〜 春の夜の夢 〜

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 雪も解け、そろそろ春の声も聞こえようかという頃。
 天守の最上階へ上った鶴丸は、未だ冷たい風を受けながら、持参の巻紙を広げて外の景色を見下ろした。
 堅固な壁で区切られつつある城内の風景と、自作の地図を見比べる。
 「・・・あいつ、意外と心配性だなぁ」
 常の戦と違い、この戦では攻城戦となる危険は少ないはずだが、なぜかここの主は城の防衛にまで気を使っていた。
 「いつまでも普請の音が騒がしいと思ったら、ここまで作り込んでたなんてなぁ」
 暇つぶしに城内を隈なく歩き、地図を作って見たが、本格的な攻城戦まで想定していたとは驚きだ。
 「枡形、いくつ作ってんだ。寄せ木細工か」
 曲輪(くるわ)を囲む城壁の形が複雑に屈曲しているのは、侵入してきた敵を三方から囲んで射止める仕掛けで、少数の兵力でも確実に敵の動きを止めるためだ。
 それは今後も、自身の兵力が劇的に増える事はないと理解しているからだろう。
 「出入口には櫓門(やぐらもん)・・・あ、ここから見たらあれ、多聞櫓(たもんやぐら)で四方の角櫓(すみやぐら)と繋がって、渡り廊下みたいになってるんだな。
 そして門の外側には更に馬出がある、と・・・どんだけ気を使ってんだよ」
 板間に座り込んだ鶴丸は、攻める時さえ安全にこだわる作りに呆れながら、床に置いた地図の上で考え込んだ。
 「・・・この城、俺が落としたらさぞかし」
 面白いだろうに、と、口の端を曲げた瞬間、
 「やめなさい!」
 「ひっ?!」
 突然背後から頭を捕まれ、飛び上がる。
 「みっ・・・みっ・・・光忠?!
 なんでここにいるんだ?!」
 引き攣った声の問いに、光忠はにこりと笑った。
 「それは鶴ちゃんを探していたからだよ。
 見つけたと思ったら、天守に走って行っちゃったから、ついてきたんだ」
 そしたら悪巧みをしていたと、光忠は呆れる。
 「わ・・・悪巧みなんてしてないぞ!
 ・・・・・・・・・まだ」
 隻眼で睨まれた鶴丸が、気まずげに目をそらした。
 「やれやれ・・・。
 主くんの読みは当たっていたようだね」
 「読み?」
 なんのことだと、不思議そうな鶴丸の前から、光忠は地図を取り上げる。
 「普請場で現場監督をしてた主くんが言ってたんだ。
 鶴ちゃんが城内をうろうろして、地図を作ってるみたいだって。
 絶対よからぬ事を考えてるから、子供達を連れて遠征に行かせるように、ってさ。
 そうすれば、ちょっとは鶴ちゃんにも責任能力が芽生えるかもしれないってね」
 くすくすと笑う光忠に、鶴丸は頬を膨らませた。
 「それを言うなら責任感だろう!
 俺は言動の怪しい人間か!」
 「この企みを見る限り、僕は否定できないなぁ。
 なにこの、攻める気満々の図面」
 壁に穿たれた矢狭間や鉄砲狭間の数と方向まで正確に記録した地図からは、どうにか隙を見つけようという意図しか見えない。
 「これは没収して、主くんに渡しておくよ」
 「せっかく作ったんだぞ!!
 堀側の普請が遅れてる今なら勝算があるのに!!
 これがあいつに渡ったらさっさと土塁に切り換えて、防御を固めるじゃないか!」
 涙目で掴みかかり、手を伸ばす鶴丸から遠く地図を引き離して、光忠はため息をついた。
 「オーケー。
 主くんには、土塁で防御を固めるよう進言しておくから、鶴ちゃんはさっさと短刀くん達連れて、お出かけしておいで」
 「断る!
 俺は今から楽しい攻城戦を・・・!」
 「鶴ちゃん!」
 厳しい目で睨まれて、鶴丸は首を竦める。
 「いい子だよね?」
 頭を撫でる手の下で、鶴丸は渋々頷いた。


 「これは鶴丸殿。
 本日は弟達の事を、よろしくお願い申しあげる」
 にこやかに話しかけてきた一期一振に、鶴丸はむくれ顔のまま頷いた。
 「・・・ご迷惑をかけて申し訳ないが」
 「いや、そっちじゃない」
 一期一振の言わんとするところを否定して、鶴丸は肩を竦める。
 「俺が不満なのは、攻城戦に向けて盛り上がっていた気分に水を差されたことだ」
 遠出になんか行っている場合じゃないと、ぼやく彼に一期一振が首を傾げた。
 「攻城戦・・・とはもしや、この城をですかな?
 ならば後日でなければ、楽しみが半減しますぞ」
 「どういうことだ?!」
 詰め寄ってきた鶴丸に、一期一振は穏やかに微笑む。
 「主より先日、挑戦状をいただきました。
 同田貫殿からは清正公の、長谷部殿からは如水殿の知恵を借りて最高の城を作って見せるから、太閤の知恵で落として見ろと。
 弱点を廃して更に凄いものを作って見せる、と」
 「確かに凄いものができそうだな」
 城作りで稀代の才能を持った二人に仕えた刀剣達だ。
 今の主の信任を得て、さぞかし張り切っていることだろう。
 「出来上がるまでのお楽しみだそうで、それまでは遠出に行っていてくれと頼まれました」
 「あいつめ、それで俺まで追い出したのか!」
 早く言えばいいのにと、またむくれた鶴丸に一期一振は笑い出した。
 「主もまさか、鶴丸殿が攻城戦に興味があるとは思われなかったのでしょう。
 お望みならば築城後、共に攻め落としますか?」
 「よし!
 俺が見たところ、あいつは少数防御にこだわって、枡形を作り過ぎなんだ。
 三の曲輪(くるわ)には狭間もばかに多くて、あれじゃあ壁は脆いぞ。
 ならばこっちは分厚い門を無視して、直接壁をぶち抜いてやるのはどうだ?!
 絶対驚くぞ!」
 「ほう・・・。
 それは興味深い情報ですな。
 もう少々詳しく・・・」
 「お兄ちゃん!いちごお兄ちゃん!」
 乱に腕を引かれて、一期一振ははっとする。
 「もう!
 早く行かなきゃ、主さんに叱られちゃうよ!」
 「あ・・・そ、そうだね。
 では鶴丸殿、詳しい話は戻ってからにしましょう」
 「ああ!楽しみだな!」
 楽しげに笑った鶴丸は、乱の頭に手を載せた。
 「お乱は俺の隊だな。
 他は・・・後藤に博多、厚と薬研・・・なんだか、面倒な奴ばっかりだな」
 「え?!
 それ、あんたが言うのか?!」
 面倒と言われたことがよほど心外だったのか、厚が大声を上げる。
 反して、
 「知ってるぞ。
 あんた、大将に責任能力身につけろって、この隊任されたんだろ。
 せいぜいがんばれよ」
 冷静な声の薬研に背を叩かれ、鶴丸はまたむくれた。
 「一期一振、こっちの二人をそっちの愛染と蛍丸に交換してくれ」
 「勝手に編成を変えれば、主に叱られますぞ」
 くすくすと笑って、一期一振は、愛染と蛍丸の頭を撫でる。
 「それに私も、今回は来派の方々と交流したいと思っていますのでね」
 彼が見やった先には明石もいて、面倒そうにあくびをしていた。
 「ではお先に」
 一期一振に踵を返されてしまい、鶴丸は仕方なく厚と薬研の襟首から手を離す。
 と、
 「俺は鶴丸と行けて嬉しいぜ!
 でかいしキレイだし!憧れだぜ!」
 後藤に腕を取られた鶴丸は、盛大に彼の頭を撫でてやった。
 「正直なのはいいことだな。
 あとは・・・博多!
 そろばん置いて、さっさと来いよ!」
 「あー・・・わかっとーけん、ちょおまっとき・・・」
 小さな指で激しく電卓を叩いていた博多は、弾き出された数字ににんまりと笑い、満足げに頷く。
 「今回の遠征でゲットする小判に上乗せした分は俺の取り分やけん、また資金の増えるばい。
 攻城戦の被害によったら修繕費がえらいかかるけん、それまでに資金増やして金利15%で主に貸して・・・」
 ひひひ・・・と、嬉しそうに笑って、博多は鶴丸を見上げた。
 「いち兄だけやったら、後先ば考えてそげん被害のでらんとこやった。
 鶴丸、頼むばい!」
 駆け寄って来た博多に、鶴丸は呆れる。
 「お前は本当にぶれないな」
 「油断しとったらいかんばい。
 いち兄が太閤さんの太刀ゆーても、実際、攻城戦の策を立てとったんは如水さんやし、せいしょこさんは城作りのエキスパートたい!
 忠犬ハセ公と、普段頭ば使わん狸まで張り切りよーけん、平安刀には負けんばい!」
 こぶしを握って気炎を吐いた博多の頭を、鶴丸がはたいた。
 「平安刀っつっても、お飾りの三条達と違って俺は元織田組だぞ。
 攻城戦の実戦経験くらいある」
 ところで、と、鶴丸が首を傾げる。
 「如水・・・ってのは、かんのひょうえ(官兵衛)のことだよな?
 せい・・・なんだって?」
 「せいしょこさん。
 肥後じゃ、清正公をせいしょうこう、って呼ぶらしかけど、それが更に訛ってせいしょこさんってゆーっちゃが」
 「へー。
 俺もあちこち行ったが、肥後の方言までは知らんなぁ」
 遠征へ向かう隊の後をぴょこぴょことついてくる博多を、鶴丸と並んでいた乱が振り返った。
 「ねぇねぇ博多ちゃん?
 いつもお金にうるさいのに、なんで今回は乗り気なの?
 前に主さんが物吉ちゃんに何万両も使った時は、すごく怒ってたじゃない」
 不思議そうに問う乱に、博多はにんまりとする。
 「よくぞ聞いてくれたばい、乱ちゃん!
 脇差一振とちごうて、今回は商機があるっちゃが!」
 「商機?!」
 ぴくりと、耳をそばだてて寄って来た後藤が、歩を緩めて博多と並んだ。
 「詳しく」
 「商売敵には教えちゃらん」
 ぷいっとそっぽを向いた先で、厚と薬研が興味津々と目を輝かせる。
 「なんだよー!教えろよー!」
 「薬研兄ちゃんにだけ教えてみろ。ホラ」
 「なんだよ、けちけちすんな。俺にも教えろ」
 鶴丸にまで迫られ、博多は仕方なさそうに・・・と言うにはずいぶん得意げに自身を囲む面々を見上げた。
 「主の城作りな・・・あらぁ、単なるあの人の趣味ばい。
 せっかく天守と土地ばもらったけん、どうせならちゃんと城壁のある城ば作りたか、って思いよらしたとよ」
 しかし、本陣から与えられる土地は限られていて、拡張の許可はもらえそうにない。
 ならば規模は小さくても堅固な守りと攻撃への転じ易さで名高い城を参考にしようと考えたそうだ。
 「けど、さすがに趣味に小判を使うのはどうやろか、って思いよったらしくて、俺に総工費の見積もりばさせたっちゃんね。
 そしたら・・・」
 言葉を切った博多が、またひひひと笑い出す。
 「資材集めに工事費、人件費で諸々このくらいはかかるっちゃんv
 電卓を叩いて示した数字に、皆が息を呑んだ。
 「こりゃ驚きだな・・・!」
 「大将・・・破産する気か?」
 目を丸くする鶴丸と薬研の間で、乱が眉根を寄せる。
 「博多ちゃん、これ・・・桁が間違ってるんじゃないの?
