◆  22  ◆







 飃山を源とする地震が、その規模の割に多くの害を成さなかったのは、直後に降った大雨が、各所に沸きあがった大火を素早く鎮火したためだった。
 地精の王と水精の王、風精の尽力と、なにより火精王の協力により、飃山の麓に広がる世界は、再び焦土と化すことを免れたのである。
 が、人外の恵みはそこまで。
 瓦礫の下に埋もれた人や家畜の救出、この隙を狙って横行する盗賊の取締りなどは、全て人間の手によって成されなければならない。
 大陸における三大国のうち、東蘭はなんの問題もなく治まり、手に入れたばかりの南海諸島も、そつなく収め得た。西桃では、国王が負傷し、間もなく崩御したものの、国内の混乱は収め得ている。
 しかし、未だ南蛮との長い戦いにおける戦禍に疲れ切った南薔は、王宮の寡兵のみでは被災者の救出すらままならない状態にあった。
 ―――― 神殿の力をお貸し願いたい。
 そんな要請が、飃山の南岳にある水の神殿に届いたのは、地震が収まって間もなくである。
 言われるまでもなく、下山の準備をしていた神官達は、雨が止むのを待って、迅速に麓、峭州へ向かった。
 大雨が降れば滝のようになる山の急斜面は、未だぬかるんでいたものの、気にしている場合ではない。
 「急いで。もう、二日も経ってしまっている」
 神殿の最高位にある聖太師に先導され、彼らの足は自然、速まった。
 「倪下、お戻りください。なにもあなたまで・・・・・・」
 先頭を行くカナタに、なんとか追いついた英華が、息を切らせながら言うが、カナタは首を振って従おうとしない。
 「なんだか、放っておけなくてさ」
 カナタが、この世界に来ることになったのは、以前住んでいた世界を『死』という形で追い出されたからだ。
 どんな死に方をしたものか、実を言うと覚えてはいないのだが、死の直前、大きな地震があって、凍った湖に投げ出されたことはなんとなく覚えている。
 「村瀬とか、あんなにアウトドアにはまっていたのに、あの後、二度と山に行ってないんじゃないかと思うと、気の毒ではあるな」
 「は・・・・・・?」
 何年も前、こことは違う世界で仲の良かった友人の顔を思い浮かべながら、カナタは苦笑した―――― カナタにはもう、知りようがないが、彼の友人達は、毎年彼の命日に、あの山のあの神社へ花を手向けている。
 「まぁ、それはいいとして。
 これは確実に、あのジジィのやらかしたことなんでね。やっぱり後始末は、私の仕事じゃないかなぁと思うんだよね」
 大仰に吐息するカナタに、英華がふと、笑みをこぼした。
 「従者でいらしたからですか?」
 「正しくは下僕だと思うよー」
 生意気な少年の顔を思い浮かべて、カナタは苦笑を深める。
 まったく人騒がせなジジィだと、その表情が語っていた。
 「とにかく、私のことは気にしないで、急いで。下手したら、屋内で溺れそうになっている人がいるかもしれないよ」
 再度急かされ、神官達は表情を引き締める。
 この、水精だとしか思えない奇妙な青年が神殿の長になって以来、神官達の忠誠はまっすぐに彼の方を向いていた。
 彼の言うままに、更に足を早め、峭州へと到達した神官達は、その目に映った光景に唖然とせずにはいられなかった。
 「・・・・・・これはどう言うことだ?」
 雨に閉じ込められていた間、綿密に練り上げた計画が効を奏し、神官達は呆然としながらも各々の役目を果たすべく、各所に散らばっていった。
 が、カナタは怒りを隠しもせず、そのまま王宮へ乗り込み、留守役の老婆に詰め寄った。
 「私達の到着が、どう急いでも数日かかることはわかっていたはずだ。その間、なんの対処もしていないなんて、何を考えているんだ?!」
 沙羅はどこだと、さらに詰め寄るカナタに、老婆は怯えたように後ずさる。
 「東州候!!」
 「陛下は・・・・・・軍を率いられ、他州に赴かれました・・・・・・」
 沙羅を南薔王と認めない、神殿の長の前で、それでも『陛下』という呼称を使う老婆を、カナタは冷たく見下ろした。
 「他州?!ここ以外の、どこに行くっていうんだい?」
 現在、南薔の地に国境を引くことは難しい。
 精纜の治世、東蘭より東三州の返還はあったものの、未だ西三州は西桃のものであり、南三州と首都州・佳葉(かよう)は南蛮に領有されたままである。北三州でさえ、正確には峭州一州のみが、南薔の領地として認められているだけなのだ。
 そんな穴だらけの領地の、どこに援軍を送ると言うのだろう。
 カナタの剣幕に、老婆はうなだれ、ぽつりと呟いた。
 「・・・東州に・・・赴かれると・・・・・・しかし・・・・・・」
 「東州?」
 カナタが訝しげに眉根を寄せると、老婆はおどおどと彼を見上げた。
 「・・・・・・推察いたしますに、佳葉へ向かわれたのではないかと・・・・・・」
 「佳葉へ?」
 なぜ、と、首を傾げるカナタの身の裡で、女の声が囁いた。
 『この隙に 首都州を落とそうとしているんだわ』
 「どうして?」
 老婆以外の者に話しかける声は、やや和らいでいる。
 『南蛮は 東蘭王が領有するようになったばかりでしょ?
