* 071 目立たなくても *
* All is fair in love and war. *
〜 9.conspicuous 〜
きっと、一生に一度の事だろう、ダックの尾羽を凝視する事なんて。 そう思いつつ、クリスは眉根に深く皺を寄せて、眼前を往来するダックたち、一羽一羽の尾羽をじっと見詰めていた。 ―――― あっちは艶がなさそうだし、こっちは羽根が少なめだな。 火が点くのではないかと思われるほどに、熱心に尾羽を凝視する彼女を、ダックたちは怖々と避けて通っていく。 『なんだい、あれ?人の尾羽をじっと見て』 『痴漢?』 『いや、あれは雌の人間だから・・・』 『痴女?』 そんな、不名誉な囁きが飛び交っているとは露知らず、クリスはダックたちを凝視し続けていた。 彼女がこのような奇行を行っているのは、意外と役に立たなかったハルモニアの工作員の代わりに、グラスランドへの道案内を頼んだダックたちが、村長の許可を得る事を条件としたためだ。 『尾羽が一番立派』である事が目印であるらしい村長を見つけ出し、二羽のダックに道案内を願う許可を得ようと、目を皿のようにして眺め回しているが、人間である彼女に、ダックの尾羽の違いなど、わかるはずもない。 ―――― 立派というと、尾羽の一枚一枚が大き目なのがいいのか?それともやはり、量だろうか・・・。 更にきつく、目を尖らせる彼女の肩を、見かねたナッシュが軽く叩いた。 「クリス、目、痛くないか?」 「・・・うるさい。邪魔をするな」 振り向きもせず、無愛想に呟いた彼女の目は、しばらく瞬きもしなかったために、真っ赤に充血している。 「集中しているところ、お邪魔して申し訳ないんだが、俺にいい考えがあるんだ」 笑みを含んだ声に、ようやく振り向けば、ナッシュはにっこりと笑いかけてくる。 「どんな?」 「まぁ、任せなさい」 言うや、ナッシュは手近にいたダックを呼び止めた。 「すみません、お届け物なんですが、村長さんのお宅はどちらですか?」 「あぁ。すぐそこに、交易所の看板が見えるだろ?村長の家はあそこだよ」 白い羽根を伸ばして、親切なダックはにこやかに一軒の家を指し示した。 「ありがとうございます。ところで、この時間、村長さんはご在宅でしょうかね?受領書にサインを頂かなくてはならないものですから」 「この時間なら、村長は家の前で日向ぼっこの最中だよ。あ、ほら、出てきた!」 ダックが示した先では、一羽のダックが、ドアを開けて出てきたところだった。 「あぁ、あの方ですか。さすがに尾羽が立派だ」 「そうだろう?わが村では代々、尾羽の立派なダックが村長になるんだからさ」 「ご親切にどうも!」 「いいえ。どういたしまして」 大勢のダックの中から、あっさりと村長を割り出したナッシュは、にこやかに手を振って、親切なダックに別れを告げた。 「・・・・・・見事!」 「朝飯前です」 思わず感心したクリスに、ナッシュがにっこりと笑みを返す。 「では、村長さんに道案内の許可をいただきに参りましょうか」 「うん!」 踵を返したナッシュの後ろに、クリスは小走りでついて行った。 無事、村長から道案内の許可を取り付けた二人は、ブラス城を出た時の三倍に膨れあがった同行者達とともに、グラスランドの地へと繰り出した。 「なぁ、工作員って、いつもあんな風に情報を集めているのか?」 傍らを歩きながら、興味津々と問うてくるクリスに、ナッシュは苦笑を返す。 「いつもあんなに簡単なわけじゃないよ」 「でも私は、こんな風にして村長を見つけようなんて思いもしなかった!」 真面目なのか融通がきかないのか、ダックたちに言われた通り、自力で尾羽の違いを見分けようとしていたクリスだ。 たったあれだけのことでも、奇術を見ているような気になってしまったのだろう。 「他に、どんな手があるんだ?もっと、巧妙な手もあるんだろう?」 手品のタネを知りたがる子供のように、まとわりついてくるクリスの頭を、ナッシュは苦笑しながらくしゃりと撫でた。 「君は、あんな小細工を弄するよりも、大局を見つめて方針を示す立場の人間だろう?余計な事には、興味を持たなくてよろしい」 「いいじゃないか、けち」 「けちって・・・。子供じゃないんだから」 思わず笑声を漏らしたナッシュを見上げて、新たな同行者として加わった少女が、にこりと笑った。 「ナッシュさんとクリスさんって、仲がいいんですね」 言いつつ、身体の半分はあるのではないかと思われる、大きな荷物を背負い直した少女に、クリスが目を丸くする。 「そう見えるのか、リコ?」 