 だって・・・こんなお金、博多ちゃんが許すわけないもん」
 「あぁ、それに・・・これって、今の総工費だよな?
 これからいち兄と鶴丸に攻城戦を挑むわけだから、戦費と修復費と・・・え?マジで破産じゃね?」
 自分の電卓で数字を確認する後藤に、博多は得意げに首を振った。
 「やけん足りん分は、俺が金利15%で貸すったい!
 今まで貯め込んだ千両箱が、日の目を見る時が来たとばい!」
 「なんだよ、お前しか儲からないのかよ」
 つまらなそうに肩を竦める厚に、しかし、博多はまたも首を振る。
 「そげんやけん厚兄はいかんっちゃん。
 たまには頭使わんともげるばい」
 「はいぃっ?!」
 馬鹿にしてんのかと詰め寄る厚に、博多はにんまりと笑った。
 「よかか?
 うちの主はモデルケースばい。
 刀剣なんか愛でたがる連中は結局、機能美が大好きな連中ばい。
 鶴丸みたいに、道具としての機能を突き詰めて、美しさまで持つようになったもんが大好きで仕方ないって連中ばいな」
 正面から『美しい』と褒められて、悪い気がしない鶴丸が嬉しそうに頷く。
 「つまり、手に取る機能美を入手した奴らが次に求めるのは、住める機能美ってことか」
 「要塞に居住性を求めるとはどうかと思うっちゃけど、ま、そういうことばいな」
 鶴丸の答えに正解と頷き、博多は手にした電卓を振った。
 「城が出来上がったらうちの主のことやけん、『うちの本丸ばこげん改造したとよ。みんなもどうね?』って、本陣で自慢するやろ。
 その上、いち兄や鶴丸と攻城戦までしたとよ、そっから更に強化したとよ、って言いふらしてみ。
 他の審神者も、こぞって本丸の城砦化に乗り出すやろが。
 けどそん時はもう、資材の販売ルートは主の名の下に俺のもんたい。
 他の審神者には、資材と一緒に城作りのノウハウも売って、今回の工事で教育した現場責任者も派遣して、うちの本丸は大儲け!
 千年前から国際商業都市やった博多の時代が戻って来たばい!!!!」
 こぶしを握って大笑する博多を、鶴丸が考え深げに見下ろす。
 ややして、
 「・・・博多。
 もう少し、儲けたくないか?」
 にんまりと笑った彼に、博多も笑みを返した。
 「鶴丸のことやけん、思いつくと思ったばい。
 城を攻めるとに、必要な武器やら火薬やら集めろってゆーっちゃろ?
 なんなら金利18%で資金も貸すばい♪」
 「なんでこっちの金利が高いんだよ」
 むっと眉根を寄せる彼に、博多は首を振る。
 「主は俺の正式な雇い主やけんね。
 そこは値引いてやらんといけんやろ。
 普通に貸すんやったら18%ってことやね」
 「・・・ま、いいか。
 一期一振が払ってくれるだろ」
 大将はあいつだし、と、ほくそ笑む鶴丸に肩を竦め、厚が博多をつついた。
 「兄弟値引きはないのかよ」
 「そげんとなか」
 博多が冷たくそっぽを向くと、だったら・・・と、後藤がにんまりと笑う。
 「いち兄の資金調達と武器弾薬の調達は俺がやろうかな」
 商機だ、と笑う後藤に博多がむっと眉根を寄せた。
 「やけんお前には言いたくなかったっちゃん!」
 「遠征から帰ったら、早速調達ルート確保だぜ♪」
 さっさと行ってさっさと帰ろう、と、駆け出した後藤の後を、博多が追いかける。
 「上乗せ分は俺の取り分やろが!お前には渡さんばい!」
 「早い者勝ちだよー!」
 騒々しい声を上げながら、一行は遠征へと向かった。


 その頃、天守傍らに建つ本丸御殿の一室は、古今の書物によって埋め尽くされていた。
 文机や畳の上にうずたかく積み上げたそれらを次々と手にして、彼はひたすら読み進める。
 ろくに瞬きもせず、見開いた目は常よりも紅く染まって、鬼気迫る気配を漂わせていた。
 そのただならぬ気は部屋の外からでもわかるほどで、そっと襖を開けた三日月は、隙間から彼の微動だにしない背を覗き込む。
 視線には気づいているだろうに、振り向かない彼ににんまりと笑ってそろそろと入り込むと、袖を払って座り込んだ。
 持参の琵琶を膝に乗せ、おもむろに弦をはじく。
 「祇園ん〜精舎ぁーのぉー・・・鐘のぉー・・・声ぇー・・・♪
 諸行無常のぉー・・・響きぃぃーあぁりぃー♪」
 名人級の弾き語りは、しかし、感動よりも苛立ちを呼び起こした。
 無言で傍らの太刀を掴むや、振り向きざまに鞘を払って薙ぎ払う。
 が、琵琶を抱えていながら機敏な三日月は、軽々と彼の刃を避けて歌を続けた。
 「沙羅双樹のー・・・花の色・・・盛者っ・・・必衰の理をあらわ・・・これこれ、小狐丸や。
 よいところなのだから邪魔をするな」
 くすくすと楽しげに笑って、三日月は突き出される刃先から弦を守る。
 「驕れる者も久しから・・・ただ春の夜の夢の如し♪
 猛き者もついには滅びぬ♪
 ひとえに風の前の塵に同じ・・・とっと!!」
 さすがに歌いながらでは防ぎきれず、手にした撥で太刀の鍔元を押し返した。
 と、忌々しげに牙をむいて、小狐丸は太刀を引く。
 「・・・なんのつもりでございまするか、三日月殿。
 この小狐、今は少々、虫の居所が悪しゅうございまするぞ」
 うなるような声に、三日月は嬉しげに頷いた。
 「うむ、いつも澄まして本心の知れぬお前が、感情を剥き出す様など滅多に見られないからな。
 見物に来たのだ」
 「悪趣味であられる」
 舌打ちせんばかりに吐き捨てた小狐丸を、三日月はますます嬉しそうに見つめる。
 「あぁ、よい顔だ。
 能面のように取り澄ました笑みよりずっとよい」
 微笑んだ三日月は、今にも噛み付きそうな小狐丸の頬へ手を添えた。
 「近侍を奪われたことが悔しいか。
 あれはお前を得て以来、一日たりとて傍に置かなかった事はないというのに、ここしばらくは長谷部や同田貫ばかりを召しているからな」
 なだめるように頬を撫でる三日月から、小狐丸は顔を背ける。
 「・・・平安刀には城のことなどわからぬだろうと、見くびられたことが腹立たしゅうございまする。
 もちろん長谷部殿や同田貫殿のように、城作りに稀代の才を持った方々にお仕えしたことはござりませぬが・・・この小狐とて、学ぶことを知らぬわけではござりませぬ。
 ぬしさまも、戦の経験はなくとも書物にて学ばれ、長谷部殿や同田貫殿と対等にお話ができるようにまでなられたのです。
 私にできぬわけがありましょうか」
 実力で近侍の位を取り戻して見せると、息巻く小狐丸に三日月は笑い出した。
 「・・・なにがそれほどおかしゅうございまするか」
 むっとした小狐丸の腕を、三日月は軽く叩く。
 「それは今まで、長谷部などが思っていたことであろうよ。
 なにしろあれは、名だたる名刀を幾振り手に入れようとも、お前を近侍から外さなかったのだからな。
 戦でのみ働くことを本望と思う者もいようが、ゆるりと愛でられることなく捨て置かれることは・・・特に、長谷部のように忠義厚い者には、焦れるほどの悔しさであったことだろう。
 羨望も嫉視も柳に風で澄まし顔であったお前が、ようやく嫉妬する側になったのだと思うと、嬉しいやらおかしいやら・・・。
 そうか、これが下々の言う、『ざまぁみろ』というものなのかな?」
 その言葉に、小狐丸のこめかみが引きつった。
 「・・・似たようなことを、博多殿にも言われましたな」
 築城の見積もりを命じられた博多は、当然ながら当初よりこの計画を知っていて、小狐丸が近侍を外されるとわかった途端、嬉しそうに・・・それは嬉しそうに笑い出したのだ。
 『よりによって、キツネがタヌキに居場所ば取られるとか!
 お稲荷さんは商売の神様やけん大切にせなならんけど、ここの平安狐はいち兄ばいびりよーけん、小気味よかv
 と。
 「・・・城さえ出来上がれば、あの子供を溶かしても、ぬしさまはそうお怒りになりませんでしょう」
 思い出す度に腸が煮えると、牙をむく小狐丸の腕を三日月がまたはたいた。
 「うむ、落ち着け。
 博多は金子の調達に長けた者ゆえ、重宝されているのは知っているだろうに」
 「では、手合わせ中にうっかり折ってしまったということで」
 「守り袋を持たせておけよ、せめて」
 やれやれと苦笑して、三日月は遠く響いてくる普請の音に耳を澄ませる。
 「散歩がてら様子を眺めて来たが、あれも自ら泥まみれになって、実に楽しそうであった。
 書物を漁って知識を得たとて、実戦に勝る学問はなし。
 長谷部や同田貫も、自身の策にこだわらず進言を受け入れるあれと働いて、楽しげであったぞ。
 お前も部屋にこもっておらず、外へ・・・」
 「さようでござりまするな。
 では私も、お手伝いに参りまするか」
 積み上げた書物を見下ろし、小狐丸は口の端を曲げた。
 「この小狐からぬしさまを奪おうなど、千年早いというものですよ」
 本心を隠すことも忘れて顔を歪める彼を、三日月はまた楽しそうに眺める。
 「拗ねて篭っているのなら、無聊を慰めてやろうかとも思ったが、やはり攻めに転じるか」
 手にした撥を弦の間に納めて、三日月は先に部屋を出た。
 「では俺も、見物に行くか」
 「・・・なんと物見高い」
 忌々しげな声を、肩越しに見やる。
 「滅多に見られぬものだからな」
 せいぜいがんばれ、と笑声を上げる三日月の背を、小狐丸は眉根を寄せて睨みつけた。


 本丸を囲む城壁の上では、戦装束でも内番用の作業着でもない、工事現場にふさわしい安全対策に身を包んだ長谷部と同田貫が、厳しい顔で城を囲む堀を見下ろしていた。
 「こうして見ると、やはり狭いな。
 光忠からの知らせで、石垣を土塁に変更することになったのはいいんだが・・・」
 と、眉根を寄せつつ、長谷部がジャンパーのポケットから出した地図を、同田貫もヘルメットの傾きを直しながら難しい顔で覗き込む。
 「やっぱ堀は空堀にしようぜ。
 川辺ならともかく、わざわざ水を引いてまで作る必要ねーだろ。
 昨日までそっちで話進んでたのに、なんでまたこだわり出してんだ、主は」
 そもそも防御に足りる堀を作る土地がない、と、正論を吐く同田貫に長谷部も頷いた。
 「それはもっともなんだが・・・鶴丸が敵に回るかも知れない、とわかった瞬間の判断だったからな。
 これはおそらく、鶴丸対策だ」
 「鶴丸?
