† Feeling Fine †
その日、ジョニー・ギルとタップ・ドップの二人は、黒の教団北米支部支部長、レニー・エプスタインに呼び出された。 女性にしては体格のいい支部長は、きれいにマニキュアを施した指で、広いデスクの上に置いた2枚の紙を示す。 「辞令よ。 アンタ達、本部科学班に行きなさい」 「やっっっったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」 途端に上がった歓声に、レニーはうるさげに耳を塞いだ。 「・・・そんなに嬉しいかしらね。 アンタ達にとっては、ここでアタシの化粧品開発でもしてた方が、シアワセだと思うけど?」 やや意地悪く笑う彼女に、二人は歓声を止めて汗顔を伏せる。 「えっ・・・イ・・・イヤ、それはさすがに・・・!」 「べっ・・・別に、支部長の元がイヤなわけじゃないっすけど・・・!」 「ふふん・・・まぁいいわ。 北米支部科学班研究員、ジョニー・ギル。タップ・ドップ」 口調を改めたレニーの前で、名を呼ばれた二人は慌てて背筋を伸ばした。 「本日付けで、黒の教団本部科学班への異動を命じる。 北米支部の名を汚さぬよう、しっかりと勤めるように。 ・・・アンタ達、申請したって中々いけるトコじゃないんだからね。 泣いて戻ってきたら、承知しないわよ?」 「はっ・・・!」 「はいっ!!」 軽くウィンクしたレニーに、興奮した声が返る。 「ま・・・がんばってらっしゃい」 「はいっ!!」 レニーの表情が苦笑気味なことにも気づかず、二人は大きな声を揃えた。 辞令を受けて間もなく、二人はアメリカ発ヨーロッパ行きの船に乗った。 長い間船に揺られた後、間もなく入港と聞いた二人は、いてもたってもいられなくなって甲板に出る。 噂に聞いていた通り、白い岸壁が段々と迫ってくる様に、二人は目を輝かせた。 「楽しみだなぁ〜 俺、ヨーロッパって初めてだよ 頬を紅潮させてはしゃいだ声をあげたジョニー以上に、タップはうきうきと声を弾ませる。 「やっぱ、ヨーロッパは食い物うまいんだろうなぁ・・・ 俺もう、今から楽しみで 「それに、本部科学班って言ったら、世界中のエリートが集まるんだよな へへっ・・・ 俺がその仲間入りだなんて、まだ信じられないよ 「お前はな♪ 俺は自信あったけど!」 タップのからかい口調に、ジョニーが頬を膨らませた。 「自信過剰じゃないといいけどなっ!」 「へへん♪お前なんかにゃ負けねーよ!」 「そりゃこっちの台詞だ!!」 つかみ合いのケンカを始めた二人を遠巻きに、しかし、同じく船の入港するさまを見ようと、乗客達が甲板に集まってくる。 港には、船を迎える人々が集まり、こちらに向けて大きく手を振っていた。 それに乗客達も応え、歓声が沸く。 「いよいよだな・・・っ!!」 「あぁ!!」 互いの胸倉を掴んだまま、二人は締まりのない笑みを浮かべた。 もうすぐエリート中のエリート、黒の教団本部科学班に迎えられる――――!! 期待を詰め込んだ胸は風船のように膨らみ、今にも浮かび上がりそうだった。 「はいっ!いらっしゃーぃ 本部室長のコムイ・リーだよーん♪」 「・・・・・・科学班班長、リーバー・ウェンハムだ」 ハイテンションな室長と憔悴しきった班長に迎えられ、二人はそのあまりにも対照的な姿に一瞬、呆けた。 「レニーんとこの子達だねェ。 彼女から聞いてるよん♪ 中々根性のある子達だから、馬車馬のように働かせるがいいよって!」 自分の言ったことにウケて、大声で笑う室長に反し、班長はげっそりとした顔を半ば俯け、深々と吐息する。 「よ・・・」 「よろしくお願いします・・・・・・」 班長の様子に、期待の風船をややしぼませながらも、二人は引き攣った声で挨拶をした。 「ほんじゃ、早速案内するよー リーバー君!しゃんとしてホラ! キミの部下になる子達なんだから、不安にさせちゃダメじゃないー」 「あぁ・・・ハイ・・・・・・」 ため息交じりの声に、既に不安を覚えつつ、二人は上司達の後に従う。 と、長身の室長は、浮かれたようにも見える軽やかな足取りで、城の奥へと進んでいった。 「キミ達も、レニー支部長から大体のことは聞いてると思うけどー。 ここは本部だからね? 支部とは、処理する情報量も研究対象のレベルもケタ違いだから、最初はかなりキツイと思うよー?」 耐えられる?と、いたずらっぽい口調での問いに、ジョニーとタップは大きく頷く。 「大丈夫っす!!」 「体力には自信があります!!」 気合に満ちた大声は回廊中に響き、コムイを更に愉快がらせた。 「若いってイイネー ホラホラ、リーバー君もまだ若いんだから、負けちゃダメじゃなーぃ 「えぇ・・・わかってます・・・」 そうは言いつつも、若き上司は今にも倒れそうな顔色をしている。 「ど・・・どっか悪いのかな・・・?」 「胃は・・・悪そうに見えるな・・・」 こそこそと囁き交わしつつ、ジョニーとタップは時折向けられる問いに答え、いよいよ・・・本部科学班に入室した。 「ここが・・・!」 壁一面に詰め込まれた膨大な量の書籍。 研究資料は塔のように積み上げられ、世界各国から集まる情報が、次々に機器から吐き出されていた。 その中を、研究者達が機敏に動き回り、その喧騒は部屋中を満たしている。 「本部科学班・・・!!」 とうとうやってきた、と、感極まるあまり、二人の目に涙が滲んだ。 