* 100 喧嘩するほど・・・ *

ハルモニア一家円満記









 今は昔、強大な力を持つ魔法使いがおりました。
 ごく普通でない彼は、ごく普通でない国を作り、ごく普通でない子供達を設けました。
 どう普通でないって?
 なんと、その一家は、全員が真の紋章の継承者だったのです。


 「・・・なんっで僕が、こんな馬鹿馬鹿しい茶番に付き合わなくっちゃならないんだい?!」
 憮然とした声が、白い壁に幾重にも反響して、本人が意図したよりも大きく響き渡った為に、少年は更に憮然と口を噤んだ。
 彼の目の前では、天井一面をドーム状に覆う、クリスタルの窓から降り注ぐ春の陽光が、きらきらと、白い大理石の床に反射して煌き踊っている。
 世界屈指の大国、ハルモニア神聖国の中枢をなす神殿にふさわしい、荘厳華麗な部屋は広々として、夢のように美しかった。
 が。
 最高級の調度によって飾られることこそふさわしいそこには、なぜか、使い古されたコタツが一脚、綿のしぼんだコタツ布団をだらりと下げた状態で据えてあり、その卓上には、ご丁寧にもみかんが山と積まれた籠が置いてある。
 「・・・うるさいなぁ。僕だって好きで付き合っているわけじゃないんだから、お前ばっかり文句を言うな」
 憮然とコタツに足を入れて座る少年の対面で、みかんを口に放りこんだのは、その少年と全く同じ顔をした少年だった。
 髪の長さや服装などは違うものの、鏡に映じた像のように同じ顔をした二人は、お互い、同じ表情で睨みあっている。
 と、
 「・・・二人とも酷い・・・・・・」
 二人の間で、やはり同じ顔をした少年が、泣きながらコタツの上に突っ伏した。
 「私といるのが、そんなに嫌なのか?!」
 うぇぇー・・・と、泣く様に、睨みあっていた少年達はうんざりと顔を見合わせる。
 「・・・だから一緒にいるのが嫌なんだよ」
 「・・・泣かないでください、ヒクサク様」
 二人同時に吐いた言葉に、またもやヒクサクが泣き崩れた。
 「ルッ君もササちゃんも、ひどいっ!!ひーちゃんの事は、パパって呼んでって、言ったのに!!」
 ・・・・・・・・・ひーちゃんって、ダレデスカ・・・・・・。
 氷の息吹を浴びたように、一瞬にして凍りついた二人の前で、ヒクサクは身も世もなく泣き続ける。
 その様は、とても400年以上もの間、世界屈指の大国家の首座に居座りつづけてきた男とは思えない。
 更に言えば、彼のその容姿はルックやササライと同じく、十代後半の少年である。
 『パパ』だなんて、呼べたものではなかった。
 しかし、
 「うるさい、パパ」
 冷淡に、冷酷に、ルックが宣告する。
 「いつもいつも、そうやって泣いてばかりだから、うざったいって言ってるんだよ」
 人様の傷を容赦なく抉る彼の、遠慮のない言葉に、ササライも、心中に大きく頷く。
 「ルッ君!!君は、あの魔女には礼儀正しいのに、なんでパパにはなついてくれないかなぁっ?!」
 魔女が息子を不良にした、と言っては、また泣き崩れるヒクサクに、
 「そりゃあ誰だって、自分と同じ顔のパパより、美人のママの方が好きだよねぇ?」
 と、笑いながらササライがみかんを口に放り込み、二人の視線がキッ、と、彼に突き刺さった。
 「ササちゃん!!なんて事を言うんだい!!」
 「レックナート様は魔女じゃないし、ママでもない!!」
 そう叫んで、コタツからずりずりと這い出たルックは、そのままきびすを返し、立ち去ろうとしたが、
 「ルッ君!お待ちなさーい!」
 ひょい、と、伸ばされたヒクサクの手に足をつかまれ、頭からつんのめって転げた挙句、簡単に引き戻されてしまった。
 「何するんだっ!!」
 「せっかくの一家団欒を抜けることは、パパがゆるっしません!!」
 「一家団欒?!」
 ぶつけた額と鼻の頭を真っ赤にして、ルックがヒクサクを睨みつける。
 「どこが?!」
 絶叫に、しかし、ヒクサクは泣き腫らした目でにっこりと笑い、コタツとみかんを示した。
 「家族揃ってコタツに入って、みかんを食べながら他愛のない話をする!
 これが、一家団欒というものだろう?」
 ねぇ、と、さっきからみかんを剥いては食べ続けるササライに、笑顔を向ける。
 が、
 「ヒクサク様、これ、すっぱい」
 見当違いの返答をする彼に、ヒクサクが嘆きの声を上げた。
 「ササちゃん!!パパだってば!!」
 「嫌いなら食べなきゃいいじゃないか、兄さん!!」
 苛立った声を上げるルックをちらりと見て、ササライは、
 「だって、お腹すいてるんだもん」
 と、もごもごと言いつつ、手元に残ったみかんを口に入れる。
 「ルックもさっきからイライラして、お腹すいてるんだろ?食べるか?」
 ひょい、と、ササライが投げて寄越したみかんを思わず受け取ってしまったルックは、忌々しげに舌打ちした。