 なのにこの地震で 今は国内の混乱をまとめるのに精一杯のはずよ
 国外の領地・・・・・・大事な繁葉ならともかく 蹂躙し尽くした佳葉なんてもう 誰も見向きもしていないと思うわ』
 「つまり、その隙をついて首都を取り戻そうとしているわけか、あの狂姫は」
 『いい作戦ではあるわね  盗賊並の狡猾さだわ』
 含みのある言い様に、カナタは笑みを漏らしかけたが、ふと、その表情が固まった。
 「物資は?どこから捻出したんだい?」
 戦にかかる費用は、並大抵のものではない。
 それをすぐさま用意できるような国力は、未だこの国にはなかった。
 「まさか・・・救出を後回しにして、軍を出したのか?」
 『だから言ったじゃない  盗賊並ね って』
 薔薇の精霊が、カナタの身の裡で冷笑する。
 『彼女にとっては 民が瓦礫の下に埋まっていようが どうだっていいのよ
 それよりも 首都州を取り返して 自身の玉座を認めさせたいんだわ』
 「・・・っどこまでも見下げ果てた・・・・・・!」
 「倪下、どうかそれ以上は・・・・・・」
 老婆に縋られ、カナタはそれ以上の言葉を飲み込んだ。
 このような時に、神殿と王宮の確執を深めるべきではなかった。
 「まずは、被災者の救出。沙羅への弾劾はその後だ」
 カナタはきびすを返し、深々とこうべを垂れる老婆に背を向けた。


 雨の匂いを未だ濃厚に残す風を切って、東蘭まで戻って来た鳥を、高官達は我先に取り囲んだ。
 蟷器(トウキ)からの文書を運んで来た鳥は、役目を終えると、世話係によって丁重に部屋の外へと運び出される。
 暫時、この宮廷をまとめている裴(ハイ)は、蟷器からの文書に一通り目を走らせると、顔を強張らせずにはいられなかった。
 「・・・・・・失敗・・・らしい・・・・・・」
 どうして、と、険しい声が上がる中、裴はぎこちなく首を振る。
 「詳しいことは後で、だそうです。
 白渟(はくてい)が津波の害に遭って、船が使えないらしい。新たに船を寄越せとのことです」
 裴の言葉に、何人かが大きく頷いた。
 「私が参ります!一刻も早く、閣下をお助けせねば・・・・・・!」
 その中でも菎(コン)が、いち早く申し出るが、裴は眉をひそめ、首を振る。
 「落ち着いてください。閣下の御身に危険が迫っていると、確定したわけではありません。ここで我々が先走りでもしたら、取り返しのつかないことになるかもしれない」
 「では、誰がふさわしいと?」
 苛立ちを抑えきれない各人を見渡す裴の視線が、戸部尚書に据えられる。
 「槁(コウ)殿、海はまだ、荒れているようなのですが、お願いできますでしょうか?」
 裴の言葉に、元、南海を航行する貿易商人であった戸部尚書は、太い笑みを浮かべた。
 「良い商人と言うものはね、海が荒れている時にこそ、船を出して儲けるものですよ」
 冷静に請け負った彼に、裴は軽く一礼する。
 「人選などもお任せします。よろしくお願いします」
 裴の素早い指示によって、再び宮廷が慌しくなり始めた時だった。
 もう一羽、鳥が着いたと知らせがあり、裴は先程よりも厚い文書を開いた。
 大きく、はっきりした文字の羅列に、裴は目を見開く。
 「太后陛下・・・・・・!」
 呻き声に似た呟きに、四散しようとしていた高官達が再び集まった。
 「太后陛下の・・・?!」
 「ご無事であられるのか?!」
 先程より更に熱のこもった声に、裴は、沈痛な面持ちで額を押さえた。
 彼が手にした書簡には、緻胤が西桃に残ることになった経緯が、詳しくしたためてあったのだ。
 『―――― 全ては、わたくしの軽率さが引き起こしたことです。どうか、枢蟷器を責めることのないよう、お願いします。
 今後は彼を柱石に、まだ幼い東蘭王陛下を補佐していただきますよう、くれぐれもお願い申し上げます』
 そう締めくくられた書簡を持つ裴の手に、思わず力がこもる。
 法家一族の頭領として、常に冷静であることを求められる彼だが、その真性は、意外と激しやすい―――― 特に、『敗北』という言葉が嫌いなのだ。
 「裴殿・・・・・・陛下と御子がご無事であっただけでも、ここは――――」
 菎になだめられ、激情に流されそうになる自身をなんとか踏みとどまらせる。
 「わかっています。ですが・・・・・・」
 みすみす勝利を逃したのだという悔しさは、抑え難いものがあった。
 「それに裴殿、憤るより先に、なすべきことが・・・・・・」
 遠慮がちな声に、裴は、傍らの菎を見遣る。
 視線に促され、菎は困惑げに周りの高官達を見まわした。
 「まずは、陛下がご懐妊していらしたことを知っている者全員に、口止めをすべきでしょう。
 徹底的に隠すにしろ、事実を歪めるにしろ、今の時点で不用意に口を開かれては、まずい事になりかねません」
 例えば、と、菎は俯く。
 「西桃にいる間に、采王の御子を堕ろされ、A王の御子を身篭らされた、などという噂が広まれば、東蘭とて無視できないことになりかねませんから・・・・・・」
 確かに、そんな噂が広まれば、西桃だけでなく、東蘭の面目まで潰されるのだ。
 「枢閣下がお戻りになるまで、こちらでもできる限りの事をせねばなりません―――― 違いましょうか?」
 菎の指摘に、場は水を打ったように静まり返った。
 やがて、
 「・・・・・・違いない」
 搾り出すような声が各所から上がり、菎の意見に同意した。
 「今―――― 女官をまとめているのは、婀摩(アーマ)殿ですか?」
 緻胤の信頼する侍女の名に、多くの者が頷きを返す。
 「では、後宮のことは彼女と、典医殿にお願いしましょう。お二人をこちらへ」
 裴の指示により、緻胤の腹心であった侍女と、彼女付きの医師は、特別に『政事堂』へと招かれることになった。


 官吏の中でも、『尚書』以上の身分を持つ者しか入れない、『政事堂』から戻った婀摩は、後宮でも緻胤に近しい者達を集めるや、硬い表情で事情を語った。
 「太后陛下はご無事です。ただ、お腹の御子のご無事は、未だ報せのない状態です」
 婀摩は、御子の無事を知ってはいたが、裴達の指示に従い、集まった者達にはそう告げた。
 「これから、どう状況が変化するかわかりません。事実がはっきりするまで、皆様は緻胤陛下ご懐妊の事実を、隠し通してください」
 眉根をきつく寄せ、婀摩は集まった者達を見渡した。
 「この件に関しましては、皆さんに神官並の沈黙を要求しなければなりません。
 もし、この事を他人に話すようなことがありましたら、本人だけでなく、聞いた者も処罰を免れないと、そう、覚悟してください」
 婀摩の蒼ざめた顔が、冗談ではないのだと、はっきりと語っていた。
 彼女の顔色が伝染したかのように、周りに集まった者達は血の気の引いた顔を見合わせ、不安のあまり倒れる者も出たという。
