「と・・・とりあえず、みんなに部屋を出てもらうか、何とかロザンヌ様を移動させるかしましょう・・・!」
「なんで?別に、みんながいてもいいじゃん、『美辞麗句』大作戦」
激怒状態のお花様をなだめるには、ひたすら美辞麗句を重ね、愛情表現をする・・・それしかない、と言うラビを、アレンは、じっとりとねめつけた。
「なんであんなイタイ事、人前でやんなきゃいけないんですか!」
「あー・・・さすがのお前でも、イタかったんさ、あれ?」
天然ナンパ少年の、ナチュラルな姿だと思ってた、と、うっかり口を滑らせたラビは、冷ややかな目で睨まれ、慌てて彼らを遠巻きに見つめる者達を振り返る。
「み・・・みんな!激怒状態のお花様は、凶暴になってっから、一旦部屋を出るさ!
リナ!
子供達を連れて、食堂に行ってくれ。あとは俺らが何とかすっから!」
「う・・・うん・・・!クロウリーを呼んで来ようか?」
「いえ・・・知らない顔が増えると、ロザンヌ様のご機嫌の直りが遅くなりますから。僕たちだけでなんとかします」
「え・・・『達』・・・?」
「まさか、逃げるつもりは毛頭ありませんよね、ラビ?」
ギロリと、恐ろしい目で睨まれて、ラビは、反射的に頷いていた。
「はっ!俺、ナニ弱気になってんの?!」
アレンへの仕返しに食人花をプレゼントしたはずが、いつの間にか呪い返しをされている自身に、ラビは心底震え上がる。
が、ラビには気づかれたものの、一度掴んだチャンスを、逃す魔王ではなかった。
アレンは、リナリーが子供達を連れて部屋を出て行ったのを確認すると―――― 無情にも、ラビをお花様の元へと突き飛ばした。
「ぎゃ――――!!!なにしやがる、この悪魔――――!!!」
牙を剥いた食人花への生餌にされ、長い蔓に絡めとられたラビが絶叫する。
「ほら、放してほしかったら愛情表現してください、ラビ」
「てンめぇぇぇぇ!!!最初っから、俺を生餌にするつもりだったさ?!」
牙を剥いて噛み付こうとする花弁を、なんとかよけつつ叫ぶラビに、アレンはあっさりと頷いた。
「今日お会いしたばかりの僕より、種からお育て申し上げた君の方が、ロザンヌ様のお心もほぐれやすいと思いまして」
「この鬼畜っ!!
ベビィ!いや、ロザンヌ様!!美しいレディが、牙なんか剥いちゃいけないさ!な?!
愛してるから、その牙をおさめるさー!!!!」
「へぇ・・・愛情表現、うまくなりましたね、ラビ」
「やっかましいさ、この魔王!!
ロザンヌ様!無礼をはたらいたんは、アレンの頭の上に乗っかってる奴と、もう部屋を出てった黒髪の奴だから!
俺はロザンヌ様のことを愛してんだから、噛み付くのはやめるさ!!な?!」
泣き叫ぶラビの言葉に、アレンも、深く頷いて、頭上のティムキャンピーを見上げた。
「ティム、お前もロザンヌ様の事は知ってるだろ?
お花様は誇り高い方なんだから、ちょっかいをかけちゃだめじゃないか」
そう諭したものの、ティムキャンピーはアレンの頭の上で、つんっと、そっぽを向き、定位置は譲らないとばかり、彼の頭頂でじっとしている。
「まったく・・・なんでこんなに反抗的になっちゃったのかなぁ?」
ブツブツと、アレンがぼやいている間にも、ラビのお花様に対する『愛情表現』は続き・・・・・・深夜前には、どうにかラビは、自由を取り戻すことができた。
「ご苦労様、ラビ 」
「ちっくしょー!!覚えてるさ、アレン!!」
ボロボロになって絶叫するラビは、ケンカをした後の猫のように、ヒステリックに毛を逆立てていた。
「元々は君の罠じゃないですか 人を呪わば穴二つ、って言うんですよ 」
床にへたり込んだままのラビの前にしゃがみこみ、アレンは、鮮やかな笑みを浮かべる。
「くっそ・・・!極悪非道の魔王め・・・!」
「人聞きの悪い」
笑いつつ、アレンは、ようやくご機嫌の直ったお花様が差し出す葉を手に取り、恭しく口付けた。
「以後、よろしくお願いいたします、ロザンヌ様。
なにかご不快なことがございましたら、また、このラビにお申し付けくださいね 」
「俺かよっ!!」
絶叫しつつ、ラビは、お花様の鉢をアレンに押し付ける。
「お前の部屋から出すなよ、絶対!」
「でも・・・」
「なにさ?!」
「僕の部屋、すごく寒いんですよ。温室育ちのロザンヌ様には、辛いと思うんです」
