狂 想 曲








「こんにちは公主。玉虚宮からお届けものだよ」
黄巾力士に乗った大仙人を迎えて、美しき鳳凰山の主はにっこりと微笑んだ。
「よく参られた、普賢真人殿。十二仙自らのお届け物とは、どんな重要な宝貝じゃ?」

竜吉公主が聞くと、普賢はふわりと黄巾力士から舞い下り、はい、と彼女に小さな包みを渡した。
きれいにラッピングされた箱。
リボンを結んだのは、きっと、目の前の仙人。

「開けても良いか?」
公主が聞くと、普賢は笑ってうなずいた。
「僕と望ちゃんと、おそろいの型を選んできたんだ!気に入ってくれるかな?」
箱の中から出てきたのは、小さく可愛らしい形の、パールピンクの携帯電話。
「僕がグリーンで、望ちゃんがブルーだよ♪」
「ストラップが四不象なのじゃな」
あまりの可愛らしさに、思わず笑みが零れる。

「面白いのはそれだけじゃないんだよ!
着メロがいろいろ設定できてねー、僕は公主からかかってきたら、『花のワルツ』が流れるように設定してるんだ♪」
「『くるみ割人形』か。わるくない。では、私も通常の着信音は『花のワルツ』にしておこう。
そうじゃ。おぬしからかかってきた時は、どんな曲にしようか」
「僕は、通常の着信音は『G線上のアリア』にしてるんだけど・・・ちょっと事情があって・・・」
「おぬしらしい、のんびりとした選曲じゃが、事情とは?」
「うん、玉虚宮でね・・・」
普賢は苦笑しつつ、玉虚宮での大騒ぎを話し出した・・・。


「はいは―――――い!!!
みんなお待たせしたね!私が作った世紀の大発明をお渡しするよ!!ま、ナタクには数百憶段劣るけどね!」
崑崙教主の名のもと。
玉虚宮に集合した十二仙達に、乾元山の太乙真人がはりきった声を上げた。
「それぞれの希望を聞いて、いろんな形を作ってみたけど、『アナタガドコニ イヨウトモ』大丈夫!
乾元山からいくつか衛星を飛ばしてフォローしてるから、声が途切れることはないよん♪」
おお――――っと、場がどよめく。
そして、自分達が注文した通りの型と機能であることを確かめると、あちらこちらで互いにナンバーを登録しあう輪ができた。

そんな中。
「太乙師兄」
普賢が太乙に声をかけた。
「着メロなんにしました?僕は『G線上のアリア』にしたんですけど」
にっこり笑う弟弟子に、太乙は苦笑する。
「それがねー、『紺屋の白袴』ってカンジで、まだ自分のはいじってないんだ」
そういって、太乙は番号登録しただけの携帯電話を取り出した。

「そうだな、お前なら『Automatic』なんてどうだ?」
からかうように言ってきたのは、道徳真君。
「そのままじゃないか。『どきどき止まらないNOとは言えない♪』なんて」
「・・・そうかな?私は別に恋なんかしてないけど?」
太乙が首をかしげる。と、道徳は声を上げて笑った。
「誰が恋の話なんかするか!ナタクに脅されて宝貝作りつづける姿がそのまま・・・」
「九竜神火罩!」
「ちょっ・・・!!冗談じゃないか――――――!!!」

捕獲専用宝貝から、持ち前の運動能力を駆使して逃げまくる道徳に、普賢はほんわりと微笑んで聞いた。
「道徳師兄は、なんにしました?」
「――――っんなの決まってるじゃないか!『ロッキーのテーマ』さ!」
そういって、彼はサワヤカに笑った。
すると、
「なに――――――――??!!!」
物凄い声。
「道徳!『ロッキー』取っちまったのか?!」
額に金の飾りを付けた、慈航道人だった。
「っち!『ロッキー』は俺が使おうと思ってたのによ!
・・・仕方ねぇな、じゃ、俺は『インディー・ジョーンズ』でいくか・・・」

ぶつぶつと言う慈航の横で、霊宝大法師が長い白髪・白鬚(はくぜん)に包まれた顔にほほ笑みを浮かべた。
「・・・テーマ曲か。よいのう。
各人、それぞれにテーマ曲を持つというのはどうじゃの?」
「テーマ曲?」
玉鼎真人が、律義に師兄の言葉を聞き返す。
「そうじゃ。せっかく各人、着メロ機能の付いたケイタイを持っておるのじゃ。
『ロッキー』が流れたら道徳から、『インディ』が流れたら慈航からと、それぞれ登録しておかんか?」
そう言って、霊宝大法師は手に持った杖を機嫌よく揺らした。
「ちなみにわしは、『ゴッド・ファザー愛のテーマ』をもらおう」

「うむ!それはなかなか良い案じゃのう!」
騒がしくなりつつあった場を、教主・元始天尊の声が引き締めた。
「では各人。速やかに登録せよ。
『スターウォーズのテーマ』が流れたらわしからじゃ!」
「・・・・・・スターウォーズ、ですか」
玉鼎真人が、呆れてるとも困惑しているともつかない口調で呟いた。

