† The Rain Leaves A Scar †
6. Revenge.






 パソコンのバックライトだけが灯る部屋の中で、ロードは盛んにキーボードを叩いていた。
 Uraniaと名乗る者―――― ロードの兄弟達を、残酷にも殺した者に復讐する・・・。
 そのために、彼女はあらゆる情報を集めた。
 文字通り寝食を削ってパソコンの前にいたおかげで、Uraniaに関する情報は随分と集まった・・・と、思う。
 やや不満げに眉をひそめ、ロードは机の上に置いた、もう一台のノートパソコンに視線を移した。
 「ホントに・・・手が込んでる」
 Uraniaが兄達に送ったパスワードは、彼らが亡くなった数日後には効力を失い、ロードの手元には今、ページソースをコピーしたデータしかない。
 それを元にUraniaのホームページやチャットルームを探し出し、幾重にもかけられたセキュリティを解くのは、至難の業だった。
 「手間取らせてくれたよねぇ・・・!」
 ロードは忌々しげに呟き、舌打ちする。
 「だけど・・・見つけた!」
 猫のように目を細め、今まさに、書き込みがなされているチャットルームを見つめた。
 「からかってやろぉかなぁ」
 くすりと笑い、ロードは入力欄に名前を書き込む。
 「入室っと」



† Heavenly †
[ 閲覧(0人) 参加(4人) : Urania,Hebe,Flora,Lord]
 
Urania †  それほど恨みが深いのでしたら、方法に変更を加えますか、Flora?
Flora †  えぇ?!いいんですか? でも、ヘーベは?
Hebe †  いいよ、別に。 ただ、自分に降りかかるのはやだな。
Urania †  わかりました、Hebe。 では、自殺に見せかけるのはどうですか?
Flora †  あの
Flora †  閲覧者に一人いるんですけど
管理人 †  ようこそ Lord さん
Lord †  こんばんは 楽しそうだね、みんな
Urania †  はじめまして、Lordさん。
Lord †  初めてじゃないでしょ、Urania? こないだは、よくも僕の兄弟を殺してくれたよね。 ねぇ?スキンも殺っちゃったの?
Urania †  Lordさん、何か誤解されているようですね。 殺人系サイトにご用でしたら、ここではなく、別のサイトへどうぞ。
Lord †  ここがそうでしょ? 過去ログで、やたら綿密に計画立ててるじゃないのさ。
Urania †  過去ログ?何かの勘違いじゃありませんか?私達が話していたのは、共同で書いている、推理小説の構成のことですよ?
Lord †  それにしては随分と具体的だねぇ?僕の名前も出てたでしょ?


 ロードの出現に驚いたか、ロムに回ってしまったFloraとHebeと違い、文面上、冷静なUraniaにロードは、苛立ちながらキーボードを叩いた。



Urania †  名前?このチャットの・・・いえ、このサイトのどこに、あなたの名前などありましたか?


 平然として見えるUraniaの態度に、ロードはパソコン画面の前で表情を歪める。
 彼女がチャットルームに入った時にはもう、気づいていた。
 Uraniaは、このチャットの過去ログが、20行以上残らないように設定してしまっている。
 ロードが閲覧している間に書き込まれたログは、とっくに消えていた。
 だが・・・。



Lord †  そんなの、プリントスクリーンでパソコン画面ごと保存してあるよ。これ、ちゃんとした証拠になるんじゃない?
Urania †  でしたらそれを、よくご覧になってください。私達があなたを殺すどころか、中傷すらしていないことに気づかれるものと信じています。


 「こいつ・・・・・・!!」
 ロードが画面保存などしていないことを、見透かしての答えに、苛立ちが募る。



Lord †  証拠がないとでも思っているの?
Urania †  証拠も何も、私達があなたになにをしたと言うのですか? 他愛のない・・・と言うには、少々物騒だったかも知れませんが、あなたには何の関係もない話です。
Urania †  それよりも、あなたは一体、何の権利があって、このチャットルームに入ってきたのですか?
Urania †  このチャットルームは、パスワードを持っている方以外、入れないようにしてあります。 そして私はあなたに、パスワードを教えたことはありません。


