花桃の樹









私が崑崙へ降りる日、 母は言った。

「さらばじゃ、かわいい子・・・。もう二度と会うことはあるまい」

それは私への、最後の言葉だった。

それは、二度と会うまい、という母の意志なのか、再び母と会う前に私が死ぬと言う予言だったのか・・・?

「花桃、というのがあるのを知っているかえ?」
「…はなもも?」

私は母の言葉をはかり損ねたまま、花の名を反芻(はんすう)した。

「桃じゃ。とても美しい花を咲かせる。
じゃが、この樹は実を付けぬ。美しく咲いては散るのみ。…竜吉」

母は、私の名を呼んだ。

「まるでそなたの様だとは、思わぬかえ?」


―――鳳凰山。
崑崙山脈の片隅にある、私の山。
初めてここに降りた時、悪くないと思った。
慎ましい洞府があり、瑞鳥(ずいちょう)が群れ飛ぶ。
水も風も清らかで、この虚弱な体にはいい環境だ。

「…樹は、何を植えようか」
私はぼんやりと、何もない庭を眺めつつ、共に鳳凰山に降りてきた凰(おう)にささやいた。

刺のある樹はだめだ。
せっかくの鳥達が寄り付かなくなってしまう。
大きな鳥。
私の凰や青鸞(せいらん)達が翼を休めるのにふさわしい樹が欲しい。
「花桃…」
母が、私のようだと言った樹。
「それにしよう」
思わず笑みが零れた。

「疾!」
鳳凰山のすべての水よ、我が意思に従え。
風を起こし、雲となり、土を豊かに。
「我が洞府に、花を咲かせよ」

風が、我が髪をなびかせる。
掌から、薄紅の花びらが舞いあがる。
花びらは、地に触れると香気と共に消え、たちまち樹となって花を咲かせる。

「咲いては散るだけの…」
呟きは風にさらわれる。
「ならば、散っても次の花を咲かせれば良い」
たまには、母に逆らうのも良い。
桃園を吹きすぎる風は、とても快いものだった。


「―――なるほどのう。どおりで前から、いやに実を付けぬ桃が多い洞府だと思ってたのだ」
私が語り終えると、菓子をほおばりつつ、元始天尊様の直弟子、呂望は大きくうなずいた。
「・・・望ちゃん。食べ物に関しては鋭いね」
そのかたわらで呆れたように微笑むのは、同じく直弟子の普賢。
この二人とは、私が鳳凰山に降りて間もない頃に出会った。
私の、大切な友たち。

「きっとさ、公主の母上はすごく寂しかったんだよ。
だから、公主が崑崙に降りるのを引き止めたくて、そんなこと言ったんじゃないかな?」
「そうじゃな」
普賢の言葉に、私は思わず微笑んだ。
この子はいつも、感情を良い方に受け取る癖を持っている。
「今では私もそう思っておるよ」
「では、そろそろ実のなる桃の樹を植えてみんか?」
「・・・・・望ちゃん」
めったに見られぬ普賢の呆れ顔。
私は、声を上げて笑った。


「さて、今日は何を作るか・・・」
ある日のこと、ぼんやりと庭を眺めつつ、今日も修行の合間にやってくるであろう友たちへ供する菓子のことを菓子を考えていると、青鸞(せいらん)が一声、来客を知らせた。

参ったのは玉虚宮からの使者。
白い鶴の姿をした使者は、「ご都合がよろしければ」と、私に玉虚宮への招待状を渡した。
もちろん、元始天尊様直々のご招待に、否やのあろうはずもない。
だが、崑崙の教主が私になんの用だろうか。

「・・・まさか、二人のことだろうか?」
「二人…とは?」
白鶴は首をかしげた。
「呂望と普賢のことじゃ」
言うと、白鶴は大袈裟に肩をすくめた。
「・・・まったくあの二人は、修行をサボっては鳳凰山に出入りしてますからねぇ」
「うむ。それでとうとう私へ苦情が来たのかと思うたのじゃ」
「まさか、それはありませんよ!」
白鶴はそういってにっこりと笑う。この笑顔が、かなり可愛らしい。
「そうか。ならば安心して玉虚宮へ行ける」
私もつられて、思わず笑みを浮かべる。と、なぜか彼は紅くなった。

