Mysterious Place






 炎の英雄と運び手達が拠ったビュッデヒュッケ城には、古いだけに様々な謎や怪談があるらしい。
 気弱な城主は、それらに積極的に関わろうとしないどころか、解明解決などもってのほか、という人間だったため、謎は様々な尾ひれをつけて、いくつもの新たな怪談が生まれていた。
 『えれべーたの怪談』も、その中のひとつだ。
 オリエンタルなえれべーたがーる、シズと、彼女の職場であるえれべーたにまつわる怪談は、新しい割には多くの尾ひれがついて、今や新聞沙汰にまでなっている。
 曰く、シズが夜な夜な森に出かけている、とか、そこで妙なマッチョ軍団を目撃した、とか、果ては『えれべーた人力説』などという、とんでもない話まで浮上していた。
 「―――― 馬鹿馬鹿しい」
 ビュッデヒュッケ城二階に貼り出された壁新聞を読み終えたクリスは、ふっ、と、吐息する。
 「いくらなんでも、そんな事があるはずないじゃないか」
 常に冷静を心がけている彼女には珍しく、その口調に現れる苛立ちを隠そうともしない。
 歩調さえも荒く、粗末な床を鳴らして踵を返すと、ちょうど大階段を上りきった男にぶつかりそうになった。
 「おや、どうしたんだ?随分と苛ついているな」
 男の暢気な口調が、クリスの尖った神経に障る。
 「うるさい!どけ!!」
 怒鳴るや、クリスは彼を押しのけて階段を下ろうとするが、腕を掴まれて引き戻された。
 「邪魔するな、ナッシュ!」
 怒った猫のように目を吊り上げるクリスに、しかし、ナッシュは相変わらず暢気な笑みを浮かべる。
 「まぁまぁ、落ち着いて。
 鎧を着ているのに、その勢いで階段を下りたりしたら、弱った踏み板を踏み抜いちまうぜ?」
 「う・・・・・・」
 悔しいが、ナッシュの言う通りなので、クリスは抵抗を諦めて視線を足下に落とした。
 「いつも冷静な君らしくないね。なんかヤなことでもあったか?
 ――――・・・ササライ殿にいじめられたとか、ササライ殿に嫌味を言われたとか、ササライ殿に陥れられたとか」
 特定の人名は、二人に共通の恐怖の的である。
 だが、クリスはその名前に、俯いたまま首を振った。
 「・・・んじゃ、エステラさんに騙され、からかわれて、笑われたんだな?」
 二人目の天敵の名に、クリスはうなずきはしなかったものの、俯いたまま肩を震わせている。
 「今度は、何を言われたんだい?」
 クリスの、騙されやすい性質をほほえましく思いながら問うと、彼女は憮然と下を向いたまま、えれべーたを指し示した。
 「えれべーたの・・・最下層には更に下があって、そこではハレックの一族がえれべーたを操っているって・・・・・・」
 ―――― さすがエステラさん・・・!巧妙だ。
 ナッシュは心中にそう呟く。
 えれーべーたの構造上、最下層の下に動力部分を設置するのは当然の事だ。
 彼女はただホラを吹くだけではなく、先に事実を並べ、いかにもそれが真実であるかのように語ったのだろう―――― 普通、騙される者はいないだろうが。
 「いくらなんでも、これは嘘だよなっ?!」
 騙されてはいないぞ!と、妙に拳に気合を入れる様がほほえましい。
 が、
 「クリス。実は俺、見たことがあるんだ」
 いつもとは違う、ナッシュの真面目な顔に、クリスはぽかんと口を開けて彼を見上げた。
 「な・・・何を・・・?」
 「あれは・・・そう、15年程前か。
 仕事で、都市同盟領内をうろうろしていた時の事だ。