だから・・・と、期待に満ちた目を向けるアレンから、ラビは脱兎の勢いで逃げ出した。
「俺の部屋に持ち込むの、禁止だからな――――!!!」
城中に響き渡るような絶叫を残し、去っていったラビを見送って、アレンはロザンヌの鉢を持ち直す。
「まぁ・・・ルーマニアのお城で繁殖してたくらいだから、寒さには強いのかも」
呟いて談話室を出れば、昼間にアレン達が設えた電飾は未だ、明かりを灯していたものの、人々はそれぞれの部屋に引き上げたようで、ざわめきはなかった。
「・・・窓辺はさすがに寒すぎるよね」
自室に入ったアレンは、凍りつかんばかりの冷気に、きょろきょろと視線をさまよわせる。
「とりあえず、ここにいてください、ロザンヌ様。明日、温室を作って差し上げますからね」
そして、できるだけそこに閉じ込めておこう、と決意し、アレンは、デスクの上に鉢を置いた。
「あー・・・疲れた」
朝からハイテンションで雪遊びをした後に、コムイの命令で城中を歩き回り、大量の電飾を飾りつけて、ついでにクリスマスツリーの飾り付けまでやって・・・。
でも・・・と、アレンは笑みを浮かべた。
リナリーの、初めてのエスコート相手にもなれたし、テーブルの下でこっそり乾杯したことや、サプライズパーティは、本当に楽しかった、と思い出す。
「・・・お花様とも、またお付き合いすることになったし」
それだけは、げんなりとしつつ、アレンは素早くパジャマに着替えて、ベッドに入った。
「ま・・・いいか。考えるのは、明日にしよっと。
おやすみなさい、ロザンヌ様、ティム」
ぱふ、と、アレンが枕に頭を乗せると、ティムキャンピーがパタパタと寄って来て、いつも通り、枕元に寝転がる。
と、何かがもぞもぞととベッドに潜り込み、アレンの眼前に、真紅の花が開いた。
「ちょ・・・ロザンヌ様――――?!」
寝込みを襲われ、絶叫するアレンの傍らに、お花様は長い蔓を横たえ、枕元に転がるティムキャンピーをベッドから払いのける。
「あ!ティム!!」
ゴンッ!と、重たげな音を上げて、床に転がったティムキャンピーに呼びかけると、彼は、怒髪天の勢いで金色の翼をはためかせ、ロザンヌに噛み付いた。
『ギィィィィィィ!!!』
ティムキャンピーの無礼に、ロザンヌは凄まじい咆哮を上げ、やはり鋭い牙の並ぶおしべを振りかざして、ティムキャンピーを捕らえようとする。
が、ティムキャンピーはその攻撃を、素早く避けると、今度は彼に向かって伸ばされたおしべに、鋭い牙を剥いて噛み付いた。
「ティム!!ロザンヌ様!!やめてぇぇぇぇ!!!」
ティムキャンピーの長い尾と、ロザンヌの長い蔓に絡まれて身動きを封じられた挙句、耳元で鋭い咆哮を上げられて、アレンが絶叫する。
が、小さな怪獣達は、アレンの抵抗を押さえ込んで、自身らの戦いに没頭していった。
「い・・・いい子でねんねしてよ、二人(?)とも!!」
アレンは自身に絡むものを掴んで、引き剥がそうとするが、定位置を奪われたくないティムキャンピーと、誇り高いロザンヌの戦いは激化し、泥沼化していった。
そしてその牙が、再びアレンを襲おうとした時――――!
「いい加減にしろ――――!!!」
二人(?)を強引に引き剥がし、アレンが起き上がった。
「僕は!食事と睡眠を邪魔されるのが一番嫌いなんだよ!!」
絶叫するや、アレンは脱ぎっぱなしだったコートをロザンヌに被せ、暴れる彼女を押さえ込んだまま、憤然と部屋を出ると、そのままラビの部屋に向かう。
当然ながら、彼の部屋には鍵がかかっていたが、そんなものは発動した左手でドアノブごと壊して、アレンはそっと、ロザンヌの鉢を、寝ているラビの側に置き去った。
「・・・・・・・・・ぎゃ――――!!!!」
ドアノブを壊してしまったため、半開きのままのドアから、廊下に漏れて響き渡るラビの絶叫を背に、アレンはトコトコと自室に戻っていく―――― その頭には、定位置を死守したティムキャンピーが、満足げに乗っていた。
「1日遅れだけど、サンタからのプレゼントだと思ってくださいね、ラビ 」
悪魔のごとき行いをしていながら、楽しげに嘯いたアレンは、安眠のため、厳重に自室に鍵をかけ、ようやく安らかな眠りについた・・・・・・。
〜Fin.
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