「皆さんこんにちは!『天魁星を探せ!』レポーターのカナタです!
レポーター自身が天魁星という、この画期的な番組、第一回目は、トランの英雄、カリョウさんがゲストです!
では、さっそくご紹介しましょう!カリョウ・マクドールさんです!!」
のっけからハイテンションなカナタの、大きな拍手とともに現れたカリョウは、カメラを向けられ、軽く会釈した。
「どうも」
「はい、相変わらず無愛想です!さすがは真の紋章中、ネガティブさでは1、2を争う『ソウルイーター』の継承者です!」
「・・・・・・世界を破壊した紋章の継承者が、それを言うか?」
「創世の紋章と言って貰いましょうか!
さぁ、そんなことはどうでもオッケー!早速進めて行きましょう!
カリョウさん、ご趣味は?!」
「釣り」
「地味です!地味ですよ!!もっとこう、ひねりの利いた事は言えないんですか!」
頭から否定されて、さすがのカリョウもちょっとむっとした。
「博打も好きだ」
「オヤジです!!オヤジ趣味です!!外見は永遠に若くても、中身はすっかりオヤジです!恐るべし、真の紋章!!」
「関係あるのか、それ?」
更にむっとして、カリョウはカメラに喋り捲るカナタを睨みつけた。
「じゃあ、君はどんな趣味を持っているんだ?」
「僕ですか?僕は、お茶にお花に陶芸といったところですか!日本舞踊は玄人はだしですよ!」
「・・・あからさまに嘘だろう、それは」
「さすがネガティブ紋章の継承者!疑い深いです!!」
「・・・・・・悪かったな」
憮然と呟いたカリョウを無視して、カナタはちゃきちゃきと番組を進めて行く。
「それぞれ、重い宿命を背負った僕達天魁星!カリョウさんはともかく、僕の人徳を慕って集まった仲間は108人以上!」
「・・・・・・そのうち、何人かは僕が集めてたんだけどね」
「そこ!余計な事は言わない!」
びしぃっ!と、カナタがカリョウを指差す。
「誰のお陰で、グレッグミンスターに帰れるようになったと思っているんですか?!僕が、家出中のあなたを捕まえて、レパントさんに対面させなければ、今も保護者同伴で放浪中ですよ、きっと!」
「・・・別に、家出していたわけでは・・・」
「保護者同伴の家出なんて、ダサいですよ」
「・・・・・・あのな」
度重なる暴言に、カリョウのこめかみが引きつり、右手の甲が不気味な光を発した。
「おぉっと!ここで天魁星同士の戦いか?!
剣の紋章に対し、砕け散った盾の紋章は、果たしてソウルイーターを防げるのでしょうか!今、その真価が問われます!!」
「・・・古舘か、君は・・・・・・」
あくまで自分のペースを崩さないカナタに、カリョウが思いっきり脱力する。
同時に、光を失った右手を見て、カナタがにやぁりと笑った。
「では、そろそろ今回のメインイベントです!ズバリ!『三人目の天魁星を探せ!』!!」
「三人目?」
「はい!レックナートさんからの情報に寄れば、グラスランド方面に争乱あり、108の星が集まる気が満ちているそうです!」
「・・・あの人も、一々争乱に関わる人だな」
そう言って、カリョウはうんざりと吐息する。
「どうせまたルックが、石版の前に突っ立っているんだろう?天魁星なんて探すまでもなく、あいつに聞けばいいじゃないか」
「そんなカリョウさんに、レックナートさんから伝言です」
カナタの言葉とともに、辺りの照明が落ち、スポットライトが彼とカリョウを照らし出す。
「カリョウへ―――― レックナートからの手紙。
あぁ、カリョウ・・・。なんということでしょう!
ルックが・・・ルックが・・・不良になってしまったのです!!
以前から、愛想のない子だとは思っていましたが、私のことは慕ってくれていると思っていたのに、あの子は『神を殺す』と言って、家出してしまったのです!!