その眼前で、 「ハイハーィ みんなー!ちょーっと注目!ちゅーもく!!」 コムイが手を打ち鳴らし、部屋中の耳目を集める。 「新しい犠せ・・・ごふごふぐふ・・・っ!!」 いきなり咳き込んだ彼に、ジョニーとタップは不思議そうに首を傾げ、リーバーは今にも舌打ちしそうに顔を歪めた。 「もとい! 新人君達だよーん!ヤッホー!!」 途端、部屋中から歓声とも喚声ともつかない声が沸き、新人二人は思わず身を寄せ合う。 「室長!!二人って!!たった二人って!!」 「全っ然足んねーじゃんっ!!」 「班長!! この二人、俺のプロジェクトにくれますよね?!マジ人手足んねぇんすけど!!」 「人手足りねーのはこっちもだ!! 班長!!俺んトコ!!俺んトコが先でしょ?!」 「ざっけんなよテメェ!!優先度は俺だろ!!」 エキサイトした部下達に一斉に詰め寄られ、リーバーはうんざりとため息をこぼした。 「だから・・・こんな焼け石に水な投入、イヤだったんだ・・・」 「ナンダヨー。 いないよりマシじゃなーぃ。 リーバー君も、0より2の方がマシか、って言ったじゃなーぃ」 不満げに口を尖らせるコムイに、しかし、リーバーは今度こそ舌打ちをもらす。 「だからって、どのグループに投入するかも決めてない状況で呼びますか?! こうなることは目に見えてたでしょーが!!」 リーバーが忌々しげに指し示した先では、先輩達の怒涛の勧誘攻撃に怯えきった新人達が、縮こまって震えていた。 その様は、まるで肉食獣に囲まれた小動物のようで、方々から伸びる手にもみくちゃにされた二人は既に、悲しげな泣き声をあげている。 「それもこれも、アンタがレニー支部長からの連絡を周知すんの忘れてたから・・・っ!」 「だーって、レニーがこんなに早く人手割いてくれるなんて思わなかったんだよーん」 いけしゃあしゃあと言い訳するコムイの声に、新人達の悲痛な叫びが重なった時。 「コラー!! やめなさい、みんな!!」 少女の一喝に、新人達をもみくちゃにしていた手が止まった。 「もうっ! 怯えてるじゃない!」 つかつかと歩み寄り、彼らを囲む研究員達を押しのけて現れた少女の、天使のような愛らしさに、二人は思わず呆けてしまう。 「ごめんね、二人とも。 みんな、悪気はないんだけど・・・」 苦笑した顔がまた可愛くて、二人は激しく頷いた。 「私、リナリー・リー。 室長の妹なの。よろしくね」 差し出された手を我先に争って握り、それぞれに自己紹介すると、リナリーはいっそう愛らしく笑う。 「じゃあとりあえず、今は端っこのデスクにでも避難してて――――・・・班長! 二人の配属、まだ悩んでるの?」 肉食獣と化した研究員達から新人達を引き離し、隅に隔離してから、リナリーはリーバーへ駆け寄った。 「ん・・・どこも酷い人手不足だし、優先度としてもなぁ・・・・・・」 そう言って、悩ましげに吐息したリーバーに、リナリーは持っていたファイルを示す。 「だったら、優先度が高くて、専門が合致している所に渡せば?」 「やっぱそうなるかぁ・・・」 「即戦力が欲しいんでしょ? 研修しなくてもいいにこしたことはないじゃない」 勢いよくページをめくりつつ、該当プロジェクトをチェックしていくリナリーの肩越しにファイルを睨みながら、リーバーも頷いた。 「ただそうなると、掛け持ちが多くなるんだよな・・・最初からそれはキツイだろ?」 「ダイジョーブダイジョーブ 二人とも、体力には自信があるって言ってたしぃー リーバーとリナリーの間に無理矢理割込み、リナリーがチェックした部門を確認したコムイが、意地悪く笑みを深める。 「即戦力になれそうなプロジェクトを、一通り渡り歩いてもらおうか。 そうすりゃ適正もすぐわかるよー 「鬼・・・・・・」 新人に対しても容赦ないコムイに、リーバーが頬を引き攣らせた。 「じゃーねっ! ジョニー君、タップ君、とりあえずキミら、今日はリーバー君の直属! 早速こき使われてー 愉快そうに笑いながら、リナリーを連れて執務室へ帰っていくコムイの背を、リーバーが忌々しげに睨み付ける。 「・・・・・・じゃあ、早速」 苦虫を噛み潰したような顔で、リーバーはそれぞれに山積の資料を渡した。 自身らの身長よりも高いそれを見上げ、呆然とする二人を見下ろし、リーバーは深々と吐息する。 「健闘を祈る・・・!」 コムイが『新しい犠牲者』と言いかけたように思ったのは、どうやら気のせいじゃなかったらしいと、二人は呆然と見開いた目と目を見交わした。 新人二人の地獄は、入団当日から始まり、連綿と続いていた。 「きょ・・・で・・・徹夜・・・何日・・・目・・・・・・?」 書類で埋もれたデスクに突っ伏し、息も絶え絶えに問うたジョニーに、同じデスクの対面に突っ伏したタップが力なく応じる。 「たぶん・・・3日・・・・・・」 「ううん!5日だよ! すごいねぇ、二人とも!さすがに来たばっかりで、元気があっただけのことはあるよ!」 一気に魂の抜けそうな言葉を明るい声で言って、リナリーが倒れ伏す二人の傍らにそれぞれ、マグカップを置いた。 「3日でダウンするかなぁって思ってたけど、もう2日オーバーだよ! この調子でがんばって リナリー本人は、励ましているつもりだったろう。 が、新人達は『この上まだ働かせるのか』と、抜けゆく魂を引き止めることができなかった。 