 そんな、異様なざわめきに不安を覚えたものか、広大な私室に下がっていた傑―――― 幼き東蘭王が、おずおずと顔を覗かせた。
 「・・・・・・陛下」
 強張った顔を無理矢理微笑みの容に変え、婀摩は素早く傑に歩み寄った。
 「どうされました?お腹がすかれましたか?」
 跪き、懸命に笑いかけるが、傑は不安に満ちた目を伏せてしまう。
 「・・・・・・母上は?」
 婀摩の袖を握る小さな手に、力がこもった。
 「母上は、まだお帰りじゃないの?」
 彼女達の様子に、不穏な雰囲気を悟ってしまったのだろう。傑の声は、消え入りそうにはかなかった。
 「陛下・・・・・・」
 言葉を捜し、揺らぐ婀摩の声に、傑はぎゅっと眉根を寄せる。
 「もう、帰って来ないんでしょう?」
 父上のように、と、涙をこらえ、揺らぐ声が婀摩を打った。
 「もう会えないんだって、本当のことを言ってよ!!」
 幼い声は、剣の鋭さをもって、その場にいた者達を斬りつけるかのようだった。
 傑は、言葉を失った婀摩から、手と視線を剥がすと、凍ったように動きを止めた大人達の間を駆け抜けた。
 「陛下?!」
 悲鳴を上げ、追い縋るいくつもの手の中をすり抜けながら、傑は広い正殿内を一気に駆け抜け、高官達が難しい顔を寄せ合う政事堂に駆け込んだ。
 「陛下・・・・・・?!」
 意外な人物の登場に、高官達は息を呑み、慌てて跪く。
 「・・・・・・母上のこと、教えて」
 子供の足には長すぎる距離を、一気に駆け抜けた彼の息は上がっていたが、それを気にする様子もなく、傑は裴の側に歩み寄った。
 「陛下・・・・・・」
 困惑げに言葉を詰まらせる裴を容赦なく睨んで、傑は再度、要求する。
 「太后陛下はご無事です・・・ただ、東蘭へお帰りになることは難しくなられました」
 「どうして?!」
 厳しい声に、裴は恐縮しつつも感心していた。
 この言い様、さすがは采王と緻胤太后の御子だと。
 「まだ、詳しいことはわからないのですが・・・・・・」
 そう前置きして、裴は、現在わかっていることのほとんど―――― 御子のことを除いて―――― をこの幼い王に告げた。
 理解できるかどうかは別として、彼を子供扱いする必要はないと感じたのだ。
 「全ては、もっと詳しい情報が入ってからです。憶測では、なにも決めることはできません」
 臣下と言うよりは教師のような口調で諭す裴を、傑はしばらくの間、無言で見つめていたが、ようやく頷いた。
 「わかった。また何かわかったら、ちゃんと教えて」
 憮然とした口調ながらも、毅然とした態度は、未だ七つにもならない子供のものとは思えない。
 「もちろん。真っ先にご報告申し上げます」
 思わず、口調を真摯なものに改めた裴を、誰も不思議とは思わなかった。
 彼らの王は、こんな切迫した状況にある彼らがつい微笑を浮かべてしまうほど、緻胤によく似ていた。


 王が亡くなったばかりの西桃の王宮は慌しく、浮かれているようにさえ見えた。
 葬儀の準備を、まるで祭のそれであるかのように賑やかしく行き交う人々の狭間を抜け、蟷器は主不在の後宮へと、堂々と入って行った。
 再び、王妃の室へと閉じ込められた、緻胤に面会するためである。
 西桃王の崩御直後から、その母親は床に就いてしまい、宦官も女官もほとんどが彼女に付きっきりになったため、緻胤は以前と変わらず、一人で放っておかれる時間が長かった。
 そんな状況でもなければ、蟷器もこれほど堂々と、他国の後宮に入り込むことはできなかったろう。
 ともあれ、緻胤の室に入るや、
 「俺の鳥を使ったのは、あんたか?」
 開口一番、厳しく言い放った蟷器に、彼女は素直に頷いた。
 「・・・・・・ごめんなさい。あなたが責められることのないように、と思って」
 気まずげに視線を逸らす緻胤に、蟷器は重く吐息する。
 「俺を思いやってくれる前に、自分の立場をおもんぱかって欲しかったね、俺としては」
 「・・・・・・・・・ごめんなさい」
 彼女らしくもなく、うなだれる様子に、蟷器は再び吐息した。
 「荀(ジュン)・・・に、後のことを頼んである」
 その名を呼ぶ時、苦々しく思わずにはいられない宦官の顔を思い浮かべた蟷器は、不快げに顔を歪める。
 「あんたにとっちゃ、幼い頃から慣れ親しんだ宦官かもしれないが、奴はあんたを自分の出世に利用したいだけだ。
 それを、ちゃんと頭に叩き込んでおいてくれよ」
 「えぇ・・・わかっているわ」
 苦笑を浮かべる彼女の顔には、様々なものを見てきた者のみが持ち得る諦観のようなものが漂っていた。
 「蟷器、本当にごめんなさい。私の軽率な行動で、こんなことになっちゃうなんて・・・・・・」
 そう、うなだれてしまわれると、蟷器もこれ以上、怒鳴りつけようという気が萎えてしまう。
 「・・・・・・まぁ、子供が無事だっただけよかったさ―――― 対外的に采の子は、あんたが南海から誘拐された際に、流れてしまった、ってことにするしかないけどな」
 汚い手だが、西桃に罪を被せるわけには行かなくなった以上、一切の罪は南薔の沙羅に着せることに決定していた。
 「そうね・・・・・・。
 この子が流れかけていたのは事実だし、私がここに運ばれてきた時、立つこともできないほど弱っていたことは、多くの者が知っていることだから、疑われることはないと思うわ」
 しかし、濡れ衣を着せるのは気が重いと、そう呟く緻胤に、蟷器は苦笑する。
 「どこまでも人のいいお嬢ちゃんだな、あんたは。
 そもそも、あんたの姉が諸悪の根源だって、わかっているか?」
 「そうだけど・・・・・・」
 それでもこんなやり方は好きじゃないと、甘いことを言う緻胤が、蟷器はけして嫌いではない。
 「まぁ、奇妙なことにはなったが、これで西桃と東蘭は、あんたを挟んで強力な同盟を結べることになる」
 だが、と、蟷器は人気のない室内を見渡し、眉をひそめた。
 「この扱いはだめだな。王妃の扱いじゃない」
 南海王の王女であり、東蘭の太后にまでなった女性であれば、この部屋全てが、彼女に仕える人間で埋め尽くされていて当然なのだ。
 「一応、あんたは南薔王によってさらわれ、西桃に売られた、って事にしようと思っているんでね、東蘭からは侍女を派遣しにくいんだが、南海の実家の方から遣わせば問題ないだろう」
 「南海王宮の侍女を?」
 ほっとした声に、蟷器が笑って頷く。
 「西桃の女達とは、気が合わないだろ?」
 「実は・・・ね・・・・・・」
 苦笑しつつ頷いた緻胤に、やっぱり、と、蟷器が頷いた。
 「あんたはなぜだか、男には好かれるのに、女らしい女たちには嫌われる傾向にあるからな」
 「・・・・・・それって私が、女らしくないってこと?」
 「言うまでもないだろ」
 軽い笑声を上げる蟷器を睨みながらも、緻胤は我が身を省みて、反論することができない。
