* 088 僕らの城へようこそ *







 ○月□日 (晴)
 今日はビュッデヒュッケ城の行く末について、みんなで話した。
 やっぱり、最初からうまくは行かないものだ。
 でも、みんなで話し合いを持つと言う気風はいいことだと思う。

       ―――― ビュッデヒュッケ城城主 トーマスの日誌より抜粋

 「このままじゃいけません!」
 だんっ!と、古いが丈夫なテーブルに拳を叩きつけたのは、湖畔の城を守る守備隊長のセシルだった。
 今の彼女は、常に纏っている甲冑を脱ぎ、長い金髪を背に垂らして、居並んだ城の住人たちを睨み回している。
 「せっかくトーマス様が名案を提示してくれたのに、未だに商店主がいないのでは、お城は貧乏なまんまです!」
 「そう興奮するなよ」
 城の武術指南であるジョアンは、テーブルの上に顎を投げ出し、興奮する少女を面倒そうに制した。
 「こっちでいくら張り切ったって、その気になる奴が集まらなきゃ、どうしようもないんだからよ」
 「だから!その気になってもらうように手を打ちましょうと、そう言ってるんですっ!!」
 「つまり、営業をかけるんだね?」
 年の割には派手な身なりをした宝くじ売りの老女が、にやりと口の端を曲げる。
 「それです、マーサさん!」
 びしぃっ!と、指を突きつけ、セシルは再び住人たちを睨み回す。
 その厳しい視線を、気弱な城主はおどおどとした上目遣いで何とか受け止めた。
 「そ・・・それで、セシルにはなにか、いいアイディアがあるのかい?」
 「トーマス様、こないだお隣のイクセ村では、大きなお祭をやってましたよね?!」
 セシルは、トーマスに向かって説明を始めたが、その声は住人たち全員に語りかける強さをもっている。
 「あのお祭、グラスランドの奇襲を受けて、別の意味で有名になっちゃいましたけど、それさえなければ、近くの村や町からたくさんの人が集まって、賑わっていたじゃないですか!
 私たちもそれを見習って、ここでお祭をするんですよ!」
 「お祭り!楽しそうだワン!」
 セシルの意見に、倉庫係のムトが諸手を上げて賛同した。
 「ふむふむ・・・。賑やかで楽しい場所だと宣伝するわけじゃな?」
 自称大魔道士のピッコロも、大きく頷いて、にっこりと目元に皺を寄る。
 「そうです!人が集まればお店も繁盛するし、それを見ればお店を出したいと思う人がまた増えるでしょう?」
 セシルのアイディアは、居並ぶ住民達に夢溢れる未来図を見せたが、
 「・・・・・・・・・準備にかかる費用は・・・どこから捻出するのですか・・・?」
 ただ一人、図書館司書のアイクは、血色の悪い顔の中で唯一光る、恨みがましそうな目を彼女に向けて、乾いた声を漏らした。
 「ひ・・・費用なんているんですか?!」
 自身の構想の前に立ち塞がる、あまりにも現実的な問題に、セシルが縋るようにトーマスを見つめる。
 「う・・・うん・・・。多分ね・・・・・・」
 気弱な城主の言葉に、更にショックを受けた様子で、セシルは頭を抱えた。
 「う・・・そんなお金、ここにはありませんね・・・・・・」
 「あ、でもっ・・・!いいアイディア・・・だったよね・・・?」
 トーマスは慌てて取り繕おうとするが、それがなんら、解決を促すものではないことは確かだった。
 「まぁ・・・。
 今まで通り、地道な勧誘をして行くのが一番、って事だね」
 苦笑交じりにマーサが言い、その場は散会となった。


 ○月×日 (晴)
 今日、ビュッデヒュッケ城が『炎の英雄』の居城になった。
 長い間いがみ合っていた人(?)達が同じ場所に集って、
 一つのことをやろうとするのは、なかなか大変なことだけど、
 ここには『炎の英雄』だけでなく、ゼクセンの騎士団長と
 シックス・クランの族長達、果てはハルモニアの神官将まで
 が協力して軍をまとめている。
 思えば、すごい事になったものだ。
       ―――― ビュッデヒュッケ城城主 トーマスの日誌より抜粋