なさぬ仲とはいえ、本当の親子のように暮らしてきたというのに、私の愛情が足りなかったのでしょうか・・・!」
スポットライトの中、泣き崩れる演技も臭いたつカナタが、マイクを握り締める。
「いいえ、これはきっと、あの嫁のせい!!
私の息子を奪った、あの娘がそそのかしたのです!」
〜ちゃらら ちゃららら ちゃらら ららん♪
と、いきなり『渡る世間は鬼ばかり』のBGMが流れ出し、雰囲気を盛りあげる。
「どうか、カリョウ!
あの鬼嫁からルックを解放してあげてください!そして、私の元へ帰ってくるよう、説得してください!!
お願いです・・・・・・・・・・・・っ!!
―――――――― だ、そうです」
クサイ演技に、ただ呆然と佇むしかなかったカリョウに、カナタがけろりとして向かった。
「そう言うわけですから、天魁星は僕達が自力で見つけなきゃいけないんですよ!」
「・・・・・・ルックの救出はしなくていいのか?」
「敵なら探さなくったって出てきます」
自明の理と言わんばかりのカナタの態度に、カリョウは、めんどくさそうに頷いた。
「・・・じゃあ、ルックは会えたら説得って事にして、三人目の天魁星はどこまで探しに行くんだい?」
「ビュッデヒュッケ城です!でもその前に、『石板の地』で天魁星の名前を確認していきましょう!」
「・・・ルックがいないと、そんなところに放置されるのか、あの石板って」
「今回、レックナートさんも茶々を入れる気力がなかったみたいですしね!」
「・・・それでいいのか、星見・・・」
「母の愛は海より深し!ですよ!」
硬く拳を握って、カナタは断言した。
「さぁ、行きましょう、ビュッデヒュッケ城へ!!」
言うや、カナタは有無を言わさずカリョウの手を取り、西へ西へと駆けて行ったのだった。
「・・・瞬きの鏡くらい、用意しているものだと思っていた」
「ビッキーは現在、三人目に確保されています!」
肩で息をするカリョウへ堂々とうそぶき、カナタは石板の前に立つ。
「天魁星の名前は・・・トーマス!」
「・・・幼児向け機関車アニメの主人公みたいな名前だな」
「カリョウさんみたく、不吉な名前でないだけマシですよ。
そんな事より、どんな少年でしょうね、トーマス君は!」
「少年でないといけないのか」
「軍を率いるべき天魁星が、おっさんやジジィでどうしますか!」
カリョウの問題提起を簡単に退け、カナタは昂然と胸を張った。
「天魁星たるもの、数々の不幸に見舞われ、親しい人間を亡くし、尚且つ前向きに理想に向かって突き進む、純粋な目をした紅顔の美少年であるべきです!!」
「・・・お前は紅顔じゃなくて厚顔だ・・・」
「ぶつくさうるさいですよ、一代目!」
「・・・人を、やくざの親分のような呼び方で呼ぶな」
「山賊・湖賊・小悪党の寄せ集め軍を率いた人が、何を言ってるんですか!似たようなものでしょう!」
「・・・人のことが言えるのか」
「言えます!!」
堂々と胸を張ったカナタに、カリョウはもはや、返す言葉もない。
「・・・じゃあ、そろそろ探しに行くか、トーマスを」
そして、さっさと帰りたい、という心情を隠しもせず、カリョウが踵を返した。
「はい!行きましょう!!」
元気に頷いて、カナタはカリョウの後に従った。
「父さん、妖気です!妖気を感じます!!」
「・・・あぁ、妖怪なら僕の横にいるよ」
いきなり鬼○郎ごっこを始めたカナタに、うんざりと返しながら、カリョウは気だるげに彼の指し示す方向を見遣った。
そこでは、多くの女性に囲まれた背の高い青年が、優しく微笑んでいる。
「少年というには、育ち過ぎている気がするけど?」
「やだなぁ、カリョウさん!僕、彼が天魁星だなんて言ってませんよ!」
言いながら、カナタは自身の前髪をひとつまみ摘んだ。
「あの前髪、鬼○郎に似ているなぁっと思って」
「・・・・・・・・・確かに」
特になんの感慨も持たず、頷いたカリョウだったが、カナタは同意を得たことが嬉しいのか、更に言い募る。
「あのナンパっぷりといい、これ見よがしな騎士スタイルといい、彼の宿星はあれしかないですね!」
「地奇星・・・」
「カミューさんと、キャラかぶってますよ!」
本人が聞けば、苦笑するだろう言葉を遠慮なく吐き、カナタは満足げに頷いた。
「さて!