 なんでだ?」
 水が苦手だとは思えないがと、首を捻る同田貫に長谷部がふっと笑う。
 「水を入れた後、しばらくしてから抜くのさ。
 そうすれば、堀はぬかるんで空堀よりも厄介になる。
 白い着物を汚すことを嫌がる鶴丸には、最高の策だろうな」
 「そりゃあ・・・さすがに主だけあって、よく心得ているな」
 だが、と、同田貫は眉根を寄せた。
 「蓮を植えたいってのはどんなこだわりだよ。
 今からじゃ籠城用の食糧にも間に合わねぇし、夏に蓮見でもしようってか?
 そんな風流は、お飾り連中は喜ぶだろうが・・・」
 「いや、風流なんてもんじゃない。
 これは恐ろしく実践的な策だぞ」
 言って長谷部は、眼下の堀を見下ろす。
 「お前の言う通り、土地は限られて川辺でもないから、堀に水を引くことは無駄な労力なんだ。
 だが、水を抜く事を前提とするなら話は別だ」
 「水を・・・」
 呟いた同田貫は、はっと目を見張った。
 「蓮の繁殖力は半端ねぇ!
 あっと言う間に堀中に根を張り巡らせて、土を粘りのある泥に変えちまう・・・甲冑を着た兵士が渡れるもんか!」
 「今回の模擬戦には間に合わないが、いずれこの堀に蓮が蔓延ったら、敵は足を取られている間に、城壁から狙い撃ちだな」
 鴨よりもカモだ、と、長谷部は歪んだ笑みを浮かべる。
 反して同田貫は、感心していいやら呆れていいやら、困惑げに眉根を寄せた。
 「実戦の経験はないくせに、なんでこんなこと思いつくんだ、うちの主は!
 よっぽど性格が悪いんだな!」
 お前の主だけに、と指されて長谷部はムッと眉間にしわを寄せる。
 「お前の主でもあるだろうが!
 それにこれは、主だけの策ではなく・・・」
 「筑前、舞鶴城の堀を参考にされたのでしょう。
 ぬしさまの慣れ親しんだ風景でございますゆえ」
 笑みを含んだ声を、長谷部は忌々しげに見やった。
 「小狐丸・・・なにか用か?
 こんな場所をうろついていると、ご自慢の毛並みが汚れるぞ」
 「なに、構いませぬよ。
 ぬしさまも泥だらけで励んでおられるそうですからな」
 今はどちらに、と視線を巡らせれば、長谷部が不満げに鼻を鳴らす。
 「主は川の使用許可をもらいに本陣へ行ってしまったよ」
 「今代ってのはめんどくせぇなぁ!
 川くらい、好きに使わせろっての!」
 大声を上げた同田貫は、この城からやや離れた場所にある川を見やった。
 「あんなところから水を引くって、えらい労力だぞ。
 そもそも城ってのは、防御しやすい所に建ててこそだってのに、土地と天守だけ寄越して後は自分でやれって、本陣もいい加減な奴らだな!」
 「本陣も、実戦経験がないそうだからな」
 ため息混じりに、長谷部が言う。
 「本丸も、天守だけを寄越すような連中だ。
 天守というのは最大の櫓のようなもので住居じゃないと、わざわざ言わなければ知らなかったようだぞ。
 幸い、主は天守と本丸御殿の違いを知っていたから、俺達は籠城でもないのに天守に押し込まれずに済んだがな」
 本陣へ対しても皮肉る長谷部へ、小狐丸が呆れたように首を振った。
 「そのように本陣を批判されては、ぬしさまのお立場を危うくしかねませぬよ。
 お口を慎みなされませ、長谷部殿」
 「は!
 さすがは陰湿な宮中にいただけのことはあるな。
 公家連中らしい気の使いようじゃないか」
 「お・・・おいおい、こんなとこでケンカふっかけんなよ、長谷部」
 なんで自分がなだめ役なんだと、困り果てて同田貫は辺りを見回す。
 どこかに、自分より調整役に相応しい者がほっつき歩いていないかと思ってのことだったが、幸いにも向こうからやって来てくれた。
 「お・・・おーい、光忠!
 こっちにも茶をくれないか?!」
 作業員の休憩用にと、本丸から茶と茶菓子を運んで来る光忠に声をかけると、彼は笑って手を振る。
 と、その背後からとてとてと、物慣れない足取りで誰かが出て来た。
 ヘルメットを被っているため、城壁の上に立つ彼からは顔が見えないが、光忠がコーディネートしたに違いない服装は、現場にあって殊更にすっきりとした印象を与えている。
 光忠が同田貫達の分の茶を水筒に分けて手提げ籠に入れると、受け取った彼は妙に張り切った風に駆け寄ってきた。
 「今行ってやるぞー!」
 上へと手を振る彼を見て、同田貫は城壁の際に寄る。
 「おい、じいさん!足元気をつけろよ!
 城壁の階段は寺院や御所と違って・・・」
 危ない、と言い切る前に、三日月は不揃いの段差に躓いて転んだ。
 「三日月殿!」
 駆け寄った小狐丸が助け起こす。
 「大事ありませぬか?」
 「な・・・なんなのだ、この階段は・・・!」
 思いっきりぶつけた膝を抱えて、涙目になる三日月の元へ、同田貫と長谷部も下りてきた。
 「だから気をつけろっつったろ。
 城の階段ってのは、敵が上りにくくするためにわざと段差を不揃いにしてんだ。
 あちこち石を出して、つまずきやすくもしてんだから、ちゃんと足元見てねぇと危ないんだよ」
 「やれやれ・・・これだから公家衆は。
 危険な工事現場なんかうろついてないで、御殿にでも篭っていて欲しいものだな」
 鼻で笑った長谷部に、同田貫は眉根を寄せる。
 「お前も一々ケンカ売るなって!
 おい、じいさん。あんたが今履いてんの、光忠が用意した安全靴だろ?
 ここじゃ石を運ぶから、足に落ちても怪我しないように、金属が入った靴の着用を義務づけてんだ。
 普通の靴より重いから、注意して立ちな」
 じゃなきゃまた転ぶ、と言って手を差し伸べた同田貫に、三日月はにこりと微笑んだ。
 「そうなのか。
 いや、すまんな。いつもより足が重いとは思ったのだが、靴自体に慣れぬゆえ、こういうものかと思っていた」
 同田貫の手を取って立ち上がった三日月は、転がった籠を拾いあげる。
 「水筒に入れてもらってよかったな。茶が零れずに済んだぞ」
 「ありがとよ。
 ほれ、長谷部。茶でも飲んで落ち着け。
 そんであちこちに無駄吠えすんのやめろ」
 水筒を押し付けられた長谷部が、ムッと眉根を寄せた。
 「人を犬扱いして・・・!」
 不満げながらも茶をすする長谷部が無言になった隙に、三日月は同田貫へ向き直る。
 「同田貫や、小狐丸はだいぶ学んだようだが、俺は城には詳しくなくてな。
 これはどういう状況だ?」
 何を見ていたのかと問えば、同田貫は三日月を連れて、再び城壁に上った。
 「今、あんたがいるのは、堀を作った際に出た土で作った土塁に、石垣を築いた城壁だ。
 本当なら、川や山なんかの地形を利用して作るもんだが、ここは本陣から平地の土地と天守だけをもらった本丸だから、わざわざ作らなきゃいけなかったんだ。
 ちなみに城ってのは天守のことじゃねえ。
 天守ってのは一番でかい物見櫓のことで、その傍にある俺らの住居、本丸御殿と合わせて本丸だな。
 土地が広ければ二の丸や三の丸も作って、櫓も増やせるが、こんだけ狭いとせいぜい、本丸とそれを囲む城壁、なんとかニの曲輪(くるわ)と三の曲輪を作って、更にその周りを囲む堀って構造だな。
 で、その堀までを入れた一帯を城っていうのさ」
 同田貫がぐるりと示す景色を見下ろして、三日月は頷く。
 「俺が参陣した時には、まだ本丸御殿が完成していなくてな。
 御座所といくつかの局があるだけだったのだが、他の城・・・いや、天守にはもしや、御殿がないのだろうか。
 だとすればあれは、なかなかに優秀な審神者であるのだな」
 「今更でございまするか、三日月殿」
 感心する三日月を、小狐丸が呆れ顔で見やった。
 「ぬしさまは我らを愛でるだけでなく、維持にも気を使って下さっているのですから・・・そろそろ主と呼んで差し上げなさいませ」
 「俺を愛でぬ審神者など、あれでよいわ」
 くすくすと笑いながら、三日月は堀の向こうを指した。
 「それで同田貫や、敵の総勢はどの程度だ?
 北条の城も、堅固ではあったが多勢に囲まれて落とされたと、江雪に聞いたぞ」
 「単に多勢ってだけじゃない。
 北条の足軽は農民だったが、豊臣は全員専属の兵士だったから包囲を解かずにいられた」
 と長谷部が、まだ不機嫌な様子で口を挟む。
 「そして今回、主は一期一振に敵将を命じた。
 兵の統率ではトップクラスのあいつが博多以外の粟田口を率いて、鶴丸までもが敵に回る。
 それだけでも十分に嫌な敵だが、攻城は守りに対して数倍の兵力が必要だ。
 必ず、他にも声をかけるに違いない。
 狭い場所で動き回ることになるから、大太刀や槍は避けるだろうが、敵が俺である以上、攻城に慣れた蜂須賀は絶対に引き入れたいはずだし、もう話をつけているだろう。
 ならば俺は、蜂須賀が嫌っている長曽祢に話をつけて、新撰組を引き入れる。
 浦島はどちらの兄に付くのか・・・まあ、泣き落としされて蜂須賀側かな。
 左文字達は傍観すると、既に申し入れてきたが・・・」
 独り言のように呟いていた長谷部が、じろりと三日月を睨んだ。
 「三条はどうする?
 俺としては、左文字らと一緒に見物でもしていて欲しいな。
 太刀や薙刀は一期一振も欲しがらないだろうが、俺も攻城戦の経験がない奴らにウロウロしてほしくないんでね」
 「あいわかった」
 物言いたげな小狐丸を抑えて、三日月が微笑む。
 「戦国の戦のありようを、とくと見せてもらおう」
 三日月があっさりと引いたことをやや意外に思いつつも、長谷部は自信ありげな笑みを浮かべて頷いた。


 その後、築城は順調に進み、小狐丸の機嫌と反比例するように城内のテンションは上がって行った。
 「俺!攻城戦なんて初めてだー!」
 「兼さん達はやったことあるんだろ?!どうだった?!」
 はしゃぎ声を上げる安定と加州に和泉守は、得意げに胸を反らせる。
 「なんてこたなかったぜ!
