* 054 独り *
私がこの紋章を手に入れたのは、もう、何百年も前のことだ。
永遠の命を得た私と共に、戦い、国を興した者達は、それから間もなく、老いと共に永久(とわ)の眠りに就いた。
独り、遺された私は、彼らが私に託して逝った国を守るため、法と秩序を整えていった。
飢えも、貧困も、争いもない、完璧な調和を保つ国であれという願いを込めて、国名をハルモニアと定める。
わが国を中心に、完全に調和した・・・まったき世界を、私は創るのだ。
それが、共に戦った者達への追悼となるだろう、と。
ハルモニアを完全な国にするためには、私自身が強大な権威を持ち、私の意志が国の隅々にまで届くようでなければならない。
円の紋章を持つ者にふさわしく、国民の忠誠心に対して、私は求心力の中心にあるべきなのだ。
同じく我が国も、臣従する周辺国に対して、求心力の中心となるべきである。
私は、その信念を元に、周辺国を次々に降しては、わが国を強大な国家へと成長させた。
そう、次々に短い生を終えていく臣下達と違い、ハルモニア―――― 我が愛する調和の女神は、未だ若々しいまま、私と共にあったのだ。
だが、国は拡大すると共に、徐々に、老いの兆候を現し始めた。
厳然たる秩序を求めたために現れた、一等市民と言う名の醜い支配層と、三等市民と言う名の愚かな奴隷達。
短い生の中で、欲望を膨らませ、争いに興じる者達によって、我が女神は年経るごとに汚されていった。
彼らが代を重ねるごとに、貧富の差は広がり、永遠の美を祈ったクリスタルバレーにすら、貧民街が出来上がったのだ。
国ですら老い、やがては滅びるのか・・・。
また一つ、我が国に降った国の廃墟に立ち、私は想った。
永久に続くものと信じてきたハルモニアですら、私と永遠を共にすることはできないと言うのならば、では、誰であれば私に孤独を強いないのだろう?
真の紋章を宿した私・・・永遠の生を強いられた私と、共にあることのできる者は・・・
・・・私と同じ運命を得た者だけだ。
そう思い至った私は、真の紋章と、それを宿した者達を求め、世界中に兵を放った。
門の紋章を守る、美しい姉妹。
魂を喰らう紋章を受け継いだ少年。
闇に皓(しろ)く浮かぶ、月の女王。
永遠の生を受け容れた者達は、しかし、私の手から逃れ、私の手の届かない場所で、それぞれ孤独と共に生きている。
なぜ・・・私の元に来ない?
なぜ、私を独りにする・・・?
私よりも永きにわたり、真の紋章を宿してきた女王が嘲(わら)う―――― 孤独は我が良き友だと。
・・・女王よ、私は、貴女のようにはなれない。
次々と死にゆく者達と共に、ゆっくりと、だが、確実に滅びに向かっていく我が女神に、再び常春の輝きをもたらすためにも、私は真の紋章と、永遠の生を求め続けた―――― 私と共に、永遠の生を生きる者達を求めて。
だが、ようやく得た真の火の紋章を、宿す者がないままに奪われた時、私の中で何かが壊れた。
真の紋章を得ても、それを宿した者が、私の側にいるとは限らないではないか―――― ならば、まず、器を作ればいい。
私と共に永遠の生を生きる、私の息子達・・・。
私と全く同じ顔、同じ身体、同じ力を持った、私の複製であれば、確実に真の紋章を宿せるはずだ。
人倫・・・?神への冒涜・・・・・・?
そんな人間らしい躊躇など、とうの昔に死んでしまった。
私は、私の複製達に真の紋章を宿し、我が神殿の奥で大切に養った。
ようやく得た、私の同胞達・・・。
私の孤独を癒す、私の安らぎ・・・私の魂たち・・・。
『愚かなり・・・』
月光と共に、漂浪の女王の囁きが、私の上に降り注ぐ。
女王よ、貴女に何がわかる・・・?
孤独を友と呼ぶ貴女に、私の孤独が・・・私の渇きがわかるのか・・・?
さぁ、息子達・・・。
ハルモニアに・・・常春の女神に、今一度、輝きを・・・!
私と共に、永久の王国を築こうではないか。
しかし、私の願いは、またもや挫かれた。
門の姉妹の片割れに息子の一人を奪われ、長じた彼は、もう一人の息子によって滅ぼされた。
悲しい・・・哀しい・・・かなしい・・・・・・淋しい・・・・・・
我が望みは次々と断ち切られ、私は神殿の奥で、虚しい生をただ生きている・・・。
女王よ、私は孤独を愛せない・・・。
私に虚無と悲しみを与えるものなど、愛せはしない・・・。
願わくは、私に死を・・・!
だが、独り逝くのは嫌だ。
我が調和の女神、我が常春のハルモニア・・・。
我が魂にして、我が生の拠り所たる女神よ。
お前が熟れ過ぎた果実のように、醜く爛れ落ちる前に、共に逝こう。
女神の行幸にふさわしく、多くの国を、供に連れて。
我が息子が挑んだ戦い、その先に欲した願い・・・今こそ私が叶えよう。
*END*
お題54『独り』です。
このお話(?)は、通勤中、いきなり降りてきました;
誰かが私に、
『女王よ、貴女に何がわかる?
孤独を友と呼ぶ貴女に、私の孤独が・・・私の渇きがわかるのか?』
と、話し掛けてきまして。(アブナイ女だな;;)
『今のセリフ、誰が言ったんだ???』と考えていくと、どうもヒクサクだったらしい・・・。
ハイ、誰の独白か、あえて明確には書いておりませんが、このお話の主人公は、はっきりきっぱりヒクサクです。
あぁ・・・。すごい捏造;;;
私、幻水シリーズの中ではこの人、かなりの悪役だと思っているのですが、孤独に苦しむヒクサクもありかなぁ・・・なんてぇ・・・。
ここで言う『女王』は、もちろんシエラ長老です。
真の27の紋章は、全部出てきたわけではないので、彼女が最長老だと言う確信もなければ、ルック亡き後、ヒクサクが更なる大戦を決意した、なーんて話があるかどうかもわかりませんが。(無責任な・・・)
ササライの『異形の者』に対して、ヒクサクの『孤独』で、いい対比になるんじゃないかな、なーんて思ったりー・・・・・・・・・。(徐々に土下座)
ちなみに、ハルモニアファンの方はもうご存知かもですが、『Harmonia』はギリシャ神話の調和の女神。
アフロディーテの娘・・・なんですが、父親は誰か、諸説あり(笑)
百八題