† Wild Spree †
〜 A party after destruction 〜








 ハロウィンの夜も更けた頃。
 ノアの出現に、阿鼻叫喚の渦と化した教団本部では、戦いと破壊の後に残った瓦礫の山をようやく片付け、元通りとは行かないものの、パーティを継続できるだけのスペースは確保できた。
 しかし、
 「疲れた・・・もう部屋帰って寝たい・・・」
 というのが、大方の正直な意見だ。
 だがそれを許さないのが、コムイはじめ、上層部の意志だった。
 「はいっ!
 じゃあ、おもしろかったから、ソカロ元帥のスピーチからやり直しましょうか!」
 コムイの無情な提案に、しかし、ティエドールとクラウドの元帥達が挙手する。
 「ウィンターズはさっき、料理長のフルスイングを食らってしまってねぇ・・・」
 「重体につき、医務室で寝ている。除外してやってくれ」
 との依頼に、頷かないわけには行かなかった。
 「・・・じゃあ、スピーチはもういいですね」
 舌打ちしそうな勢いで、不満を漏らしたコムイだったが、すぐに楽しげな表情になると、高々と拳を振り上げる。
 「改めて!
 豪華賞品アーンド凄惨罰ゲーム付かぼちゃゲーム〜〜〜!!!」
 「ひぃっ!!」
 コムイの陽気な声に対し、返ったのはあからさまな悲鳴だった。
 「なんだいなんだい?みんな、ノリが悪いなぁ!」
 普段のご乱行に対する正当な反応を、しかし、コムイは不当な評価であるかのように不満げな声を上げる。
 「ちゃんと豪華賞品を用意してるんだよ?」
 「どんなに賞品が豪華でも、罰ゲームの凄惨さを思えば・・・!」
 「余計な欲はかかない方が賢明だって、みんなわかってますよっ!!」
 泉のようにわきあがる団員たちの非難を、コムイは柳に風と受け流し、ジェリーがワゴンに乗せて運んできた、カボチャの山を示した。
 「ジャック・オ・ランタンの中身当てクイズー!」
 「えぇっ?!始めるの?!」
 「なんて強引な・・・!!」
 「班長ー!!リーバー班長はいずこー?!」
 悲鳴じみた声を上げて、科学班のメンバーは彼らの救世主の姿を探すが、残念なことに、今この部屋に彼の姿はない。
 「そ・・・そういえば班長、さっき料理長に・・・!」
 「追い出されてたな、チクショウ・・・・・・!」
 「今頃ミランダさんと乾杯かよっ!俺も行きてー!!!」
 だが、そんなことをすれば、ジェリーに殺されるのも確かだ。
 全員、確実な死より、不確定な死出の旅路へと、泣く泣く一歩を踏み出した。


 コムイ発案のゲームが用意されるや、アレンは、床に四つん這いになって、じりじりと団員たちの足の間をすり抜けて行った。
 ―――― もう少し・・・!
 あと数インチで食堂から出られる、と、猫のように音を忍ばせて伸ばした腕を、しかし、上方から落ちてきた黒い刃が阻む。
 「どこに行こうとしてやがる」
 紙一枚分の差で、指を切り落とされることを免れたアレンは、そのままの体勢で凍りついた。
 「一人だけ逃げんのは、卑怯じゃね?」
 しゃがみこんで、アレンと目線を合わせたラビが、意地悪な笑みを浮かべる。
 「に・・・逃げてるんじゃなくてですね・・・あの・・・僕の角がどっか行っちゃったんで、探しに行こうと・・・!」
 必死に言い訳していると、
 「角って、これ?」
 背後から、無邪気な声と共に角が差し出され、アレンはそのまま倒れ臥した。
 ―――― 隠してたのに、なんで見つけるんですか、リナリー・・・!
 と、アレンの疑問を、そのまま引き継いだかのように、ラビが視線を上げる。
 「どこでみっけたんさ、それ?」
 「テーブルの下に落ちてたの。
 ゴトンッって音がしたから、何かと思って覗いて見たら、あったのよ」
 ―――― テーブルの裏に張ったのが裏目に出ましたか・・・!
 倒れたまま起き上がれないアレンの頭を、ラビが笑ってはたいた。
 「ホラ、いい加減、諦めて起きるさ」
 「ラビ・・・・・・!」
 涙に潤んだ目を上げて、アレンはしゃがみこんだラビの膝にすがりつく。
 「凄惨罰ゲームって・・・僕のためにあると思いませんか・・・?」
 「・・・・・・・・・・・・」
 ぽん、と、慰めるように頭の上に手を置かれ、アレンの目から涙が溢れた。