地奇星がここにいるということは、天魁星はこの近くにいます!」
「なんで」
「あれ?カリョウさんも、戦闘時はルックと地奇星を連れて歩いてませんでした?」
「・・・そうだね。使い勝手がよかったし」
「でしょ!
全体の戦闘レベルを上げるとかじゃない限り、必須メンバーですよ!」
言いながら、きょろきょろと辺りを見回すカナタの視線が、ひとつところに止まった。
多くの女達に囲まれていた青年が、一人の女性を見止めるや、女達を丁重に追い払って、礼を施したのだ。
「おぉっと!ここで武装の美人登場!!
地奇星の態度から見て、かなり重要人物のようだ!彼女の正体は一体?!」
「・・・実況するなよ、古舘・・・」
カリョウの、無気力な突っ込みに屈することなく、カナタはまっすぐに二人へ向かって行った。
「あの・・・?」
きらきらと目を輝かせて突進してくる少年と、彼に引きずられている無気力な少年。
異様なコンビに、訝しげに首を傾げる彼女へ、カナタはマイクを突きつけた。
「お嬢ちゃん、お名前は?」
「お・・・お嬢・・・ちゃん・・・・・・?」
実年齢はともかく、外見年齢は明らかに年下の少年にお嬢ちゃん呼ばわりされて、彼女は絶句した。
「あぁ!お兄ちゃん達は怪しい者じゃないから!お名前、教えてくれるかな?」
「ク・・・クリス・・・ライトフェロー・・・・・・・・・」
「クリス様。こんな、思いっきり怪しい者達に、正直に名乗る事はありません」
「おおっと!!さすが地奇星!!穏やかな顔をして、言う事はクールだ!!」
「・・・なぜ、私が地奇星だと?」
「キャラがかぶっているから・・・」
カナタの言葉に、冷ややかに微笑む彼に、カリョウがぽつりと返す。
「かぶっている?誰と・・・」
「ほう、世界は広いな。パーシヴァルのような人間が、二人もいるとは」
「どういう意味ですか、クリス様」
「そのままの意味だ」
苦笑するパーシヴァルに、艶やかに微笑み返すクリスを見上げた二人は、顔を見合わせて肩をすくめた。
「もしかして、地奇・・・いや、パーシヴァル君は、クリスちゃんの部下なのかな?」
「・・・同じような鎧を着てるし」
「ええ、そうですよ、ボクたち?それが何か?」
クリスへ向けるものとは正反対の、冷ややかな笑みを浮かべて見下ろすパーシヴァルを、二人は無視してクリスを見上げる。
「クリスちゃんは、今から戦闘に行くの?」
「パーシヴァル君を連れて?」
「え・・・?いや、戦闘と言うか・・・。一度、わが城へ戻らなくてはならなくなって、同行を命じようと思っていたのだが?」
クリスの答えに、再び二人は顔を見合わせて肩をすくめた。
「どうも、僕達の時とは、事情が違うようですね」
「もしかしたら、全体のレベル上げの最中じゃないか?見た所、城も人が多いようだし」
「・・・・・・私の質問にも答えていただきたいのですがね?」
完全に無視されたパーシヴァルの、虚しい呟きすら無視して、二人はクリスへ向き直った。
「念のために聞くけど、クリスちゃんの宿星はなんだい?」
「天魁星じゃないよね?」
「ええ。私は確か、天微星よ」
「・・・・・・もしもし?ボクたち?!」
パーシヴァルが、苛立ちを含んだ声を掛けるが、二人はまさに傍若無人である。
「ねぇ、この城で、軍を率いている人は今、どこにいるの?」
「確か、炎の英雄、だったよね?」
問われて、クリスは城の本館を示した。
「彼なら今、執務室にいるはずだ。二階の大きな部屋よ」
「ありがとう!
