† Wild Spree †
〜 Another Room’s Party 〜








 10月31日。
 ハロウィンパーティで賑わう会場から離れた医務室で、待機中のドクターはつまらなそうに新聞を閉じた。
 今日の当直を自ら引き受け、部下の医者達やナース達に、気前良くパーティへの参加を勧めたものの・・・遠くから聞こえる楽しげな音楽や喧騒に、うずうずと視線が動いてしまうのはしょうがない。
 「はぁ・・・つまらんねぇ・・・。
 今日だけは、怪我や病気のない日であればいいのに・・・・・・」
 だが、血の気の多い人間ばかりで構成されたこの教団で、酒が入った以上、一つのケンカ沙汰も一人の怪我人もなし、と言うことはまずありえなかった。
 案の定、どたどたと廊下を走る足音が近づいてくる。
 「やれやれ・・・・・・」
 呟いて、彼が入口に向き直った瞬間、ドアは、蹴破られたような音を発して開いた。
 「ドクター!!」
 悲鳴を上げて飛び込んできた科学班班長の姿に、彼は片眉を上げて次の言葉を待つ。
 「ミ・・・ミランダさんが、ラビに脅かされて気を失った――――!!」
 と、リーバーは思い込んでいるが、最終的に彼女を人事不省に陥れたのは、リーバー自身だ。
 「倒れた時に、頭を打ったかね?」
 ドクターの冷静な問いに、彼は激しく首を振る。
 「じゃあ、とりあえずベッドに寝かせて。
 苦しくないように、首に巻いているものは取ってあげて」
 「はいっ!」
 指示通り、気絶しているミランダをベッドに寝かせると、首に幾重にも巻かれている真珠のネックレスを外し、スカーフを解いた。
 「わっ!」
 突然上がった悲鳴に、薬品棚を開いていたドクターが、何事かと振り返る。
 「あ・・・いや!!なんでもないっす!!!!」
 真っ赤な顔で手を振ると、リーバーは備え付けの毛布でミランダの首元まで覆った。
 ―――― びっくりした・・・・・・!
 今まで、スカーフとネックレスで念入りに覆われていたため、気づかなかったが、彼女の衣装は大きく胸が開いていて、意外にも豊かな胸の谷間が、くっきりと見えている。
 ―――― そういえば、クソガキどもが言ってたな・・・。
 リーバーは以前、通りすがりに聞きつけた、アレンとラビの会話を思い出した。
 『任務で巻き戻しの街に行った時、ミランダさんに膝枕してもらったことがあるんですよ。
 ミランダさん・・・ほっそいのに、意外と胸あるんですよね。見上げたら、顔が見えないくらいでした!』
 『俺も、海に落ちたミランダ引き上げた時に気づいたんさ!意外と抱き心地いいよな!』
 ・・・その時は、一発ずつ殴って終わらせたが、後でもう2・3発殴っておこう、と心に決めたリーバーに、強い臭いのするビンが差し出される。
 「はい、気付け薬。
 起こすかどうかは、君が決めなさい」
 「はい・・・は?!」
 思わず受け取って、リーバーは目をむいた。
 と、ドクターはいたずらっぽく片目をつぶり、踵を返す。
 「ちょっとの間、留守番していてくれ。
 実は私も、料理長のパンプキンパイには目がなくてね!」
 「は・・・はぁ・・・・・・」
 「怪我人が出たら、一緒に戻ってくるよ。じゃあ、がんばって!」
 「なにを?!」
 思わず大声を上げたリーバーを無視して、ドクターは足取りも軽く医務室を出て行ってしまった。
 「・・・どうすんだよ・・・・・・」
 気付け薬のビンを手にしたまま、硬直したリーバーは、昏睡とも言うべき状態で、身じろぎしないミランダを見下ろす。
 「ホント・・・ほっそいよなぁ・・・・・・」
 今日の衣装が薄い布で作られているため、毛布にはそのまま、身体のラインが表れていた。
 「でも意外と・・・」
 呟いて、リーバーはついさっき見てしまった映像を、慌てて頭から振り払う。
 「・・・しっかりしろ、俺・・・・・・!」
 動揺のあまり、額に浮いた汗を拭おうと、つい、リーバーは気付け薬を持った手を傾けてしまった。
 「あ!・・・うわっ!!」
 ドクターが半ば開けていたのだろう、ビンのフタが転がり落ちたと思った時には、かなりの量の薬液がミランダの枕元に滴る。
 「・・・っ!!」
 覚醒を促す強烈な臭いに、ミランダははっと目を開き、しかめた顔を背けた。
 「す・・・すんません、ミランダさん!!」
 リーバーは苦しげなミランダを慌てて助け起こし、窓辺に連れて行く。
 「気付け薬、零しちゃって・・・大丈夫っすか?!」
 揮発性のガスを吸ってしまったらしく、激しく咳き込む彼女の背を撫でてやると、ミランダは涙の浮いた目をリーバーに向けた。
 「リー・・さんっ・・・!!ノア・・・・・・ノアが・・・!!」
 必死に訴える彼女に、リーバーは真剣な顔で問う。
 「ノア・・・?やつらがどうしました?」
 「みんな・・・報せな・・・っ!!」
 咳を収めるように、ミランダは一度大きく息を吸うと、細い声を振り絞った。
 「ノア・・・ノアがここにいます!!」
 「なっ?!」
 教団にとって最大の敵である名前を聞き、リーバーの顔が強張る。
 「なんで私・・・!こんな時にイノセンスを・・・・・・!!」
 咳は収まったものの、まだ苦しげにあえぎながら、ミランダは素早く踵を返した。
 「ミランダさん?!」
 医務室を走り出たミランダを、リーバーが慌てて追いかける。
 「戻らなきゃ!私、エクソシストなんですから・・・!」
 「ちがっ・・・そうじゃなくてぇぇぇぇ!!!」
 悲鳴じみた声を上げて追いかけてくるリーバーに振り返る間も惜しく、自室へとイノセンスを取りに向かうミランダの耳が、石造りの回廊を伝って響く破壊音を捕らえた。
 「まさか・・!」
 青ざめて、一瞬、逡巡した彼女は、決意して破壊音の響く方へと向かう。
 「早っ!!
 ミランダさん!!待ってください!!」
 鈍足ではないはずのリーバーが、ミランダに追いつけず声を上げるが、彼女は破壊音の方に気を取られ、あっという間に見えなくなった。
 「追いつけねぇ・・・っ!!」
 リーバーは息を切らして呆然と立ち竦んだが、無理もない。
 彼女の足の速さは、アレンですら追いつけなかったほどだ。
 が、リーバーもここで諦めるわけには行かない。
 彼は危険も顧みず、ミランダと同じ、破壊音を頼りに駆け出した。