 畳み掛けるように書き込みがなされたかと思うと、いきなりロードの目の前が真っ白になった。
 「追い出された・・・っ!!」
 怒声を上げ、苦労してたどり着いたチャットルームに再び踏み込もうとするが、次に彼女の前に現れたのは『not found』の文字だ。
 「ページごと削除するなんて・・・っ!!」
 その、あまりにも素早い対応に、怒りは更に募った。
 「絶対、見つけてやるっ!!」
 だが、今までの経験からして、Uraniaを落とすのが容易ではない事もわかっている。
 それでも、
 「見つけ出して見せるよ・・・!」
 白く浮かび上がるパソコン画面を睨みつけ、ロードは一人、唸った。
 すぐさまページソースを元に追いかけるが、サイトごと消されたらしく、Uraniaの存在は、ウェブ上のどこにも見当たらない。
 プロバイダや、サーバーを提供しているウェブサイトも辿るが、行き着いたのは、彼女の理解できない言語で記された外国のサイトだった。
 「ちくしょう!!」
 見事に姿をくらまされて、ロードはいらだたしげにキーボードを叩く。
 「ウラーニア・・・」
 苛立ち紛れにその名を検索したロードは、はっと目を見開いた。
 Urania―――― それは、天文を司る女神の名。
 「Flora・・・Hebe・・・・・・」
 呟きながら、ロードはソースに残った二つの名前を見つめた。
 「そうだよ・・・他の二人だ・・・」
 チャットルームに入る『権利』を持った二人。
 『天』を相手にすることは難しくても、その下にある『フローラ』や『ヘーベ』までが、手ごわい相手とは限らない。
 「普段使ってるハンドルネームなのかな・・・?」
 言ってから、首を振った。
 あの用意周到なUraniaが、そんなところで足がつくようなことをするはずがない。
 「Urania・・・Flora・・・Hebe。
 なんの関連が・・・」
 次々に名前を打ち込んで検索したロードは、それらが全て、ギリシャ神話の女神の名であることを知った。
 「チャットルームの名前はHeavenly・・・天国のような?」
 神話の女神達が集まるなら、その名は不思議ではないだろう。
 だが、ロードは不満げに眉を寄せて宙をにらんだ。
 「ウラーニア・・・天文の女神・・・Heavenly・・・・・・body?
 あ!
 Heavenly body!『天体』だ!!」
 思いついて天文のサイトを巡れば、FloraもHebeも、小惑星の名前として載っている。
 「あいつ・・・本当に『天文の女神』を気取ってんだ・・・!」
 天に軌道を敷き、それに従って動く惑星達を冷酷に見つめ、ロードの兄弟達を次々と殺して行った・・・。
 身を焼くような怒りに体を熱くしながら、ロードは兄達の遺品を取り上げる。
 屋上から共に落ち、砕けて使えなくなった携帯電話を見つめ、おもむろに自身の電話を開いた。
 「もしもし、ティッキー?」
 真夜中の電話に、回線の向こう側から激しい文句があふれてきたが、それをさえぎってロードは続ける。
 「デビットとジャスデロの通信履歴を調べてよ。
 どうやってって・・・ティッキーも親族なんだから、電話会社に問い合わせればいいじゃん!
 僕じゃ教えてくれないかもしれないでしょぉ?!」
 『んもー・・・なぁにエキサイトしてんだよ、お前らしくねー・・・・・・』
 寝ぼけた声に、ロードの怒りが募った。
 「なんでそんなにのんきなんだよ!
 デビットとジャスデロは殺されたんだよ?!
 スキンだって、他人には落雷に遭ったって言ったけど、本当は・・・」
 『・・・わかった』
 なだめるような声音にむっとしていると、再び声が届く。
 『携帯電話会社の営業時間になったら、連絡してやるよ。だから今日は、もう寝ろ』
 「ティッキー!!」
 『営業時間外に調べられるわけがないだろーが!いいからもう寝ろ!!』
 怒鳴るや、一方的に切られた電話をにらみつけ、ロードはベッドの上にそれを放った。
 「絶対、正体を暴いてやるよ!ウラーニア!!」


