* 089 協力攻撃 *








 「あっ・・・あのっ・・・」
 幼く、高い声にいっぱいの勇気を乗せて、アラニスは彼を呼び止めた。
 「はい?」
 穏やかな顔にやわらかい笑みを浮かべて、彼はアラニスに向かう。
 「たしか・・・アラニスさん、でしたね?私になにか、ご用ですか?」
 幼い少女にも礼儀正しく振舞ってくれる彼をうっとりと見上げながら、アラニスは更に多くの勇気を声に乗せた。
 「ササライ様・・・・・・」
 「はい」
 少女の、可憐な様子につい笑みがこぼれる。
 ハルモニアの権力者にして、真の紋章を持つ神官将。しかも、問答無用の美形。
 少女の、初恋の相手にしては申し分のない偶像に違いない。
 ―――― かわいいなぁ。
 必死に言葉を探しているらしい様子が小動物のようで、つい、嘘のない笑みがこぼれてしまう。
 そのままじっと見つめていると、彼の視線に気づいた少女は、更に慌ててしまい、中々次の言葉を言い出せそうにはなかった。
 「ごっ・・・ごめんなさっ・・・!!ササライ様、忙しいのにっ・・・!!」
 焦りと恥ずかしさに、涙さえ浮かべる少女があまりにかわいらしくて、ササライはつい、『優しくて完璧な初恋の人』の演技に熱を入れてしまう。
 「大丈夫。今日はもう、会議も終わりましたから。アラニスさんのお話を聞かせてください」
 ―――― 決まったね!
 ササライが、心中にVサインを出していることなど露知らず、少女は頬を真っ赤に染め、しばらく逡巡した後、意を決したように潤んだ目を彼に据えた。
 「あのっ・・・戦争に・・・行っちゃうって聞きました・・・!!」
 「えぇ。奪われたものを、取り返しに行くのですよ」
 少々、憂いを込めた笑み―――― 一生の思い出にするんだよ!
 そんな篭絡作戦が進行しているなどとは露知らず、少女は胸の前で手を組み、祈るように彼を見上げる。
 「どうか、無事に帰ってきてください」
 「・・・もちろん。
 貴女が祈ってくれたおかげで、私はきっと、生きて帰ることでしょう。貴女の元へ・・・ね」
 劇場で披露される演技は、常に不評か酷評である彼だが、実は、舞台の外でならいくらでもアドリブの利く名優なのだ。
 そうでもなければ、あのクリスタルバレーで繰り広げられるパワーゲームに、勝ちつづけられるわけもない。
 すっかりササライの演技に騙されたアラニスは、うっとりとササライを見つめた。その瞳には、間違いなくハートマークが浮かんでいる。
 「ササライ様って、本当にお優しいんですね・・・・・・!」
 「そうですか?当然のことを、言ったまでですよ」
 今にも感極まって落涙しそうなアラニスに、ホストだったなら一夜でナンバーワンの座を勝ち取れるだろう笑みを惜しげもなく振りまくと、さすがに刺激が強すぎたか、少女は真っ赤な顔を俯けてしまった。
 「わたし・・・すごく嬉しいです!わたしみたいな子供、相手にしてくれないと思っていたから・・・・・・」
 「こんなかわいいお嬢さんを、無視するなんてありえませんよ」
 ―――― あ、今のはちょっと問題発言だったかな?
 にこにこと笑いながら、自身の言葉を反芻する。
 新聞に、ロリコン疑惑などと書き立てられては困る。
 と、いきなりアラニスの表情が厳しくなった。
 「やっぱりわたし、納得いきません!」
 「え?」
 笑みを張り付かせたままのササライを見上げ、アラニスが悔しげに唇を震わせる。
 「協力攻撃の―――― 美青年攻撃のメンバーに、ササライ様が入ってないなんて!!」
 ―――― ナニソレ?
 目を点にしてアラニスを見返すと、少女は握った拳をも震わせて、悔し涙に潤む目元を拭った。
 「美青年攻撃メンバーって言ったら、軍の中でも女の子に人気のある人達が選ばれるんでしょう?!
 フッチさんはともかく、フレッドさんはわがままだし、フランツさんは恋人がいるし!全然ふさわしくないじゃないですか!!」
 いっそ、『F攻撃』に改名するべきなんだわ、と、ササライにはよく理解できない事で激怒している少女を呆然と見つめる。
 「あの・・・アラニスさん?何の事をおっしゃっているんですか?」
 しばしの自失からようやく立ち直ったササライに、アラニスは自分が暴走していたことに気づいてまた頬を赤らめた。
 「あ・・・!ごめんなさいっ!」
 そして、かつての『門の紋章戦争』でも、『デュナン統一戦争』でも、軍中屈指の美青年達による『美青年攻撃』が大活躍し、最終決戦を有利に運んだのだということを語ったのだった。
 「アップルさんに聞いたんです。フッチさんは、デュナン統一戦争では『美少年攻撃』のメンバーだったんですって。だから、『美青年攻撃』のメンバーに選ばれるのは確定だったかもしれないけど、他の二人は・・・・・・!」
 怒りが再燃したのか、握る拳が震えている。
 「まぁ、そう興奮しないでください、アラニスさん」
 にっこりと笑い、手を差し伸べると、少女は握った手をほどき、おずおずとササライの手を取った。
 「私もこちらには来たばかりで、知らないことばかりですので、また色々と教えてくださいね」
 「もっ・・・もちろんです!!」
 高い声をこれ以上ないほど上ずらせた少女に、最高の笑顔を贈って、初恋の偶像を熱演した神官将は自身に与えられた執務室へ戻った。