 「今度こそ、お祭りですよっ!!」
 だんっ!と、古いが丈夫なテーブルに拳を叩きつけ、セシルは主張した。
 今日も彼女は、常に纏っている甲冑を脱ぎ、長い金髪を背に垂らして、居並んだ城の住人たちを睨み回している。
 「せっかくゼクセンとグラスランドの人たちが集まって、その上ハルモニアの人たちまで来ているんです!
 このチャンスを逃したら、お城は貧乏なまんまですよ!」
 「そう興奮するなよ」
 またもやのんきな口調で、ジョアンはテーブルの上に顎を投げ出したまま、興奮する少女を面倒そうに制した。
 「人も増えたが、やることも増えたじゃねぇか。
 こっちでいくら張り切ったって、迷惑がられちゃ、どうしようもないんだからよ」
 「だから!その気になってもらうように手を打ちましょうと、そう言ってるんですっ!!」
 「つまり、決起会だね?」
 年の割には派手な身なりをした宝くじ売りの老女が、にやりと口の端を曲げる。
 「それです、マーサさん!」
 びしぃっ!と、指を突きつけ、セシルは再び住人たちを睨み回す。
 その厳しい視線を、気弱な城主はおどおどとした上目遣いで何とか受け止めた。
 「え・・・えっと・・・決起会って・・・・・・?」
 「景気付けです!みんなで力を合わせて戦いましょうって、一致団結を促すんですよ!!」
 セシルは、硬く握った拳を振り回して、住人たち全員に語りかける。
 「今、このお城にいる人達をまとめているのは『強大な共通の敵』です!
 だけど、戦いが終わってもみんな仲良くしていたいじゃないですか!
 だから、敵なんかいなくなったって、みんなが仲良くできるように、今ここで絆を強くしておくんですよっ!!」
 「決起会!楽しそうだワン!」
 セシルの意見に、倉庫係のムトが諸手を上げて賛同した。
 「ふむふむ・・・。同じ釜の飯を食った仲、というわけじゃな?」
 自称大魔道士のピッコロも、大きく頷いて、にっこりと目元に皺を寄る。
 「それです!絆が強くなれば、戦争が終わった後もここにいたいと思ってくれる人がいるかもしれませんし、何より、ゼクセンもグラスランドもハルモニアも、今なら偉い人がたくさんいるわけですから、帰っても宣伝してくれるかもしれないじゃないですか!
 そうしたら今あるお店も繁盛するし、それを見ればお店を出したいと思う人がまた増えるでしょう?!」
 セシルのアイディアは、今度こそ居並ぶ住民達に夢溢れる未来図を見せたが、
 「・・・・・・・・・では、具体的にどんなイベントを催すのですか?」
 ただ一人、図書館司書のアイクは、血色の悪い顔の中で唯一光る、恨みがましそうな目を彼女に向けて、乾いた声を漏らした。
 「イ・・・イベントですか?!」
 そこまではまだ、考えてなかったらしい。
 先ほどまでの元気はどこへやら、セシルが縋るようにトーマスを見つめると、
 「目安箱で募集すればいいんじゃないかな?」
 気弱な城主にしては珍しく、はっきりと物を言った。
 「あっ・・・そうか!いいアイディアですね、トーマス様!!」
 「英雄に協力してもらうってか?まぁ、確かにお祭り好きそうなボウズではあるな」
 テーブルから上げた顎を頬杖で支えて、ジョアンがにやりと笑う。
 「決起会だワン!」
 ムトが嬉しげに諸手を上げ、
 「早速、告知のポスターを作らなきゃねぇ」
 マーサがにたりと笑い、
 「また金儲けを企んでおるの?」
 ピッコロが目尻の皺を深くして笑った。
 「・・・・・・・・・楽しくなりそうです」
 通夜の、開会の言葉のようなしめやかさでアイクが締め、その場は散会となった。


 ○月△日 (晴)
 近頃、軍や軍を率いる人達は、戦争の準備で忙しそうだ。
 だけど、僕達もかなり忙しい。
 最終決戦前に決起会をやることが決まったのだ。
 準備するにもそんなに時間がないことだし、スケジュール
 はいっぱいいっぱいだ。
 だけど皆、頑張ってくれている。
 盛り上がってくれるといいけど・・・。