 おそらく、あれがシズさんの言う、お師匠さんだったんだろうが、森の中で、妙なじいさんが、数人のマッチョ達に檄を飛ばし、巨大な石を引かせていた・・・」
 「ほ・・・本当に?!」
 クリスの真剣なまなざしに、ナッシュは頷く。
 「それが本当ならば・・・」
 呟くや、クリスは唐突に踵を返した。
 「どうするんだ?」
 「確認するに決まっているだろう!!」
 「そう言うと思った!」
 にこりと笑い、ナッシュは軽い足取りでクリスの後に続く。
 「俺も行くよ♪」
 先を競うように、二人は二階のえれべーたホールへ向かった。
 クリスは、アンティークな作りのボタンを気ぜわしく押し、扉が開いた途端、
 「シズ殿!!最下層へ行ってくれ!!」
 えれべーたがーるに口を利く間も与えず、階を示したのだった。


 「最下層。ビュッデヒュッケ城の地下でございます」
 シズが、丁寧な口調でえれべーた内の二人に告げ、扉を開ける。
 えれべーたホール付近のみを照らす松明は、地下にわだかまる闇を却って深めているようだ。
 「お戻りになる時は、またお呼びくださいね」
 二人を地下へ降ろすや、そう言って、そそくさと扉を閉めたシズに、クリスは訝しげに首を傾げ、ナッシュは一瞬目を見張った後、噴出しそうになるのを懸命に堪える。
 ―――― そういや、この奥には部屋があったな・・・。
 シズの様子から見て、既に誰かが利用したのかと思うと、どうにも笑いが止まらない。
 「シズ殿もお前も、どうしたんだ、一体?」
 不審なナッシュの態度を、クリスが問いただすが、
 「いやぁ・・・。気を利かせてくれたんだと思うよ?」
 ナッシュの、意味深な笑みを含んだ声に、クリスは不満げに眉を寄せた。
 「なんで?」
 「想像をたくましくしたんでしょう、きっと。
 そんな事より、調べるんだろう?」
 クリスが、これ以上質問を重ねる事を阻むように、ナッシュはえれべーたの扉を指し示した。
 「もちろんだ!だが・・・」
 クリスは、扉の前で思案する。
 簡単に調べると言っても、何をどう調べればいいのだろう。
 困り果ててナッシュを見遣れば、彼は松明に照らされた頬に笑みを浮かべた。
 「もう、えれべーたは上がってしまったかな?」
 言うや、彼は扉に耳を寄せ、幾度か叩いて、その向こうが空洞であることを慎重に確認する。
 「よし、大丈夫。クリス、扉を開けるぞ」
 「え?」
 「調べるんだろう?」
 再度言われて、クリスは頷いた。
 二人並んで扉に手をかけ、ぴたりと閉じた扉を無理矢理こじ開ける。
 「・・・開くんだ!」
 シズの操るボタンによってしか、扉は開かないものだと思い込んでいたクリスは、感嘆の声を上げた。
 「うわー!箱がないえれべーたって、初めて見たな!」
 クリスが、興奮気味な声を上げつつ、興味津々と開かれた扉の向こうの空洞を覗き込む。
 「えれべーた自体、こちらではあまり普及していないしね」
 地上近くに上がったのだろう箱に繋がる、太いロープの一つに触れながら、ナッシュも下を覗き込んだ。
 各階の扉から入り込んだ空気が、細い管状になった空洞の中で圧縮され、強い風となって二人の髪を弄ぶ。
 「下りられるだろうか?」
 「ちゃんと、下を確かめてからでないと危険だよ」
 早くもロープに手を掛けようとするクリスを制して、ナッシュが闇の奥へ目を凝らした。
 調査の対象が対象だけに、いきなり閃光弾を落として中を照らし出す、という暴挙は、さすがの工作員も憚られたのだ。
 「何か見えるか?」
 もどかしげに、クリスがナッシュのマフラーを引く。