「このたびはお呼び立てしてすまなんだのう」
玉虚宮の謁見の間にて、崑崙山の教主は気さくに声をかけてこられた。
「公主は崑崙に参られて随分経つが、鳳凰山はお気に召しましたかな?」
「はい、とても」
笑うと、元始天尊さまは満足げにうなずかれた。
「公主、母上のご意向とはいえ、あの広い鳳凰山に、一人でお住まいになるのは、寂しくはないだろうか?」
私は軽く会釈しつつ、微笑した。
「お気にかけていただきまして」
「いや、今まで一人の侍女も入れず、弟子も取らぬでは、不自由ではなかったかのう?」
特に不自由はしていなかったが…。
崑崙の教主の親切に、否やは言えぬ。

「私は虚弱ゆえ、人界に弟子を求めることはかないませぬ」
私は微笑し、軽く会釈して応じた。
こう言えば、角が立つこともないだろう。
だが、元始天尊様は「それじゃ!」と一声、
「実は先日、人間界より何人かともなってきたのだが、中に二人、女児がおってのう」
いうと、元始天尊さまは白鶴に、二人の女児を連れてこさせた。

幼いが、なかなか機敏そうな目をした子は赤雲。
彼女より更に幼いが、可愛らしい顔をした子は碧雲と名乗った。
明るく、元気の良い声だった。

「どうかのう?この二人を、弟子として引き取ってもらえぬか?」
「…私が、弟子を、ですか?」
思わぬことに、私は言葉を詰まらせた。
「お嫌か?」
「いえ、そうではなく…」
意外だ、と言わんばかりの元始天尊さまの口調に、私は困り果てた。

私が、人に教えることができるだろうか。
私は、生まれた時から仙人だった。
他の大仙人達のように、辛い修行をしてこの力を得たわけではない。

「私には、弟子をとるのは無理でございます…」

あの人と同じく。

「私は、人に教えることができないのです」

あの人…。清源妙道真君、楊ぜん。
この時私は、崑崙に来る前から噂に聞いていた彼のことを、ふと思い出した。
既に仙号を持っていながら、洞府も開かなければ弟子も取らない。
きっと、あの人も同じなのだ。

「天才」には地道に修行を続けるものの苦しみが分からない。
ましてや私は、宝貝を操るすべも、他のさまざまな術さえも、誰に教わったわけでもなく、まるで手で物をつかむようにたやすくやってきた。
そんな私が、まだ幼い少女達の師として、なにを教えることができようか。

「せっかくですが、お断りさせていただきます」
「そうか、残念じゃのう・・・」
元始天尊様の声を聞きつつ、私は深々と拱手した。
そして、ふと見やった少女達の顔に、私はかなりうろたえた。

「な・・・なにも泣くことはなかろう、そなたたち・・・」
「・・・だって・・・」
碧雲が、涙に濡れた顔を上げた。
「こうしゅさま、あたしたちのこときにいってくれなかったんでしょ・・・?」
泣き声の碧雲に、
「へきうん、なかないの!こうしゅさま、こまってるじゃない!!!」
そう言いつつも、つられて泣きそうな声の赤雲・・・。
「私は別に、そなた達が嫌いだなどと、言うてはおらぬ。
ただ私は、そなた達に師らしいことはできぬゆえ・・・」
「おお!!では気に入ってはくれたのじゃのう!
二人も、公主のそばにいたいと思うてるらしいし、どうじゃろうのう?この二人を、鳳凰山においてはくれぬか?」

・・・元始天尊様?

「おねがいします、こうしゅさま!!」
「あたしたち、ぜったいごめいわくはおかけしません!!」

・・・碧雲・・・赤雲・・・・・・。

「公主様、僕からもお願いです。この子達を弟子にしてあげて下さい」

白つ・・・・・・。

・・・・・・・・・・どうやら私は、元始天尊様の策にはまったらしい。


教主の親切に否やを言うこともできず、結局、私は二人の女児を鳳凰山へ連れ帰った。
「すごい――――!!!」
「きれえなおはな―――!!!」
赤雲と碧雲は、我が洞府を気に入ってくれたようだ・・・。
しかし、困ったこと。
私は一体、何をすればいいのだろうか・・・?