 翌日、体育の授業中に駆け寄ってきたロードを見て、ティキはあからさまにうんざりとした顔をした。
 「ティッキー!調べてくれたぁ?!」
 「今は先生と呼べ」
 「みんなティッキーって呼んでんじゃん!」
 ぷぅ、と、頬を膨らませるロードをため息混じりに見下ろして、ティキはジャージのポケットからメモ紙を取り出す。
 「警察を通して、携帯会社に聞いた通話記録。
 理事長からの電話の後に、非通知のが入ってる。お前が知りたいのはそれだろ?」
 「うん!ありが・・・と・・・?!」
 メモ紙を受け取り、広げたロードの目が、丸くなった。
 「ティッキー!これ・・・!!」
 「聞いたことのない会社名だろ?
 調べてみたら、海外のレンタル専用携帯電話会社だった」
 「レンタル・・・?」
 「そ。
 知らねぇか?空港なんかに看板が出てるやつ。
 自分のケータイが海外で使えない場合、目的地で使えるケータイを借りるんだ」
 「でも・・・レンタルなら、身分証の提示がいるよね?!」
 「普通はな。
 だが、国や会社によっては、そこまで厳しい審査がいるわけじゃない。
 日本じゃ犯罪に使われるってんで登録制になったが、海外じゃプリペイドのケータイが一般的だからな。
 海外に行く機会さえあれば・・・いや、こんなのは多少違法でも、ネットで手に入れるのは難しいことじゃないだろ」
 「・・・・・・っ」
 唇を噛んで俯いた少女の頭に手を載せ、ティキはやや乱暴に撫でる。
 「もうやめときな。
 理事長も、事を大きくしたいとは思っていないはずだ」
 「そんな事・・・っ!」
 「俺は、双子の件は自業自得だと思うぜ?」
 ぽんぽん、と、頭を軽く叩かれて、ロードは一旦上げた顔を、悔しげに俯かせた。
 「さぁ、もういいだろ。授業に戻れ」
 「・・・センセー。
 僕、気分悪いから保健室で寝てます!」
 「はぁ?!お前、そんな勝手な事・・・コラ!待て!!」
 ティキが制止するが、ロードは聞く耳持たず踵を返す。
 「ロード!理事長に言いつけるぞ?!」
 情けないが、ロードには一番効果的な言葉を投げつけると、彼女の足は一瞬止まったが、すぐに振り切るように駆けだした。
 更衣室ですばやく着替えた彼女は、体育館棟を出ると、当然ながら保健室には寄らず、教室に戻る。
 早退するつもりでバッグを手に取った瞬間―――― 直感的に思い浮かんだ事に、ロードは動きを止めた。
 「フローラ・・・花の女神・・・・・・花・・・・・・?」
 ―――― 少女の、嘲笑・・・・・・!
 まさか、と思いつつも、口に出した瞬間、それは確信へと変わる。
 ロードはすぐさま身を翻し、誰もいない廊下を走って1階に下りると、保健室のドアを乱暴に開けた。
 途端、消毒液の臭いの代わりに、化粧品の香料の香りがあふれて、ロードは眉をひそめる。
 だが、
 「どーしたの?まだ授業中でしょ?」
 部屋の主である保健医は、彼女の表情に頓着しないどころか、デスクの上に広げた化粧道具から顔も上げず、鏡越しに甘い声を掛けた。
 「エリリンは仕事中でしょぉ?化粧なんかしてていいのぉ?」
 ロードがややむっとして言い返すと、保険医は椅子をクリルと回転させて彼女に向き直り、美しい脚のラインを見せつけるように足を組む。
 「いいのよ。これから勝負時間なんだから。
 それよりキャメロットさん、どうせまた、サボりでしょ?
 一番奥のベッドを使ってていいから、私の邪魔をしないでちょうだい」
 「勝負ぅ・・・?」
 化粧して、いったい何と戦うのかと問えば、彼女は艶やかな紅い唇に笑みを乗せ、いたずらっぽく目を細めた。
 「今ね、クロウリー先生が、生物室で授業中なの。
 もうそろそろ・・・」
 彼女が言い終わる前に、保健室のドアが乱暴に開く。
 「エ・・・エリアーデ先生ぇぇぇっ!!」
 「クロちゃんがカエルのホルマリン漬け見て貧血起こした――――!!」
 男子生徒に両脇を支えられ、紙のように真っ白な顔をした生物教師を見るや、エリアーデの瞳が輝いた。
 「んまぁ!大っっ変!!
 大丈夫ですか、クロウリーせんせv
 大げさな声を上げて駆け寄ると、男子生徒たちに命じて、彼をベッドに横たえる。
 「あぁ、あなた達は教室に戻りなさい。自習よ自習」
 ベッドの上でうなされている彼への態度とは真逆に、冷たく生徒達を追い払うと、エリアーデはロードまでも部屋の隅に追いやって、クロウリーの傍らに腰を下ろした。
 「アvvvvターvvv
 しっかりなさってv
 必要以上に密着したエリアーデが、耳元に囁きかけると、彼の白かった顔がたちまち紅く染まる。
 「エエエエエエエエエリアーデせんせぃっ?!」
 「あらあらv
 顔が赤いですわ、アレイスター様v
 お熱を計りましょーねーv
 言うや、額と額をくっつける彼女に、彼の熱がますます上がった。
 「あーら!たーいへんっ!
 すごい熱ですわ、アレイスター様v
 今日はもう、ここで寝てらした方がよろしいわv
 「いっいやっ!!でもっ!!」
 「私、一所懸命看病しますわぁv
 エリアーデは甘えるような声でねだり、緊張のあまり硬直する彼を抱きしめる。
 途端、絞め殺される鶏のような悲鳴があがり、ロードは眉をひそめた。
 「うるさいなぁ、もう」
 部屋の端にあるベッドの上に座りこんだロードは、周りの視線をさえぎるようにカーテンを引く。
 バッグから取り出したモバイルの電源を入れると、USBメモリを差し込んで、ファイルを読みこんだ。
 兄達のパソコンから取り出した、cookieをはじめとするデータや、『Heavenly』に入った一瞬で手に入れたページソースをくまなく探る。
 「みっけ」
 Uraniaのプロバイダはどうしても探り出せなかったが、FloraとHebeの分は、かなり容易だった。
 「蝋花と同じプロバイダだ・・・」
 以前、蝋花のHPを荒らした時に、彼女が使っていたプロバイダだ。
 「IP・・・まだ持ってたっけ?」
 ロードは古いデータを呼び出し、プリントスクリーンにして取っておいたBBSの画像と、Heavenlyに残ったFloraのIPを照らし合わせる。
 その数字が一致した瞬間、怒りが身体の裡を灼いた。
 「蝋花・・・!
 あいつがフローラだ!!」
 嬉々としてロードの『家族』を殺した者。
 これからロードの『家族』を殺そうとしている者。
 それが、ロードが長い間虐げてきた少女だったのだ。
 「だから・・・笑ったの?」
 『家族』を亡くし、悄然とするロードを嘲笑った少女の顔が思い浮かんだ。
 「思い知らせてやるよ、蝋花・・・僕を怒らせたらどうなるか、ね・・・・・・!」