 彼が、ササライを『兄さん』と呼ぶことは、はっきりきっぱり嫌味な皮肉だったのに、すっかりその言葉に順応してしまったササライは、どこ吹く風とばかりに聞き流している。
 その隣で、ヒクサクは涙に洗われた目をきらきらと輝かせながら、二人のやり取りを見つめていた。
 「ルッ君!ササちゃん!!君達、いつの間にか、そんなに打ち解けちゃって!!」
 「打ち解けてない!!」
 「慣れです、ヒクサク様。運命なんて、なるようにしかならないし」
 全く同じ顔、同じ声をしていながら、言っていることは正反対だ。
 しかし、ヒクサクはうんうん、と頷きながら、新たな涙に頬をぬらした。
 「ごめんね、ルッ君!パパはきっと、急ぎすぎちゃったんだね!君達はもう、こんなに打ち解けていたのに、パパの杞憂だったよ!」
 そう言って、きゅぅ、と、ルックを抱きしめるヒクサクを、ルックは懸命に腕を突っ張って引き離そうとする。
 「だ・か・ら!打ち解けてないって!!」
 「いい加減、諦めたらどうだ、ルッ君?どうせ、なるようにしかならないんだから」
 「あんたまでルッ君って呼ぶな―――!!!」
 絶叫と共に、手にしたままのみかんを投げつけると、それはびしぃっと、烈しい音を立ててササライの額を直撃した。
 「・・・・・・震える大地――――っ!!」
 いきなり激昂して、大技を繰り出したササライによって、ルックと、ルックに抱きついたままのヒクサクが地に呑まれる。
 「まったく!兄上にみかんを投げつけるなんて、なんて弟だっ!!」
 憤然と手を腰に当て、ササライが二人を飲み込んだ滑らかな大理石の床を見下ろしていると、
 「葬送の風!!」
 再びの地鳴りと共に、この場に戻ってきたルックが、即死効果を持つ技を繰り出す。
 「僕を甘く見るなよ・・・守りの天蓋――――っ!」
 「ちょっ・・・ルッ君!!ササちゃん!!喧嘩はいけないよっ!!」
 慌てつつも、真の紋章同士の争う中に、ためらいもなく入って行ったのは、さすがに父親と言うべきか。
 「どけっ!!」
 見事にシンクロした声を、しかし、ヒクサクはきれいに無視して、無造作に二人の右手を掴んだ。
 「まったくもう!男の子がワンパクなのは結構なことだけど、君達は元気が良すぎるね!」
 真の紋章同士の戦いを、『ワンパク』の一言で済ませる神経は、さすがと言うべきだろう。
 右手と共に、魔法を封じられた二人は、じたばたともがいて振り解こうとするが、一体どういう術を施したものか、ヒクサクの手はびくともせず、どうしても逃げることができなかった。
 「でも、喧嘩するほど仲がいいって言うしね!」
 えへへ・・・と、嬉しそうな照れ笑いを浮かべながら言うヒクサクに、一気に体温と血流が降下したルックとササライは、必死になってかぶりを振る。
 「良くない!!絶対良くない!!」
 しかし、またもやシンクロした声に、ヒクサクは満足そうに頷いた。
 「不幸にも生き別れになった私達だけど、やっと再会できたからには、サザエさん一家のようにほのぼのと、いつまでも仲良く暮らして行こうねぇ」
 そうして、物凄い力で二人の右手を引き寄せ、無理矢理握手させようとする。
 「サザエさん一家と同じなのは、不老長寿だけで十分ですっ!!」
 「やぁめぇろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
 鳥肌を立てて絶叫する二人の手を、しかし、ヒクサクは強引に引き合わせ、重ね合わせて、自分の両手で包み込んだ。
 「私、ハルモニア神聖国神官長ヒクサクは、ササライ、ルックと三人で、明るく幸せな家庭を築くことを誓いまっす!」
 照れたように笑いながら、初々しい新郎のような台詞を口にする彼に、二人の神官将は今度こそ凍結した。
 ・・・神官長が口にし、神官である二人が立ち会った誓いは、不履行厳禁、解約不可能。
 監獄に閉じ込められたことも同然の状況に、ルックとササライは、完全に言葉を喪い凍った時間を共有した・・・―――― ハルモニア神聖国に、幸あれかし!








*END*













捏造ヒクサク第二段!!お題100『喧嘩するほど・・・』です!
本日の通勤中、大濠公園前を通過している時に思いついたお話です(苦笑)
この場所を通る時、時計代わりに聴いているラルクの『SMILE!』の、『REVELATION』が流れるのですね。
『唯我独尊〜♪』の歌詞に、ふと、三人の唯我独尊を思いつきまして(笑)
この三人のお話って、面白そうだなぁと、書いてみました。
幻水の展開的に、絶対あり得ない話ですから、いっそ、パラレルと思って読んで頂いた方がいいかと・・・。
なーんか、『独り』を書いて以来、ヒクサクのイメージが広がってしまいました(^^;)











 百八題