さぁ、行きましょう、カリョウさん!!」
言うや、カナタは無気力なカリョウをすさまじい勢いで本館へと引きずっていった。
「・・・なんだったのですか、あれは?」
冷ややかに微笑むパーシヴァルに、クリスは首を振った。
「志願兵か何かだろう、きっと。聖ロア騎士団の、いい遊び相手になるかもしれない」
「・・・奇妙な二人でしたね」
「奇妙じゃない人間なんて、この城にはいないさ」
そう言って、クリスは軽い笑声を上げた。
「突撃!隣の晩ごはーん!!!」
「番組変わってるぞ」
ハイテンションな絶叫とともに、本館の扉を開けたカナタへ、カリョウが律儀に突っ込みを入れる。
「いいじゃないですか、細かい事はどうでも」
「・・・いいけどね、別に」
「あ!そんな、『ボクには関係ないね』って態度、気に食わないなぁ!」
「お前になんか、気に入られたくない」
「ひどい!!ガラスの十代に、なんて冷たい事を言うんですか、この人は!!」
「ガラスの十代なんて知ってる奴は、十代じゃない」
「私は知ってますよぉ」
人様のお宅の玄関先で、勝手に漫才を始めた二人の間に、ひょろひょろと入ってきたのは、既知のテレポーターだった。
「あ、ビッキー!ひさしぶり!」
「やだなぁ、カナタさん!さっきまで一緒だったじゃないですか!」
空間だけではなく、時空までも飛び越えた少女の発言は、さすがに常軌を逸している。
「ところで今日は、どうしちゃったんですかぁ?カリョウさん、遊びに来てくれたんですか?」
うれしいです、と、満面の笑みを浮かべる少女に、ずっと憮然としていたカリョウも、ようやく笑みを浮かべた。
「そうなるのかな?
カナタが始めた番組ごっこに、付きあわされているんだけど・・・」
「ごっことは何ですか!
ちゃんとデュナンの国営テレビに売りつけて、利益を得る気満々ですよっ!!」
元の軍主に押し売りされては、シュウも買わないわけには行かないだろうな・・・。
カナタのせいで、胃の痛い思いをしているだろう、元軍師の姿を思いつつ、カリョウはビッキ―に問うた。
「ここの軍主の部屋って、2階なんだよね?まだ、部屋にいる?」
「あ、はい!!今日は私、声を掛けられませんでしたから!」
ここでも、その能力を十分に発揮している少女には、誰もが出かける際には声を掛けるのだという。
「ふぅん・・・。どんな子?」
「えっとですねー、不思議な髪の色をしてます!毛先だけが黒っぽい、金髪なんですよ!」
「それって、黒に染めたのはいいけど、染め直すのがめんどくさくて放置していたってだけじゃないか?」
「あ、そっかー!さすがカリョウさん!!鋭いですね!!」
「つまり、逆プリン!!」
「市販のプリンだな」
カナタの突っ込みに頷いて、カリョウは2階へと続く大階段を見上げた。
吹き抜けになったホールからは、2階を行き交う多くの人々を見ることができる。
そんな中で一人、派手な羽根つき帽子をかぶった女性と目が合ったカリョウは、しばらく彼女を凝視した後、『あ。』と、声を上げた。
「カナタ、あの子・・・」
「ほえ?」
同じく、階上を見上げたカナタを見止めた女性の顔が、みるみる引きつっていく。
「あ!リリィちゃん!!」
「カっ・・・カナタさんっ!!!!」
あからさまに、『ヤバイ奴に見つかった』と言わんばかりの態度で、リリィが絶叫する。
「うっわー!大きくなったねぇ!!」
言いながら、大階段を駆け上がるカナタを、逃げる事もできず、しかし、かなりの及び腰で、リリィは迎えることになった。
「いやー、すっかり女の子らしくなっちゃって!