 「そうだな、もうちょっと目が慣れないと・・・」
 言いながら、やや身を乗り出したナッシュに釣られるように、クリスも身を乗り出した―――― ナッシュのマフラーを掴んだまま。
 「ちょっ・・・クリス?!」
 「へ?」
 慌てたナッシュの声に、身体ごと振り向いたクリスは、闇の中を吹き荒ぶ強風にあおられたナッシュのマフラーに視界をふさがれ、とっさにそれを払いのけようとして、バランスを崩した。
 「クリス!!」
 ナッシュは、自身のマフラーを掴んだまま、穴の中へ落ちようとするクリスの腕を掴んだ。
 が、完全武装した彼女は存外重く、ナッシュは支えきれずに、共に闇の中へ引きずり込まれる形となった。


 「・・・いったーぃ!!」
 派手な音を立てて、穴の底へ落下したクリスは、頭を抱えて上体を起こした。
 幸い、穴がそれほど深くはなかった上に、なにか柔らかいものの上に落ちたため、大した怪我はしていないようだ。
 「ナッシュ?ナッシュ、無事かー?」
 闇の中へ、もろともに落ちた男の名を呼んだが、返事はない。
 「ナッシュ?!」
 やや焦燥を含んだ声で更に呼びかけ、闇を探るように伸ばした手が、いきなり下から掴まれた。
 「・・・・・・お約束めっ!」
 誰何するより早く、自身の腕を掴む手を捻り上げようとしたクリスだが、苦しげな声に反撃を止める。
 「ナッシュ、おまえ、何で私の下敷きになっているんだ?
 私より後に落ちたくせに、どんくさい奴だな」
 ほっとしながらも、口をついてでる言葉はつれない。
 「・・・違うだろう。言うべきは、かばってくれてありがとう、だろう!」
 「こんな状況下で言うのもなんだが、鎧を着た私の下敷きになって、よく無事だったな。下手をすれば死ぬところだったぞ」
 「全く死にそうだよ・・・」
 ひどく不機嫌なナッシュの声に、クリスの鼓動が跳ねた。
 いつもは、どんな苦言も苦情も、不真面目な表情に隠し、冗談に紛らわせる彼だが、目が闇に慣れない今、その声音は直接クリスの胸に刺さった。
 「どこか・・・怪我をしたのか?」
 四方の壁に弾かれ、こだまする、自分の不安げな声に包まれて、クリスの焦燥が募る。
 彼女は、ナッシュの上から下りると、手を覆う手甲を素早く外し、そろそろと地に横たわる彼へ手を伸ばした。
 「すまない・・・」
 柔らかな髪の感触を探り当てた手を、そっと頬の線に沿って滑らせると、ぴくり、と、震えが伝わる。
 「・・・クリスっ!」
 くすぐったい、と、続ける前に、ナッシュの頭が持ち上げられた。
 「頭を打ったのか?!」
 何を勘違いしたのか、クリスが悲鳴じみた声を上げ、その膝の上にナッシュの頭を乗せる。
 「どこだ?!」
 剣を使う者だけに、硬くはあるが、形のよい手が、慎重にナッシュの額を、頬を、顎を滑っていった。
 愛撫のような優しさに、つい、ナッシュは笑みを浮かべる。
 ――――・・・こう言うのも、なかなか色っぽいもんだな。
 心中に呟きながら、ナッシュは、目隠しでもされたような闇の中、光の軌跡のように眼前を巡る白い手を取った。
 「ナッシュ?」
 早くも闇に慣れた彼の目に、クリスの、気遣わしげに眉を寄せる表情が写る。
 「傷は・・・」
 「どこだ?!」
 未だ闇に慣れない目を必死に凝らしながら、クリスの顔が近づいてきた。
 その距離が、吐息が触れるほどに縮まった隙を狙って、ナッシュはクリスを引き寄せる。
 「わっ!」
 思わぬ闇討ちに、抵抗する間もなく、クリスはナッシュに組み敷かれた。
 「傷はないけど、人工呼吸はしてもらおうかなぁ?」