 「ウォーカー君、今日も部活ですかぁ?」
 放課後、声を掛けてきた蝋花に、アレンは傷だらけの顔を向けて頷いた。
 「悲しい事に・・・その通りです」
 深々と吐息すると、蝋花は気の毒そうに眉をひそめる。
 「なんかぁ・・・今年は特にキビシイって聞きましたよぉ?
 まぁ、うちの陸上部、女子に比べて男子が弱かったらしいんで、顧問もようやく本気になったんだって、ほかの先生が言ってましたけどぉ」
 「はは・・・そうだね・・・。
 女子部にはリナリー先輩がいるからね・・・・・・」
 蝋花の無邪気な言葉に、裏事情を知るアレンは力なく笑った。
 「じゃあ・・・遅刻すると、ペナルティついちゃうんで!」
 「はい!がんばってくださいねぇ!!」
 手を振って踵を返したアレンに、大きく手を振り返した蝋花は、自分の席に戻ってバッグを取り上げる。
 「蝋花ちゃん、もう帰るの?」
 「うん!じゃあね♪」
 蝋花はクラスメイト達にも手を振って、教室を出た。
 放課後で人気のない中庭に入った蝋花は、日の光を浴びて涼やかに輝く小さな噴水を横目に見ながら、裏門へと向かう。
 と、いきなり背後からおさげにした髪を掴まれ、乱暴に足を止められた。
 「な・・・っ!!」
 なにするの、という、抗議の声は、喉から出る前に消えてしまう。
 「キャ・・・キャメロットさん・・・・・・!」
 怒りに満ちた目に射すくめられた蝋花は、身動きも取れず、ただ、小動物のように震えた。
 「お前がフローラだね」
 びく、と、大きく震えた事が答えだ。
 ロードは目を細め、更に蝋花の髪を引いた。
 「痛・・・っ!」
 「なんで殺したの?」
 「なんのこと・・・」
 「ウラーニアって誰?!」
 「し・・・知らない・・・っ!」
 髪を引かれる痛みと、ロードの怒りに怯え、すくみながらも、蝋花は必死に声を上げる。
 その時、
 「おい、何してる?」
 中庭を見下ろす校舎の上から不機嫌そうな男の声がかかり、ロードは蝋花の髪を放した。
 「ケンカか?」
 更に降って来た声には答えず、ロードは踵を返す。
 そのまま駆け去った彼女の背を見送り、蝋花はその場に崩れ落ちた。
 ―――― バレた・・・・・・!
 よりによって、最も知られてはならない人間に・・・!
 真っ青になって震える彼女を訝しく思ったか、二人の争いを止めた男は、校舎2階の窓から身を乗り出して、蝋花に声をかけた。
 「大丈夫か?」
 「・・・・・・」
 気遣わしげな声に、蝋花が呆然と顔をあげると、数学教師のリーバーが彼女を見下ろしている。
 「立てないのか?」
 更に問いかけるが、蝋花の反応は薄かった。
 「・・・ちょっと待ってろ」
 素早く踵を返して、窓辺からリーバーの姿が消える。
 その様を、ぼんやりと目に写していた蝋花は、はっとして立ち上がった。
 今、リーバーに色々と聞かれても答えられないし、不審に思われては困る。
 蝋花は投げ出されたバッグを慌てて掴むと、震える足を叱咤し、脱兎の勢いで逃げ出した。