「ええ。なんだか、兄妹みたいです」 つまり、男女の仲にしては色気がないということかと、ナッシュが更に笑声を上げる。 「兄妹だとしたら、随分と年の離れた妹だな」 「え・・・?」 ナッシュの言葉に、訝しげに首を傾げるリコへ、クリスが軽く頷いた。 「若作りだが、これでも37歳だそうだ」 「別に作ってないけどね」 「えぇっ?!」 クリスの発言に、リコは目を剥き、彼女の敬愛する主人であるフレッドも、目を丸くしてナッシュを凝視したが、ダック達は人間の見た目などには無関心らしく、淡々と歩を進めている。 「しかし、私には兄弟がいないからよくわからないが、兄がいれば、こんな感じなのかな」 我が家の男子にしては、随分と軽いが、というクリスのコメントに、ナッシュはまた笑声を上げた。 「どんな名門貴族の家にだって、たまには毛色の違うのが生まれるもんさ」 「毛色といえば・・・」 クリスが、秋の陽光に透けるナッシュの、金色の髪を見上げる。 「お前、特殊工作員のくせに、そんなに派手でいいのか?」 「派手かな?」 「潜入員は、地味で目立たない者がいいと、サロメが言っていた。 だがお前は、到底、地味とは言い難いな」 雀の中に孔雀が迷い込んだみたいだ、というクリスの表現に、リコも大きく頷く。 「やっぱり、潜入する時は、髪を染めたりするのか?!」 「変装は?!変装しないんですか?!」 「いやぁ・・・あはははは・・・・・・」 興味津々と詰め寄ってくるうら若き女性二人を、曖昧な笑みでごまかそうとするが、彼女たちの詰問は止みそうにない。 「ゴムマスクなんか作るのか?!」 「良くぞ見破ったな、明智君!とか言うんですか?!」 「・・・俺は怪人20面相か」 芝居の見すぎだ、と呆れつつ、傍らを黙々と進むフレッドを見遣る。 「いくらなんでも、ゴムマスクってのは・・・なぁ?」 しかし、 「よし!わかった!」 話し掛けた途端、大きく手を打たれて、ナッシュはびくりと足を止めた。 「その若作り!間違いない!今まさに変装中なんだな、ナッシュ殿!!」 びしぃっ!と、指を突きつけられ、ナッシュの顔が引きつる。 「さ・・・!さすがです!フレッド様!!」 「なるほど!見事だ、フレッド殿!!すっかり騙されたぞ!!」 感動のあまり拳を握る女性二人に、尊敬のまなざしを送られて、フレッドは得意顔だ。 「俺は変装なんかしていないぞ!」 「往生際が悪いですよ、ナッシュさん!」 「そうだ!潔く正体を現せ!!」 言うや、両側から頬と髪を引っ張られ、ナッシュが悲鳴をあげる。 「む・・・!さすがはハルモニア!精巧な変装だな!!」 「変装じゃないって言ってるだろ、乱暴者!!」 思いっきりつねられて、赤くなった頬を撫でながら訴えるが、二人は聞こうともしない。 「なんと強情な!」 「ナッシュさんの正体は、全部まるっとお見通しなんですよっ!」 「いざ、尋常に勝負!!」 なんとしても変装を破ってやろうという気合に溢れた二人に、何を勘違いしたか、フレッドまで加わって、ナッシュに魔の手を伸ばしてくる。 「いい加減にしろ、お前らっ!!」 絶叫しつつ、三方からの魔手をかわすナッシュを、やや離れたところから眺めていたダック達は、やれやれと肩をすくめた。 「目立つとか目立たないとか・・・。僕にはまるっきり見分けなんかつかないけどね」 「毛色の違いより、尾羽の違いの方が、よっぽど顕著なんだけどな」 「だよね」 そう言って、再び肩をすくめた二羽の視線の先では、暢気な旅人達が、子供のようにじゃれあっていた。 〜 to be continued 〜 |
お題71『目立たなくても』です。
・・・・・・予定表(別名:くれは的第一印象&思い込み連想ゲーム表)にはですね、
『お前・・・特殊工作員のくせに、そんなに派手でいいのか?』
なんて台詞が書いてありまして。
普通、『目立たなくても=がんばっています』とか、『目立たなくても=信頼できる仲間です』とか、こっち方面で使われるお題ですよね、これ;;;
それが私ったら、『そんなに目立たなくてもいいじゃないか』って、まったく逆の方向に持って行ってやんの(^^;)
・・・これを、捻くれ者ととるか、単なるボケととるかは、読んだ方の評価にお任せします;;;
ところで最近、台詞にくれはの趣味が混じりまくってますね;
『トリック』『金田一耕介』『明智小五郎』は今でも好きなドラマです(笑)
『全部まるっとお見通しだ!』は『トリック』の山田直子、『よし!わかった!』は、金田一シリーズの轟警部の名台詞ですね。(知るかっちゅーの;)
百八題