 頬を膨らませて黙り込んでしまった緻胤に、蟷器は更に笑声を上げた ―――― この、毒気というものを母親の胎内に忘れて来たとしか思えない緻胤が、後宮に住まう毒気そのものの女達に嫌われるのは無理もない。
 人は、自分と同じ種類の人間と集まりたがるものだから、緻胤のように屈託のない女が、黒い欲望の渦巻く場所で妬まれ、敬遠されるのも無理はなかった。
 「西桃は嫌がるだろうが、こっちもだいぶ譲歩しているんだ。そのくらいのごり押しはさせてもらう」
 だから、と、蟷器は、緻胤をなだめるように柔らかな笑みを浮かべた。
 「あんたも安心して、元気な子を産んでくれ」
 「もちろんよ」
 ようやく強張りのとれた顔に笑みを浮かべ、緻胤も頷く。
 「この子を、あなたの子供と結婚させることは、できなくなってしまったけどね」
 いたずらっぽく笑う緻胤に、蟷器は苦笑を返した。
 「じゃあ、娘を作って傑王の妃にでもしてもらうか」
 「男の子が生まれても、がっかりしないようにね」
 「男だったら、がっかりするに違いないね」
 ひととき、薄暗い室内は明るい笑声に満たされた。
 「じゃあ、元気で」
 「あなたも・・・・・・傑のこと、くれぐれもよろしく」
 「任せとけ」
 込められた想いに比べれば、あまりに簡単な別れの言葉を交わし、蟷器は緻胤の元を去って行った。


 その後、わずかな期間で、世界はめまぐるしく動いた。
 西桃では、王の葬儀の後にその王妃が立つという、不可思議な事態に民は目を丸くし、南海は新たに西桃王妃となった王女の為に、多くの財宝を西桃へ運び込んだ。
 東蘭では、自国の太后であった女性を奪い、あまつさえ他国に売ったとして南薔を弾劾し、南薔では、とうとう首都州・佳葉を奪還した沙羅が、得意げに玉座に就いていた。
 「これで、誰も文句はないでしょう?」
 荒れ果てた、かつての王宮に足を踏み入れた沙羅は、満足げに白い頬を緩ませた。
 「悲願の首都奪還を成し遂げた私を、阻めるものなら阻んでみるがいい」
 無残に装飾をはぎとられた玉座に腰を下ろし、辺りを見渡す。
 瓦礫に埋もれた地―――― それでも、この地の、この玉座を得たことが満足だった。
 人心を得ることにも、善政を敷くことにも興味はない。
 ただ、この地の、この玉座を得ることにのみ執着した彼女のやり方が、皮肉にも、首都州を奪還するに最短の道となった。


 西桃王の葬儀を辞退し、早々に東蘭へ戻った蟷器は、高官達に全ての事情を伝え、一旦、その対策と処理を彼らに委ねた。
 「・・・・・・お疲れ様でございました」
 苦笑する裴に頷きを返し、改めて幼い王に一礼して、蟷器は政事堂を出た。
 既に日は暮れ、澄みきった初冬の空には、歪曲した剣のような月が昇りつつある。
 蟷器は、正門へ向かっていた足をふと返し、王宮の奥へと歩を進めた。
 迷いのない足取りで回廊を過ぎ、途中、厨房から酒壷を奪うと、月光が音もなく降りしきる長い桟橋を渡って、美しい四阿(あずまや)に入った。
 かつて、旱魃と太陽の熱に耐えかねて、完全に干上がってしまっていたそこは、元の玲瓏たる美しさを誇る蓮池の姿へと戻っている。
 尤も、冬の気配も近いこの季節には、蓮の葉も水中へと姿を隠し、ただ漫々たる水が月の影を映しているのみ――――。
 蟷器は、その背を支柱に預け、四阿の欄干に片足を乗せて杯を掲げた。
 東蘭の高官にふさわしいとは言えない姿が映った水面に、薄く笑みを浮かべる。
 もう、何年も前―――― 水という水が消え失せ、地が乾ききっていた頃、この場所には彼のほかに、二人の人間がいた。
 一人は既に、この世に亡く、もう一人は他国へ連れ去られた。
 喪った者への哀悼か、自身への慰めか、しばし、月を相手に一人で杯を傾けていると、軽い足音が近づいてきた。
 「陛下・・・・・・」
 訝しく見遣った先に、幼い王の姿を見止めて、蟷器は欄干から下りた。
 「蟷器!」
 高い声が、彼を怒鳴る時の緻胤の声によく似ていて、蟷器の鼓動がはねた。
 「聞きたいことがあるんだ」
 じっと、蟷器を見据える瞳は闇色―――― 永久(とわ)に亡くしたと思っていた色に、蟷器は魅せられたように目が離せなかった。
 「・・・・・・お一人で、ここまで?」
 自然と、頬が緩むのを感じながら、蟷器は彼の前に跪き、視線を合わせた。
 「こちらに行くのが見えたから」
 随身を振り切って追いかけて来た、と、やや得意げな王に、蟷器は笑みを漏らす。
 「随身達が、青くなってお探し申しあげていることでしょう。婀摩に叱られる前に、戻りましょう」
 言って、手を差し伸べる蟷器に、彼は首を振った。
 「聞いてからだよ」
 何を、とは、わざわざ問い返すまでもないだろう。
 彼の母親と、最後に会ったのは蟷器なのだから。
 「お母上は、お元気でいらっしゃいます。誓って、嘘ではありませんよ」
 神官がするように、右手を胸に当てると、傑はふっくらとした唇を引き結んで頷いた。
 「―――― 太后陛下はずっと、陛下の御許へ帰りたいと、そうおっしゃってました。
 ですが、どうしてもお帰りになれない事情になりまして、西桃に残られたのです。
 陛下。
 太后陛下はずっと、陛下のことをお気にかけていらっしゃいました。
 私が太后陛下の御許を退く時にも、くれぐれも陛下をよろしくと、何度もおっしゃっておられましたよ」
 再度、頷いた傑に差し伸べた手に、小さな手が添えられる。
 「母上が僕・・・私を、お見捨てになられたのではないってことは、よくわかっているんだ」
 蟷器の手を握る幼い手が、微かに震えている。
 「あんなにお優しい母上が、そんな事をするはずはないって、ぼ・・・私は知っているから・・・・・・!」
 だから、と、漏れた声は、こらえきれなかった嗚咽にかき消された。
 「陛下・・・」
 抱き寄せると、幼い王は蟷器の胸に顔を埋めて、必死に声を殺している―――― 南海の王宮では、臣下達の前で泣いてしまったと聞いたが、既にそれが、王にふさわしくない行為であったと学んだようだ。
 同じ年頃の少年のように、声を上げて泣く事もできないのかと思うと、蟷器は彼を憐れに思う以上に愛しく思った。
 そして、これほどまでに愛しい者を、置いて逝かなければならなかった采と、遠く引き離された緻胤を、心から気の毒に思う・・・・・・。
 「陛下・・・。太后陛下とは、必ずまた、お会いすることができます」
 蟷器の胸の中で頷いた少年の背を、なだめるように撫でてやる。
 「その時には、東蘭と南海を支配する王として、立派にお役目を果たしているのだと、堂々とおっしゃればよろしい」
 再び、彼の胸の中で頷いた少年を、蟷器は抱き上げた。
 「この枢蟷器、生涯かけて陛下に忠誠を誓いましょう」