「とりあえず、好きな部屋を選んで使うといい。その後は・・・」
・・・困った。何をしてやるべきなのか。
眉根を寄せたまま、ふと二人を見やると、二人は私以上に困った顔をしていた。
「・・・?どうかしたか?」
「・・・こうしゅさま、あたしたち、ごめいわくでしたか?」
赤雲が、うつむいたままポツリともらした。
「げんしさまに、でしはいらないって、いってたのに、ついてきちゃって・・・」
「いや、迷惑では・・・」
ただ、戸惑っているのだ。

師弟関係、というものを、私は知らない。
呂望や普賢から、元始天尊様の事や、他の、弟子を持つ仙人のことは聞いているが、いざ自分が弟子を持つとなると、何をしてやれば良いのやら・・・。

「・・・正直に言おう。私は生まれた時から仙女であった。
ゆえに、どうすればそなた達を立派な仙人にしてやれるのかがわからぬのじゃ。
そなた達には気の毒なことじゃが・・・」

思わずため息が漏れる。
元始天尊様も、こんな私にいったい、どうせよとおっしゃるのか・・・。

「こうしゅさま」
袖を引かれる。
碧雲が、私を見上げていた。
「げんしさまがね、いってたの。こうしゅさまのおそばにいなさいって」
「私のそばに?」
聞き返すと、赤雲もうなずいた。
「こうしゅさまは、うまれたときからせんにんだから、おそばにいてこうしゅさまがするようにしていれば、しぜんとせんにんのやりかたが、みにつくからって」
・・・そういうものなのだろうか。
私が首をかしげていると、さらに碧雲が言った。
「おしえてもらうんじゃなくって、こうしゅさまのするようにしてなさいって」

・・・私のするように?
元始天尊様は、私に「使える」仙人を育てよ、との思し召しではなかったのだろうか?

今、仙界で、密かに練られているという『封神計画』。
天数の名のもとに、仙人達があい争うことになるという。
私も、私の大切な友たちも、この計画のためにこの崑崙へと集められた。
他の洞府の仙人、道士達も然り。
だが、私はこの子達まで戦わせたくはない。

「公主のするように」
―――ならば。

「そなた達には、私の手伝いでもしてもらおうか。
とっておきの、楽しいことじゃぞ?」
そういうと、二人は目を輝かせた。
「まずは、これから来るお客人をもてなす菓子の作り方を教えようか」
厨房へと向かう私の後を、二人はうれしげな声を上げてついてくる。
なんだか、雛を得たばかりの親鳥にでもなった気分だった。


「聞いたぞ、公主!まんまと元始天尊様に謀られたらしいのう!」
にやにや笑いつつ、先日「太公望」の号を賜ったばかりの呂望がやってきた。
「望ちゃん、謀ったなんて、元始天尊様はそんなつもりじゃ・・・」
同じく、崑崙十二仙に名を連ねたばかりの普賢真人・・・。
「・・・よく参られた。太公望殿、普賢真人殿。
我が弟子をご紹介しようか?」
新たな肩書きに皮肉を込めて呼んでやると、二人がそろって首をすくめた。
「た・・たい・・・。慣れぬ名前というのは気恥ずかしいのう・・・」
「・・・公主・・・僕は今までどおり、『普賢』って呼んで・・・」

ふふ・・・。
ここに初めて来た時は、崑崙の迷子であったのに、随分と立派になったこと。

「赤雲、碧雲。太公望殿と普賢真人殿にご挨拶を」
呼ぶと、私の弟子達は、ぱたぱたとあわただしくやってきた。

「せきうんです!!よろしくおねがいします!!!」
「へきうんです!!」
元気のいいこと。
思わず目を細めてしまう。

「かわいい子達であろう?」
私が言うと、呂ぼ・・いや、太公望は意外そうに、普賢は嬉しそうに笑った。
「公主、顔がとろけそうだのう」
「とっても嬉しそうな顔してるよ、公主」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・顔がとろける・・・・・・・?・・・・・・嬉しそう?私が?