 ナッシュの影か、更に濃さを増した闇の中から、笑みを含んだ声が降り注ぎ、深く口付けられる。
 「ふ・・・んん―――――っ!!」
 自分を捕らえる腕に爪を立てて、クリスは抵抗を試みるが、ナッシュは罠にかかった獲物を逃してやるほど、慈悲深い男でもない。
 闇の中へ逃げようとする身体を更に引き寄せ、震える唇を、噛み締めた歯列を舌でなぞり、荒い呼吸が恍惚の吐息に代わるまで、逃げ惑う彼女を執拗に追い続けた。
 「お前な・・・・・・」
 ようやく解放されたクリスが、憮然と呟く。
 髪の乱れを直す気力もないのか、地面に座り込んだまま、ぐったりと俯いている。
 「人工呼吸というものは普通、呼吸が止まった人間に対して行うんだぞ!」
 突っ込むべきはそこではないはずだが、冗談ではないクリスの口調に、ナッシュは吹きだした。
 「身体を張ってかばってあげたのに、きちんとお礼も言えない子は、お仕置きだよ」
 「う・・・」
 ハルモニアの上流家庭ほどではないが、ゼクセンの、躾に厳しい騎士の家で育ったクリスは、ナッシュの言葉に絶句した後、尤もだと頷かずにはいられない。
 「・・・その通りだ。すまない」
 「ありがとう、は?」
 「うん・・・。ありがとう」
 ぺこりと、クリスは素直に頭を下げたが、
 「・・・・・・やっぱりなんか、理不尽な気がする」
 憮然と呟いて、ナッシュを睨みつけた。
 確かに、礼を言わなかったのは悪かったとは思うが、それが襲われる理由にはなっていないだろう。
 そう、言おうとしたクリスの言葉を阻むように、ナッシュはマッチを擦って、明かりを灯した。
 「じゃあ、せっかくだから調査するか!」
 眼前にかざされた灯りは、とても小さなものであったが、闇に慣れ始めた目には痛いほどにまぶしい。
 「・・・うん」
 話をすりかえられ、うやむやにされたことは悔しくはあったが、クリスは本来の目的と、好奇心を優先させる事にした。
 「まずは、退路を確保だな」
 言いつつ、マッチの炎を小さなランプに移したナッシュが、上方を照らす。
 「お前、いつもそんなものを常備しているのか?」
 灯りよりもむしろ、使い込まれたランプを見つめるクリスに、ナッシュは笑みを漏らした。
 「クリス、俺の仕事は?」
 「ハルモニアの工作員」
 「その通り。灯りは必須アイテムです」
 笑いながら、ナッシュは灯りを巡らせて、開け放たれたままのえれべーたの扉を照らし出す。
 「結構高いな。下手をすれば、本当に死んでいたかもしれないぞ」
 「・・・そこまで間抜けじゃあないんだけどね、俺」
 えれべーたの扉は、二人の身長の倍する場所にあったが、彼らには十分制覇可能な高さだ。
 不安が解消され、気分が軽くなれば、当然、次に欲するのは冒険である。
 「探検だ!」
 クリスの嬉しげな声が、四方の壁に弾かれてこだました。


 「しかし、探検といってもね、姫」
 ランプを持った手を巡らせれば、一目で見渡せる、狭い空間だ。
 「多分、ここには何もないよ」
 「えぇー!」
 あからさまに不満げな声が、再び響き渡った。
 「そんなに不満げに言われたってさ」
 苦笑して、ナッシュは空間の中心にある、何本もの太いロープを照らし出す。
 「こんな狭い場所に、ハレック並みのマッチョ軍団が何人もいれば、わからないはずないでしょ」
 ビュッデヒュッケ城のえれべーたは、武装したゼクセン騎士六人とその従者、そして、えれべーたがーるが乗っても、まだスペースには余裕があり、その箱を昇降させるここは、更に広くはあったが、一目で見渡せない距離ではない。