 「ねぇ。協力攻撃って、なんだい?」
 ドアを開けるや、何の前触れもなく聞いて来た神官将に、ディオスとナッシュは顔を見合わせた。
 「どうしたんですか、いきなり?」
 「答えになってないんだけど、それ」
 ナッシュの問いを冷たく却下して、ササライは軍人らしい機敏さで執務机の椅子に座る。
 「美青年がどうのとか、美少年がなんとか・・・?」
 首を傾げるササライに、ディオスが律儀に向き直った。
 「それは、ササライ様も騎士たちがやっていたのをご覧になったでしょう?何人かで協力して、技を出すものです」
 「あぁ・・・!そういえば何かやっていたな」
 やっと得心が行った様子で、ササライが手を打つ。
 「非力な者達が何人か集まって、ようやく一、二体の敵にダメージを与えていた、あれだね」
 「・・・・・・なんかもっと、他に言いようがあるでしょうに」
 その、身も蓋もない言葉に、ナッシュが肩を竦めた。
 「それで?どこでそんな情報を仕入れてきたんです?」
 あくまでも自身の問いの答えを導き出そうとするのは、ナッシュの特殊工作員としての性か。
 「騎士団ファンの、かわいいお嬢ちゃんがね、僕が美青年攻撃のメンバーじゃないのはおかしいって、怒ってたんだよ」
 少女の、必死な様子を思い出して、思わず笑みがこぼれる。
 「元美少年攻撃メンバーのフッチはともかく、わがままなフレッドや恋人のいるフランツがメンバーなのは変だ、ってね」
 「あぁ、なるほど」
 聖ロア騎士団の少女を思い出し、ナッシュも笑みを浮かべた。
 「でもあれ、20代限定だそうですから、30男は最初から除外されてたみたいですよ?」
 さらりと放たれた言葉に、ササライの眉が吊り上がる。
 「アップルちゃんがね、言ってたんですよ。ルックも元メンバーだけど、30を過ぎてしまったからもう、ここにいたとしても美青年メンバーは無理ね、ってね」
 「・・・・・・ルックが?」
 「あ・・・あぁ〜〜ごほん!ナッシュ、その報告はもうこの辺りで・・・」
 「ディオス、黙って。ナッシュ、続けろ」
 あからさまに不機嫌な様子で、ササライが椅子の上にふんぞり返った。
 「続けろって言われても、それだけなんですけどね?俺があと、10歳若ければメンバー入りは確実だったなぁ、って、笑い話をしていただけなんで」
 「笑い話?ナンパしていただけだろう、それは」
 口調が、かなり冷気を帯びている。
 「それで?ルックが、美少年攻撃のメンバーだったという話を、もう少し詳しくしてもらおうか」
 対抗意識丸出しの詰問に、ナッシュは苦笑した。
 「だから、俺が知っているのはそれだけです。
 ルックとフッチともう一人、3人での協力攻撃だったそうですけど、なんでもすぐに険悪状態になったらしくて、軍師に封印を命じられたそうですよ」
 「ふん・・・。所詮は未熟者の浅知恵か」
 すさまじく小憎らしい口調が、悔しさを堪えているようでなんだか面白い。
 思わず吹き出しそうになったナッシュをじろりと睨みつけ、ササライはその視線を副官へ移した。
 「今回は、その美少年攻撃とやらはないのか?」
 「は?!・・・はぁ・・・・・?」
 曖昧な返事をして首を傾げるディオスの隣で、ナッシュが眉をひそめる。
 「美青年にすら除外されたのに、美少年攻撃に加わろうなんて、おこがましすぎやしませんか?」
 「誰が加わると言った!僕は、奴がやっていた協力攻撃とやらがどんなに無様なものか、見てみたかっただけだ!」
 あくまで天上天下唯我独尊の神官将は、机を叩いて立ち上がった。
 「決めたぞ!奴よりもっと優雅で、強力な連携攻撃を編み出してやる!」
 拳を握るササライに、ナッシュはいっそ晴れやかに笑って手を振る。
 「そうですか!がんばってください、ササライ様!では、俺はそろそろ仕事に戻りますから・・・・・・」
 「逃げようったって、そうはいかないよ」
 きらりと光った目が怖い。
 「僕と、お前と、ディオスでやるんだからね」
 「ええええええっ!?サササササササライ様!!!私は非戦闘員でして!!」
 「僕は、非戦闘員にその軍服を着せた覚えはないんだよ」
 残酷な一言で、ディオスを黙らせ、
 「俺、特殊工作員ですよー?協力攻撃なんてかったる・・・いえ、必要ありませんから!」
 「僕の命令に逆らうの?」
 容赦ない一言でナッシュを黙らせる。
 「さぁ!すぐに構想を練るよ!名づけて、『ご主人様と下僕攻撃』!!」
 「そんなの嫌ですっ!!」
 見事に唱和した声も、聞く耳など持たない。
 「構成としては、僕の魔法攻撃と君たちの直接攻撃のコンビネーションだよね」
 「聞いて下さいよぉぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜っ!!!」
 絶叫と共に、中年たちの夜は更けていった。


