* 002 時の流れ *
 
坊ちゃん カリョウ
2主 カナタ








 崩れ落ちた城壁を整え、何とか人が住めるまでに整った城の、玄関とも言うべき場所にある石版の前に佇んでいると、懐かしい顔がこちらに手を振った。
 ルックよりやや入り口寄りに佇んでいるビッキーが、目と口を丸くして、彼より先に少年を迎える。
 「カリョウさん!!」
 少女の歓声に、カリョウはにっこりと笑って頷いた。
 「久しぶり」
 「それだけ?」
 それがビッキーだけでなく、自分にも掛けられた言葉だとわかったのは、カリョウがもう一度、ルックに手を振ったからだ。
 「相変わらず、口数が少ないんだね」
 「ルックも、相変わらず口が悪いね」
 クスクスと笑いながら歩み寄ってきた少年の容姿は、3年前と全く変わらない。
 いや、彼だけでなく、ルックも、ビッキーさえも・・・・・・。
 図らずも、時の流れから外れた三人が、一同に介してしまったようだ。
 たまたま酒場から出てきたバレリアが一瞬、言葉につまり、懐かしげに笑った。
 「トランで戦ったあの時に、帰ったようだ」
 赤月帝国の将校でありながら、帝国の暴虐を止めるため、反乱軍に身を投じた女将は、そう言いながらカリョウに歩み寄る。
 「お久しぶりです、カリョウ殿。お元気そうで何より」
 「うん。バレリアも、元気そうだね」
 「おかげさまで」
 では、と、彼女は3年前よりやや女性らしさを増した足取りで武芸場の方へと去っていった。
 「・・・・・・バレリアさん、行っちゃいましたね」
 何も聞かないのかな、と、不思議そうに首を傾げるビッキーに、カリョウは頷く。
 「彼女はあの時、よく一緒にいてくれたから」
 戦いを終えた後にどうすべきか、言葉にはしなくとも、自身の表情や雰囲気が語っていたのだろう。
 「トランじゃ今でも、君を大統領に据えようと、躍起になっているようだよ。
 それを知らないはずはないだろうに、見逃してやるなんて寛大だね」
 「レパントには会ったよ」
 カリョウがくすりと笑みを漏らすと、ルックは意地悪げに目を細めた。
 「感動の再会ってやつだね。どうだった?大統領の椅子を君に譲ろうなんて言われたんじゃないのかい?」
 「うん。だけど、アイリーンが口添えしてくれて、逃げてこられた。これで、いつでもグレッグミンスターの家に帰れる」
 「えぇっ!!カリョウさん、家出していたんですか?!」
 ビッキーの、天然ながら見事な突っ込みに、ルックがほんのわずか、感心する。
 「家出英雄なんて、世界でも君一人だろうね」
 「・・・・・・・・・・・・・・・」
 二人の暴言に、カリョウは口をつぐんでしまった。
 「あ、でも!グレミオさんも一緒にいたから、保護者同伴ですよね!保護者同伴の家出です!!」
 これでフォローしたつもりなのか、ビッキーが両手を組み、真剣に語りかけてくる。
 「い・・・家出じゃ・・・ない・・・・・・」
 「じゃあ、保護者同伴の放浪?みっともなさにかけては、どっちもいい勝負だと思うけどね」
 懸命の反論も一刀両断にされ、カリョウは再び口をつぐんでしまった。
 「大体さ、3年も放浪して、何をやっていたのさ?」
 「釣り」
 「は?」
 「釣り。他に趣味ないから」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 今度はルックが沈黙する。
 しかし、一瞬にして凍った時の流れも、一気に決壊させてしまうのがビッキーのビッキーたる所以である。
 「世界中のお魚を釣りに行ってたんですね!そぉいえば、『世界釣り紀行』って番組ありましたね!」
 「あったっけ?」
 「じゃあじゃあ、このデュナン湖ではもう釣りました?ここのお魚はおいしいんですよ!」
 「・・・タコが釣れた」
 少々の間を空けて、カリョウが首を傾げた。
 「たこ焼き・・・作ってくれないかとレストランに持って行ったら悲鳴が上がったんだ・・・・・・・・・毒持ってるの?」
 「それ以前に、あんな巨大で気色の悪い色をしたタコを食べようと思ったんだ?」
 思いっきり眉をひそめたルックに、カリョウがあっさり頷く。
 「食べるために釣ってるから」
 彼の釣りは、趣味と実益を兼ねているようだ。
 キャッチアンドリバースなどという言葉は知らないらしい。
 「アビズボアは仲間なんですよ、カリョウさん!カナタさんが拾ってきたんです」
 「・・・・・・毒はもってないのか」
 いっそ見事なほど、食にこだわる彼に、ルックが吐息した。
 「毒だって死にゃしないよ、君は」
 「僕は死なないけど、連れが死にそうで・・・・・・」
 グレミオが聞けば感涙の海で溺れそうな言葉を呟いていたところへ、拾いタコを仲間にしているという奇人・カナタが通りかかり、カリョウに大きく手を振る。
 「カリョウさん!!ここにいたんですか!」
 すさまじい勢いで駆け寄ってくる彼を迎えるカリョウとルックの目には、明らかに『若いなぁ』という、年長者の余裕が刻まれていた。
 「ハイヨーって、うちの料理人なんですけど、トランの英雄に料理審査をして欲しいらしいです!レストランに行きましょう!!」
 問答無用で手を取り、引っ張っていくカナタに、カリョウは苦笑を浮かべつつ付いていく。
 「じゃあ、また後でね」
 「はい!がんばってきてください!!」
 「またね」
 満面の笑顔で見送るビッキーに反して、ルックのそれは素気ない。
 が、元通り石版の前に戻ったルックは、ふと思い至って、階段を上るカリョウを仰ぎ見た。
 「ねぇ」
 声をかけると、カリョウが足を止める。
 「今、何が食べたい気分?」
 「・・・・・・たこ焼き」
 予想通りの答えに、ルックは吹き出した。
 「だってさ、リーダー。料理対決に勝ちたければ、彼にたこ焼きを出してやればいいよ」
 高得点間違いなし、と保証したルックに、カナタが大きく頷く。
 「あ、でも、アビズボアの一家はだめですよ。仲間ですから!」
 劇場でのタコ踊りとか楽しいんですから!と、力説するカナタに、カリョウが笑って頷く。
 「後で、紹介してくれ」
 「はい!」
 カナタの、光るような笑顔が印象的だった。