 ただ、俺らが戦った時はもう、剣や弓鉄砲の時代じゃなかったからな。
 主は今回、一期一振を相手に戦国の戦をしようとしてるらしいし、どこまでやっていいもんかな?」
 なぁ?と、見やった長曽祢も難しい顔で頷いた。
 「おそらく、実弾の使用は禁じられるだろうが・・・博多からの情報によると、あちらの資材調達には陸奥守が付いたらしいぞ」
 「あの人ですか・・・」
 まずいな、と、堀川が呟く。
 「あの人の事だから、きっと予想もつかない量と質で武器弾薬を仕入れて来るよ。
 大砲だって、大阪の陣にはもう大筒が使われてたんだからって、仕入れて来るだろうし・・・今のうちに殺っちゃう?」
 もう戦は始まっている、と、真顔で言う堀川に、皆が声を失った。
 それを了解だと判断した堀川は、大きく頷く。
 「じゃあ、今夜決行で」
 「ちょっ・・・ちょっと待って堀国!
 悪い癖出さないで!!」
 慌てて止めに入った加州を、堀川は訝しげに見た。
 「悪い癖?
 ・・・あぁ、そうだね。ちょっと急いちゃった」
 こくりと頷いた彼に、加州はほっとする。
 が、
 「ちゃんと計画を立てとかないと、逃げられちゃうよね。
 僕、あいつの行動範囲チェックして、逃げ道潰して来ます」
 じゃ!と、きびすを返した堀川を新撰組全員で止めた。
 「なんですか、もぉ!」
 「なんですか、じゃねぇよ!
 なんでお前はいつもそうやって、邪魔者排除しにかかるんだ!」
 和泉守が声を荒らげると、堀川は不思議そうに首を傾げる。
 「邪魔だから」
 「そうだけどそうじゃない!」
 仲良く声を揃えた安定と加州が、両脇から長曽祢の袖を引いた。
 「なんとか言ったげて!」
 「お前達・・・こんな時ばかり俺か!」
 「いざという時の局長だろうが!」
 和泉守にまで迫られて、長曽祢は舌打ちする。
 「まったくお前達は・・・!
 堀川!!」
 「はい?」
 なぜ皆が騒ぐのか、まったく訳がわからないと言いたげな顔に、長曽祢はため息をついた。
 「あいつのことは、過去の因縁やらで忌々しいし、仲良くしようとも思わないが、今は同じ主を持つ身だ。
 主の物を勝手に壊すな」
 「・・・あぁ!
 言われてみれば!」
 ようやく得心が行ったと、堀川が手を打つ。
 「わかりました。
 じゃあ、あいつ自身には手を出さず、敵の戦意をくじいてきます!」
 「なにすんの!!」
 声を揃えた仲間達に、堀川は歪んだ笑みを浮かべた。
 「・・・聞かない方がいいよ。
 みんな、顔に出ちゃうでしょ?」
 誰よりも邪悪な笑みを浮かべて、堀川が言う。
 「心配しないで。
 怪我人を出すつもりはないから」
 多分!と、手を振ってきびすを返して駆け去った堀川を、誰も追いかけることが出来なかった。


 晴天吉日。
 咲き始めた桜にほんのりと彩られた本丸の、天守最上階に設置された実況席に座った鯰尾藤四郎は、軽く咳ばらいしてマイクのスイッチを入れた。
 「皆様、本日は我が本丸主催、模擬攻城戦にようこそいらっしゃいました!
 実況は、いつもぬるっとあなたの傍に!鯰尾藤四郎ですv
 解説は、今回の為に築城プランを立てた、へし切り長谷部さんにお越しいただいています!」
 「どうも」
 自身の左側で軽く会釈した長谷部に頷き、鯰尾は右側へ顔を向ける。
 「そしてゲストは我が本丸の長老、三日月宗近さんです!
 三日月さん、意外にも晴れましたねぇ!
 今回、小狐丸さんが不機嫌だそうで、大雨が降ると思ってたんですが!」
 「なぁに、早く終わらせたいとでも思っているのだろうよ」
 くすくすと笑って、三日月は眼下を見下ろした。
 「それにしても大層な戦支度だな。
 長谷部、一期一振の側にあるあれはなんだ?」
 三日月が堀の向こう側に立ち並ぶ、木製の櫓を指す。
 「あれは攻城櫓だな。
 堀に渡して橋代わりにしたり、城壁の上にまで伸ばして、矢を射かけて来る。
 ・・・資金繰りと武器集めに後藤と陸奥守が付いたとは知っていたが、大筒まで用意したか。
 まぁ、これだけ堀が狭ければ、当然の準備だな。予想通りだ」
 故にこちらも車輪の動きが鈍るよう、あらかじめ堀の水を溢れさせてぬかるみを作ったと、長谷部は不敵に笑った。
 「攻城戦において、攻めに必要な兵力は守りの数倍。
 一期一振の人望で、こちらの二倍までは用意出来たようだが、果たしてその兵力で勝てるかな?」
 「そーですねー。
 一期兄さんは、カリスマとしては言うこと無しだけど、この本丸の絶対数が問題ですよね!
 蜂須賀のせいで、新撰組を本丸に取られてしまったのは痛い!」
 うんうん、と頷く鯰尾を、ふと三日月が見やる。
 「そう言えば・・・なぜお前がここにいるのだ、鯰尾。
 お前も粟田口だろうに」
 不思議そうに問うと、鯰尾は不満げに頬を膨らませた。
 「俺も攻城したかったんだけど!
 城内に投げ込む用に馬糞をせっせと集めてたら主に見つかって、今朝まで地下牢にぶち込まれてました!
 ・・・なんだよ、攻城戦で城内に糞や動物の死体を投げ込むのは正攻法なのに!
 主は実戦経験がないから、そんなことも知らないんですよ!」
 ぶつくさと文句をたれる鯰尾に、三日月は苦笑する。
 「・・・今回は模擬戦なのだし、本陣や他の審神者も招いているのだから、知っていたとしてもそれはさすがに禁じられると思うぞ?」
 「俺が一所懸命集めた馬糞捨てられちゃうしー!
 やる気なくなったんで、テキトーに実況やりまっす!
 って事で!
 本日の各陣営紹介ですよ!
 まず本丸側!
 大将は長谷部、実戦指揮官は同田貫です!
 実際に城を作った二人が守りの要なんですね」
 「ああ。
 この城は本丸を一の曲輪とすると、その下に防御のためにのみ作った二の曲輪がある。
 ここは外へ繋がる虎口(こぐち)を擁する三の曲輪を見下ろすように囲んでいて、虎口を抜けられてもすぐに上から矢や鉄砲で攻撃できるようになっている。
 ちなみに虎口にある櫓門は多聞櫓で四方の角櫓(すみやぐら)に繋がっていて、中は渡り廊下のようになっている。
 つまり、ニの曲輪にいる兵が相手の動きに合わせて攻撃と退却ができるようになっているな」
 「へー。
 このせっまい土地でよく作りましたね。
 虎口を抜けても、そこはニの曲輪と、東南の角櫓から見下ろされる枡形になっているため、ニの曲輪に繋がる門に到達する前に敵を壊滅させようって事ですね!」
 見晴らしのいい天守から曲輪を見下ろして、鯰尾が感心した。
 「その守りを担当するのは当然、短刀ちゃんと脇差君達ですね!
 本丸側は今剣、愛染、不動と物吉です!
 ・・・あーれれー?
 長谷部さん、三条は見物してろって言いませんでしたっけー?」
 にやにやと笑う鯰尾に、長谷部は鼻を鳴らす。
 「使えるものは使う。それだけだ」
 「今剣だけではないだろう?」
 鯰尾を挟んだ向こう側で、三日月が首を傾げた。
 「新撰組の部隊に、なぜか岩融も入れたそうではないか。
 大太刀や槍は要らないと言っていたのに、どういうことだ?」
 心底不思議そうな三日月に、長谷部は歪んだ笑みを浮かべる。
 「それは戦が始まってからのお楽しみだ」
 「はい、なんか悪巧みがあることは理解しました。
 では続いて、攻め手側の紹介に移りましょう!
 現場の骨喰ー!よろしくー!」
 「骨喰?
 あやつ、参戦せんのか?」
 意外そうな三日月に、モニター越しに骨喰が頷いた。
 「面倒だから不参加、って言ったら兄貴、涙目だったけど」
 相変わらず無愛想な口調で言った骨喰が、肩越しに背後の部隊を見やる。
 「こっちは攻め手だから、大所帯だ。
 一応、主に挑戦状を叩きつけられた一期兄貴が大将。
 副将は本当なら蜂須賀なんだろうが・・・早い者勝ちで鶴丸が持ってったらしい。
 博多以外の弟達の他は、蜂須賀に泣き落としされた浦島と、新撰組に嫌われてる陸奥守、他にも人数がいるからって、獅子王と大倶利伽羅、山姥切と山伏、髭切と膝丸にまで応援を頼んだから、ものすごくうるさい」
 淡々と言った骨喰は、『あ』と、視線を上に向けた。
 「救護班として、薬研が本丸にいるな。
 こちら側の救護班は五虎退。
 あの子は戦を嫌がるから」
 「はいはい、太刀要らないって言ってたくせにしっかり確保している理由は後でわかるとして、今回は不参加のメンバーも結構いますね。
 まずは、そのうち骨喰のイイ顔を撮ってくれるはずのカメラ班〜!
 デカイのが売りの三名槍の皆さんでっす!
 城外は御手杵、蜻蛉切の二人!
 城内は日本号が写してくれるはずなんですがー・・・」
 と、カメラ画像を切替えたモニターには、本丸御殿前に作られた桟敷席の宴会場で、賓客達と出来上がっている姿しか写っていない。
 「・・・はい、相変わらずでした。
 お客あしらいは他に、宴会場に行きたかっただけの次郎太刀と、一応監視の太郎太刀・・・あぁ、ここにいたんですね、小狐丸。
 まぁ、外面はいいですもんね」
 「鯰尾・・・明日お前が消えたとしても、俺は驚かんぞ」
 三日月の指摘は聞かなかった事にして、鯰尾は続けた。
 「皆さんへのお料理は光忠と歌仙が担当してくれています。
 あ、救護班には薬研と五虎退の他に、石切丸とにっかり青江もいますね。
 にっかりの治療なんて不吉な感じしかしませんから、みんなできるだけ怪我はしないように!
 後はー・・・左文字は三人とも高みの見物で、一緒に鶯丸と明石もお茶してます。
 貴重な短刀寄越せよ、不幸三兄弟が!
 って、明石に捕まって不満そうな蛍丸が言ってまーす!」
 「・・・嘘をつくな嘘を」
 苦笑する三日月ににんまりと笑って、鯰尾はまた画面を切り替える。
 「攻め手側は現在、大将から今回の注意事項が伝達されているようです。
 では、こちらでも確認しておきましょう!」
 そう言って、鯰尾は主の署名朱印入りの巻紙を広げた。
 「まず第一、怪我がないように、実弾、鏃(やじり)は使用禁止!
 各自の刀剣にも、必ずエッジカバーを着けること!
 ヒートアップして危険と判断したら、一旦戦闘を中止します。
 その二、精神攻撃禁止!
 過去に遺恨はあっても今は仲間なんだから、古傷えぐったりコンプレックス刺激しないように!
 そのため、今回は実力行使前の舌戦はやりませーん!!」
 『なにぃっ?!』
 隣と画面の向こう側の声が揃って、鯰尾は苦笑する。
 「いや、言うと思ったけどね、長谷部も一期兄さんも。
 人の古傷えぐるの得意だし」
 くすくすと笑う鯰尾に、三日月が首を傾げた。
 「長谷部に容赦がないことは知っているが・・・一期一振もなのか?」
 意外そうな三日月に、鯰尾は大きく頷く。
 「温厚な顔からは想像も出来ないような罵詈雑言が出て来ますよ!