「・・・あれ? ジョニー?タップー?」 ピクリとも動かなくなった二人に呼びかけるが、返事はない。 「はーんちょー!二人とも潰れたよー!」 リナリーが部屋中に響き渡るような声で呼びかけると、リーバー始め、意地の悪い先輩達がクスクスと笑い出した。 「まぁまぁがんばった方か?」 「5日じゃまだまだ甘ぇよ」 「6日に賭けてたんだが、一日足りなかったか・・・」 残念そうな声に応じて、新人達の目からは巧妙に隠されていた賭け用掲示板が引き出される。 「5日に賭けた奴!配当すんぞー!」 呼びかけに応じてわらわらと寄って行く部下達に苦笑し、リーバーは意識のない新人達に歩み寄った。 「二人一緒なら、俺の記録を抜けるかと思ったんだがな」 「最高記録は班長の10日で不動だね クスクスと、リナリーが軽やかな笑声をあげると、手付かずのまま置かれたマグカップを取った部下達が、乾杯の真似をする。 「よっ!タイトルホルダー!」 「嬉しくねぇよ」 きっぱりと言って、リーバーは搬送機を持って来させた。 「二人とも、部屋に放り込んどけ」 「アイサー♪」 楽しげな返事と共に、新人達は荷物扱いで搬送機に乗せられ、研究室を出て行く。 「これでへこたれなきゃ、合格だな」 「起きた時が、本当の勝負だね!」 わくわくと期待に目を輝かせるリナリーの頭を、リーバーは苦笑して撫でてやった。 目を開けると、見慣れない天井があった。 かなりの時間、ぼーっとしつつ記憶を整理し、ジョニーはようやくここがどこだか思い出した。 「本部か・・・・・・」 レニー支部長にも、コムイ室長からも、『厳しい所だ』とは聞いていたが、聞きしに勝るとはこのことだ。 疲労のあまり、あちこち軋む身体をやっとの思いで起こして、ジョニーは深々とため息をついた。 「俺・・・やっていけるかなぁ・・・」 再びため息をこぼすと、彼の耳元で黒い通信ゴーレムが激しくベルを鳴らす。 「うわっ?!はいぃっ?!」 『いつまで寝てんだ!とっとと仕事しろ!!』 「はいぃぃぃぃっ!!」 ゴーレム越しに怒鳴られるや、慌ててベッドを出、素早く着替えると、ジョニーは悩む暇も与えてくれない職場へと走っていった。 「遅い!!」 「すんませんっ!!」 反射的に謝りながらデスクに駆け寄ったジョニーは、5日間寝ずにがんばって処理したはずの書類が、更にうずたかく積まれている様を呆然と見上げる。 「あの・・・これ・・・・・・」 「お前が寝てる間に寄せられた報告書。 手際よくさばいてかねぇと、溜まる一方だぞ」 「うぁ・・・はい・・・・・・」 ―――― 俺、北米支部じゃ一番手際いいって言われてたのに・・・。 支部とはケタ違い、とは初日に言われたことだが、まさか、ここまで異世界だとは思わなかった。 「ぼーっとすんな、コラ!」 すぱんっと後頭部をはたかれて、我に返ったジョニーはわたわたと処理を開始する。 と、その目の前を、タップが膨大な量の資料を抱えて走っていった。 「兄さん、入るよ?」 リナリーが兄の執務室にコーヒーを運んでいくと、思った通り、そこにはリーバーの姿もあった。 「よかった、班長の分も持ってきて!」 にこりと笑って、リナリーは兄に続き、リーバーにもコーヒーを渡す。 と、 「どぉ? がんばってるぅ、二人とも?」 一口コーヒーをすすったコムイが、やや意地悪な笑みを浮かべて問うた。 「うん! 昨日は丸一日潰れてたけど、今日はがんばってるよ」 「そっかぁ・・・じゃあ、レニーにお礼いっとかなきゃ! 優秀な人材を2人もくれるなんて、気前いいよねー♪」 「今回は長持ちしそうだしね さらりと無情なことを言ったリナリーに、リーバーが眉根を寄せる。 「人聞きの悪い・・・まるで、ウチが人材を使い捨てにしてるみたいじゃないか」 「だーって、あちこちの支部から『最高の人材』は来たけど、みんな3日以内に潰れちゃって、泣きながら帰っちゃったじゃない」 「・・・・・・そうだけどよ」 眉間の皺を更に深くしたリーバーに笑いかけ、リナリーはソファに腰をおろした。 「支部とは仕事量が桁違いらしいから、辛いのは仕方ないけど・・・始めのうちはもうちょっと楽させてあげたら?」 「お前・・・俺が新人いじめしてるとでも思ってんのか?」 「違うよ。 班長じゃなくて、兄さん」 「ふぇっ?!ボク?!」 頓狂な声をあげて目を見開いたコムイを軽く睨みつけ、リナリーが頷く。 「新人さん達が慣れるまでは、お仕事サボっちゃダメ!」 わかった?!と、畳み掛けられ、コムイはコクコクと頷いた。 「わかったよ・・・しばらくがんばってみる」 人材確保のためだもんね、と、眉根を寄せたコムイの代わりにリーバーが愁眉を開く。 「グッジョブ!」 「えへへ マグカップを掲げて敬意を示すリーバーに、リナリーは得意げに笑った。 「あれ・・・?減ってる・・・・・・?」 積み上げられた書類の量が、昨日の半分程度しかないことに気づいて、ジョニーは呆然と呟いた。 と、背後からぽす、と、大きな手が頭に乗り、わしわしと撫でられる。 「リナリーに礼を言いな。 あいつが兄貴に、お前らが慣れるまでは仕事サボんな、って言ってくれたんだからさ」 「え・・・そうなんすか?!」 リーバーの言葉に振り返れば、慌しく行き交う研究員達の間を、リナリーが蝶のように軽やかに立ち回っていた。 「可愛いのは顔だけじゃなかったんだぁ〜〜〜〜!!!!」 