 「隠し部屋でもない限り、そんな奴らが隠れるのは無理だね」
 「隠し部屋か・・・」
 呟きながら、時折モーター音を上げて繰られるロープの、動力部分を見下ろしたクリスは、滑車の設置された床に膝をついた瞬間、声を上げた。
 「これ、扉じゃないか?!」
 「え?」
 クリスが指し示す場所を照らし出せば、確かに、滑車を設置した床に、取っ手らしき窪みがある。
 「動力の大元は、更に下にあるってわけか」
 と、言うことは、と、低く呟くナッシュに、クリスが好奇心に満ちた目を向けた。
 「犯人は、この中にいるんだな!」
 少年探偵のような、興奮を隠せないクリスの声音に、ナッシュも片目をつぶって笑う。
 「ジッチャンの、名にかけて!」
 楽しげに笑いながら、侵入者達は取っ手に手を掛け、重いそれを難なく引き上げた。
 隠し扉の奥は、意外にも完全な闇ではなく、ほんのりと明るい。
 闇を四角く切り取る穴の底では、どうやら、ナッシュがその手に持つような、小さな明かりが灯されているようだ。
 「下りられるかな?」
 クリスの問いを受けるまでもなく、ナッシュがランプを下ろして、狭い縦穴の四方を照らす。
 「はしご発見!」
 「う・・・はしごか・・・・・・・・・」
 ナッシュの声に、クリスが無念そうに顔を歪めた。
 鎧を纏ったまま、はしごを下りるのはとても危険なのだ。
 が、
 「そんなの、脱げばいいじゃないか」
 あっさりと言われて、クリスは眉をひそめた。
 「簡単に言うな!ゼクセン騎士団の団長ともあろう者が、そう無闇やたらと鎧を脱ぐわけにはいかないんだ!」
 「そうかもしれないけどさ、どちらにしろ、あそこまで昇るには、鎧は邪魔だぜ?」
 そう言って、ナッシュは頭上の扉を示す。
 「後で脱ぐも今脱ぐも、同じだろうに」
 「・・・あ、そうか」
 クリスは、彼と同じく頭上を見上げ、頷いた。
 「そうそう。どうせ脱ぐなら、今脱いで、下を探検した方が楽しくないか?」
 「それもそうだな」
 ナッシュの提案に賛同して、クリスは鎧の留金を外していく。
 「では、背中のファスナーはワタクシにお任せください、姫♪」
 「鎧にファスナーなんてあるか!」
 「気分でしょ、気分♪」
 そんな、普段では決して相手にしないだろう軽口を受け返しながら、クリスがその身に纏う鎧を次々と取り外していると、
 「静かに!」
 ナッシュの鋭い耳が、異音を捉え、クリスを制した。
 「誰かが・・・上がってくる・・・!」
 一歩一歩、はしごを踏みしめる音・・・。
 ゆっくりと、だが、確実に、それは這い上がってきた。
 息を潜め、黙然と跳ね上げられたままの扉の下を見守る二人の眼前に、まず、骨と皮ばかりの手が這い出る。
 「ひっ・・・!」
 クリスが、思わず息を呑んだ。
 べたり、と、床に這わされた手は、ナッシュの持つ淡い光の中で、土の中から蘇った死人のそれのように黒ずんで見える。
 続いて、関節の浮き出る肘が、更にはもう一本の腕が現れ、自身の体重を支え兼ねてか、床の上でぶるぶると震えた。
 「だ・・・誰だ!!」
 「・・・・・・それは・・・・・・こちらの・・・・・・・・・台詞・・・・・・・・・・・・」
 誰何したものの、クリスは、地の底から響いてくるような恨みがましい返答を受けて、思わずあとずさる。
 「あなたたち・・・・・・ここで・・・・・・・・・何をしているのです・・・・・・・・・・・・・・・?」
 暗い怒りをふんだんに含んだ低い声音に、二人は声を失った。