       ―――― ビュッデヒュッケ城城主 トーマスの日誌より抜粋

 「トーマス様!できました?!」
 ばたばたと、景気のいい足音を上げて厨房に駆け込んできたセシルを、トーマスは肩越しに振り返った。
 「うん。
 一晩寝かせておいたから、充分おいしくなっていると思うよ」
 いつも気弱な彼にしては、自信に満ちた答えだ。
 それもそのはず、彼が愛情のこもったまなざしで見つめる料理は、秘伝のカレー粉をふんだんに使った特製カレーである。
 お子様にも安心のマイルドなカレーには、隠し味にたっぷりと蜂蜜を加えてある。
 カレーマニア・東の横綱と言われる彼の、面目躍如的作品だった。
 「こっちもOKだぜ!」
 対するは、カレーマニア・西の横綱、デュークである。
 こちらも、オリジナル調合のカレー粉を使った特製カレーだ。
 見るからに火を吹きそうな赤いカレーは、刺激的な匂いを放ち、負けず嫌いの漢(をとこ)達を惹きつけて止まない事だろう。
 「うわぁ!デュークさんのカレー、おいしそう!」
 「そうだろ?一口食べれば、20はダメージを受ける激辛カレーだぜ!」
 激辛党のセシルが、まっすぐにデュークのカレーへと惹きつけられた事に少なからずダメージを受けつつも、トーマスはぐつぐつと音を立てて煮えるカレーを火から降ろし、鍋ごと保温器に入れた。
 「・・・じゃあ、行きましょうか」
 「はいっ!急いで持っていきましょう!もう、他の皆さんのお料理は出揃ってますよ!」
 今回は、料理人の他にも腕に自信のあるメンバーが腕を振るっている。
 「ルシアさんは、カラヤ族一の料理名人で、大人気のカラヤ料理を出すそうですよ!
 ゼクセン騎士団は、サロメ様とパーシヴァル様がゼクセン料理を披露するそうです!」
 厨房を出たところで、鍋の重さに耐えかねた非力な城主からそれを引き継いだセシルが、軽々と会場へ運んでいく。
 「ルシアはともかく、あの二人が料理なんかしているのは、ちょっと想像がつかねぇなぁ・・・」
 セシルの隣で、こちらも軽々と巨大な鍋を運びつつ、デュークが苦笑した。
 「クリス様がおっしゃるには、お二人とも、なかなかの腕前だそうですよ!楽しみですね!」
 「ハルモニアの人達は?料理なんかするのかなぁ?」
 何もしないくせに文句だけは多そうな神官将の顔を怖々と思い浮かべて、トーマスが呟くと、
 「ナッシュさんが、くじ引きに負けて料理当番になったそうですよ」
 と、セシルが答える。
 「・・・・・・なんか、泣いてましたけど?」
 なぜだろうと、首を傾げつつデュークを見遣れば、ハルモニア神聖国の傭兵はにやりと口の端を曲げた。
 「そりゃあ、お嬢ちゃん。料理当番イコール、あの口やかましい神官将様の給仕係だからさ!
 料理の文句も酒の文句も言われ放題!しかも、会場中を駆け回ってご主人様のお口に合う物を探さなきゃいけないんだぜ?
 泣きたくもなるだろうさ!」
 大笑と共に吐かれた言葉に、セシルもトーマスも言葉を失う。
 「なぁに、君子危うきに近寄らず!
 適当に挨拶した後は、あの陰険神官将に近づかなきゃいいことさ!なっ・・・あぁぁぁぁぁぁっ?!」
 途端、デュークの足下から地面が割れ、彼を深い暗渠の底へと飲み込んでしまった。
 「デュ・・・デュデュデュ・・・デュークさん?!」
 悲鳴を上げる二人の前で、地面は再び閉じ、石の床さえ何事もなかったのようにぴたりと合わさった。
 「デュークさーんっ!!!」
 形見のように残されたカレー鍋の傍らで、セシルは沈黙を守る石の床に向かい、彼の名を叫び続けた。


 ○月○日 (晴)
 決起会当日。
 朝から大変な事件が起こってしまった。
 デュークさんが地面に飲み込まれてしまったのだ。
 犯人はきっと・・・いや、言えない。
 じっちゃんの名にかけて。
 でもきっと、誰もがあの人の仕業だとわかっているだろう。
 全てまるっとお見通しだ。
 後で、デュークさんはお城の地下から自力で這い上がってきた
 ことだし、この事件は永遠に封印されるに違いない。
 その他のことは、大体うまく行ったのだから。