戦場に降り立った天使を見るかのように、頬を紅潮させて涙ぐむジョニーに、リーバーはふと危険を感じた。 「忠告すんの忘れてた」 タップも、と、目の前を駆け抜けようとした彼の襟首を掴み、軽々と引き寄せる。 やつれ果てたリーバーの、意外な膂力に目を丸くする新人達を並べ、リーバーはしかつめらしい顔で言った。 「いいか、この科学班に・・・いや、教団本部に属する男には、決して破っちゃならないルールがある!」 上司のただ事ではない様子に、二人が思わず息を呑むと、リーバーは更に目つきを鋭くし、彼らに迫る。 「いいか、命が惜しければ・・・これは冗談でも比喩でもない。 本気で命が惜しければ、リナリーには決して、手を出さないこと!」 「・・・・・・はい?」 あまりにも意外な言葉に、二人は揃って首を傾げるが、しかし、リーバーはなおも表情を厳しくした。 「そんなこと、と思っただろう? だがな、これはこの本部で、最も重要なことなんだ。 室長は、リナリーを異常なほど溺愛している。 彼がこの教団に来て以来・・・リナリーに懸想した男は全員闇に葬られ、未だ生存の確認すら取れていない」 「はぅっ?!」 声を引き攣らせて手に手を取った新人達を厳しく見遣り、リーバーは深く頷く。 「いいか? 何度も言うが、これは冗談じゃない。 命が惜しければ、決してリナリーには、必要以上に近づくな」 「ふぁ・・・!」 「ふぁい・・・・・・!!」 真っ青になって震えながら、何度も頷く二人に、リーバーはもう一度、深く頷いた。 ―――― ジョニーとタップの二人が教団本部へ異動して、辛く厳しい職場もそろそろ一月が経とうとする頃、コムイはようやく、彼らの元上司に連絡を入れた。 「やほーレニー♪ げーんき?」 『相変わらずよ。 それより、どう?ウチから行った子達、ちゃんとやってる?』 やや性急に彼女が問うと、コムイは受話器を持ったままウンウンと頷く。 「すーごいよー♪まだ生きてるー 『・・・死亡前提で話すのやめてよ』 苦々しげな口調の彼女に、コムイは楽しげな笑声をあげた。 「冗談はともあれ、いい人材をありがとー おかげで団服の件、ボクが考えなくてよくなったー 『あら・・・』 コムイの言葉に、レニーの声が笑みを含む。 『もうグループを任せてもらえるようになったの、あの子達?』 「ウン、ジョニーの方だけど。 得意そうだったし、何より、本人がやりたがったからね。 通常業務に加えて、団服研究主任♪」 エクソシストの身を、直接に守ることになる大役を受けたと知って、レニーは楽しげに笑った。 『それは出世ね。 まぁ、殺さない程度に使ってやって』 「もちろん、殺しはしないさー 部下は生かさず殺さず、と、物騒な共通認識を持った二人は、愉快そうな笑声をあげる。 『じゃあ、約束は守ってもらうわよ。北米支部の研究予算、上げて』 「ハイハイ、もちろん守るともー それでねー? よかったら、もう2〜3人追加・・・」 『死ね』 冷たい言葉と共に、一方的に切られた電話を、コムイは哀しげに見つめた。 一方、研究予算と引き換えに本部に売られたとは知らない新人達は、ここに来て以来、まだ数回しか足を踏み入れたことのない食堂で、食後のチェスに興じていた。 「なんとか・・・あの仕事量にも慣れてきたかなぁ・・・」 「まぁ・・・メシ食うだけの余裕はできるようになったな」 ジョニーとタップが、話しながらリズミカルに駒を動かしていく手に、行き交う団員達が感心したように目を止める。 「こうして、チェスする余裕もできたし?」 「・・・ってか、仕事ばっかしてると、頭の回転が鈍くなるんだよ」 ため息混じりに呟いたジョニーに、タップが頷いた。 「言えてる」 にやりと笑って、ジョニーのクイーンを取り上げると、彼はムッと唇を尖らせる。 「勝負を急ぐと後悔するぜ?」 「この展開で、今更だろ」 瞬く間に戦況の変化していく盤上に、立ち止まった団員達が感嘆の目を向けていた。 「さぁ、次の手でチェック・・・」 「チェック・メイト!」 タップが駒を進めるや、ジョニーがクイーンに転化したポーンを進めて、にやりと笑う。 「んな――――?!」 「あーっはっはっは!! だから、勝負を急ぐなって言ったんだよーん♪」 膝を叩いて高笑いするジョニーに、周りから拍手が沸いた。 いつの間にか、大勢のギャラリーを集めていたことに驚いたジョニーの肩を、その時、大きな手が叩く。 「ほぇ?」 「アンタ、強いんだな。 俺と勝負しないか?」 黒衣に身を包んだエクソシストの挑戦に、一瞬、驚いた顔をしたジョニーは、にんまりと笑った。 「この勝負を見て挑んでくるって、随分自信があるんだな?」 「それはどうかな・・・」 首を傾げた所作を謙遜と見て、ジョニーは対面からタップをどかせる。 「さぁ!やろうぜ!」 連勝だ、と、気合十分に駒を進めた彼は、間もなく、盤上に落とした目を丸くした。 「・・・・・・・・・・・・弱ぇ」 「うるさい!!」 あっという間にチェック・メイトまで来てしまった展開に、ジョニーだけでなく、ギャラリーからもため息が漏れる。 「普通、このレベルじゃ挑まねぇだろ・・・」 タップにまで呆れ顔で言われ、エクソシストは耳まで真っ赤になった。 「こっ・・・今回はちょっと読み間違えただけだ! 次は負けん!!」 絶叫するや、駒を並べ出した彼に苦笑し、ジョニーも駒を並べる。 