「わしらが来ると、いつも待ちかねたように迎えてくれたのにのう・・・」
大袈裟な身振りで、呂・・・太公望が肩をすくめた。
「よかったね、公主。いい子達で」
普賢はそういうと、走って来た子達に『おみやげだよ』と、玉虚宮の桃を渡してくれた。
「ああ、まさか公主までもが、崑崙の救いがたい悪癖に染まる時がこようとはのう・・・」
「悪癖?なんのことじゃ?」
「―――親バカ」
一言、太公望が呟いた。
「こやつものう」
言って、かたわらの普賢を指し示す。
「十二仙になった途端、子供を一人押し付けられおってのう。
これがまた、元気のいい子供なのだが、こやつときたら、始終にこにこにこにこ・・・・・・。
今日は木タクがなにしたの、昨日は木タクがどうしたの・・・。
もうそれしかいえんのか、おぬしは―――――!!!!!」
「おこんないでよ、望ちゃん。だって、昨日、木ったらねー。
あ、公主も聞いて!ぼくの弟子、木タクって言うんだけど、この子ってねー・・・!」

・・・親バカじゃな。たしかに。

「じゃが、私は違うぞ。
私はそこまで弟子達のことばかり考えてはおらぬ」

そう、私は今まで、この二人を除いて、親しくした他人というのがほとんどいない。
物事にとらわれず、つねに悠然と。
ゆえに、「仙人」なのだ。
・・・なのに。

「そう思っておるのは自分だけかものう」
太公望はふぅっと息をつきつつ呟いた。
「そんなことは・・・」
ない、と言おうとした時、私の背後でなにやら派手な音がした。

「へきうん!!!」
赤雲が高い声を上げる。
ふりかえると、盆の上の茶器が粉々になって床に散っていた。
「ご・・・ごめんなさい――――!!!!こうしゅさま、おちゃのどうぐ、わっちゃった・・・」
普賢に支えられて、なんとか転ぶのは免れたらしいが、なきながら茶器の破片を拾うとする碧雲を慌てて止めた。
「やめるのじゃ!!手を切るぞ!」
だが、既に遅く、碧雲どころか、あわてて手伝いに入った赤雲までもが、手を押さえて顔をしかめていた。

「やめろと言うたであろう?!さぁ、手をだすのじゃ・・・!」
普賢に、薬と布を取りに行ってもらう間に、手巾で二人の手の血をぬぐってやる。
「こうしゅさま・・・おきものよごれちゃう・・・」
私に手を取られたまま、碧雲が言った。
「かまわぬ」
零れた茶が、二人の前にひざまずいた私の着物を濡らしていたが、今はそれどころではなかった。
「破片は、刺さっておらぬだろうな?」
傷は、二人とも深くはなかった。

「公主、薬と布持ってきたよ!」
私は普賢に礼を言って、それらを受け取った。
太公望は、いつのまにか掃除道具を持ち出して、壊れた茶器を片づけ始めている。

「まったく・・・。大した事がなかったから良かったものの、気を付けるのじゃぞ?」
手早く薬を塗り、布を巻いてやっていると、
「・・・ごめんなさい」
二人の、消え入りそうな声・・・。
「怒っているのではない」
「・・・・・・ごめんなさい。おちゃどうぐ、わっちゃって・・・」
碧雲が、うなだれて言った。
「こうしゅさまのおきもの、よごれちゃったし・・・」
赤雲も、同じくうなだれている。
「そんなこと、気にしておらぬ」
「でも・・・」
さらに言い募ろうとする二人に、なんと言ってやれば良いか分からない・・・。