 あの人、にこにこしながらちゃっかり閻魔帖付けるような人だから。
 一期兄さんー!
 閻魔帖仕舞って仕舞って!」
 ケラケラと笑う鯰尾に言われて、一期一振が渋々と帳面を仕舞う様を皆がじっと見つめた。
 「あれに俺らの悪口が書いてあるのか・・・」
 虎口の本丸を挟んで裏側、搦手(からめて)にある櫓門の内側で、中継が写るモニターを見ていた加州が青ざめる。
 「キヨなんか、絶対派手好きのお調子者、って書かれてるよね」
 「やすだって、のんきな顔して性悪の毒舌少年って書かれてるさ!」
 「酷いですね!
 清廉潔白な僕はともかく、兼さんなんてやりたい放題の割に繊細な最年少なんですから、主が止めてくれなきゃ折れてましたよ!」
 憤慨する堀川に、しかし、新撰組のメンバーは誰も何も言えなかった。
 と、薙刀を肩に載せて、岩融が首を傾げる。
 「お前が清廉潔白かどうかは置いといて、和泉守が繊細だというのは本当のようだな。
 さっきから壁に懐いているが、大丈夫なのか?」
 顎で指した彼は、岩融の言う通り、胃の辺りを押さえて壁にもたれていた。
 「兼さん!大丈夫?!
 あぁ、やっぱり一期一振に何言われるんだろうって気にしちゃったんですね!
 でも大丈夫!
 僕は兼さんがどんなに無謀で酒好きでそのくせ酒に弱くて、酒癖の悪さそのままに主に縋って『生きるの辛い』って泣いてた事知ってるけど、僕は気にしてないから!
 むしろ、最年少の頑張り屋さん可愛いって思ってるから!」
 大声でまくし立てる堀川の言葉に、和泉守の肩が益々丸くなっていく。
 「も・・・もうやめたげて、堀国!」
 「兼さんのライフは0だよ!!」
 戦闘前から仲間に消耗させられている和泉守に、岩融が呆れた。
 「悪いことは言わん。
 和泉守のために、しばらく堀川を引き離したらどうだ?」
 眉根を寄せて長曽祢に囁けば、彼もげんなりとした顔で頷く。
 「そうしたいのは山々だが、引き離せば更に恐ろしい事になるんだ。
 それをよく知っているからこそ、和泉守も無言で耐えている」
 「そうなのか・・・」
 せめてもの救いの手か、加州と安定が執り成そうとはしているが、自身の暴言に自覚のない堀川は全くわかっていないようだった。
 「・・・三条はのんびりしすぎだと思っていたが、あのくらいでちょうどいいのか」
 生まれに恵まれてよかったと苦笑する岩融の耳に、戦闘開始の貝笛と陣太鼓の音が届く。
 「さぁ!じゃれあいは終わりだ、お前ら!
 暴れるぞ!!」
 岩融の大声に、騒々しかった新撰組は表情を改め、鬨の声をあげた。


 「戦いの火蓋は切って落とされた!
 守備兵の二倍以上の兵力で攻め手が押し寄せて来ます!
 しかしこれではまだ不十分なんですよね、長谷部さん」
 鯰尾の問いに、長谷部が頷く。
 「攻城戦の場合、攻め手は守備兵の三倍以上の兵力が望ましい。
 圧倒的兵力差で捩じ伏せなければ、短期決戦は無理だ。
 ただし」
 長谷部は、前方に広がる一期一振の陣を指した。
 「今回の模擬戦は、現状を改める判断材料の収集が目的なんだ。
 堀などはあえて、未完成のままだな。
 今回で情報を集めて、より効率のいい城壁を作るつもりだ」
 「つまり、戦う前から負け惜しみ!さすがです!」
 「おい・・・!」
 長谷部の睨みをさらりと受け流して、鯰尾は目を外へ戻す。
 「早速大筒を使って来るようですよ!
 今回、大筒だけは実弾の使用が許可されています。
 ただし、火力はできる限り抑えるようにとのことですが・・・まだ石垣を組んではいないとは言え、せっかく作った城壁を壊していいなんて、太っ腹ですねぇ。
 ダイエットはしなくていいんでしょうか!」
 「今頃博多が大喜びでそろばんを弾いているだろうさ。
 損害が大きいほど、あいつは儲かるそうだからな。
 三日月」
 「ん?」
 呼ばれて見やると、長谷部は三日月の前に置かれたヘッドフォン型のイヤープロテクターを指した。
 「着けておけ。
 隣で騒がれたら鬱陶しい」
 言われて手に取っては見たものの、使い方がわからずに首を傾げる三日月の耳に、鯰尾が着けてやる。
 「さぁ!こっちは準備OKですよ!
 大筒いつでも来い!って所ですが、堀を溢れさせたぬかるみに車輪がはまって、中々進まないようです。
 あ、でも、板でぬかるみを覆いはじめましたね。
 気をつけて下さいよ!
 乗せたまま撃つと、反動で本体が滑りますからね!
 くれぐれも怪我のないように!」
 「なにやらわけのわからんことを・・・」
 イヤープロテクターのせいだけでなく、鯰尾のどちらの味方だかわからない言いように三日月は肩を竦めた。
 その視線の先では、ようやく設置の終わった大筒に弾が込められつつある。
 「大砲ぜよー!!!!
 念願の大砲を装備したぜよ!!!!」
 嬉しそうな陸奥守の声が、モニター越しに響き渡った。
 「いよいよじゃあ!!
 撃つのは初めてじゃのう!!」
 「・・・え?!」
 その言葉を聞いた全員が、敵味方関係なく凍りつく。
 「待て、陸奥守・・・!」
 「ふぁいやー!!」
 一期一振が止める間もなく放たれた砲弾は、城壁を越えて直接本丸に・・・しかも、賓客が観戦する桟敷席に飛び込んだ。
 ―――― 沈黙の時間を、鯰尾が真っ先に切り裂く。
 「なにやってんの、この馬鹿!
 よりによって非戦闘員しかいない場所にぶち込んだよ!
 みんな無事ですか?!」
 鯰尾の声で我に返った次郎太刀が辺りを見回した。
 「主とお客さんは・・・あぁ、小狐丸が避難させてくれたんだね。
 じゃあ砲弾はどこに・・・ああ!!
 兄貴ー!!太郎兄貴に直撃してる!!
 救護班ー!!!!」
 一瞬で重傷を負った太郎太刀を、次郎太刀が抱き起こす。
 「こっちこっち!!
 担架はいらないから、とりあえず応急処置して!!」
 太郎太刀の長身を軽々と抱え上げた次郎太刀に、皆が目をむいた。
 「か・・・怪力だな、次郎・・・」
 真っ先に駆け寄った薬研が、目を丸くして見上げた次郎太刀は、しかし、ふるりと首を振る。
 「あたしが怪力なんじゃない。兄貴が軽いんだ。
 兄貴はでかくても、実戦刀だからね。
 ちゃんと使えるように、本体の重さは4.5kgくらいしかないんだよ」
 「そうなのか?!俺でも持てるぞ、それ!!」
 手を伸ばした薬研に渡してやると、彼は見開いた目を輝かせた。
 「軽っ!!
 こりゃすげぇ!
 こんなにでかくなけりゃ、俺でも振れるぜ!!」
 「そうなのかい?
 ・・・私もいいかな?」
 ようやく追いついた石切丸も興味津々と寄って来て、ぐったりとした太郎太刀を受け取る。
 「これは・・・!
 こんなに軽いなんて、意外だねぇ!私なら振ることができるよ!!」
 今にも振り回しそうな石切丸を、次郎太刀が慌てて止めた。
 「先に治療しておくれよ!!兄貴が壊れる!!」
 「あ・・・!
 そ・・・そうだね・・・!」
 気まずげに頷いて、石切丸は救護テントへと太郎太刀を運んで行く。
 その様を、三日月が輝く瞳で見つめた。
 「俺も後で振らせてもらってもいいだろうか!
 俺よりも大きいのに、俺より軽いとは!」
 「それは俺もやりたいけど、断られると思うなぁ・・・」
 人的被害はなかったことにほっとして、鯰尾が苦笑する。
 幸い、大筒から発射される砲弾は炸裂弾ではなく、9cm4kg程の鉄の塊でしかないため、本来の射程距離を大きく上回った偶然の飛来では、ほとんど破壊力もなかった。
 「それにしても、直接本丸を攻撃されるとは。
 予想外でしたね、長谷部さん」
 鯰尾が話を振ると、本丸の騒ぎを無視して外を睨んでいた長谷部が首を振る。
 「予想外と言うより、本来あってはならんことなんだ、攻め手にとってな」
 彼が指した先を見やると、破裂した大筒の破壊力を受けて、陸奥守と彼が率いる兵士達が全滅していた・・・。
 「ちょっ・・・外が大変ー!!!!
 五虎退!!にっかり!!
 早く救護してあげて!!」
 鯰尾の悲鳴を受けて、城外に待機していた五虎退と青江の兵達が、わらわらと寄って行く。
 しかしさすがに三隊程度の救護班では捌ききれず、一期一振が自らの兵を割いて救護に割り当てるしかなかった。
 「一体なんでこんなことに・・・。
 あ、緊急の大筒メンテが行われていますね。
 現場の骨喰ー!一体、何があったんですか?!」
 破壊された一門の他、堀の外に並べられた大筒を調べる兵達の傍に、骨喰が駆け寄る。
 「・・・鯰尾、大変。
 全部の砲門の中に、すごい量の火薬が仕込まれてる。
 これじゃあ、弾が飛ぶより先にこっちが吹っ飛ぶ」
 実際吹っ飛んだと、骨喰は救護に大わらわの状況を見やった。
 「一体なんでこんなことに・・・。
 陸奥守、仕入れはできても使うのは初めてだって言ってたし、火薬の量を間違えたんだろうか」
 困り顔で首を傾げる骨喰が写ったモニターを、搦手に待機する面々が真っ青になって見つめる。
 「ほ・・・堀国・・・!まさか・・・・・・!」
 「お前の仕業・・・じゃないよね・・・・・・?」
 恐る恐る聞いた加州と安定に向き直った堀川は、得意げに笑って親指を立てた。
 「なんでドヤ顔なんだ、お前!!」
 「検非違使(おまわり)さああああああんん!!!!」
 「犯人こいつです!!!!」
 長曽祢の怒号にも、加州や安定の悲鳴にも動じず、堀川はくすくすと楽しげに笑う。
 「ルールなんてつまらない。
 やるからには先手必勝、反則ギリギリ、勝てば官軍。
 幸い、陸奥守が火薬の量を誤ったせいだって思われてるし、黙ってればわかんないよ!
 ね!兼さん!」
 「お・・・おう・・・!」
 主にバレたら切腹ものだと、和泉守はキリキリと痛む胃を押さえて屈みこんだ。
 「・・・今代の戦とは、こういうものなのか」
 眉根を寄せて、岩融がため息をつく。
 「やれやれ、武士が武士であった時代に朽ちて良かったと思ったのは初めてだ」
 悪気はないものの、強烈な皮肉とも取れる彼の言葉に、和泉守の胃が更に痛みを増した。


 「えー・・・全大筒の点検が終ったようです。
 戦の再開は、もう少々お待ちください」
 城の内外に鯰尾の声が響く。
 かなりの怪我人が出たため、大筒の点検が終わるまでは主の命令で戦を中断されていた。
 「ちっ!
