたしなめられた大包平に、古今が
『心あてに 折らばや折らむ 初霜の 置き惑はせる 白菊の花』
を引いて『折られてしまえ』とチクリと言えば、大包平は古今が戦闘前に上の句を詠む、
『月夜には それとも見えず 梅の花 香をたづねてぞ 知るべかりける』
を引いて、『やるというならやってやろうか』と挑発します。
古今は季違いで避けた下の句ですが、大包平はまさに季が合った歌を引いてきて、しかも自分の戦闘前の台詞の下の句を出してきたものだから、歌に対して自負のある古今が憤慨したという流れ。
それが、地蔵や鶯丸からしたら、知的会話ができて楽しそうじゃないか、と見えたのでした。













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