・・・子供には、呂望と普賢で慣れていたはずなのにのう。

そう思って、ふと、いいことを思いついた。

「赤雲、碧雲」
「はい!こうしゅさま!!」
しかられると思ったのか、二人の声が裏返る。
そんな二人に思わず微笑みながら、私はさっき二人の傷をぬぐってやった手巾を取り出した。
「良く見ているのじゃ」
私は、手巾を両手で包み込んだ。
「疾!」
私を包む、水のヴェールがあたりの空気を震わせた。
「小さく、愛らしきものよ。我が手の中に参れ」
私はささやき、ゆっくりと手を開いた。
「・・・・・・・・・・・・わぁっ!!」
二人が目を丸くする。
さっきまで、確かに私の手の中にあった手巾は消え、かわりに、小さく愛らしい青鸞(せいらん)の雛がいたからだ。

「こうしゅさま!これ、どうしたの?!」
碧雲が、私の手の上でぴいぴいと声を上げる雛を、まじまじと見つめる。
「そなたたちの傷から流れた血で、召喚した瑞鳥の雛じゃ」
「あたしたちの・・・?」
赤雲が、不思議そうに覗きこむ。
「・・・かわいい!
こうしゅさま、このこ、かわいいね!!」

今泣いたからすが、もう笑った。
私は笑いをこらえつつ、せいぜい師匠らしく、威儀を正して言った。

「そなたたちは私の大事な茶器を壊してしまったのじゃ。罰として、この雛の世話を申し付ける。
大事に育てるのじゃぞ?」
そうして二人の、重ねた小さな手のひらの上に、そっと雛をのせてやった。
「こうしゅさま、このこ、なにたべるの?!」
「あったかくしなきゃだめ?なにか、おうちになるものもらってもいいですか?」
つぎつぎと聞いてくる二人に、ふと、元始天尊様が言ったという言葉を思い出した。

「こうしゅさまのそばにいなさい」

私のやることを不思議と思えば、この子達は私に聞いてくるのだろう、今のように。
ならば、私はそれに答えてゆけば良いのだ。

「・・・難しく考えることもなかったか」
呟いて、私は雛の巣になるようなものがなかったか、あたりを見回して・・・。
「・・・すまない。いた事を忘れておった」
初めて太公望と普賢の存在を思い出したのだった。

「勝手にやっておるから、気にせんでよいわ」
「公主ー、赤雲ちゃんと碧雲ちゃんも、お茶いれなおしたよー」
ふわふわと微笑んで、普賢が新たな茶器に、こぽこぽと茶を注ぐ。
床は、すっかりきれいになっていた。

「では、私は着替えてこよう」
私は苦笑して立ち上がった。そして、
「・・・そうじゃ。部屋に、何か巣になるものがあったかも知れぬな。
赤雲、碧雲、ついておいで」
ふと思い付いて、二人に声をかけた。
二人は、嬉しそうに顔を上げ、ぱたぱたとついてくる。
雛は、赤雲が大事そうに抱えていた。

「なんだか、親鳥と雛みたいだね」
背後で、笑いを含んだ普賢の声を聞いた。
「・・・やっぱり親バカではないか」
太公望が、呆れたように言うのも。

・・・・・・崑崙の悪癖。
いつのまにか、私も崑崙の水に慣れてしまったという事か。

「・・・それもよいか」
「こうしゅさま???」
「なんでもない」
ほほえむと、笑顔が返ってきた。


―――母上。
あなたは、憤っておられたのですね。
私を護れなかったご自分に。

―――私は、この子達を護ります。


「今度は実のなる桃の樹を植えようか」
太公望に言われたからではないのだが。
笑いを含んだ呟きに、碧雲が言った。
「こうしゅさま、このこ、ももたべる?そのきにおうちをつくってあげたら、はやくおっきくなる?」
「そうじゃな・・・早く大きくなるやもしれぬ。赤雲、碧雲、手伝うか?」
「がんばります!!!」
二人は声をそろえて言った。

ほんとに、我が弟子達は元気ないい子達。
どこの洞府にも負けはせぬ。





−了−













最初、思ったのは「親バカって、もしかして公主も?」でした(笑)
鳳凰山の場合、弟子がお師匠さまのお世話係ってカンジで、公主はこの二人のこと、どう思ってるのかなーと、考えたんですね(^^)
ワタシ的にメインテーマは、「天才ならではの悩み」でした(笑)
これ書きながら、ずっと「名選手は必ずしも名監督ならず」と言う言葉が頭にありました(笑)










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