 「・・・あれ?」
 中庭へ駆け下りたリーバーは、少女の姿を見つけられず、きょろきょろと辺りを見回した。
 「なんだったんだ?」
 困惑げに呟いた時、彼が出てきたばかりの校舎から、短い悲鳴が上がる。
 「そっちか・・・」
 元来た道を急いで戻ると、昇降口近くの廊下に、筒状に丸めた模造紙が幾本も転がっていた。
 「なんだこりゃ・・・って、ミランダ先生?!」
 模造紙と一緒に転がっている女性教師に、驚いて声をかければ、彼女は顔を真っ赤にしてむくりと起き上がる。
 「ごっ・・・ごめんなさいっ・・・!!」
 「いや、俺に謝らなくても・・・大丈夫っすか?」
 転がった模造紙を拾ってやりながら問うと、彼女も散らかしてしまった物を慌てて拾い集めながら、何度も頷いた。
 「は・・・はいっ!
 私は大丈夫です・・・つ・・・つまづいちゃって・・・」
 そうは言うが、彼女の足元に、つまづくようなものは何もない。
 「あの・・・誰かこっちに来ませんでしたか?」
 「え?いいえ・・・?」
 きょとん、として首を振るミランダに、リーバーは首を傾げた。
 「そっか・・・どこ行ったんだろうなぁ?」
 「何かあったんですか?」
 「えぇ、どうもね、生徒達がケンカしてたみたいで・・・理由聞かれるのが嫌で、逃げたかな」
 「あら・・・」
 リーバーの言葉に、ミランダは困惑げに眉根を寄せる。
 「どこのクラスの生徒ですか?」
 「あいつ、どこのクラスだったかな?メガネかけておさげにしてる子で、中等部から上がってきた・・・」
 「もしかして、蝋花さんですか?」
 「あぁ!そうそう、彼女・・・って、なんでわかるんです?」
 リーバーの問いに、ミランダはますます悲しげな表情になった。
 「あの子・・・中等部の頃からずっと・・・いじめられていたみたいで・・・・・・」
 「え?」
 さっと表情をこわばらせたリーバーの前で、ミランダは我がことのようにうなだれる。
 「あの・・・どうしてそれを?相談でもされましたか」
 「いいえ・・・。
 でも、語学準備室の私の席からは、中等部の校舎が良く見えるんです。
 あの子、高等部寄りの庭で、いつも泣いてて・・・・・・」
 蝋花と言う名前を知ったのは、彼女が高等部に入学して以後のことだ。
 以来、気にかけていたと言うと、リーバーも眉根を寄せて頷く。
 「そっか・・・さっきもかなり、険悪なカンジでしたからね。
 まずは主任に報告して、目を光らせてましょう・・・去年みたいなことがないように」
 「は・・・はいっ・・・!」
 リーバーの言葉に、ミランダはびくりと震え、慌てて頷いた。
 去年・・・この学園では、いじめが原因で生徒が亡くなっている。
 この手の問題に、教師達はナーバスにならざるを得なかった。
 「ただ、問題は・・・」
 呟いて、リーバーは眉をひそめる。
 「いじめているのはどうも・・・キャメロットみたいなんすよね」
 「まぁ・・・!」
 ミランダは両手を口元に当て、息を呑んだ。
 「また、同じことにならなきゃいいんすけど・・・」
 どこか苛立たしげな彼の口調に、ミランダは不安げに頷く。
 「もう・・・あんなことは・・・・・・」
 ミランダは暗い表情で呟き、重く吐息した。



To be continued.
 














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