 「カリョウさん、アビズボア達と仲良くなったそうですよ!」
 嬉しげなビッキーの声に、ルックは深く吐息した。
 「・・・・・・みたいだね」
 戦は日々、激しくなっているというのに、トランの英雄はふらりと遊びに来ては、タコ達と戯れつつ、のほほんと釣りをしている。
 シュウなどは、『緊張感がなくなる!』と激怒しているそうだが、ソウルイーターの継承者に、面と向かって物言いできる人間など存在しない。
 「女の子たちの間では、人気なんですよ、カリョウさん!見ていると、ささくれだった神経が癒されるって!」
 と、そもそもささくれ立つ神経を持っていなさそうな少女が笑う。
 「・・・・・・・・・癒し・・・・・・」
 死を司る紋章の保持者からは最も遠いだろう言葉に、ルックは絶句せずにはいられない。
 「女って、いい度胸しているんだね」
 年齢が下るにつれ、恐い物知らず度は上昇の一途を辿っているようだ。
 ルックが再び吐息した時、彼に呼びかける声が響いた。
 「・・・・・・なにか用?」
 ぶっきらぼうに答えても、相手は全く気にとめる様子もなく笑った。
 「一緒にやらない?」
 差し出されたのは、彼のお手製らしい釣竿。
 「・・・・・・なんで?」
 一体、何が面白くて空の下、ぼんやりと過ごさなきゃならないんだ、と問うと、カリョウはルックの手を取り、竿を握らせた。
 「変わったとか変わらないとか、細かいことは気にしないで、ぼんやりと時を過ごすのもいいよ」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「空とか海とか、僕ら以上に長く生きている連中なんて、僕ら以上に変わってないしね」
 「・・・・・・・・・どういう理屈だよ」
 呆れ顔で問い返すと、カリョウは光るように笑った―――― カナタの、あの一瞬の笑顔と同じに。
 「そんな連中の中にいると、細かい変化なんてどうでも良くなるって事だよ。まぁ、こんな湖程度じゃあ、僕達の方が長生きかもしれないけどね」
 珍しく饒舌なカリョウに、ルックは吹き出した。
 「そうだね。付いて行ってあげてもいいよ」
 「あ!あ!私も行きます!!」
 港へ連れ立っていく二人の後を、ビッキーが慌てて追いかける。
 「じゃあ、どうせだから海に行こうよ。連れて行ってくれる、ビッキー?」
 カリョウの笑顔に、ビッキーは満面に笑みを浮かべ、大きく頷いた。


 ―――― その後数週間、デュナン軍の最精鋭魔道士であるルックと、唯一のテレポート能力者であるビッキーが姿を消したため、軍はかつてない苦戦を強いられることとなった。
 激怒した軍師・シュウは、帰還したルックとビッキーに自室謹慎を申し付け、丁重にトランの英雄の入城を拒否した為に、かつてのトランの勇士達から尊敬とともに『無謀大軍師』という名を進呈されたという。








* END *











お題百八その二はルック&坊ちゃん&ビッキーでした!(うっわ;超短い;;)
仲良しトリオ的お話になり、くれは的には満足です(笑)>もっと暗くなるかと思っていたんで;;
よく考えたら、お話で坊ちゃんを書くのは初めてです。
TOPで紹介をしていますが、坊ちゃんは『カリョウ』で2主は『カナタ』・・・。
私のオリジナル作品と重なって、ちょっと書きづらかったです(笑)>だって・・・ニコニコ笑う華綾って;;;
No.1の次にNo.2をアップですが、別に順々に行こうとは思っておりませんので(笑)















 百八題