 「じゃあ始めるよー!」
 言うや、コムイは合図のハンドベルを鳴らした。
 「最初にやるのは誰かなっ?!」
 「はーい!」
 今にも地獄の門をくぐろうとしている死人の群れのような顔の団員達の中で、一人、期待に目を輝かせたリナリーが、最初に進み出る。
 彼女はコムイが止める間もなく、積み上げられたジャック・オ・ランタンに手を伸ばすと、勢いよく上下に振った。
 「リ・・・!!」
 「リナリー!!」
 真っ青になって、引きつった悲鳴を上げる人々の中で、彼女は平然と中身を推理し始める。
 「振ると、中でカツンって音がするわ。割と硬い音だけど、金属や陶器なんかじゃない・・・」
 記憶を探るように目をつぶり、リナリーは再びカボチャを振った。
 「・・・・・・ジンジャーブレッド?」
 目を開け、首を傾げながら答えを言うと、リナリーは団員達が固唾を呑んで見守る中、無防備にジャック・オ・ランタンの蓋を開ける。
 「あったりー!」
 リナリーの歓声と、周囲の安堵の吐息が、奇妙なハーモニーを奏でた。
 「兄さん!豪華賞品って、ナニ?!」
 キラキラと目を輝かせるリナリーに、コムイは蕩けんばかりの笑みを返して、派手なリボンで飾られた小さな箱を手渡す。
 「何かしら?」
 頬を紅潮させ、リボンを解くリナリーの手元を、興味深げに見ていたラビが、現れた『物』を見るや、飲みかけの飲料を気管に送り込んでむせ返った。
 「え?!どうしたの、ラビ?!」
 隣でいきなり苦しみだしたラビに、リナリーだけでなく、側にいたアレンや神田も驚いて彼を見遣る。
 と、
 「ドゥカドゥス・・・・・・っ!」
 苦しい息のもと、発音された謎の言葉に、三人は一様に首を傾げた。
 「なんですって?」
 「今の、咳の続きですか?」
 「ドタドタって、なにがだ?」
 不思議そうな顔をする仲間達に、ラビは苦しさに浮いた涙を拭いながら、ようやく息を整え、改めてリナリーが手にした箱を示す。
 「ドゥカドゥス金貨・・・スペインの、高額金貨さ・・・!
 純粋な貨幣価値として、値打ちは5000ポンド。
 サザビーズやクリスティーズなんかに出したら、歴史的価値も加わって、もっと行くだろうさ!」
 「えぇっ?!」
 「5000?!」
 ラビの説明と、アレンたちの驚愕の声に、多くの目がコムイに集まった。
 「だぁかぁらぁ、豪華賞品って、言ったじゃなーぃ♪」
 ニヤニヤと、コムイが意地の悪い笑みを浮かべると、それまで恐怖に竦んでいた団員達がわらわらと寄ってくる。
 「俺やりまーす!」
 「俺もー!!」
 手に手にカボチャを取り上げる団員たちに、コムイが愉快そうに笑った。
 「現金だねぇ、みんな」
 みるみる低くなっていくカボチャの山に、金貨の誘惑に負けたアレンとラビも手を伸ばす。
 「・・・振っても大丈夫かな?」
 「大丈夫じゃね?
 リナも参加すんのに、そんな危険なものは・・・」
 と、ラビが言った側から、爆音が上がった。
 「アララー♪
 振ったら爆発するのもあるから、気をつけなきゃね★」
 シン・・・と、静まり返った部屋に、コムイの陽気な声が響く。
 更には、一度手にしたカボチャを、こっそりとワゴンに戻そうとした連中を見咎めるや、彼は手元のリモコンを操作した。
 「ハイ、逝ってらっしゃい♪」
 死刑宣告にしてはいやに軽い口調で言うと、彼らの手にしたカボチャが、耳を聾(ろう)するばかりの破裂音と共に爆発する。
 「怪我したくなかったら、ちゃんとゲームに参加するんだよー?」
 無情な宣告に、みな、必死でカボチャと向かい合った。
 「ってか!振ってもヤバいもんの中身を、どうやって当てるんさ?!」
 「せめて、触っちゃダメなんですか?!」
 ぽろぽろと涙を流しながら悲鳴を上げる二人に、神田が冷ややかな視線を投げかける。
 「欲をかくからだ、バカ。
 のせられて手ェ出してんじゃねぇよ」
 君子危うきに近寄らず、とばかり、カボチャの山に手を出さなかった神田に、二人は反論も出来ない。
