* 059 真実 *


* All is fair in love and war. *
〜 19.The truth 〜














 『帝国の愛』への出演を終え、劇場を出たクリスは、そのまま早足に自室に戻り、どっかりとテーブルの席についた。
 と、彼女の忠実な従者が、素早く用意のティーセットを運び、給仕する。
 「クリス様、お疲れ様でした」
 劇に出演することが決まって以来、ずっと機嫌の悪かった主人にねぎらいの言葉をかけ、ルイスは彼女お気に入りの紅茶をカップに注いだ。
 「ようやく、解放されましたね」
 にこやかに言いつつ、手製の茶菓子をテーブルに置くと、クリスの表情も、やや和らいだようだった。
 「ありがとう、ルイス」
 そう言って、クリスはできるだけ平静を装い、白いカップを手に取る。
 「今日は特に疲れた・・・ちょっと、一人にしてくれ」
 クリスが、ため息混じりに言うと、今日の本番に至るまでの焦燥を知るルイスは、彼女の言葉を訝しく思うこともなく頷いた。
 「はい。では、失礼します」
 言いつつ、礼儀正しく一礼し、素直にクリスの部屋を出る。
 と、一人になったクリスは、熱い紅茶を一口飲んで、長く吐息した。
 「そろそろナンパに・・・って・・・・・・」
 先ほどの、ナッシュのセリフが頭から離れない。
 以前の自分ならば、絶対に聞き流していただろうセリフが、彼の口から出たと言うだけで、どうしてこうも気になるのか、我ながら不思議だった。
 「なにが・・・つい、だ・・・・・・」
 憮然と呟いて、紅茶をもう一口すする。
 「・・・私にも・・・つい手を出したとでも言うのか?!」
 言いつつ、銀のフォークを手に取り、乱暴に突き刺すと、ルイス特製のミルフィーユは無残に潰れてしまった。
 「・・・・・・っ!!」
 苛立ちを抑えられぬまま、何度もフォークを刺し続けていると、見目麗しかったミルフィーユは、あっという間にクリームとパイ生地の交じり合った、およそ食べ物とは思えない形状に変化してしまう。
 「あ・・・・・・」
 その惨状に、心を込めて作ってくれたルイスへの罪悪感をおこしたクリスは、形が無残に崩れ去っても、味には何の変化もないケーキを一口、口に含んで、深く吐息した。
 「・・・・・・何を八つ当たりしているんだ、私は」
 自己嫌悪に苛まれつつ、見るも無残な姿に変えられたケーキをつつく。
 「冷静な判断ができなくなっては、騎士失格だぞ、クリス・ライトフェロー」
 そう、自分に言い聞かせつつ、もう一口を口に運んだ。
 「そうだ、落ち着け。
 何かいい策が・・・あるはずなんだから・・・・・・」
 テーブルに頬杖をつき、窓の外の湖面に目をやると、いまだ中天に近い位置から陽光の降り注ぐ湖は、きらきらと輝いていた。
 その、美しい情景をもっとよく見ようと立ち上がり、窓辺に寄ると、湖面を吹き渡る風が、さらさらとクリスの前髪を撫でていった。
 その心地よさに、しばし目を瞑り、風の感触を楽しむ。
 「・・・・・・そうだ」
 呟き、薄く目を開けると、いまだ湖面は光り輝いたまま、クリスの視線を受け止めた。
 「全ては真実を知ってから・・・だ・・・」
 頼りない情報を元に戦うことほど、不安なことはない。
 クリスは大きく頷くと、くるりときびすを返し、窓枠に寄りかかった。
 「・・・・・・・・・ワタリ」
 呟くようにその名を口にすると、秋の陽光の満ちた部屋の陰にひそりと、その気配は現れる。
 「呼んだか」
 くぐもった、密やかな声に頷いて、クリスは、彼女自身が見出した忍者を見返した。
 「ワタリ、お前は、私に雇われたんだよな?」
 クリスは、確認するように問い正した。
 イクセ村に潜んでいた彼を見出し、その優秀な能力に対して、10万ポッチという多額の契約金を支払ったことは、記憶に新しい。
 ひた、と、視線を据えたまま問えば、彼はわずかに頷いた。
 「そうだ。この戦に手を貸しているのも、お前との契約内のことだ」
 断言した彼に頷きを返し、クリスは更に問うた。
 「忍者は、契約は遵守すると言う。お前は、私の信頼に応え得るだろうな?」
 「無論」
 無礼な問いだといわんばかりの即答に、クリスは笑みの形に唇を歪める。
 「では・・・あと10万ポッチ追加するわ」
 言いつつ、クリスは貴重品をしまいこんだチェストへ歩み寄り、10万ポッチを取り出して、ワタリに手渡した。
 「ナッシュ・ラトキエ―――― 彼の、過去、現在の女、全部洗ってちょうだい。
 ・・・・・・探偵じゃ、限界があるの」
 「・・・・・・」
 あまりの要求に、ワタリは、しばし言葉を失った。
 常に冷静沈着で感情を表に出さない忍者の呆れ顔など、滅多に見れるものではない。
 が、今、クリスの前に立つワタリの表情は、まさにそれだった。
 「・・・・・・用は・・・・・・それだけか・・・・・・・・・・・・」
 それだけのことに、更に10万ポッチを支払うと言う、彼女の言葉が信じられなかったのだろう。
 しばらくして、搾り出すように彼が出した声に、クリスはあっさりと頷いた。
 「そうだ」
 「・・・・・・わかった・・・・・・・・・・・・」
 感情を押し殺したような、低い声音に、クリスも全ての感情を押し隠して言い募る。
 「確かな真実を・・・・・・。
 こんなことは、お前にしか頼めないんだ、ワタリ」
 やや詰まり気味の口調に、彼は微かに頷いた。
 「・・・了解した」
 明らかに納得していない様子ではあったが、彼は、了承の言葉を残して、現れた時と同じく、音もなく消え去った。
 途端、
 「・・・わ・・・私だってっ・・・・・・こんなことを頼みたくはないっ!!」
 溢れ出した羞恥に、耳まで真っ赤にして、クリスは呟いた。
 だが、このようなこと、他の誰にも頼むことはできない。
 優秀な忍者である彼なら、誰にもクリスの依頼事項を漏らすことはないだろうことと、必ず満足の行く調査結果を持って来ると信頼してのことだ。
 「頼んだぞ・・・私の、心の平安を保つためだ・・・!」
 自分でも身勝手なことを言っている、とは思ったが、クリスは硬く拳を握って、ワタリの消えた場所を、真摯な目で睨みつけた。






〜 to be continued 〜











お題59『真実』です。
『勝手に連載・3つのお題』の第2話でーす(・▽・;)
第3話・・・つまり、本来の意味の完結は、『任務完了』なのですが、『任務完了』の前後にまた、長めのお話が何話分か入って行きまするー・・・。
予定では、40話完結です。
・・・・・・すみません、40も、お題を使わせていただきます;;;;
だって、お題ってプロットが立てやすくて、非常に便利だったのですー;;;
ご勘弁くださいませー(平謝り)








 百八題