「読み間違えたってレベルじゃないと思うけ・・・どぉぉぉぉぉぉぉぉっ?!」 「いつまで遊んでんだ、テメェらは!!」 耳をつまんで吊り上げられ、ジョニーが悲鳴をあげた。 「は・・・班長!!」 「休憩時間は終わってんだろうが! とっとと仕事に戻れ!!」 慌てて席を立ったタップにも怒鳴りつけ、リーバーはさっさと踵を返す。 「昨日までに届いた報告書の処理、今日中に終わらせらんなかったら、また連日徹夜決定だぞ」 「ひぃっ!!」 鉄壁のスケジュール管理を誇るリーバーの指摘に、ジョニーが痛む耳を押さえ、慌てて彼の後を追う。 「あっ!!おい、勝負は・・・!」 「そんな暇ないよっ!また今度ね! えっと・・・?」 「スーマン。 エクソシストのスーマン・ダークだ」 振り返りざま、首を傾げたジョニーに、エクソシストは名乗った。 「オッケー、スーマン! 俺、科学班のジョニー・ギル! 次やる時までには、ちょっとはウデ上げてろよ!」 「やかましい!!」 真っ赤になって怒鳴るスーマンに、ジョニーは楽しげな笑声をあげる。 と、 「とっとと来いっつってんだろ!!」 またリーバーに怒鳴られて、慌てて科学班へと戻って行った。 「ねぇねぇジョニー? 最近、スーマンとよくチェスしてるんだって?」 リナリーに興味深げに問われ、ジョニーは苦笑して頷いた。 食堂での初対決からもう幾度か、彼とはチェス盤を挟んで戦っている。 「偶然なんだけど、俺ら部屋も近くてさ。 あいつが城にいる間は、部屋に戻る度に捕まって、無理矢理ゲームさせられてんだ・・・。 俺、部屋には寝に帰ってるんだっつーのに・・・」 寝不足の目をこすりつつ、ぶつぶつと漏らすジョニーに、リナリーが大きな目を見開いた。 「ホントに仲良くなったんだぁ」 すごい、と、感心する彼女に、ジョニーは首を傾げる。 「なんで?」 「だって・・・スーマンって結構、一人が好きって言うか・・・」 神田ほどじゃないけど、と、リナリーは言葉を濁しつつ苦笑した。 「ふぅん・・・話してみると、わりと気さくな奴だよ? まぁ、すっげ負けず嫌いらしくて、ムキになって勝負を挑んでくるのが困りものだけどさ」 「へぇぇ・・・!」 リナリーはジョニーを感嘆の目で見つめ、更には期待に目を輝かせる。 「ジョニー・・・! スーマンと仲良くなれるあなたになら、可能かも!」 「へ?なにが?」 リナリーのただ事ではない期待度に、やや引きながらジョニーが問うと、彼女は両手を組み合わせ、ジョニーが引いた距離を詰めた。 「今日ね、神田が帰ってくるの!」 「誰?」 聞いたことのない名に、ジョニーが首を傾げると、リナリーは深いため息を漏らす。 「キング・オブ・排他主義のエクソシストだよ。 ・・・ううん、キング・オブ・孤高? いえ、唯我独尊かしら?」 「言いたいことはよくわかった・・・」 リナリーが並べる言葉の数々に、どういった人物かを垣間見て、ジョニーは苦笑した。 「で? 俺にどうしろって?」 「神田と仲良くしてあげて!」 リナリーの、まるで保護者のような言い様に、ジョニーは苦笑を深める。 「わざわざ言われるまでもないよ。 俺はここに来たばっかりだけど、みんなと仲良くしたいと思ってるよ?」 「その程度の覚悟じゃダメな子なんだよ、神田は・・・」 深々と吐息するリナリーに、ジョニーの苦笑が引き攣った。 「だから・・・ね?」 再び、期待に満ちた目で詰め寄られ、ジョニーは思わず、数歩を退く。 「お願いだから、がんばって!」 引いた距離を詰められた上、手を取られて『お願い』されてしまい、ジョニーはもはや、頷くしかなかった。 ――――・・・一体、どんな奴だろう? リナリーがあれほど言うのだから、人慣れない野生動物のような子供に違いない、と思っていたジョニーは、数時間後、科学班に現れたエクソシストの姿に、ぽかんと口を開けた。 「お帰り、神田。 順調に行ったみたいで良かったな」 「あぁ・・・」 声をかけたリーバーにそっけなく頷き、報告書を手渡す彼は、野生動物どころか、少女と見まごうばかりの秀麗な少年だ。 しかも、 ―――― 明らかにリナリーより年上だろぉぉぉ?! 愕然と顎を落とし、ジョニーはにこにこと神田の側に付き添うリナリーを見遣った。 彼女が『子』だなんて言うものだから、てっきりリナリーよりも年下だと思っていたのだ。 「? どうした、ジョニー?」 リーバーに訝しげな顔で見られ、ジョニーは慌てて首を振った。 と、リーバーはタップも呼び寄せて、新人二人を神田に紹介する。 が、 「別に、誰が入ろうと興味ねぇよ」 あまりにも冷淡に言われ、ジョニーはようやく、リナリーが言っていた意味を理解した。 ―――― 確かにこれは、『その程度の覚悟じゃダメな子』だな・・・。 隣を見れば、タップはあからさまにムッとしている。 思わず苦笑すると、ジョニーは拒否されることを覚悟で手を差し出した。 「俺、ジョニー・ギル。 こないだ室長に許可もらって、団服の担当することになったんだ。 なんか、希望とかあったら遠慮なく言ってくれ」 にこやかに話しかけたジョニーに、彼は少し驚いたような顔をして、差し出された手をちらりと見遣る。 が、すっと上がった手はジョニーの手を握ろうとはせずに、自身の襟元に触れた。 「デザインなんかはどうでもいい。 だが、実用的に願いたい。 