 数日後、クリスに率いられた戦闘集団の中に、ハルモニアの主従の姿があった。
 ハルモニア領へ到る山道の三叉路で、待ち受けていたツインスネークの姿にササライは笑みをこぼす。
 「・・・・・・ササライ様、本当にやるんですか?」
 「勿論」
 嬉しげにモンスターを見上げるサライの目には、残酷な光が灯っていた。
 「来るぞ!!」
 長い首を大きくうねらせ、巨大な口を咆哮の容に開く様に、クリスが注意を喚起する。
 「いつでもどうぞ」
 ササライの自信に満ちた声に、これからどんな惨劇が起こるのか知らない戦闘メンバー達も、落ち着きを取り戻して敵に向き合った―――― ツインスネークの口から、すさまじい破壊力を持った光が飛び出す。
 「今だ!」
 「嫌だ――――!!」
 ササライの合図で、特攻隊よろしく飛び出したディオスが身をもってササライの盾となり、攻撃を防いだ隙にナッシュが直接攻撃を放つ。
 ディオス一人では、当然ナッシュまで守るには力不足なので、攻撃を優先させられたナッシュもかなりの傷を負う。
 その間に、悠々と呪文を詠唱したササライが高レベルの魔法を放ち、ふと見ればツインスネークの巨体は跡形もなく消えていた・・・・・・。
 「・・・・・・これは・・・・・・賞賛していいものなのか・・・・・・・・・・・?」
 思いっきり眉をひそめたクリスが、かなりの時間迷った後、そう呟く。
 確かに敵は、一瞬でほふられたのだが、盾になったディオスは瀕死。ナッシュはアンバランス。ササライ一人だけが涼しげな顔で佇んでいる。
 「戦闘中一回きりの使用ですけどね、効果は絶大だから問題はありませんよ」
 瀕死なのは非戦闘員だし、というお言葉がまた、残酷度を上げている。
 「・・・・・・あまり・・・・・・私好みではありませんね」
 そう呟いたクリスは、以後、この三人を戦闘メンバーに加えることを避けたのだった。


 「せっかく考えたのに、なんて物分りの悪い人だろう」
 今日も今日とて、神官将様は執務室にふんぞり返っておられる。
 『ご主人様と下僕攻撃』を無理やりお蔵入りされて、彼のご機嫌は急転直下だったが、彼の部下たちは逆に、クリスを救いの女神と崇め奉っていた。
 「こうなったら、新しい協力攻撃を考えて、何が何でも使わせてやる!!」
 握った拳の硬さが、下僕たちの心臓を鷲づかみにするようだ。
 「今度は『ご主人様と犬攻撃』なんてどうだろう?」
 「嫌ですっ!!」
 見事に唱和した部下たちの声は、今回もあっさりと無視された。





*END*













『協力攻撃』でしたーv
掲示板で、『ハルモニアの協力攻撃がないのは残念』という話題から生まれた作品です(笑)
あくまで天上天下唯我独尊の神官将様。
悪魔な彼が、どうしようもなく好きです(笑)
ところで美青年攻撃ですが、あれって私、1、2まで、女性陣のファン投票で決まると思っていたのですよ(笑)
密かに美青年コンクールとかあって選ばれてたりとかしていたら楽しくないですか?(笑)
で、今回、フッチはともかくフランツは違うだろ、という突っ込みが入りまして。
だって、公認カップルの片割れですよ?既にアイドルじゃないし。(アイドルなんかい(笑))
フレッドは好きですけど、おそらく、アラニスみたいなタイプはフレッドタイプは嫌いかなぁと。
彼もリコとバカップル形成してますしね(笑)
だめじゃん、今回。アイドルの座を騎士に取られていないかい、美青年達ー?(笑)











 百八題