 想いの宿るこの場所は、かつての人々を失ってしまったが、新たなる誓いの場となった。
 「―――― 必ず、陛下に名君の誉れを差し上げる」
 後の世に、橙(だいだい)―――― もしくは、橙(トウ)宰相と呼ばれるようになる男の背後には、歪曲した剣の容をした月が輝いていた。


 蟷器とは逆に、悪名を残しながらも後世に多大な影響を与えた女がいる。
 神殿の反対を押し切って、荒れ果てた佳葉の王宮で戴冠した沙羅は、次々に勅令を出し、王を―――― 正確には自身を、神格化する法を定めた。
 その多くは、沙羅の死と共に消え去ったのだが、いくつか―――― 主に、『精霊の娘』に関する法は後にまで残り、後の薔家に悲喜劇を招くこととなる。
 その話は後に譲るとして、沙羅より登極の報せを受けた時、峭州の王宮で慌しく働いていた神官達は、唖然と立ち竦んだ。
 まさか、自身らがこれほどまでに蔑ろにされるなどとは、ほとんどの者が想像もしていなかったのだ。
 「登極・・・・・・と申しましても、聖太師倪下がここにおわしますのに、誰が戴冠させたのですか・・・・・・?」
 「さぁ・・・・・・?倪下の他に、それができるほど高位の巫女がおられましたでしょうか・・・・・・?」
 山を降りて以来、寝る間も惜しんで被災者の救済にあたっていた神官達は、判断力もかなり低下していたのだろう。
 ぼんやりと、見当違いのことを話し合う彼女らの側を、筝(ソウ)が厳しい顔をして通り過ぎた。
 骨に皮を張っただけ、という印象の、初老の女は、その姿に似ず、きびきびと歩を運んで、王宮の奥へ至った。
 寒冷の地にある宮殿は、室内の熱を逃がさぬよう、厚い木の扉で仕切られている。
 「失礼いたします、倪下」
 軽く扉を叩き、細く開けた扉の隙間から声を掛けた途端、
 「王が神殿を蔑ろにするなんて!!」
 甲高い女声が溢れ出て、筝は強張っていた頬をわずかに緩ませた。
 広いながらも、窓が曇るほど暖められた聖太師の部屋で、紅い髪を振り乱し、激昂していたのは、茱(シュ)家の当主、英華だった。
 前南薔王・精纜を迎えて後は、著しく精彩を欠いた彼女だったが、沙羅の恣意的な行いへの怒りと、未だ南三州を取り戻せない苛立ちがあいまって、昔の激しさを蘇らせたようだ。
 「あぁ、筝殿。呼び出して悪かったね」
 するりと室内に入り込み、静かに扉を閉めた筝を、その部屋の主は穏やかな笑みを浮かべて迎えた。
 「いえ。不測の事態が、起こったようですわね」
 一礼した彼女は、聖太師の勧めに従って、彼の正面に腰を下ろす。
 「ごらんの通り」
 やや、おどけた口調の彼に微笑を返し、筝は、侍女が運んで来た茶器を受け取った。
 「交替は、問題なく行ったかい?」
 「はい。飃山には最低限の者だけを残し、できる限りの人と物資を運んでまいりました。
 今まで働き詰めだった方達には、休んでいただいていますわ」
 筝の答えに、カナタは深く頷いた。
 沙羅が、本来被災者の救出に向かわせるべき軍隊を率い、佳葉を占拠しているおかげで、この峭州では人員も物資も、著しく不足している。
 為に、神殿の留守居役として残っていた筝に山を降りてもらう羽目になったのだ。
 「ところで倪下、王世子殿下のことですが・・・・・・」
 未だ、沙羅を王と認めてはいない筝は、彼女をこれまで通りの敬称で呼び、カナタに詳しい状況の説明を求めた。
 「沙羅は、こちらの弾劾に耳を貸すつもりもないらしい―――― まぁ、聞かないだろうとは思っていたけどね」
 地震の際に、被災した民を無視して軍を進めたこと。
 佳葉を制圧した後も、その地の民を救済しようとはせず、軍を王宮の守備に留めたこと。
 更には、東蘭太后を誘拐し、西桃へ売ったなど、諸々の恣意的な行為を弾劾し、『王たる資格なし』と断じたにもかかわらず、沙羅は国内外へ南薔王即位の報をふれて回ったようだと、カナタは筝に言って聞かせる。
 「倪下、ご決断くださいませ!これ以上は我慢がなりませんわ!!」
 すぐにでも神殿の兵を出し、沙羅を捕らえるべきだと息巻く英華を、カナタは軽く手を上げて制した。
 「後継者はどうするんだい?」
 共和制にでもするのかと、冷静に問い返されて、英華が言葉に詰まる。
 「緻胤殿が西桃に取られてしまった以上、沙羅を退位させても次の王になれる人間がいないんだよね」
 沙羅が緻胤を西桃へ売ったのは、守られるかどうかも危うい西三州返還の約束より、自身の玉座を脅かす者の排除こそが目的だったに違いない。
 「緻胤殿の性格からして、沙羅を追い落としてまで自分が王になろうとは思わないだろうしね」
 東蘭の王宮で会った彼女に、カナタは好意を持っていた。
 息を呑むほど美しいわけでもなく、思わず構いたくなるほど可憐な美少女というわけでもないのだが、一緒にいて、安心できる相手だ。
 太后らしく威厳に満ちているかと思えば、年下とは思えないほど暖かな母親の顔をする。
 孤独と共に生きなければならない、高位の者達にとっては、何よりも欲する女性かもしれない。
 「ですが緻胤様は、あの女のせいで采王の御子を流されてしまったのですよ!」
 東蘭より発せられた弾劾文には、沙羅が緻胤を誘拐した折、南海を渡る船の中で酷い扱いを受けたために采の御子が流れてしまったと、そう記してあった。
 「あれほどまでに、慈しんでおられたのに・・・・・・!!」
 まるで自分のことであるかのように、英華は悔しげに唇を震わせる。
 彼女が昔の激情を取り戻したのは、まさにその一文を読んでからだった。
 「落ち着きなよ、英華殿。話が進まないよ」
 と、暢気に茶をすするカナタに、英華は恐縮して口をつぐむ。
 「それでさ、神殿としては、沙羅と共謀して緻胤殿を誘拐した、なんて疑いを持たれるわけには行かないんだよね」
 ホントに組んでなんかないけど、と、茶器を置いたカナタは、正面に座る筝を見遣った。
 「筝殿はどう思う?東蘭に便乗して、一緒に沙羅を引き摺り下ろした方がいいのかな?」
 カナタの信頼篤い老女は、その問いを予測していたのだろう、軽く頷きを返して口を開いた。
 「まず、東蘭の枢蟷器にご親書をお送りになるべきでしょう。現在の東蘭をまとめているのは、彼でしょうから」
 「うん。それで?」
 「神殿が、この度の緻胤太后陛下誘拐に全く関与していないこと、神殿もその件に関しては遺憾に思うと、はっきり伝えるべきです。
 それに、もうあちらは知っていることでしょうが、南薔でも沙羅様への弾劾が起こっていることを、改めて伝えた方が良いと存じます」
 低い声が淡々と語る言葉に、カナタは頷きを返す。
 「沙羅はそのうち退位させるから、緻胤殿が西桃を出る際には、南薔の女王にしてしまっていいかな、と、根回ししておこうと言うわけだね」