俺は、剣は剣でも日本刀を使うから、叩きつけるよりも斬る方を重要視する。 スピードを殺さず、かつ、接近戦に向いたものを頼みたい」 淡々と要望のみを述べた彼に、ジョニーは笑って頷く。 「簡潔に言ってもらって助かるよ。 じゃあ、早速試作品を作ってみるから、試着時にでも感想を聞かせてくれ。 俺、今までの不満点を全部改良していくよ」 「了解した」 すんなりと頷き、踵を返した彼の背に、ジョニーは差し出したまま、握られることのなかった手をひらひらと振った。 その様を呆然と見ていたリナリーが、感嘆のあまり声を詰まらせる。 「・・・クロコダイル・ダンディ、二人目!」 「一人目は俺かい」 ぱす、と、リーバーがリナリーの頭をはたくと、彼女はあっさりと頷いた。 「だって、班長の他に初対面で神田と普通に会話できる人がいるなんて!」 「お前が奴のこと、『お願い』って言ったんじゃなかったっけ・・・?」 「そうだけど! ホントにこんなに簡単に・・・さすが、スーマンとお友達になれるだけあるよ!!」 いやに感心するリナリーに苦笑しつつ、ジョニーはタップを見遣る。 「アイツ、見た目はまだ子供だけど、中身は大人だよ。 仕事の話しかしなかったもん」 と、タップもムッと引き結んでいた口元に苦笑を浮かべて頷いた。 「だな。 しかも、指示が的確だ。 アイツとは『仲良し』って言うより、『同僚』で付き合った方がよさそうだ」 「ベタベタされるのが嫌いなタイプだな」 そうでしょ?と、ジョニーが笑ってリーバーを見遣ると、彼も笑って頷く。 「リナリーの考えていたこととは、ちょっと違うだろうが、上手くやっていけそうだな」 「はい!」 声を揃えて頷いた新人達に、リーバーは満足げに笑い、リナリーは少し不満げに、頬を膨らませた。 「――――・・・ってなわけで、正式に俺が団服担当になったんだよ。 お前も、なんか希望があったら言ってくれよな!」 楽しげに言って、ビショップを取り上げたジョニーに、イライラと盤上を見つめていたスーマンは苦々しげに答えた。 「そのビショップ、返せってのは?」 「不可 ジョニーが楽しげな笑声をあげると、スーマンの眉間の皺が、更に深まる。 「なぁなぁ、もういい加減、降参したら? ここまで来ると、いくらお前でも負けは読めてるだろ?」 「うっ・・・うるさい!!」 盤に駒を叩きつけるようにして、乱暴に一手を勧めたスーマンに、ジョニーはにんまりと笑った。 「じゃあ、チェック・メイトかけちゃうよーん♪」 「くっ・・・!!」 とうとう逃げ場を失くしたスーマンは、悔しげに唇を噛んでジョニーを睨みつける。 そんな彼に苦笑して、ジョニーは軽く首を傾げた。 「任務かなんかで、ヤなことでもあったのか?」 「・・・なぜ?」 「ん。 なんか今日、手が荒れてたからさ」 駒を並べ直しながらさりげなく問うと、スーマンは深く吐息する。 「・・・任務じゃない。 娘が・・・また悪くなったみたいなんだ」 「えぇっ?!ジェイミーが?!」 チェスの勝負を重ねる間に、幾度となく聞かされた彼の娘の容態に、ジョニーが気遣わしげに眉根を寄せた。 「ど・・・どう悪いんだ?!」 「今年は中々暖かくならないそうで・・・病気で体力をなくしている上に、風邪までこじらせてしまったらしい」 「そ・・・そか・・・・・・。 そりゃ、心配だよな・・・・・・」 我がことのように気遣わしげなジョニーに、スーマンはちらりと笑う。 「身体の弱いあの子のため、空気のいいところに、って理由で選んだ土地だったんだが・・・。 気管支に悪いからって、俺が別れ際に贈ったぬいぐるみも取り上げられたらしいからな」 「そんなに悪いんだっ?!」 盤の向こうから身を乗り出したジョニーに、スーマンは眉根を寄せたまま頷いた。 「少し前まではだいぶ元気になって、動物を飼いたいと言っていたらしいんだが、それも無理だな・・・」 「そんなぁ〜・・・! ジェイミー、可哀想に・・・・・・!」 「・・・なんでお前が泣くんだ」 涙ぐんだジョニーにスーマンが呆れて問うと、彼は派手にしゃくりあげる。 「だっでっ! まだちっちゃい子なのに、病気で外にも出られないで、パパのぬいぐるみまで取り上げられてっ!!」 可哀想っ!!と、我がことのように嘆くジョニーに、スーマンはまた苦笑した。 「・・・こんな時くらい、ついててやりたいんだけどな」 「だよな・・・・・・」 スーマンの嘆息にジョニーも頷いたが、しかし、エクソシストであるスーマンは、そう簡単に家族の元に戻ることなどできない。 「なんとか・・・・・・」 してやりたい、と、呟いたジョニーは、ふと涙目をあげた。 「なぁ・・・スーマン。 お前がジェイミーにあげたぬいぐるみ、気管支に悪いからって取り上げられたんだよな?」 「ん? あぁ、そうだな・・・」 スーマンが頷くと、ジョニーは椅子の背もたれに背を押し付けて、俯き加減にぶつぶつと呟き出す。 「ぬいぐるみの繊維・・・中身の綿、もしくはおがくずか・・・。 ドクターがどれをアレルゲンと判断したかはともかく、それを遠ざけてジェイミーの症状が安定したんなら・・・・・・」 「ジョニー? お前、なに言ってんだ?」 スーマンが訝しげに問いかけると、ジョニーは椅子を蹴って立ち上がった。 「スーマン、ジェイミーを診てるドクターの連絡先、わかるよな? 俺、ドクターにジェイミーのアレルギーチェックしてもらおうと思うんだけど、いいかな?」 