「じゃぁ!!かわゆいぼくのテーマ曲は『ぽっぽっぽ』でちゅ!みんな、『ぽっぽっぽ』がかかったら、ぼくからでちゅよ」
ふよふよと飛びながら、道行天尊がにこにこと歌い出す。
「ぽっぽっぽ〜♪まぁ〜めがほしいか・絶対やらねぇ・・・」
いきなり歌詞が変わった・・・。
「・・・そんなに世間は甘くない♪」
にやぁと笑った顔には、あどけなさのかけらもなかった。

「・・・では、私は何にするか」
玉鼎真人が考え込む。
「私はあまり、音楽には詳しくないのだ」
「なんだ、俺なんかとっくに入れてしまったぞ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私もだ」
「黄竜はともかく、文殊もか?」
玉鼎真人は少なからず驚いた。
まるで家庭内害虫のような道服をまとった文殊広法天尊。
彼だけは、絶対自分より世事に疎いと思っていたので。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぴったりなのがあったのだ」
文殊がポツリと呟く。
「そうか!俺のはいいぞ!これだ!」
健康そうに焼けた肌を持つ黄竜真人は、得意げに自身のケイタイを鳴らした。

『ちゃらら・ちゃららら〜・ちゃららら〜らら〜ら〜♪』

「・・・・・・・・・・・『兄弟船』?」
「いいだろう?」
にっ!と笑う兄弟弟子に、なんと反応すれば良いのか・・・。
「・・・文殊はなんにしたのだ?」
とりあえず話題を変えてみた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。『携帯哀話』・・・」
ぽつり。
・・・弟子は苦労したろうな。
思わずにはいられない玉鼎真人だった。

「ひょっひょっひょ。ではわしゃあ、『笑点』にでもするかのう」
懼留孫が、のんきに言う。
それを聞いて、太乙が思わず宝貝を戻し、懼留孫のもとに駆け寄った。
「う〜〜〜ん、『笑点』ですか・・・。あの『ぱふ〜』がうまく出せるかなぁ・・・?
懼留孫師兄、ちょっと改造しましょう!」
「頼むぞ、太乙。『笑点』の醍醐味はあの『ぱふ〜』じゃからのう〜」
「・・・ったく・・・いつまで追いかけてんだ・・太乙・・・」
九竜神火罩で追い回され続けて、さすがに息を切らした道徳は、呆れて呟いた。

「なに?!改造できるのか?!」
そこですかさず聞いてきたのは、広成子&赤精子の、ちょっとキレてるコンビ・・・。
「太乙、『ブルース・リー』の、アノ声を入れられるか?!」
「太乙、ぜひ小官の携帯に、ノイズを入れてくれ!!」
「・・・はぁ?!」
太乙は、二人の勢いに思わずひいてしまった。

「赤精子の『アノ声』ってのはともかく、『ノイズ』ってなんだよ!
私が作ったものは完璧だ!ノイズなんか入りようがないよ!?」
しっつれいな!と怒る太乙に、広成子が激しく首を振った。
「ノイズが欲しいのだ!電波障害があれば、戦場の気分が味わえるではないか!!」
握るこぶしに力が入る。
「・・・・・・ところで君のテーマ曲はなんなのさ」
「もちろん!『戦場にかける橋』の『大脱走マーチ』だ!」
大口を開けて笑う広成子の言葉に、玉鼎真人がぽんっと手を打った。
「そうだ。私の曲は『戦場のメリー・クリスマス』にしよう」


「―――ってわけで、公主のケイタイにも、既にみんなの着メロが登録してあるんだー」
のんきな普賢の言葉に、竜吉公主は凍った。
「・・・スターウォーズ?」
「元始天尊様だね!」
にっこりと笑う普賢。
「ロッキー・・・インディー・・・・・・ブルース・・・・・・・・・・」
「みんな好きなんだねぇ〜」
ほやほやと笑う・・・。

公主は想像した。
うららかな日差しのもと。
庭の花をめでながら、気の置けない友人達と優雅なひとときを過ごす自分。
茶のよい香りとさわやかな風と、楽しい会話・・・。
―――――――――――そこへ。

「スターウォーズ?ロッキー?・・・・・・笑点?!」
「あ、電源は切らない様に、だって♪」
ほややん。
公主は呆然とした。

「・・・っちなみに、太公望のテーマはなんじゃ?」
気を取りなおす。
どうせ自分に電話をかけてくるのは、元始天尊と普賢と太公望だけ・・・。
二人がまともなら、『スターウォーズ』は我慢しよう・・・。
そう思って、引きつった笑みを浮かべたのもつかの間。
「望ちゃんはね、『いい湯だな♪』がいいって」
ほややん♪
「・・・・・・・・・・いっ・・・・・・いい湯だな?」
「はははんっ♪って知ってるー?」
にこにこにこにこ・・・。

うららかな日差しと、さわやかな風のもと。
響き渡る・・・・・・。

公主は今度こそ完全に凍った・・・。






Fin.







ある日、くれはは毎週楽しみにしている某人気バラエティ番組を見てました。
その日のOPは、料理対決ではなく、ケイタイの着メロ当て。
「このひとだったら、『Automatic』より『スターウォーズ』だよな・・・」
と思ってたら、見事正解(^^)
「こりゃいいやー♪」ってので、こんな話書いてみましたー(笑)





封神演義書庫