 外が混乱してる間に攻め込んで、大将の首でも取りゃあ本丸側の勝利だったのによ!」
 イライラと城外を睨んでいた同田貫が、忌々しげに吐き捨てる。
 その傍らで、物吉貞宗がくすくすと笑った。
 「あえて攻めさせて、効率的に防御データを取るための戦なんでしょ?
 自滅しちゃった相手にこっちが勝っても、意味がありませんよ」
 でも、と、彼は穏やかな笑みを浮かべて小首を傾げる。
 「主様の敵が自滅なんて、やっぱり僕が幸運を呼んでしまったんでしょうか」
 「いや別に、あいつらは主の敵じゃないけどな」
 主の命令で攻め手に回っているだけだと、同田貫は肩を竦めた。
 「・・・おう、再開するぜ。
 笑ってねぇで、気ィ引き締めな」
 「はいっ!」
 軽く左手を上げた物吉に従い、彼の指揮する弓兵達が櫓門の中で展開する。
 「僕がここにいる限り、砲弾は飛んできませんよ!
 皆さん、安心して戦ってくださいv
 自身の運に絶対の自信を持つ物吉の言葉に、同田貫が吹き出した。
 「全く心強ぇや!
 ホラ!てめぇもいい加減、起きろ!不動!!」
 爪先でつつかれて、城壁に寄りかかって寝ていた不動が眠たげな目を開ける。
 「・・・っだよ、俺のことはほっとけよ!
 長谷部のやろうの命令で動くなんざ、ごめんだね!」
 「ねぇ、不動君!」
 だらけきった不動の前にしゃがみこみ、物吉は小首を傾げた。
 「長谷部さんがどうとかは、気にしなくていいですよ。
 だって今、僕達の指揮をしているのは、同田貫さんですから」
 ね?と、微笑まれた同田貫が、にやりと笑って頷く。
 「あんな頭でっかちなんざほっといて、こっちはこっちで楽しい戦をしようぜ!見ろよ!!」
 野太い声に引かれて、不動は同田貫の指す城外へ目をやった。
 「懐かしくないか、この光景!
 目の前に敵が迫る様・・・お前も、信長公の懐に抱かれて何度も見ただろう?」
 甲冑に陽光が弾ける様に目を細める不動の背を、同田貫が強く叩く。
 「銃兵を前に出せ!
 攻め込んでくる奴らに、お前の鬱憤をぶつけてやれ!」
 「・・・そんなでかい声で言われなくても、やってやんよ!!」
 ようやく立ち上がった不動に大笑し、同田貫は城外を見渡した。
 「おう、敵ども!!とっとと来いよ!!ぶち抜いてやんぜ!!」
 同田貫の大音声は、外の攻め手に容易に届く。
 「おい、あんなこと言われてるぞ。
 早く攻めようぜ」
 出鼻をくじかれてつまらなそうな顔をした鶴丸を、蜂須賀虎徹が苛立たしげに睨んだ。
 「こちらとて好きで待機していたわけじゃない!
 全く、手伝いもしないで暇をもてあましていた奴に言われたくないものだな!!」
 「火薬で着物が汚れるのは嫌だ」
 平然と言い放った鶴丸が、白い睫をぴくりと震わせる。
 「・・・だが、弾ける瞬間は好きだな」
 再開の合図代わりに響き渡った砲声と、続く着弾の衝撃に、鶴丸は笑みを浮かべた。
 「っは!
 ようやく攻められるぜ!
 来いよ、お前達!!」
 「あ!こら!!」
 蜂須賀の制止を振り切って、真っ先に飛び出した鶴丸の後に短刀達が続く。
 「攻城櫓を出せ!!」
 一期一振の命で、砲弾によって破壊された馬出の城壁を越えた攻城櫓が、虎口へと倒された。
 堀を削って積まれた土塁はまだ石垣が組まれていないため、さほどの高さもない。
 更に砲弾を撃ち込まれた馬出の壁は完全に破壊され、その後を追うように攻城櫓が倒されて、狭い堀に少々勾配のある橋がいくつも掛かることになった。
 「盾兵!!」
 鶴丸が率いる兵士が前方に出て、城内から放たれる銃弾と矢を防ぐ。
 「守りは任せろ!」
 率いる三隊全てを盾兵で構成した鶴丸の守りは固く、それぞれに銃兵のみを従えた短刀達は比較的安全に虎口の門前へと侵入した。


 「さぁ、戦闘再開です!
 鶴丸、太刀のくせになんで真っ先に飛び込んで来るのかと思ったら、率いる三隊全てを盾兵にして、防御を固めるためだったんですね!」
 鯰尾が声を弾ませると、隣で長谷部も頷く。
 「うまく短刀達と連携しているな。
 主があいつに責任能力をつけさせようと、しばらく短刀の引率をさせていたそうだが、それが役に立ったようだ」
 「うむ・・・。
 この状況に、一番喜んでいるのはあれやも知れんな。
 機動や自身の誉を犠牲にしても、童達を守ることを優先するとは、少し前の鶴丸では考えもせなんだろうに」
 感無量だと、和やかな目で見つめる彼らを、門前から鶴丸が見上げた。
 「聞こえてるぞ、お前達!!
 だから!
 責任能力じゃなくて責任感だろうが!!
 俺は言動の怪しい人間じゃ・・・って!
 話の途中で撃ってくるな、不動!このやろう!!」
 集中的に狙ってくる銃弾を避けて、鶴丸が怒鳴り声を上げる。
 が、櫓門の上で銃兵を指揮する不動は生意気に舌を出した。
 「実弾ならともかく、ペイント弾なんて当たっても痛くないだろぉ!
 お前の白い着物、真っ赤に染めてやんよ!」
 「当たったらちゃんとリタイヤしろよ!
 おい!そこの盾!!
 もう銃弾6発目だろ!リタイヤしろ!」
 同田貫の言うように、今回のルールとして、銃兵はペイント弾を、弓兵は鏃の代わりに染料を浸したスポンジを使っている。
 人に当たれば一発で退場、盾は銃なら五発、矢なら十発まで耐えると決められていた。
 狭い虎口前で、盾を頭上に掲げてひしめく彼らに銃弾や矢を浴びせることは簡単だが、15人編成の隊を三隊も連れているのだから、人数を減らされる前に仕掛けは済む。
 「いいぜ、鶴丸!!」
 「こっちもできたよ!」
 「僕も完了です!!」
 後藤と乱、秋田が声を上げ、一旦門前から離れた。
 「よし!
 みんな離れろ!!」
 鶴丸の号令で門に押し寄せていた兵士達が一斉に退く。
 平野と前田が銃兵で応戦しつつ、彼らの退路を確保した。
 「よっし!
 みんな怪我すんなよっ!!」
 「皆さん!一旦退却してください!!」
 厚の声と、櫓門の上の物吉の声が同時に響く。
 「ほんとは狙いつけるの、平野の方がうまいんだけどっ・・・!」
 味方が引いた後に一隊だけ残った厚が、兄弟の仕掛けた火薬へと火矢を掛けさせた。
 途端、爆風が狭い虎口の中で暴れ回る。
 「ま、応戦する方が大事だからしょうがないよな。
 おーい!
 門、吹っ飛んだぞー!」
 呼ぶや、堀の向こうの味方からも歓声が上がった。
 「獅子王!乗り込むぞ!」
 盾の補充だと、鶴丸に呼ばれた獅子王が嬉しげに駆け出す。
 「待ってたぜ!
 浦島!鳴狐!
 弓と投石で援護頼むぜ!」
 手招かれた浦島が、眉根を寄せて首をすくめた。
 「えー・・・もう出番かよ。
 俺、海でも見てたいなぁ・・・」
 「何を言っているのですか、浦島殿!
 さぁ!鳴狐と共に参りましょうぞ!さぁさぁ!!」
 鳴狐に背を押されて、浦島は仕方なく攻城櫓に足をかける。
 「なぁ・・・そのお供の狐、本当にしゃべってんの?」
 「もちろんですとも!
 鳴狐は無口ゆえ、このお供の狐が代わりにお話しているのでございます!さぁさぁ!!」
 「・・・俺のカメ吉も話せば、止めてくれるのかなぁ」
 さっさと矢に当たってリタイヤしようと、不真面目なことを考えながら、浦島の隊も堀を渡った。
 続いて、
 「よし!
 大倶梨伽羅、重歩兵を出せ!俺達も続くぞ!」
 と、気合十分に向かって来た蜂須賀の隊を見つめる長谷部が、にんまりと笑う。
 「・・・おっと?
 なんですか、長谷部さん。
 虎口を破壊されたのに、妙に嬉しそうですけど?」
 ここは悔しがる場面では、と鯰尾に問われて、長谷部はふるりと首を振った。
 「見てのお楽しみだ」
 自信ありげな声に、三日月もまじまじと向かい来る隊を見つめる。
 「ふむ・・・。
 これまでとの違いといえば・・・人数と重量かな?」
 呟いた三日月を、長谷部が横目で見やった。
 その様に『図星か』と、三日月が微笑む。
 「年の功かな、長老よ」
 「亀の甲より幾分か、世の中を見ただけのことだ」
 くすくすと笑いながら、三日月は三の曲輪に上った鶴丸の隊を見下ろした。
 「鶴丸は、自身こそ三隊を率いて大人数だったが、他は六人編成の銃兵を中心とした短刀達だ。
 総数としてはそこまで多くないし、機動を軸にしたために、軽いな。
 獅子王が率いたのも、盾の補充の他は浦島の弓兵と鳴狐の投石兵。
 軽いとは言わんが、蜂須賀が率いる重歩兵よりはだいぶ軽かろう。
 動きは鈍るが、銃対策には仕方ないのか?」
 「えーっと・・・。
 重歩兵は、銃弾2発、矢なら3発まではセーフ、ってルールですね。
 なるほど、攻め手はまず、機動で門を破壊、その後重歩兵で櫓の敵を狩る作戦で来ましたか。
 一期兄さんらしい、堅実な策ですね」
 「それが成ればな」
 くすりと、長谷部が笑みを漏らす。
 まるでそれが合図であったかのように、攻城櫓が次々と堀の中へ落ちていった。
 「え・・・っと?!
 これは一体・・・!」
 目を丸くする鯰尾の隣で、長谷部が愉快そうに笑う。
 「俺は最初から言っていたぞ、堀はあえて未完成のままだと!