「は? ア・・・アレルギー?」 ジョニーの話についていけず、目を丸くするスーマンに、しかし、ジョニーは力強く頷く。 「唯一の友達まで取り上げられたなんて、ジェイミーが可哀想すぎるだろ?! アレルギーチェックに引っかからなかった素材を使って、俺がぬいぐるみを作ってやるよ!」 「そ・・・んなものが、あるのか・・・・・・?」 スーマンの問いに、ジョニーはまた、大きく頷いた。 「それと・・・これは秘密だけど、さ・・・」 ひそひそと、声を潜めたジョニーに耳打ちされ、スーマンはこれ以上無理なほど目を見開く。 「まさか・・・本当に?」 と、ジョニーはにんまりと笑った。 「まだ下っ端だけど、俺だってこのくらいはできるんだぜ?」 インテリなめんな!と、ジョニーは大仰に胸を逸らす。 「頼む・・・!」 両手でジョニーの手を握ったスーマンに、ジョニーは得意げに笑って頷いた。 ―――― それから約、一月後。 そわそわと通信ゴーレムをいじるスーマンに、ジョニーとタップは苦笑した。 「おいおい、あんまいじるなよぉ・・・」 「ジェイミーからの通信が入る前に壊れちゃうぜ?」 途端、慌てて通信ゴーレムから手を放したスーマンに、二人が吹き出す。 「わっ・・・笑うな!!」 真っ赤になって怒鳴る彼の両脇で、二人はからかうように笑いあった。 「ジェイミーの声が聞きたくて、パパドキドキ 「イヤン 「おっ・・・お前ら・・・っ!!」 更に何か怒鳴ろうとしたスーマンは、ゴーレムが発するベルの音に飛び上がる。 「ジェ・・・ジェイミー?!」 意気込んで話しかけるが、返事は返ってこなかった。 「どどど・・・どうしたんだ?!繋がってないのか?!」 「・・・繋がるか、ボケ」 「お前、ナニ時計に向かって話しかけてんの?」 呆れ声で指摘されたスーマンは、握り締めていた懐中時計を放り出し、ジョニーが差し出したゴーレムを奪い取る。 「ジェイミー?!パパだよっ!!」 『パパ・・・?ホントに?』 ゴーレムから帰ってきた幼い声に、スーマンが思わず涙ぐんだ。 「かっ・・・身体の具合はどうだ?!」 『うん。もうへいき。 ドクターがパパのぬいぐるみ、かえしてくれたよ』 「そっ・・・そうか・・・」 ほっと吐息するとともに、ようやくスーマンの肩からも力が抜ける。 「じゃあ・・・お前の具合がいい時は、あの子を可愛がってやってくれ。 そして、あの子が側にいられない時でも・・・・・・」 今、娘が抱いているだろうぬいぐるみを思い浮かべ、スーマンは笑みを浮かべた。 「その子だけは、側にいてやれるからな?」 ジョニーがドクターを通じ、ジェイミーのアレルギー・チェックをした上で作ったぬいぐるみは、彼女の身体に悪いものをすべて排除した上、こっそりと通信機能をも仕込んでいる。 エクソシストが、個人的に教団関係者以外の者と通信することは禁じられているため、その周波数は、教団が使用するどの周波数ともかぶらないよう、念入りに構築されていた。 彼女の声を受信できるのは、世界で唯一、スーマンのゴーレムだけだ。 『ありがとう、パパ! これ、パパが作ってくれたの?』 ぬいぐるみを抱きしめたのか、ややくぐもったジェイミーの声に、スーマンが表情を和らげた。 「いや・・・仕事仲間だよ」 『パパのおともだち?』 重ねて問われ、スーマンは一瞬、声を詰まらせる。 「そう・・・だな。友達だ」 照れて顔を赤らめるスーマンに、二人はにんまりと笑った。 『ありがとう!』 明るい幼な声に、ジョニーとタップの表情も、だらしなく緩む。 『パパ、またお話できる?』 期待に満ちた声に、すぐさま『いつでも!』と返したくはあったが、それは思い止まらざるを得なかった。 「ごめん・・・。 パパは、お仕事があるから・・・・・・」 苦しげな声に、ゴーレムはジェイミーの消沈を伝えるかのように沈黙する。 「でも・・・! また必ず、連絡するから・・・!」 『・・・うん!』 やや明るさを取り戻した声に、ジョニーとタップは、ほっと吐息して笑みを交わした。 「それじゃ 「後は親子水入らずで ひらりと手を振り、二人はスーマンの部屋を後にする。 長い回廊を、並んで科学班に戻りながら、二人はクスクスと笑声を忍ばせた。 「見ましたか、タップさん スーマンのあの顔 「見ましたよ、ジョニーさん あの強面が、蕩けるもんですなぁ またひとしきり笑って、ジョニーは小脇に抱えたファイルを抱えなおす。 「新繊維の開発、ちょーっと大変だったけど、団服にも応用できて一石二鳥♪」 「新回線の構築、かーなーりー大変だったけど、可愛い声が聞けたから、まぁいっか♪」 にんまりと笑って、タップも工具箱を持ち直した。 「やーっぱ俺ら・・・!」 「デキる奴らだよなー 誰にも言えない努力の結果に大満足して、得意満面で科学班の扉をくぐる。 途端、 「ジョニー、タップ、ちょっとついて来い」 にっこりと笑ったリーバーにそれぞれの肩を叩かれ、二人はすくみあがった。 「な・・・・・・」 「なんっすか、班長・・・・・・」 恐る恐る見上げれば、リーバーの顔は笑っていても、その目は全く笑っていない。 「いいから来い!」 有無を言わせぬ迫力で言い放つと、リーバーは踵を返して先に立った。 怯え、震えながらもその後につき従う二人は、室長の部屋へと導かれる。 と、そこではコムイが、苦笑を浮かべて待っていた。 