牛乳は飲めるようになったかい?」
「・・・カナタさん・・・何しに来たのっ・・・!?」
「いや、三人目の天魁星が現れたって聞いたから、ちょっと遊びに来たんだー♪
え?なに?もしかして、リリィちゃんも軍に参加してるの?」
「あの・・・カナタさん・・・・・・ちゃん、って言うのはやめて欲しいというか・・・・・・」
「なに言ってるんだよー!
リリィちゃんの事は、こ――――――んなにちっちゃい時から知ってるんだよぉ?」
そう言って、カナタは自身の腰の辺りを示した。
「ロリコン吸血鬼にさらわれて、ぴぃぴぃ泣いてたんだよねー」
「なっ・・・泣いてなんかないわよっ!!」
「いや、泣いてたよ」
「泣いてましたねー」
「余計な事、言わないでよっ!!」
カナタを追いかけてきたカリョウとビッキーに補足され、リリィが顔を真っ赤にして怒鳴る。
ビュッデヒュッケ城随一の我侭娘、リリィの、思わぬ劣勢ぶりに、周囲の人々が好奇心に満ちた視線を寄越してくる。
それがまた癇に障って、リリィは更に激昂した。
「大体二人とも、何しに来たのよ!!」
「天魁星見学ツアー♪」
カナタが、けろりと嘯き、
「少なくとも、参戦じゃないね」
カリョウが、関心なげに呟いて、執務室らしき部屋のドアを見遣った。
「英雄殿はあそこかな?」
「え?ちょっと・・・」
「いよいよ対面ですっ!!」
「いや、あのね・・・」
リリィの制止も待たず、二人は古いドアに早足で歩み寄り、すさまじい勢いで開け放った。
「御用改めである!!」
「なんで新撰組だ!」
「・・・今日もやるのか」
いい加減に諦めたらどうだ、と、肩をすくめるダック戦士に、ヒューゴは強く首を振った。
「何事も、継続する事が大事なんだよ、軍曹!」
そう言って、ヒューゴは飲み乾した1リットルサイズの牛乳瓶の底を叩きつけるようにして、執務机に置いた。
「目標!!プラス10センチ!!」
言うや、窓枠に両足を引っ掛け、ぶら下がる。
「あのな、ヒューゴ・・・。
ずっと言おう言おうとは思っていたんだが、お前が気の毒で、言えなかった事があるんだ・・・。
だが、お前の教育係として、今日ばかりは言わせてもらおうと思う」
「なんだよ、改まって」
逆さにぶら下がった状態で、訝しげに眉を寄せるヒューゴを、軍曹は鋭い目つきで見据える。
「真の紋章の継承者はッ・・・ガァァァァァァァァァァァッ?!」
「御用改めである!!」
「なんで新撰組だ!」
突然、すさまじい勢いで開け放たれたドアに弾かれ、軍曹は宙を舞った。
「だっ・・・誰?!」
あまりの事態に、窓枠にぶら下がったまま、呆然とするヒューゴの誰何に、カナタははすに構える。
「知らざぁ言って聞かせやしょう!」
「・・・なんで弁天小僧だ」
「あ、そうか。ここは、『ここにおわす方をどなたと心得る!』でしたね」
「その場合は、僕が水戸黄門なのか?」
入ってきた途端、突っ込み不可の漫才を始めた二人に、ヒューゴは窓枠から降りることも忘れて、呆然と見入っている。
「ところで少年。そのスタイルは、君のこだわりか?」
「服装の趣味はこの際置いておいても、窓枠に逆さ吊りになるってスタイルは初めて見たよ」
「え・・・あ・・・いや・・・・・・」
謎の闖入者二人からじろりと見られて、ヒューゴは気まずげに窓枠から降りた。
「君だろ、炎の英雄って?一体、どうしてそんな格好をしていたんだい?」
「まさか、ガスの切れかかったライターみたいに、逆さに振ったら火魔法のスキルがあがるってわけじゃないよね?」