 「そうです。西桃では、緻胤様がA王の御子を身篭っておられないと分かれば、すぐにでも東蘭へお返しする、とのことですから」
 「例え身篭っていても、子供を産んでしまったら追い出されることになるだろうね、やっぱり」
 ふと、言ってしまったカナタに、女達の視線が痛い。
 「え・・・っと、親書の起草をお願いできますか、筝殿?」
 「承りました、倪下」
 ひんやりとした口調に、カナタは苦笑した。
 「ごめんなさい。不謹慎でした」
 女たちを敵に回してはいけない、という思いは、この世界に来る以前よりカナタの防衛本能に組み込まれている。
 素直に謝った彼を、女たちも更に責めることはできないだろうという計算も含まれていたが。
 「それで、蟷器は緻胤殿を、南薔にくれるかな?」
 「南薔が安全な国になること―――― それは、東蘭にとって願ってもないことです」
 一時撤退させたとはいえ、東蘭は常に、東の蛮族、東夷の侵攻に備えていなければならない。
 南蛮―――― 間もなく東蘭でも、『南海諸島』という呼称が一般的になるだろうが―――― を得はしたものの、それを東蘭の一部として運用できるようになるにはまだ時間がかかるだろう。
 南薔を根城に南海を荒らしまわる海賊や、大陸を横断する隊商を狙う山賊の相手など、している暇はないのだ。
 南薔が国としてまとまり、彼ら不逞の輩を一掃してくれれば、東蘭も背後を気にすることなく東夷に向かえると言うものだ。
 「幸い、緻胤様は枢蟷器の信頼も篤くていらっしゃいます。あの方が南薔王になられることに、彼は反対しないでしょう―――― いえ、彼のことですから、もう、こちらの親書を待っているかもしれませんわね」
 筝は、二、三度会っただけの若い高官を、高く評価していた。
 特に彼の、情報収集力を、羨ましく思っているように見える。
 「神殿は緻胤様の擁立に積極的であると、彼にだけでもはっきりと示すべきです。
 あちらは、倪下のご気性もよくご存知でいらっしゃいますから・・・・・・」
 くすりと、筝が珍しく失笑した。
 「失礼。
 余計な詮索をされることもなく、お話が進むことでしょう」
 「腹芸ができなくてごめんね」
 苦笑するカナタに、いいえ、と、筝は首を振る。
 「聖太師倪下が腹黒くても困りものですからね。倪下は、それでおよろしいのですよ」
 「その後に、あんまり明確なのも困るけど、って、続く?」
 「そうですわね」
 くすくすと、筝は堪えきれずに笑いだした。
 「では、倪下の御名をお借りして、親書を起草いたしましょう。後ほど、ご確認いただきます」
 「うん。もう一度市中に出ようと思っているから、急ぐようなら報せを寄越してください」
 「承知いたしました」
 声と共に立ち上がった筝を見送り、カナタも立ちあがる。
 「英華殿はどうする?もう、休む?」
 山から下りて数日、英華も、寝る間も惜しんで被災者の救済にあたっていた。
 そこへ、沙羅からの報せである。苛立つのも無理はない。
 「ですが、倪下もお休みになってらっしゃらないのに・・・・・・」
 気遣わしげな声に、カナタは笑声を上げた。
 「私は人間じゃないから、本当は休息なんて要らない身体なんだ。みんなが無理するから、一応休んだふりはしているけどね」
 すたすたと、英華を置いて歩み去ろうとする歩調には、確かに疲労の影はない。
 「そんなのに付き合っていたら、身体を壊してしまうよ。もう、休んだ方がいい」
 扉の前で振り返り、にこりと笑ったカナタに、英華は微かに頷いた。
 疲れているのは確かだった。
 「・・・では・・・お言葉に甘えまして」
 一礼する彼女に頷きを返し、カナタが部屋を出ようとした時、
 「倪下」
 呼びとめられて、カナタは再び足を止めた。
 「何?」
 「佳葉の・・・ことなのですが・・・・・・」
 沙羅が落とした、かつての首都州の名を呟き、英華が苦しげに眉を寄せた。
 「わたくしが率いますゆえ、人々の救済に、神官を派遣するわけには参りませんでしょうか?」
 「神官を・・・・・・」
 立ち止まったまま、考え込んでしまったカナタを、英華は祈るような目で凝視する。
 「・・・・・・それは、皆と相談することにしよう。
 私が行けと言えば、神官達は動くだろうけど、まだあの州がどんな状況にあるのか、詳しい事がわかっていないしね。
 あなたも、近づいた途端に射殺されたくはないでしょう?」
 冗談めかしてはいたが、カナタの言葉に、英華は黙って頷いた。
 「それにね、今すぐ人数を集めるのも、現実的に無理だろう?
 みんな、がんばりすぎるほどがんばってくれたからね。今、無理矢理連れて行っても、使い物にはならないよ、きっと」
 十分休息を取らせて、それから相談しよう、と、穏やかになだめられ、英華はまた頷く。
 「無理して走りまわったって、いい事ないよ。まずは落ち着こう」
 そう言って、今度こそ部屋を出て行ったカナタを、英華は黙って見送った。


 峭州からまっすぐ南へ下ると、かつての首都州・佳葉に至る。
 州全体を包み込む外門は薄汚れ、各所に瓦礫がうずたかく積もって、昔の栄光は見る影もなかったが、この地を奪還することは、確かに南薔の民の悲願ではあった。
 その、念願の薔都攻略を成功させた将軍、蒋赫(ショウカク)は、幾重もの城門に守られた宮城から市中を望みつつ、頭を抱えずにはいられなかった。
 ―――― 困ったことになった。
 今、佳葉は、荒れ果てた城門を足下にする彼の軍に占拠されている。
 が、日々募るのは、彼らへの賞賛ではなく非難であり、怨嗟の声だった。
 佳葉の、荒れ果てた瓦礫の下には、今も民が埋もれていると言うのに、軍は空虚な王城を守るためにのみ配置され、悲痛な呻きに動く者はない。
 彼の女王に、何度か民の救済を進言してみたが、彼女はまるで取り合わず、飾りのない玉座から離れようとしなかった。
 ―――― これならば、南蛮に支配されていた方がまだましだった。
 そんな声が、各所から聞こえる。
 が、蒋赫にはそれを止めさせることはできなかった。
 恨み深き南蛮王であればともかく、采王と緻胤太后の御子である東蘭王が支配する事となったかの地には、栄光が約束されたように見えたのだろう。
 その恩恵をわずかなりとも、と、求める人々の心情を、浅ましいと嘲う事は、彼にはできなかった。
 「せめて・・・神殿さえ認めてくれればな・・・・・・」
 南薔の権威は失墜したとはいえ、それは俗界に限ってのことであり、南薔が守る飃山の神殿は、変わらず世界を俯瞰している。
 その神殿さえ―――― いや、その最高権力者である聖太師さえ、沙羅の王位継承を認めたならば、彼がこのように頭を痛めることはなかった。
 「・・・神殿の長であれば、国をまとめるためにも、余計な差し出口をするべきではないのだ!」