 が、災厄の神は、彼を見逃しはしなかった。
 「あっれー?神田君、参加してないじゃなーぃ!ホラホラ、遠慮しないで!」
 そう言って、神田に無理矢理ジャック・オ・ランタンを押し付けたコムイに、アレンとラビは内心、喝采を送る。
 「いらねぇよ!誰がこんな、あぶねぇゲーム・・・!」
 「そう言わずに!楽しいよー?」
 「どこが!」
 楽しいのは、高見の見物を決め込んでいる、コムイはじめ幹部連中だけだ。
 内心、『もっと爆発すればおもしろいのに』などと、不埒なことを考えているだろう幹部たちの中で、二人の元帥達が純粋に声援を送る。
 「ユウー ユウちゃん、ガンバレー
 と、ティエドール元帥が、ちぎれんばかりに手を振って応援すれば神田が消沈し、
 「みんながんばれ!賞品はまだたくさんあるぞ!」
 と、クラウド元帥が、陽気にタンバリンを打ち鳴らせば、途端にラビが張り切った。
 「よっしゃ!意地でも当てて見せるさ!
 強く振らなきゃ、そう危ないもんでもないだろうし・・・!」
 そう言ってラビは、カボチャをゆっくりと揺らして、懸命に中の音を聞き取ろうとするが、何かが入っているような音は全くしない。
 「おっかしいなー?なんで・・・?」
 床の上に座り込んで、膝の前にカボチャを置いたラビは、その安定感に目を見開いた。
 彼が手にしたカボチャは、底が丸みを帯びている。
 ジャック・オ・ランタンにするため、中身をくり抜いたのなら、水平な床に置かれたカボチャはもっとグラグラと揺れるはずだが、これはすぐに水平を保った。
 「姐さん!一つヒント欲しいさ!
 これ、絶対中はくり抜いてんだよな?!」
 ラビの謎の問いに、ジェリーはにっこりと笑って頷く。
 「そうよ。全部のカボチャは中身をくり抜いて、中に違う物を入れてるわ
 その言葉に、ラビは大きく頷いて、目の前のジャック・オ・ランタンを持ち上げ、犬のようににおいを嗅いだ。
 「わかったさ!
 中身は、パンプキンプディング!!」
 大きな声で答えを言い、蓋を開けると、中にはゼラチン状に固まったプディングが入っていた。
 「やったさ!」
 諸手を上げて喜ぶラビの傍らで、アレンが切なく吐息する。
 「うう・・・わかんないよう・・・・・・っ」
 嘆きながらも、ラビと同じく床に座り込んで、カボチャを膝の前に置いた―――― その、瞬間。
 微かな、しかし聞き慣れた音を拾って、アレンは目を見開いた。
 「カップとソーサー!!」
 お茶を飲む時にいつも聞く、陶器の触れ合う音だ。
 ジャック・オ・ランタンの蓋を開けると、思った通り、見慣れたティーカップとソーサーが出てきた。
 「やったぁ!!!」
 ラビと手を取り合って喜ぶアレンを見遣って、コムイが舌打ちする。
 「・・・凄惨罰ゲームは、アレン君で確定だと思ってたのにさぁ」
 その言葉に、ジャック・オ・ランタンと向かい合っていた団員達が青ざめた。
 アレンが罰ゲームから逃れた以上、彼らのうち誰かが、それを受けることになるのだ。
 「冗っ談っじゃないっすよぉぉぉぉぉぉ!!!」
 絶叫のコーラスが部屋中に響き、今まで以上に真剣な戦いが各所で繰り広げられた。
 科学班のメンバーなどは、超音波装置まで持ち出して、必死にカボチャと格闘している。
 その中で、
 「ユーゥ ユーゥ
 と、師匠の陽気な声援を受けていた神田が、とうとう反抗の狼煙をあげた。
 「てめぇらの酔狂になんざ、付き合ってられるか!」
 絶叫と共に、コムイにカボチャを投げつけたのだ。
 まさか、自分に向かって飛んできたカボチャを爆発させるわけには行かず、コムイは悲鳴を上げてそれを避けた。
 床に落ちて、ただぐしゃりと潰れたカボチャに、団員達は目を見開く。
 「あ・・・・・・!」
 「あー!!」
 「ナイス神田!!!」
 鱗が落ちたかのように、生き生きと目を輝かせ、みな、手にしたカボチャをコムイに投げつけた。