「違うよ!」
漫才コンビから、いきなり突っ込みコンビに変貌した二人に、ヒューゴは思いっきり首を振った。
「ただ単に、身長を伸ばす運動をしているだけで・・・・・・」
段々と声のトーンを落とすヒューゴに、二人は顔を見合わせた。
「ちょっと聞いていい?君、真の紋章を継承したんだよね?」
訝しげに眉を寄せるカリョウへ、ヒューゴは頷いた。
「じゃあ無駄だよ!とっくに成長止まってるもん!」
カナタの容赦ない一言に、ヒューゴは目を剥いた。
「ウソッ?!」
「ホントだよ」
「だってホラ、カリョウさんなんて、もう32歳なのにこの身長だよ?」
「・・・人のことが言えるのか、カナタ」
「僕、拾われっ子で年齢不詳だから、年なんて数えた事ないもん」
再び漫才に突入しようとする二人の前で、ヒューゴは床にへたり込んだ。
「そ・・・そんな・・・・・・!
俺、もう、これ以上大きくなれないの・・・?」
「うん」
「無理」
夢多き少年に、むごい一言をぶつけて、二人はへたり込んだヒューゴを見下ろす。
「でもまぁ、図体のでかいまま永遠を生きるよりは、少年のままのほうが便利だよ。
運賃も入場料も子供料金だし」
「食べ放題料金も半額だしね」
「そう言う問題じゃないでしょ!!」
両の拳で床を叩いて、ヒューゴは謎の少年達を睨みあげた。
「大体、なんなんですか、あなたたちは!!」
「しらざぁ言って聞かせやしょう!」
「それはもういいだろ。
僕らは天魁星の一代目と二代目だよ」
「天魁星?」
目を丸くするヒューゴに、カナタが大きく頷く。
「遠からん者は音に聞け!近くば寄って目にも見よ!
我こそは、かつての都市同盟対ハイランド王国の戦を勝ち抜きし、デュナン軍が軍主!カナタ!
そしてこっちは、トランのカリョウさん」
「・・・・・・その差はなんだ、その差は」
きらりと光る右手が、おどろおどろしい気配をかもし出す。
「ともかく!君と同じ、建国の英雄にして、宿星の第一位だよ、トーマス君!」
カナタの言葉に、ヒューゴは目まるくして、ぽかんと口を開けた。
「ふふふ・・・!アコガレの英雄と出会えて、感動しているね!」
「どこから来るんだ、その自信は・・・」
得意顔のカナタと、突っ込み役のカリョウへ、しかし、ヒューゴは首を振った。
「俺・・・トーマスじゃないよ?それに宿星だって、天傷星だし・・・」
「そんな馬鹿な!いかにも主人公的な容姿といい、同人泣かせの服装といい、完璧に天魁星じゃないか、君!!」
「君、故郷を追い出されたり、身内を亡くしたりした挙句、真の紋章を継がされて軍を率いる羽目になった、って顔をしてるけど?」
「いや、それはその通りだけど・・・・・・」
なんでそんな事を知ってるんだ、という、問いは、あり得ない、と言わんばかりの二人の態度に、声になる前に消えた。
「ここまで完璧なのに、英雄じゃなかったのか」
「いや・・・一応、真なる火の紋章は継いだから、俺が炎の英雄なんだけど・・・・・・?」
なんなんだ、という問いを封じられたヒューゴの中で、フラストレーションばかりがたまって行く。
が、そんな彼よりも不満げな顔をして、カリョウがヒューゴを睨みつけた。
「天傷星なんかに軍主を押し付けて、天魁星は何をしてるんだ?」
「そうだそうだ!!トーマスを出せ!!」
同調してまくし立てるカナタにむっとしながら、ヒューゴは扉の外を示した。
「トーマスなら、多分、自分の部屋にいるよ。船の中さ」
「船の中!?」