 そう思うと、あの銀髪の青年が、いかにも憎らしく見えてくる。
 前王・精纜(セイラン)が、賓客として遇した青年―――― 多くの者は、カナタについて、それ以上のことを知らない。
 にもかかわらず、彼は自身の中に住まう精霊・麗華と、南州の筝を知恵袋に、神官達の忠誠を一身に集めてしまった。
 為に今、南薔は、沙羅派と神殿派にほぼ二分されしまっているのだ。
 しかしそれも、沙羅の度重なる凶行により、既に多くの者が神殿側へと寝返っている。
 自業自得とは言え、それが蒋赫には、忌々しく思えてならない。
 一度忠誠を約束したものならば、いかなる事があっても一人の主に仕えるべきなのだ。
 だが、そう言う彼に、去っていく者達は、『忠誠は精纜王の上にあり、王世子にはない』と、冷たく言い放ったものである。
 かつての首都州を落としたものの、こんな状況ではいつまで駐留できるかさえわからない。
 幾度目のため息か、既に数えるのも馬鹿馬鹿しくなったほどのそれを吐いた時、兵がこれもまた、幾度目か数えるのも嫌になるほど送られて来た親書の到着を告げた。
 「・・・・・・今度はどこからだ!」
 各方から寄せられる弾劾文に、神経はやすりをかけたように磨り減り、語調もきつくなる。
 「・・・・・・神殿からです」
 いきなり怒鳴られて、不満げな兵士の口調に、蒋赫は舌打ちを堪え、封蝋に神殿の紋章が入った親書を受け取った。
 四つの支柱を背景に、翼をたたんだフクロウがバラを咥えている―――― 近頃は、この意匠を見るたび、封蝋を粉々に砕きたくなる。
 だが、その衝動をなんとか抑え、沙羅の元へカナタからの親書を運んだ。
 沙羅は、佳葉を得て以来、決して玉座の間から出ようとしない。
 整えるほどの威儀もないのに、呆れるほどの時間、蒋赫を待たせてから、ようやく室内へ招き入れた。
 ―――― まるで、ままごとだ。
 この部屋に入るたび、彼はそう思わずにいられない。
 かつては豪奢だったに違いないその部屋は、思うさま蹂躙された後、長いあいだ放って置かれたせいで、あちこちにヒビが入り、崩れてしまっている。
 なのに沙羅は、そこが世界の中心であるかのように、満足そうに居座っていた。
 「―――― 陛下」
 掛ける声に、子供のようだ、と、吐息がまじる。
 気に入った玩具を、頑迷に守ろうとしているようだ。
 「神殿より、親書が参りました」
 「捨てなさい」
 取りつく島もない言葉を、蒋赫はあっさりと受け入れる。
 予想通りの反応に、一々反論する気力はなかった。
 「お読みにはならないのですね?」
 一応、確認すると、『気になるなら、お前が読めばいい』と、素っ気無い言葉が返って来る。
 「承知しました」
 短い謁見を終え、控えの間へと下がった蒋赫は、封蝋を砕く栄誉に浴し、今までの鬱憤を晴らすかのように紅いそれを砕いた。
 しかし、筝の手によるものか、良質な紙に綴られた流麗な線を目で追っていた彼は、すぐさまきびすを返し、もう一度沙羅に謁見を申し出た。
 「何事なの?」
 不快げに眉根を寄せる沙羅に、蒋赫はカナタからの親書を広げて見せた。
 「神官達が、被災者の救済を申し出ています。王宮内には決して入らぬゆえ、外門を開けて欲しいと」
 「だめよ」
 即答した沙羅に、なおも蒋赫は食い下がった。
 「いえ、ここは素直に開けた方がよろしいかと存じます」
 「なぜ」
 質問ではなく、否決の前置きとも言うべき沙羅の口調に、蒋赫が表情を硬くした。
 「このままでは、外門は内側から開かれます」
 「私の許可なく、誰が門を開けるというの?!」
 憤りを含んだ声に、しかし、蒋赫は怯むことなく向かった。
 「民です、陛下。
 外門に神官たちが群がり、助けに来たのだと声を掛ければ、切迫した民は、外門を守る兵を倒してでも、開門するでしょう。
 そんな事態を避けるためにも、ここは自ら開門した方がよろしいかと存じます」
 「そのような不心得者どもは、斬っておしまい」
 彼女らしい、傲慢な言い様に、蒋赫は首を振る。
 「無理です、陛下。
 兵の主力は、この王宮を守っておりますので、外門の守りはそれほど厚くはないのです。民は、武器を持たぬとはいえ、外門を守る兵数に比べれば、圧倒的に多い。
 陛下の兵が民と神官の前に屈したなどと言う侮辱を受けないためにも、ここは自ら外門を開けるべきです」
 そこまで言っても、まだ開門を渋る沙羅に、蒋赫は言い募った。
 「外門の兵を引き上げれば、王宮の守りは更に厚くなります。そうなれば神官たちも、こちらに入ってくることはできません」
 第一、聖太師の名において、王宮内には決して入らないと約束した以上、神官達が誓約を蔑ろにすることはあり得ない。
 「どうか、お聞き届けください」
 「・・・・・・・・・・・・勝手にするがいい」
 憮然と吐き捨てた沙羅に、やや大仰に礼を言い、蒋赫は外門へと使者を出した。


 カナタからの親書を運んで来た使者は、意外にも待たされることなく、開門の許可を携え、佳葉からやや離れた場所で待つ英華の元へ戻った。
 「きっと、蒋赫の進言ね」
 峭州に残ったカナタの代わりに、神官の一団を率いて来た英華は、使者の報告ににこりともせず呟く。
 紅い髪をきり、とまとめ、男装した腰に乗馬用の鞭を持つ手を当てる姿は、天球を護る火精のようだ。
 「少し、残念でしたね」
 彼女の傍らで、同じく淡々と呟いたのは、英華の長男、英毅(エイキ)である。
 姿形は母親によく似ているが、その秀麗な顔は作り物のように微動だにせず、声音は彼の中に感情があるものか疑いたくなるほど単調だった。
 「このまま、彼らが頑迷に外門を守っていてくれたなら、中で反乱が起きてくれたでしょうに」
 そうしたら、どさくさに紛れて神殿が佳葉を落とせたものを、と、さらりと言う息子に、英華は口元をほころばせた。
 「あの狂姫だけであれば、それもできたでしょうけどね。あたら有能な将が、惜しいことだわ」
 将赫こそ、神殿側に付くべきだと、英華は思う。
 そうすれば緻胤を女王として迎えた時、南薔の擁する軍をそのまま彼に任せる事ができるのだ。
 「まぁ、今はそんなことを言っている場合ではないわね。許可は出たのだから、一刻も早く佳葉に入りましょう」
 言うや、身軽に騎乗し、集団の先頭に出た英華は、振り返り、神官達を見渡した。
 「今より、我らは佳葉へ入ります!」
 彼女の声に、興奮気味の顔が、何度も頷きを返す。
 「皆に改めて申し伝えますが、聖太師倪下のご意向は、佳葉の制圧ではなく、救済です!
 瓦礫に埋もれ、困窮している者であれば、それが南蛮の民であっても救えとのお言葉を忘れぬよう!」
 高く、張りのある声に導かれるように、神官達は歓声をあげた。
 「では、当初の予定通り、整然と参りましょう!