 ミランダが、既に破壊された場所へと着いた時、団員達は何もない場所へ向けて、口々に罵り声を上げていた。
 「チックショー!!!!」
 「もう二度と来んな!!」
 「〜〜〜っなめやがってぇぇ!!」
 いきり立つ団員たちの間をすり抜け、ミランダは最前にいるエクソシスト達に駆け寄る。
 「あ・・・あの・・・!ノアは・・・!!」
 「消えちゃいました!」
 「なにが『また遊ぼう』よ!!
 ・・・ミランダ・・・・・・」
 収まりきれない憤りを口にしつつ、振り返ったリナリーは、一瞬、呆気に取られた。
 「わぉ
 同じく振り返ったラビが、嬉しそうな顔になった途端、横合いから蹴りつけられて、今日何度目かの血の池に沈む。
 が、ラビを蹴倒し、踏みつけたリーバーは、彼の凄惨な姿など目の端にも映さず、手にしたスカーフをふわりとミランダの肩にかけた。
 「確保っ!!」
 言うや、ほー・・・っと、深々とため息をついたリーバーに、しばらく呆気に取られていたミランダは、顔を真っ赤にして悲鳴を上げる。
 「や・・・やだ!!私、いつの間に・・・!!」
 スカーフをかき合わせて胸元を隠し、身を縮めるミランダの背を、リナリーは苦笑と共に押して、リーバーに預けた。
 「班長、後の処理は私たちでやっておくから、ミランダを部屋に送ってあげて」
 「ん?あぁ・・・」
 頷いてミランダの手を取ると、空いた手に、大きな盆が押し付けられる。
 「うわっ!重っ!!なにすんすか、料理長!!」
 抗議の声を上げると、
 「なにって、ミニパーティ一式よ
 こっちはこっちで飲み直すだろうから、ミランダの気付け薬代わりに、ワインで乾杯しなさいよ
 楽しげな笑声と共に言われて、背中を押された。
 「うわっ!!あぶっ!!」
 耳障りな音を立てて、傾きかけた盆を慌てて水平に戻し、リーバーはウェイターよろしく姿勢を正す。
 「はい 行ってらっしゃい
 「ごゆっくりー
 キラキラと期待に満ちた目で二人を見送ったジェリーとリナリーは、その背が消えるや、大きな歓声を上げた。
 その、傍らでは・・・。
 「ラビー?生きてますかー?」
 「作った血糊か本物の血糊か、ワケわかんなくなってるぜ、オマエ」
 アレンと神田に呼びかけられたラビが、自らが作った血の池の中で、びくりと痙攣した。
 「その包帯、ある意味大活躍ですよね。巻かなくていいし」
 「はっ・・・!さすがの勘働きだな、ブックマンJr.
 流血は覚悟の上ってか」
 ノアに逃げられた苛立ちを、ぶつけるかのようにむごい言葉を降らせる二人に、ラビが嘆きの声を上げる。
 「てめーら・・・ちったぁ情けをかけるさ!!」
 「ナサケねぇ・・・ドクター!ラビが泣いてまーす!」
 「重症かね?!」
 アレンの呼びかけに、パーティ会場で怪我人の治療に当たっていたドクターが、大声で応じた。
 せっかく、当直を抜け出してパーティ会場にやってきた彼だったが、ノアの出現に慌てふためいて逃げた非戦闘員達が、転んだり踏まれたりして、中には大怪我した者もいたため、結局、怪我人の治療に追い回されている。
 「別に重症じゃねぇよ。包帯もしてるしな」
 「ラビなら大丈夫ですよー」
 あっさりとした神田とアレンの返事に、ドクターは頷いて他の怪我人の治療に行ってしまった。
 「鬼畜ども・・・・・・!!」
 その言葉を最後に、ラビは自らが作り出した血の池の中に溺れた。