「・・・天魁星のくせに、随分と粗末な扱いをされているな」
「まったく!宿星の第一位を、何だと思っているんだろうね!」
―――― あんたたちこそ何様だよ・・・。
怒鳴りたい気持ちをぐっと堪えて、ヒューゴは傍若無人な二人の天魁星が、足音も荒く部屋を出て行く様を見送った。
ビュッデヒュッケ城の各所に波乱を巻き起こした二人は、とうとう城に突き刺さった船にまで、その侵略域を広げた。
「呼ばれて飛び出てぢゃぢゃぢゃぢゃ―――――ん!!」
「誰も呼んでない」
いきなりハイテンションな登場をされて、船室でぼんやりしていたトーマスは、飛び上がらんばかりに驚いた。
「だだだだだだだ・・・誰ですかっ!?」
「ひとーつ 人の世の生き血をすすり
ふたーつ 不埒な悪行三昧
みっつ 醜い浮世の鬼を 退治てくれよう 桃太郎!!」
「・・・・・・いくらなんでも、それはジェネレーションギャップが開きすぎだ」
わけのわからないボケと突っ込みに、トーマスは硬直したままものも言えずにいる。
そんな彼に、闖入者二人は、つまらなそうに吐息した。
「君がトーマス?」
「リアクション、地味すぎ」
「え・・・?ごめんなさい・・・」
おどおどと頭を下げるトーマスに、二人はがっくりと肩を落とした。
「・・・これじゃあ、天傷星に軍主の地位を奪われるはずだよ」
「天魁星のくせに、地味すぎ!引きすぎ!!気弱すぎ!!!」
「すっ・・・すみませんっ」
なんだか訳がわからないながらも、とりあえず謝る彼に、二人は却って怒りを増したようだ。
「天魁星のくせに謝るな!」
「そうだそうだ!!天魁星の基本スキルは、『我侭・傲慢・俺様』!!カリョウさんを見習いなさい!!」
「・・・それって、僕が我侭で傲慢で俺様だって事?」
「その通りでしょ!」
「その言葉、そっくりお前に返す」
「あ・・・あの・・・・・・」
傍若無人に話を進めて行く二人の間に、トーマスは勇気を振り絞って割って入った。
「す・・・すみませんが、あなたたちは一体・・・?」
「天魁星の一代目と二代目」
「遠からん者は音に聞け!近くば寄って目にも見よ!」
「それはもういい!
僕はカリョウ。これはカナタ」
「そ・・・それで・・・。
ど・・・どういったご用でこちらに・・・・・・・・・?」
「うあ――――!!上目遣い!!天魁星のくせに上目遣い!!」
「・・・別に、特別な用はないよ。三人目の天魁星を、見に来ただけだったんだけどね」
しかし、と、二人は冷ややかにトーマスを睨みつけた。
「同じ天魁星として、この状況はちょっと許せないな」
「許せません!いや、許してなるものか!!」
「な・・・何がですか・・・?」
びくびくと、及び腰で尋ねるトーマスに、二人の目が、厳しくつりあがった。
「天魁星教育だ!!」
「大丈夫!僕たちが、君を立派な天魁星に教育してあげるよ!
共に軍を掌握し、新しい国家を興そうじゃないか!!レベル99も夢じゃないからね!!」
「ええっ?!
そそそ・・・そんな大それた事、僕はっ・・・!!」
「大丈夫!さぁ!まずはレベル上げから行こうか!!」
「僕たちの特訓は厳しいよっ♪」
傍若無人な二人に両腕を拘束され、トーマスは玄関ホールで待っていたビッキーの前に引き出された。
直後、ビュッデヒュッケ城から姿を消した城主のレベルがどこまで上がったか、知る者はいない。
―――― 死して屍 拾う者なし
* End *
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