 市中に入っても、慌てず、自身の役目を果たしてください!」
 再び歓声が上がり、神官の一団は、英華を先頭に整然と、佳葉の第一の門をくぐった。
 かつては、大陸三大国一の規模を誇った国の、首都州を守る門だけあって、その厚さは尋常ではない。
 いつまでも続くかと思える、長い隧道(ずいどう)を進みながら、英華は、峭州でカナタが言った事を思い出していた。
 ―――― 大きな災害があって、自分の力ではどうしようもない時ってね、助けてくれた人に票が集まるんだよね。
 票?と、問い返すと、不思議な青年は不思議な笑みを浮かべて頷いた。
 「・・・・・・以前いた場所でも、何度か大きな災害があって、全国に報道されたもんだけど、何年か経って見ると、そこの市長が災害時に活躍していた人に変わっていたりするんだよね。
 私は多分、被災して死んだんだと思うんだけど、もし助かっていたら、救ってくれた人にとても感謝するだろうし、その人が市長選に立候補していたなら、投票しただろうなぁ」
 そう言って、笑った彼の言葉は、半分以上が聞き慣れない言葉ではあったけれど、言わんとするところは理解できたと、英華は思う。
 下世話な言い方をすれば、恩を売って民を神殿の味方につけると言うことだ。
 尤も、沙羅の行いを見れば、恩を売るまでもなく、民は神殿側に付くことだろうが。
 唇に薄く、笑みを刷きつつ、英華は佳葉市中へと入った。
 その、荒廃した様には、さすがに息を呑まずにはいられなかったが、ここが―――― こここそが、長い間彼女たちが切望して来た南薔の都なのだと思うと、感慨深い。
 彼女だけでなく、神官たちも同じ思いなのだろう。
 隧道を抜けた途端、その歩みは緩くなり、感慨深げに辺りを見回す者の、なんと多いことか。
 彼らの中には、この地を追われた年配の者もいれば、ここが南薔の地とは知らずに育った若者もいる。
 そんな様々な者の、様々な思いを率いて、英華は一団を市中深くへと導いた。
 幼い日、南州候と言う栄光に包まれた母に連れられ、辿った王宮への大道は、見る影もなく荒れ果てていたけれど、それでも、感動は熱く胸を潤した。
 「では、用意を」
 指示を下すや、各所に散って行った神官達を見送ってしまうと、英華の目は自然とかつての王宮へと吸い寄せられた。
 今でも思い浮かべることができる、光り輝かんばかりに美しかった薔家の王宮。
 色鮮やかな支柱に支えられた甍(いらか)は陽光を受けて輝き、清流がせせらぎを奏でつつ、いくつもの宮殿の内外を巡る。
 精緻な細工を施された飾り窓からは、豊かな水に冷やされた風が吹き込み、暑熱に気だるげな人々に涼を与えていた・・・・・・。
 この荒廃した都の中にあって、王宮は今、どのような姿をしているのだろうかと、英華は各所が崩れ落ちた城門を見上げたが、城壁の上には、陽光に槍の穂先を煌かせる兵がいるばかりである。
 「母上」
 息子に促された英華は、軽く頷いて、城門から視線を引き剥がした。
 「ここで報告を待ってらっしゃいますか?」
 他人行儀な口調の息子に、英華は薄く微笑んで首を振った。
 「いえ、私も市中を巡ってみたいわ」
 彼女の役目は、神官の一団を率い、佳葉に入城することと、市中の状況を確認し、カナタへ報告書を送ることである。
 市中にどれだけの被災者がいるのかを確認し、必要に応じて応援要請をする―――― そのためには、彼女自身の目で被害を見て回る必要があった。
 「行きましょう」
 道と言う道が瓦礫に覆われているため、馬は使えない。
 英華と英毅の後ろに、幾人かの神官たちが従い、ゆっくりと歩き出した。
 歩むたび、夢に描いていた王都とはあまりにもかけ離れた現実に、自然、神官たちの歩みも遅くなる。
 「どうしました?」
 振り返った英華の、苦笑気味の声に、神官たちが口篭もった。
 そんな彼らの上に、
 「予想外の事でもなし、がっかりすることはありませんよ」
 と、一際、淡々とした声が降り注ぐ。
 見上げれば、身軽に瓦礫の山を駆け上がった英毅が、小高い場所から無表情に辺りを見回していた。
 「峭州も、王宮を除けばこんなものだったじゃありませんか。それが、六年の間になんとか体裁は保てるようになった」
 少数とは言え、何度も攻め入ってきた前南蛮王を、その度に撃退するほどには、軍も強くなっている。
 「佳葉を奪還したと知れば、他国の支配に甘んじていた州も、南薔に傾く。人が集まれば、復興も早い。そうでしょう?」
 彼を知らない人間が聞けば、なんと楽天的な言い様かと驚いたことだろうが、彼は決して、楽天的な人間ではない。
 かつて、南州候の位に擁されながら、南蛮の支配に甘んじ、母にその位を追われた―――― その記憶は決して薄れることなく、彼から楽天的な思考と言うものを奪ってしまった。
 以来、ただ、現実のみを見つめるようになった目は、母よりもむしろ、筝の影響を受けているかもしれない。
 彼は、他国に支配される以前の南薔を知らない世代として、淡々と目の前の光景を受け入れた。
 「ですが・・・そうなる前に、再び南蛮の侵攻にさらされるのではありませんか?」
 英毅とは逆に、目の前の光景に気をくじかれたものか、不安げな声を上げる神官を、彼は静かに見下ろす。
 「新たに南蛮王となった傑王―――― 彼はまだ、幼い。
 臣下達も、未だ緻胤太后の他に、宮廷をまとめる者を見出せずにいる。こんな時に、他国に侵攻する余裕はありません」
 枢蟷器が―――― と、耐えかねたようにあがった声にも、英毅は表情を揺らがせることはなかった。
 「彼が、自身の手で東蘭をまとめるつもりなら、この時期、専横を見せつけるような真似はしない。
 今はただ、一臣下である事に甘んじ、政事堂の決定を待って、王の摂政となることでしょう」
 明日の天気の話でもするかのように淡々と語る英毅の姿は、筝によく似ている。
 「第一、東蘭も西桃も・・・いや、実のところは南蛮さえも、佳葉を欲してなどいない」
 「英毅・・・・・・いくらなんでも、それはないでしょう?」
 佳葉は、南薔国のほぼ中心に位置し、南薔を巡る全ての街道が接する場所でもある。
 そんな交通の要衝を、他国が欲しないわけがない。
 そう言う英華に、英毅は冷然と首を振った。
 「現在、この国が荒れている為に、危険な陸路は敬遠されています。
 他国が欲しているのは、海路の要衝である繁葉のみ。極言すれば、あの町の外は全て、邪魔な土地です」
 領土が増えれば、確かに税収は増えるが、今の南薔のように盗賊が跋扈する土地では、それらを取締る兵を派遣する方が高くつく。
 その上、今回のような災害が起これば、救援のための物資も運ばなければならず、損得で言えば損の方が遥かに多いのだ。
 「今頃、東蘭も西桃も、我らが厄介ごとを引き受けてくれたと、諸手を上げて喜んでいることでしょう―――― その程度なのですよ、ここはね」
 英毅の言葉に、彼と同じ世代の神官たちは深く頷き、彼の母親より上の世代の神官たちは、承服しかねるように表情を曇らせた。
 「なんにしろ、我らにはその方が好都合です。
 完全に復興するには、何年かかるか知れませんが、いつかは元通りになるかもしれませんね」
 ならなければならないで、別にかまわない、という、冷めた口調ではあったが、彼の言葉に、神官たちは確かに勇気付けられた。
 「・・・・・・では、参りましょうか」
 一人、息子の言葉に共感し得なかった英華が、薄い笑みを浮かべつつ促し、彼女の率いる一行は再び歩き出した。
 彼女達が歩を進めるごとに、足下の瓦礫が音を立てる。
 壊された者達の悲鳴か、再生を願う祈りの声か―――― 時折高く、発せられる音にただ耳を傾け、彼女達はかつての都を歩きつづけた。




〜 to be continued 〜


 










今回、あんまり注釈とかコメントとか、書くことないです;
強いて言えば、沙羅一人を悪人にする展開は、自分的にあまり好きじゃない、って事ですか;
ワガママ度で言えば、緻胤も蟷器もカナタもかなりのものですしね(苦笑)
くれは、子供好きな方なんで、傑がかわいそうだったかなぁと・・・・・・。
自分でもよく分からないのですが、傑と蟷器のシーンを書きつつ泣いていたのが不思議でした;












Euphurosyne