 そんな場所に砲弾を撃ち込んだ挙句、攻城櫓なんぞ大きな物を倒して、その上をどかどかと押し寄せれば、ろくに固めていない土塁なんかあっという間に崩れるに決まっているだろうが!敵もろともな!」
 「負け惜しみじゃなかったってことか・・・!」
 兄が出し抜かれたことが悔しいのか、鯰尾が唇を噛んだ。
 その様を、長谷部が鼻で笑う。
 「ちなみに、堀は狭いが深さは十分ある。
 一旦入れた水を抜いて、ぬかるんだ底から這い出ることは、重歩兵には難しいだろうな」
 そして、と、彼は嬉しげに眼下を指した。
 「敵の分断に成功だ。
 鶴丸と獅子王が率いた隊は孤立無援。
 攻城櫓とともに蜂須賀と大倶梨伽羅を失って、一期一振はこれ以上攻める手立てを失くした。
 更に・・・とどめだ」
 にやりと笑って、長谷部が視線を横へ向ける。
 馬の駆ける音に気づいて同じく目をやれば、搦手を出た新撰組中心の騎馬隊が一期一振の軍の右翼へと向かっていた。
 「機動中心の戦力だ。
 ために岩融には隊を持たせず、単騎で向かわせている」
 兵がぶつかった瞬間の、薙刀一閃。
 不意を突かれた髭切と膝丸の隊のほとんどが削られた。
 「ありゃりゃ・・・こう来たか」
 「お前達!
 名乗りもせずに卑怯だぞ!!」
 苦笑する髭切の傍らで、膝丸が吼える。
 が、
 「古式ゆかしい戦でなくてすまんな!
 あいにく、俺達はこんな戦い方しか知らんのだ!!」
 開き直った長曽祢の大音声に、髭切の笑顔が凍りついた。
 「生意気な子だねぇ・・・斬っちゃうよ?」
 すらりと抜いた太刀が、陽光を弾く。
 「いざ!尋常に・・・」
 「ごめんね、一発当てたらすぐ帰れって、命令されてんのv
 今回、兵を削ることだけが目的なんだ!」
 髭切の名乗りを無視して、真っ先に加州が馬首を返した。
 そのまま素早く駆け去ったため、重歩兵中心で騎馬を持たない二人は追いつくことができない。
 「兄者・・・!」
 逆鱗に触れたのではと、膝丸が恐る恐る見やった兄は、意外にも楽しげに笑っていた。
 「なにこれ、こんな戦でいいの?
 まるで異国と戦ったみたいで、面白いねぇ!」
 振り向けば、自身が率いる隊だけでなく、膝丸の隊もほぼ全滅している。
 「そっかそっか。
 これがそっちのやり方だって言うんなら・・・」
 残った兵を素早くまとめて、髭切は駆け出した。
 「兄者!どこへ?!」
 「お前も早く兵をまとめてついておいで!
 えーっと・・・名前、なんだっけ?」
 「膝丸だ、兄者・・・!」
 がくりと肩を落とす弟に、髭切は大きく頷く。
 「そうそう、肘丸!」
 「兄者ああああああああああああ!!!!」
 軍の右翼に、膝丸の悲しげな咆哮が響いた。


 同じ頃、軍の左翼には、和泉守と堀川、安定の騎馬隊が迫っていた。
 油断している側面を突いたはずが、こちらは予想通りとばかり、正面から睨みを利かせている。
 「やはり来たな、三男」
 「カカカッ!
 お前のことだ、奇襲に来ることなど、わかっておったわ!!」
 「げ・・・!兄さん達・・・!」
 山姥切国広と山伏国広に真正面から向かわれて、堀川は顔を引きつらせた。
 「な・・・なんでわかったんですか!」
 奇襲を跳ね返されて悔しげな堀川に、山伏が大笑する。
 「虎口側の櫓門にお前がいなかったからだ!
 山姥切もすんなり見抜いておってな、二人でお前の奇襲に備えたというわけよ!」
 「一期一振にも報告したが、右翼の源氏達には敢えて言わずに、油断を誘ったようだな。
 ・・・まんまと誘い出されて、馬鹿め」
 右翼で源氏の兵力を削った隊は、搦手には戻らず、その機動力を生かして更に左翼へ回り込み、この隊と合流するに違いなかった。
 小城ゆえの強みだが、少ない兵力を更に分散させては各個撃破の餌食となる危険が強いため、早々に合流すべき事情もある。
 そしてその危機は今、彼らに迫っていた。
 「和泉守殿!大和守殿!
 局長殿が駆けつける前に、その首取らせてもらうぞ!」
 「はっ!やれるもんならやってみろってんだ!」
 「俺だって、キヨが来る前にやられるつもりはないよ」
 しかし、機動重視の兵は、奇襲を破られれば脆いものだ。
 重歩兵相手では容易に倒すこともできず、更には投石兵からの攻撃も受けて、兵力は減らされていくばかりだった。
 「退却だ!長曽祢達と合流できるところまで下がるぞ!」
 「カカカッ!遅いわ!!」
 馬首を返した和泉守の背に、山伏が大音声をぶつける。
 「お前達、戻る場所があると思うのか?」
 静かな、そのくせよく通る声で、山姥切が言い募った。
 「あの源氏が、やられっぱなしで黙っているとでも?
 今頃搦手は、奴らに固められているぞ」
 「しかり!
 一期一振殿も、兵を預けて向かわせておろう!
 さぁ!!挟撃の恐ろしさを知るのだな!!」
 「ちくしょ・・・!」
 悔しげな和泉守の傍らで、堀川が舌打ちする。
 「・・・大筒より先に、兄さん達やっておけばよかった」
 「だから!
 主のもの壊しちゃダメだって!!」
 本気でやりかねない堀川に震えながら、安定は和泉守を見やった。
 「とりあえず、キヨ達と合流しよう!
 反撃するにしても、兵力がなきゃ!」
 「わかった!
 こっちは機動力中心だ、合流すりゃなんとかなる!」
 虎口側の兵は既に二の曲輪へと退いているが、搦手の櫓門にはまだ、今剣と愛染が率いる援護の兵が残っている。
 門前を固められているにしても、城内へ駆け込む方法はあるはずだった。


 「さぁ、わからなくなってきましたね!
 まさか、堀川の性格で奇襲を読まれるとは!
 兄弟恐るべし!!」
 愉快げに笑いながら、鯰尾はモニターを見やった。
 「あ、堀に落ちた蜂須賀と大倶梨伽羅の兵は、見かねた蜻蛉切が助けてくれてますね。
 まぁ、リタイヤなんですけど、堀の中にいつまでもいられちゃ困りますもんね」
 今回は参戦せず、率いる槍隊と共にカメラを回していた蜻蛉切が、救助に当たる様が映し出されている。
 「・・・長谷部ー!!きさま、後で覚えていろ!!」
 カメラに向かって吼える蜂須賀に、長谷部が吹き出した。
 「攻城慣れしているくせに、こんな策に引っかかるなよ、蜂須賀!
 全くお前は、切れ味はいいくせにすぐ頭に血が上る」
 「・・・くそっ!
 もう二度と、こんな馬鹿げた遊びには付き合わんからな!」
 何もできずに堀に落とされた大倶梨伽羅のぼやきには、引き上げてやった蜻蛉切が首を振る。
 「実戦経験は何にも勝る宝ですぞ。
 これで貴殿はひとつ学ばれた。
 次はこのような目に遭わぬと、心に刻みなされい。
 さすれば次の戦では、きっと大功を挙げられましょう」
 「き・・・」
 気休めを言うな、と、開きかけた口を大倶梨伽羅は閉じた。
 「・・・次はいつだ」
 「さて。
 望めば主は、すぐにでも次の戦をご用意くださるやもしれませんな」
 そういう方だと、笑う蜻蛉切に大倶梨伽羅は無言で頷く。
 「次は・・・切り込んでやる!」
 泥だらけの指でまっすぐに指された長谷部は、余裕の笑みを浮かべて頷いた。
 「さてと!
 外はこんな感じでしたが・・・骨喰ー!
 骨喰は今、どこですか?」
 「今・・・門を破壊されたばかりの虎口にいる。
 鶴丸と獅子王の隊は、二の曲輪の門を攻めてるとこ」
 ペイント弾対策のヘルメットとゴーグルを着けた骨喰の顔が、モニターに映し出される。
 「御手杵が入りきれなくて、ちょっと足場危ういけど・・・大丈夫?」
 「ああ、へーきへーき!」
 ペイント弾を当てられたカメラのレンズを拭きつつ、御手杵は笑った。
 虎口から直角に曲がる細い道は、門に到達するまでに多聞櫓と二の曲輪の両側から狙われる位置にある。
 「二の曲輪からは同田貫の投石がきて、多聞櫓からは物吉の弓と不動の銃が鬱陶しい・・・おかげで、リタイヤする盾兵が相次いでるな。
 鶴丸の兵はもう、ほとんどやられたから、獅子王と協力してるけど・・・あ、浦島がやる気ない。
 兄貴がやられたってわかった瞬間からリタイヤ狙ってたけど、今、わざと当たりに行った」
 中々狙ってくれない敵に業を煮やして、流れ弾に手を差し出した瞬間が、しっかりと写っていた。
 「ちょっと浦島ー!まじめにやってください!
 全く、せっかくの援護射撃がまるっとなくなったじゃないですか!
 鳴狐、代わりにがんばれますか?」
 鯰尾の問いに、鳴狐が肩を竦める。
 「浦島殿には困ったものですなぁ!
 鳴狐は打刀なのですから、投石兵しか装備できないのですよぅ!
 この狭い足場では中々生かせず・・・あっ!何をするのですか!
 この狐を狙うとは卑怯な・・・あ、イテッ」
 白い髪をペイントで真っ赤に染めて、鳴狐が眉根を寄せた。
 「鯰尾が話しかけるから」
 「ごめーん!」
 骨喰の指摘に、鯰尾が苦笑する。
 「あぁ、でも・・・浦島と鳴狐の兵が引いたから、カメラは通りやすくなったかな?」
 「おう、順調だぜ」
 骨喰が見上げた御手杵が、率いる槍隊と共に、兵の頭上から映し出した。
 「本丸側は、狭間から狙ってくるから兵力は全然減ってないな。
 逆に攻め手は、かなり苦戦している。
 分断されて、援軍が見込めないから短期決戦に持ち込みたいんだが、じりじり削られてるって所かな。
 盾が少なくなって、そろそろ短刀にも被害が・・・」
 「きゃんっ!!」
 言った傍から悲鳴が上がり、涙目の乱が頭をさすりながら引いて来た。
 「物吉ちゃん・・・!
 ボクを集中的に狙ったでしょ!
 後でおしおきしちゃうからね!」
 真っ向から指名されて、物吉が城壁の上から顔を出す。
 「だって、一番火力が強かったんですもんv
 当然ですよね!」
 笑顔に向けて放たれた銃弾を交わして、また城壁の向こうへ隠れた。
 「いちごお兄ちゃん!
 仇とってぇ・・・!」
 涙の訴えに、モニターを見ていた三日月が笑い出す。
 「これは助けに行ってやらねばな、一期一振。
 だが、堀の外からどうやって駆けつける?」
 その問いに、答えはなかった。
 一期一振は今、源氏兄弟に搦手を奪われた新撰組の隊を、挟撃して散々に打ち破っている最中だ。
 「ちっ・・・!
 性格で奇襲が読まれるとは、ぬかったな」
 さすがに予想外だったとぼやく長谷部の顔を、桟敷席に設けられた大型モニター越しに見た光忠が吹き出した。
 「そりゃ、さすがに予想つかないよねー!