 「ちょ・・・なにすんのさー!!」
 「日ごろの怨みだ、バカヤロー!!」
 最初はコムイに集中していたカボチャ攻撃は、徐々に幹部達にも広がり、最終的には誰彼構わずカボチャを投げつける凄惨な戦いとなる。
 「カボチャ色の雪合戦さ♪」
 ゲームには勝利したラビも、飛んできたカボチャを受け止め、大元帥に向けて投げつけた。
 「うはっ!たのしー♪
 もっとカボチャー!!」
 楽しげな声を上げて、ラビが厨房に走っていく。
 間もなく、彼が大きな木箱にありったけのカボチャを詰めて戻ってきた為、戦線は拡大した。
 「ふふふふ・・・!
 日頃の怨み、はらさでおくべきかァァァァ!!」
 自分の頭ほどもある大きなカボチャを両手に掴み、アレンが目の色を変えて、コムイや神田にカボチャを投げつける。
 「ぎゃっ!!なにすんのさ、アレン君!!」
 「ゴォラ、モヤシ!!てめぇ、ざけてんじゃねぇぞ!!」
 「あははははは!!神田、カボチャ色ー!!」
 壊れたように笑いながら、新たなカボチャを取り上げるアレンの後頭部に、ふた抱えはあるカボチャが激突した。
 「おっと、すまないさ♪手が滑っちまったー★」
 わざとらしい笑いに、白髪をオレンジ色に染めたアレンが、憎しみのこもった目で振り向く。
 「いい度胸ですね、ラビー!!!」
 アレンは発動した左手に、子供の身長ほどもあるカボチャを抱え、音速の速さで投げつけた。
 「ひっ?!ちょっ・・・!!イノセンスは反則さ!!」
 「ルール無用です!!」
 アレンの絶叫に、科学班から先込め式の大砲を引っ張ってきたメンバー達が大きく頷く。
 「アレン!いい事言った!!」
 「死ね、室長〜〜〜〜〜〜!!!!」
 「えぇっ?!みんな、本気?!」
 爆発音と共に発射されたカボチャに爆撃され、コムイがカボチャ色の屍と化した。
 「やったぁ!」
 「我々は!今、自由への革命を成し遂げた!!」
 諸手を上げて万歳を叫ぶメンバー達に、部屋の隅に避難していたリナリーは、呆れたため息を漏らす。
 「ジェリー、職場が大変なことになってるよ。いいの?」
 白い壁は既に、カボチャの色に染め上げられ、床は飛び散った果肉で沼地と化していた。
 が、ジェリーは鷹揚に頷く。
 「お掃除は、あの子達にやらせるわ」
 そう言って、上品にホットチョコレートをすすった彼女の傍らで、リズミカルにタンバリンを打ち鳴らし、場を盛り上げていたクラウドが微笑んだ。
 「では、この後はアップル・ボビングでもやらせるか。
 はしゃいで水をかぶっているうちに、床もきれいになるだろう」
 「それは・・・どうかしら・・・・・・」
 更なる惨状となることを予想して、リナリーはそっと、莞爾として微笑む料理長の横顔を盗み見る。
 ―――― 目は・・・笑ってないわ、きっと・・・・・・。
 サングラスに隠された瞳の中に、怒りの炎が燃え盛っている様を想像し、リナリーはぶるりと震えた。







Fin.

 










2006年のハロウィンパーティSS『Wild Spree』のアナザーストーリー(?)その2です★
『もう1本くらいSS書きたいからネタくれ』と、かいんさんに泣きつき、鏡さんにいただいたイラストにも(勝手に)ネタをもらい、何とか書き上げました(笑)>アンタどんだけ他力本願なの;
スペインの高額金貨『ドゥカドゥス』は、2000年頃の日本円にして10万円くらいだそうな。
19世紀のポンドがどのくらいだったかは一応調べたんですが・・・よくわかんなかったので(をい)200円くらいと仮定して、5000ポンドとしました。
・・・短い話なのに、調べ物が多すぎだ;

・・・そして、このお話で、なにげに
D.グレSS60作目となりました。
ほめてっ!(・▽・)←阿呆。












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