 「ここは・・・・・・連れ込み宿では・・・・・・・・・ありません・・・・・・・・・・・・・・・」
 穴の中から、無気味に光る目だけを覗かせる、骸骨に酷似した顔に、クリスはたまらず悲鳴を上げる。
 「貞子―――っ!!」
 「・・・・・・・・・・・・アイクです・・・・・・」
 憮然と訂正した彼の顔は、下からの淡い光に照らされ、落ち窪んだ目と、こけた頬に落ちる影はいつもより濃く見えた。
 「あんた、どうやってこんな所に・・・・・・!」
 「・・・・・・・・・企業秘密です」
 ナッシュの問いを、けんもほろろに跳ねつけたアイクは、そんなことより、と、二人に恨みがましい視線を送る。
 「・・・・・・私の読書時間を・・・・・・邪魔して頂きたくはないのですが・・・・・・・・・・・・」
 「何も、こんな所にこもらなくったって・・・・・・」
 「・・・・・・上は・・・・・・うるさいですから・・・・・・・・・・・・」
 ビュッデヒュッケ城が、炎の英雄と運び手たちの拠点となって以来、図書室は彼の安住の地ではなくなってしまったと言う。
 「そんなことより、この下には何があるんだ?!」
 「あ、そうだそうだ!やっぱり発電は、マッチョ軍団の労働力か?!」
 精神の切り替えの早い二人が、穴から出る不気味な顔に詰め寄った。
 「それは・・・・・・・・・」
 憮然と、口を開こうとしたアイクだったが、その表情が、土中に眠る死人のように固まる。
 「おい、アイク・・・・・・」
 恐怖に固まったとしか思えないその表情に、差し伸べようとしたナッシュの手が、寸前で止まった。
 「―――― 秘密ですわ、ひ・み・つ」
 声と共に、小さな手が、並んだナッシュとクリスの肩に置かれる。
 「シ・・・シズさん・・・・・・・・・」
 恐々と振り向けば、シズの顔が近くにあった。
 その表情は、いつも通りの柔らかいものではあったが、目は笑っていない。
 「お二人共、ここで何をしていらっしゃるのですか?」
 穏やかな口調ではあるが、まるで怒声を浴びたかのように、二人はびくりと身を震わせた。
 「え・・・えれべーたの動力に、興味があって・・・・・・」
 「あぁ、壁新聞をご覧になったのですね?」
 クリスの答えに、シズの目が笑みの容に歪む。
 「いけませんわ、クリスさん。騎士団長ともあろうお方が、こそこそと、スパイのような真似をなさるなんて」
 「あ、じゃあ、俺には教えてくれるかい?」
 「企業秘密をスパイされるほど、わたくし、セキュリティに無関心ではありませんのよ?」
 ナッシュの言葉には冷ややかに微笑んで、シズは頭上の扉を示した。
 「どうぞ、お外へ。出口をお教えしますわ」
 逆らい難い迫力に、二人は頷くことしかできなかった。
 「上へ参ります」
 闇の中に白く浮かび上がるシズの顔が、艶やかに微笑んだ。


 その後、彼らの他にも、幾人かがえれべーたの秘密を探るべく、侵入を試みたが、未だ成功した者はいない。
 ために、えれべーたの怪談は、更に尾ひれを増やし、ビュッデヒュッケ城の住人達を怯えさせていた。
 だが逆に、ミステリアスな魅力を纏ったシズの人気は、上昇しているらしい。
 ―――― 女は、秘密を着飾って美しくなる。








〜 Fin.









連れ込み宿って・・・。(笑死)
すみません、手が滑りました(笑)>(笑)じゃないよ;
最近、またコナンと金田一少年がマイブームです。










お祭会場へ戻ります♪
 
Pcyche 〜 プシケ
まぁ、お茶でもいかがすか?