「ジョニー、タップ。 君達、勝手にゴーレムを改造して、その上、新しい周波数使って回線を構築したでしょ」 問いではなく、確認の口調に、二人はすくみあがって、頷くことも出来ない。 「こっそりやれば、わかんないと思った? でも生憎、本部は支部ほど甘くないんだよねー」 「井の中の蛙どもが、バッレバレなんだよ!」 リーバーに強烈な拳骨を落とされ、二人は頭を抱えてうめいた。 が、 「申し訳ありませんでした、室長」 驚くほど真摯な声で詫び、深々と頭を下げたリーバーに、涙のにじんだ目を見開く。 「俺の監督不行き届きです」 処罰を、と続けた彼に、二人は慌てふためいた。 「そっ・・・そんな、班長は悪くないです!!」 「おっ・・・俺たちが勝手にやったんす!!」 リーバーと並んだ二人は、コムイに対して更に深く頭を下げる。 「申し訳ありませんっ!!」 涙声を揃えた二人に、コムイは吹き出しそうになるのを必死に堪えた。 ややして、 「ジョニー・ギル、タップ・ドップ」 静かな声で名を呼ばれた二人は、それが大音声であったかのようにびくっと飛び上がる。 「処分はリーバー班長と協議の後、連絡する。 今日は自室で謹慎。 以上、行ってよし」 淡々とした口調の命令に恐懼(きょうく)し、二人は顔を強張らせて退室した。 ―――― 途端。 「あーっはっはっは!!」 爆笑し出したコムイに、リーバーも苦笑する。 「さっすがレニーの配下だよー!やること大胆!」 「でも、すぐバレるってことに気づきもしねェ辺り、間が抜けてますよ」 しかつめらしく言って、リーバーは深々とため息をついた。 「ったく・・・来て早々問題行動とはね」 憮然とぼやく彼を、しかし、コムイは愉快げに見遣る。 「その点では、ボクら人のこと言えないんじゃないかなぁ〜? この教団に入った途端、旧体制をぶっ潰したのは、ボクとキミだよん?」 「そうっすね・・・」 思わず苦笑を浮かべたリーバーは、慌てて口元を引き締めた。 「それより・・・どう対処しますか?」 話を無理やり戻した彼に、コムイは未だ笑いつつ頷く。 「それなんだけど・・・目的はともかく、今回は彼ら、いい結果出したんだよねー」 「新繊維の開発と、新しい周波数を使った回線の構築っすね」 「うん。 これさぁ、即行で実用化させてくんない?」 「つまり、どっちも安定するまで開発続行命令ですか?」 「そゆことー リーバーの確認に満足げに頷き、コムイは、意地の悪い笑みを浮かべた。 「好きなことやらせてあげるんだしぃ?寝る暇あげなくていいよねー?」 何よりの『処罰』に、リーバーは今度こそ苦笑する。 「そして俺も奴らに付き合えと?」 「新人君達、ちゃんと監督してあげね 「・・・・・・・・・・・・ハイ」 彼にとっては厳しい処罰に、リーバーはうな垂れるように頷いた。 翌日、自室謹慎を解かれ、科学班に呼び出された二人は、通常業務に加え、新繊維の開発と新回線の構築を本格的に任され、その後数ヶ月の間、寝食もままならない過酷な労働を強いられることとなった。 「オラそこ!死ぬな!起きろ!!」 リーバーに怒鳴られても、しかし、ジョニーとタップは、倒れ伏した机上から頭を上げることが出来ない。 「死・・・死なしてください・・・・・・」 「もう動けねっす・・・残業ムリっス・・・・・・!」 「起きろ! 誰のせいで、俺まで強制労働させられてると思ってんだ!」 容赦なく小突かれ、二人は土気色の顔を上げた。 「ううっ・・・・・・! 世界の繊維が俺を苛む・・・・・・!」 「周波数がー・・・トラフィックが俺を轢いていくー・・・・・・!」 震える手がペンを掴み、びっしりと数式の書かれた紙に、新たな数式が書き加えられる。 「がんばれ新繊維ー・・・!」 「負けるな新システムー・・・・・・!」 互いに互いを励ましつつ、ぶるぶると震える腕が、今にも倒れそうな身体を支えた。 「・・・まだ起き上がる力があるんじゃねぇか。 甘えてねぇで、とっとと結果出せ」 内心、彼らの根性に感心しながらも、リーバーは口では冷たいことを言う。 「さもねぇと、プロトタイプとりあげるぜ?」 途端、二人は目の色を変えて、化学式や数式に集中した。 彼らが開発した新繊維と新回線のプロトタイプ・・・。 新繊維第一号は、未だジェイミーの手中にあり、研究段階の新回線は、『実験』のための特例として、スーマンの使用が許可されていた。 「世界のために、がんばれよ♪」 リーバーの言葉を聞いてか聞かずか・・・。 二人は世界を守る友のために、以後、持てる力の全てを尽くし、科学班に欠かせぬ人材へと成長していった。 Fin. |
| リクエストNo.25『ジョニーの入団初日』でした! このリクをもらったのは、確か4ちゃん襲撃中で、かいんさんに『平和な科学班が見たいよう』といわれたのでした(笑) 最初は『班長入団初日』だったのですが、それはもう書いてしまったので(My.Dear・・・)『ジョニーの入団初日でどう?』と逆提案し、出来上がったのがこれです。 7月2日がジョニーのお誕生日だったため、お誕生日SSではないものの、この日にアップすべくがんばりましたよ(笑) なるべく平和で穏やかな日常と、ジョニーやタップのお人よしっぷりを前面に出して、ほんわかした気持ちになれるように書いてみました。 気に入ってくださったら幸いです。 |