 「あの・・・やっぱり私、お手伝いを・・・」
 部屋に置いていたイノセンスを取り上げ、振り向いたミランダに、リーバーは神妙な顔で手を振った。
 「やめた方がいい・・・。
 今戻ったら、俺が料理長とリナリーに殺されます」
 「は・・・はぁ・・・・・・」
 ドアの外を気にしながらも、ミランダは、リーバーが引いたティーテーブルの椅子に腰を下ろす。
 「・・・私・・・・・・ダメですね・・・・・・。
 少しは強くなったと思っていたのに、あの子・・・『あの夜』、私をさらったノアの顔を見て、震え上がってしまって・・・・・・」
 震える手を組み合わせ、俯いたミランダの背後に立ち、リーバーは彼女の薄い肩に手を置いた。
 「それだけ、怖かったんでしょ、『あの夜』が・・・」
 ミランダの両手に、今も残る傷痕は、ノアの少女によって穿たれたものだ。
 あの当時、アクマともエクソシストとも関わりのなかった彼女が、どれほど恐ろしい思いをしたか・・・それは、想像を絶する恐怖だったろう。
 「大丈夫。
 もう、奴らを恐れることなんてない」
 妙に確信ありげな声と共に、肩越しに回された手が、ミランダの震える両手を包み込む。
 「二度と、奴らがこの城に入り込むことなんてない。約束します」
 「はい・・・・・・」
 か細い声に、リーバーは苦笑した。
 「本当っすよ?
 戦場では無理っすけど、ここではちゃんと守って見せますって」
 「あ・・・!ち・・・違うんです!疑ったんじゃなくて・・・!」
 口ごもりながら振り返ったミランダに、リーバーはにこりと笑う。
 「よ・・・よろしくお願いします・・・」
 「ハイ。任されたっす」
 真っ赤になって頷いたミランダに嬉しげに笑うと、リーバーは背後から彼女を抱きしめた。


 一方、崩壊したパーティ会場では、地位の上下を問わず、無事な団員達が総出で修復作業に当たっていた。
 「なんでっ!俺がっ!!こんなことっっ!!」
 トンカチを持って、壁の修復に当たっていたソカロに、手押し車に瓦礫を積み上げて運んでいたクラウドが足を止め、眉をひそめる。
 「ウィンターズ、お前、直してるんだか壊してるんだか、はっきりしろ」
 「じゃあ壊してやるさ、こんなもの!!」
 怒声と共に、叩きつけたトンカチが、壁を崩落させた。
 途端、
 「ゴォラァァァァァァッ!!ソカロ元帥っっっ!!」
 トゲ付棍棒のフルスイングに、さすがのソカロが吹っ飛ぶ。
 「アタシの職場を壊さないでちょうだいっ!」
 石床に沈没したソカロと、元帥を一撃で倒した料理長の間で、クラウドが凍りついた。
 「さぁさぁ、イイ子ね、みんな!
 ちゃっちゃと修復終わらせて、パーティの続きをするわよ!」
 入念に準備したパーティだけでなく、職場までも荒らされたジェリーの大音声に首をすくめ、団員達は黙々と修復作業を続ける。
 「・・・生きてるか、ウィンターズ?」
 仮面の隙間から、どくどくと鮮血の流れ出す様に震えながら、クラウドはソカロの傍らにしゃがみこんだ。
 「アクマやノアとの敵対は当然のこととして、大元帥にさえ、時には歯向かっても構わんと、私は思う。だが・・・・・・」
 ちらりと、クラウドは肩越しに、修復作業の指揮を取る料理長を見やる。
 「ジェリーにだけは逆らうな・・・―――― 自殺願望があるなら、別だがな」
 返事の代わりか、ゴポっと、血泡が弾ける様に、クラウドは深々と吐息した。




Fin.

 










2006年のハロウィンパーティSS『Wild Spree』のアナザーストーリー(?)です★
SSをアップした当初は続き(?)を書く気はなかったのですが、かいんさんにもらったマーメイド・ミランダがあまりに可愛くて、書いてしまいました(笑)
マセガキ二人に膝枕&ハグの先を越されたリーバー班長を慰めもしたかったし。>私の慰め方ってどこか外している;;
ミランダさんの胸の谷間を見た殿方は、(我が家では)班長が初めてだよっ!よかったね!Σd(・▽<)>をいっ;;
回を重ねるごとに、二人がいちゃいちゃする回数も増えて、くれはさん大喜びですよ(笑)
イバラ道も、こうやって徐々に洗脳していったら、定着するかなぁ・・・なんて考えてたり・・。>をい。
そして回を追うごとに、ラビは可哀想な子になっていきますよ・・・。>やれやれ・・・;












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