       ―――― ビュッデヒュッケ城城主 トーマスの日誌より抜粋

 決起会は、城に拠った者達の性格上、まさに飲めや歌えの大騒ぎとなった。
 それまでは、ゼクセン人同士、グラスランド人同士で固まっている事の多かった人々も、あちこちで交流の輪ができ、互いの郷土料理に対する批評など、話に花が咲いているようだ。
 「・・・みんな、喜んでくれているみたいで、良かったですね」
 いつも元気なセシルだが、今は手にしたホットレモンのカップから視線を上げようとしない。
 彼女が懸命に視線を逸らしているのは、件の神官将である。
 「う・・・うん・・・。
 そんなに・・・不機嫌そうな人もいないしね・・・・・・・・・」
 自信作のカレーをすくったままのスプーンを、口に運ぼうともせず、トーマスもびくびくと背後を意識していた。
 そこでは、特等席に鎮座まします神官将様と、引きつった顔の騎士団長様が、丁丁発止のご歓談中だ。
 何を話しているのかはわからないが、ササライの楽しげな様子と、クリスの引きつっていく笑顔を見れば、すさまじい嫌味の応酬が行われている事は確実だろう。
 関わりを恐れて、二人はそれぞれ、手にしたものを口に含んだ。
 その時、
 「そろそろだワン!」
 ムトが、息せき切って二人の元に駆けつけ、月のない夜空を指差した。
 「みなさーん!!いよいよ、メインイベントです!」
 「会場のかがり火を消しますよー!」
 『暗いうちは走ったりすんじゃねぇぞ、ケケケケケッ!!』
 本日の司会進行をかって出た、ベルとメル(人形付き)の仲良しコンビが人々に呼びかけ、ロディが水の紋章を使って、会場を照らしていた火を次々と消していく。
 はかない星明りのみが降り注ぐ場は、次第に沈黙に支配され、集った人々は一様に空を見上げた。
 間もなく、暗い夜空に色とりどりの炎の花が開き、瞬間、会場と集った人々の姿を明るく照らし出した。
 賞賛のどよめきに拍手も混じり、炎の英雄と火魔法の使い手たちによる炎の競演に、絶え間ない歓声が上がる。
 「・・・ねぇ、セシル」
 トーマスが、傍らの少女に呼びかけると、彼女は半面を炎の花に照らされながら彼に視線を移した。
 「いいアイディアだったね」
 違う国、違う人種・・・。
 今まで戦場以外の場所でまみえる事などなかった人々が、同じ場所で同じ炎に照らされて、歓声を上げている。
 「最大の功労者は君だよ」
 敬愛する城主から最大の賛辞を受けて、少女は大きな目を見開き、とびきりの笑顔を浮かべた。
 「ありがとうございます!」
 夜空に繚乱する花々が上げる音を圧して、少女の澄んだ声は会場に響き渡った。


 ○月▼日 (晴れ)
 とうとう、最終決戦だ。
 このお城に拠った人々は、みんな戦いに行く。
 僕も、ビュッデヒュッケの城主として、この戦争を見届ける
 義務があるだろう。
 ・・・足手まといだって事はわかっているけど。
 無理な願いかもしれないけど、でも、皆、無事に帰ってこれ
 ますように!
 その時、必ず僕はこう言うだろう。
 お帰りなさい、みんな!
 僕の・・・。
 いや、僕らの城へようこそ!

       ―――― ビュッデヒュッケ城城主 トーマスの日誌より抜粋



〜 Fin.














お題88『僕らの城へようこそ』です!
はじめてこのお題を見た時、『村おこしの宣伝文句のようだな』と思ったんですね(笑)
その第一印象を大切に、こんな話になりました。
ふふふ・・・。
よっくごらんあそばせv
くれは的メインキャラが名前しか出てこない、『幻水3話』ではとても珍しいお話ですわよ(笑)←一人悦。
(この場合、メインキャラとはクリス、ナッシュ、ササライです(笑))
たまにはこんな風にサラサラと書くのも気持ちいいですv












 百八題