幽  襟
〜 ゆうきん 〜







 月のほのかな影を頼りに
 鏡に映る自身の像を見る。


 ハイネックのニット、くるぶしの上まで覆うロングスカート。
 体に絡みつく黒髪が、痩せた身体を際立たせる。

 鏡の中で、白い手が肩を這った。
 布越しに伝わる骨の感触に、思わず眉を寄せる。



 ――――― また痩せた。



 肩に連なる腕。スカートに隠された脚。
 折れるほどに細く華奢な四肢。



 ――――― 歩けなくなったのは何時だったか。



 ゆっくりと歩を進めるだけで息が上がり、脚は力なくくずおれた。



 ――――― 咳が止まらなくなったのは?



 仙界に於いてさえ、特に清澄な場所でしか呼吸できず・・・。



 ――――― 肌が赤く染まり、全身に熱を持ったのは・・・。



 繭にくるまれるように、水のヴェールで身を覆う。





 このまま

        触れられず

        触れることもできず。




 ただ

        息をして
        痩せ衰えて・・・。


           ―――――――――――― 消えてゆくのか?





 肩に這わせた指に力がこもる。




        零凋として土に還るか。

            ――――――――――― もしくは・・・?





 鏡の中で、赤い唇は笑みを浮かべた。





        ただ枯凋散(かれおち)るには 長すぎる時を生きた。

        守るべきは我が誇り。

        愛する我が同朋のために・・・。







                                                Fin.













封神演義書庫