 兄弟が敵味方に分かれるって、昔はよくあったことだけど、ここでまた起こるとは思わないもんね」
 くすくすと笑う彼の隣で、次に出す料理の皿を選んでいた歌仙が笑みを浮かべる。
 「情を廃した長谷部君と、情を重んじた一期一振君の対決でもあったからね、この戦は」
 訳知り顔の歌仙を、配膳の手伝いに来た小狐丸がふと見やった。
 と、彼は独り言のように、皿に目を落としたまま続ける。
 「僕は主が初めて手にした付喪神でね・・・ここでは一番相性がいいと自負している」
 唐突な言葉にむっとした小狐丸には気づかない振りで、歌仙は乳白色の磁器と土色の陶器を手にした。
 「だから主は、本当に大切な相談は僕にするのさ。
 ・・・この本丸を、真に和合させるにはどうすべきか、とかね」
 二つの皿を並べて見比べる歌仙に、光忠が微笑む。
 「つまり、影の主催者は君だったってわけか?」
 「うーん・・・。その言われようは好きじゃないな。
 僕はただの編者だよ。
 古今和歌集を編んだ者がいたように、名だたる名刀達の個性を、この戦の中で編んではどうかと提案しただけ。
 適材適所、とも言うかな」
 雅さに欠ける四字熟語だと、歌仙は笑い出した。
 「主は・・・君を傍に置きすぎたんだよ、小狐丸」
 不意に名指しされて、小狐丸は眉根を寄せる。
 「それはどういうことでございましょう。
 この小狐がお傍にあれば、ぬしさまになにかご不都合でも?」
 「おおありだよ」
 肩を竦めて、歌仙は陶器を手にした。
 「名だたる名刀を幾振りも手に入れながら、主は近侍を変えなかった。
 三日月殿や鶯丸殿みたいに、歳経る方々ばかりならそれもよし、で済んだことさ。
 でも、若い連中には僕みたいに、達観できる者は少なくてね。
 いくら誉を取っても、近侍に置かれないのは不満だろうし、不満も募れば主への不信に繋がる。
 それはね、この本丸の和合には、とてもまずいことなのさ」
 だから・・・と、歌仙は磁器の皿へ持ち替える。
 「今回の築城と、模擬戦なんだよ。
 最も不満を持っていた長谷部君を登用して、そのサポートに、戦場でしか働き場所がないと思われていた同田貫君を当てた。
 みんな、驚いたよね。
 そして、主は必要であれば、お気に入りの小狐丸を排除して、近侍を変えるんだって、認識を改めさせた。
 更に今回の模擬戦では、各人の遺恨やしこりを顕在化させて、周知化させたんだよ。
 今後、一期一振君や物吉君は、おせっかいを焼きやすくなるだろうね。
 何より、新撰組の口から『主の物を壊すな』って言葉が出たのは尊い」
 彼らが一番滾っていたからと、歌仙は和やかに微笑んだ。
 「君が本気で怒っていたのも効果的だったよ、小狐丸君?
 主は、君にだけは本当のことを言っておきたいなんて、甘いことを言っていたけど僕が止めた。
 だってそれじゃあ、ここまでやる意味がないもの。
 僕が呼んで、あえて近侍を譲り渡した君だけど、さすがに長すぎた。
 篭絡の手管は見事だけど、あれでは主が贔屓しているようにしか見えないからね。
 みんなから『ざまーみろ』って言われた気分はどう?
 ―――― 僕からの、お仕置きだよv
 その言葉に、小狐丸が思わず吹き出す。
 「・・・あぁ、本気で笑ったのはいつぶりか。
 まったく、この小狐をたばかるとは、あなたという人は・・・!」
 さすがは初の付喪神と、小狐丸は吐息した。
 「和合、成立かな?」
 光忠の呟きに、歌仙が頷く。
 「うん、陶器の皿にしよう。
 緑の色合いを活かすには、土色の皿がとてもいい」
 磁器の皿を押しのけて、歌仙は陶器の皿の上に料理を盛り付けた。


 「あーっと!!
 ここで鶴丸リタイヤ!!
 うっわー!めっちゃ怒ってます!
 そんなに着物汚されたのが悔しいか!」
 鯰尾の声にこめかみを引きつらせ、鶴丸は獅子王の肩を叩いた。
 「後は頼む!
 短刀達を・・・守ってやってくれ!」
 涙目の鶴丸に、短刀達が抱きついてくる。
 「鶴丸・・・!」
 「今までありがとうっ・・・!」
 「このご恩は忘れませんっ!」
 「お前達っ・・・!勝てよ!!」
 涙を堪えて退場する鶴丸の背を、獅子王が呆れ顔で見送った。
 「・・・あ、うっかり感動シーンに乗り損ねた」
 はっとして、獅子王は率いる盾兵の陰に短刀達を庇う。
 「この門さえ打ち破れば、本丸まであと一歩なんだけど・・・!」
 しかし、援軍に来るはずだった重歩兵は堀に落とされてしまった。
 その上堅牢な門は、銃弾を跳ね返してびくともしない。
 このまま兵力を削られて終わりか、と、焦る彼らをモニター越しに見ていた蛍丸が、つまらなそうに緋毛氈の上を転がった。
 「もうー・・・!
 俺がいればこんな門、すぐに破ったのに・・・。
 なんだよ、大太刀いらないってぇ・・・!
 愛染は連れてってもらったのに、なんで俺は国行とここで見物なのさぁ・・・!」
 ごろごろと転がりながら不満を漏らしていると、すぐ近くに座っていた江雪の膝にぶつかる。
 「戦など・・・遊びでもやらぬ方がいいに決まっているのです。
 ここで大功を立てたとて、なんになりましょう」
 そっと頭を撫でる手を、蛍丸は不満げに振り払った。
 「誉も欲しいけど、そうじゃない。
 俺は、戦にイラナイって言われたことが不満」
 そうでしょ?と、蛍丸は兄達に挟まれて団子を食べる小夜を見やる。
 「なんでお前、短刀なのに参加しないのさ。
 短刀は今回、取り合いだったのに」
 「・・・兄様達が、参加しちゃダメって言ったから」
 どこか不満げな口調に、宗三がしかつめらしい顔で頷いた。
 「このようなくだらない遊びになど、付き合う必要はありません。
 ごらんなさい。
 みな、泥にまみれて汚らしいこと。
 なのになぜ、あんなに楽しそうなのでしょうねぇ。
 気が知れませんよ、全く」
 「そうか?」
 宗三の忌々しげな声を、聞くともなしに聞いていた鶯丸が微笑む。
 「俺も、太刀が参加していいのなら参加したのだが、うっかり見物に回ってしまった。
 攻め手に回ってよいのだったら回ったんだがなぁ・・・。
 ま、三日月も今回は見物しているし、年寄りはお呼びでなかったということかな」
 それにしても、と、鶯丸は二の曲輪にまで迫った攻め手に目を細める。
 「若い者は元気だなぁ。
 あんなにくるくるとめまぐるしく動いて。
 まるで、メジロの群れのようじゃないか。愛らしいことだ」
 「・・・あぁまで攻められて、愛らしいとは」
 呆れ顔の江雪に、鶯丸は微笑んだ。
 「愛らしいよ。
 一所懸命で実にいい。
 しかし・・・そろそろ限界かな」
 盾兵中心に防御を敷いても、両側から攻められては限界がある。
 獅子王自身も倒されようかと言う時、外から一期一振の声が響いた。
 「蛍丸!
 遊びにおいで」
 瞬間、跳ね起きた蛍丸は、寝転んでいた明石の手を取って駆け出す。
 「愛染!今だ!!」
 仕事をしない日本号のカメラに向かって怒鳴り、自身は本丸の門へと向かった。
 「いまだ・・・って、なんですか?」
 モニターから突然聞こえた声に、驚いた今剣が首を傾げる。
 愛染と共に搦手の櫓門を守っていたが、新撰組と岩融が出て行った後は源氏に門前を固められ、動けない状況にいた。
 そんな中での声に、不思議そうに見やった愛染に銃口を向けられた今剣は、目を丸くする。
 「あいぜん・・・?」
 「ごめん、今剣。
 実は・・・来派、一期一振と内通してたんだ」
 胸で弾けた紅い染料を見下ろし、今剣はしばし呆然とした。
 「・・・ひどい。
 ひどいですよ、もぉ!
 ぼく、おこりましたからね!!」
 「ごめんって!
 でもこれ・・・保護者命令なんだよ」
 「はいな。
 すいまっせん、今剣はん」
 気まずげな愛染の声が聞こえていたかのようなタイミングで、モニターから明石の声が応える。
 「今頃怒ってますやろけど、これ、一期一振はんからもろた通りの作戦なんですわ。
 あの人、穏やかな顔してえげつない作戦立てますな」
 笑いながら、日本号が放置した槍隊のカメラを従え、本丸の門を内側から開けた。
 「あーぁ。
 蛍丸、元気なこっちゃ。
 一瞬で防御方の同田貫はん、物吉はん、不動はんを斬りましたな。
 長谷部はーん!裏切ってごめんなー!」
 「あいつら・・・!」
 天守へ向けて手を振る明石を、長谷部が忌々しげに睨む。
 しかしそれ以上に、三日月が深々とため息をついた。
 「まったく・・・少しは手段を選んでくれ。
 今剣が泣いてしまって可哀想に・・・小狐丸か石切丸、岩融がおらぬあいだ、あれをなだめてやってくれ」
 「あぁ、私が行くよ」
 本丸側には太郎太刀以外の怪我人はなく、手持ち無沙汰だった石切丸が搦手へ向かう。
 「さて!
 内通者の働きによって!
 とうとう!
 本丸の門が内側から開きましたー!
 一期兄さんおめでとー!!!!」
 「た・・・助かった・・・!!」
 内側から開いた二の曲輪の門に身体をもたれさせて、獅子王が吐息した。
 「も・・・絶体絶命だったからさ!
 短刀達、なんとか守ったぜ!!」
 こぶしをあげる獅子王に、生き残った短刀達が抱きつく。
 「やったー!開門ー!」
 「勝ったー!!」
 「いち兄ー!!やったよー!!」
 歓声を上げる弟達に、一期一振も手を上げて応えた。
 一方で、
 「ちっくしょ・・・!裏切りかよ!」
 「お前ら・・・!
 よくも俺の古傷抉りやがって・・・!」
 明石と蛍丸に詰め寄る同田貫と不動を、背後から物吉がなだめる。
 「まぁまぁ。
 最初に内通者を作っておくのは定石ですよ。
 それに気づかない方が悪いんです」
 にこにこと笑いながら、物吉は両手で蛍丸の手を握った。
 「それより、すごいですね、蛍丸さんの剣筋!!
 僕、一期一振さんの声で、裏切りかもって思ったんですよ?
 なのに、気づいたら斬られてました!」
 すごいすごいと感心する物吉に、蛍丸が頬を染める。
 「こ・・・このくらい、大太刀なら当たり前」
 「そんなことないで!
 蛍丸はほんまえらい子やv
 自慢の子やんなぁvv
 愛染ーv 愛染も自慢の子やでーv
 はよこっち来ぃv
 抱きしめて派手に頭を撫でる明石に、蛍丸がうんざりとした表情を浮かべた。
 「はーい!
 これにて戦終了!
 両大将、お疲れ様でした!
 薬研ー!怪我人の対処、よろしく!
 五虎退も大変だったね!おつかれさまー!
 骨喰ー!
 あがっておいでよ、一緒にお団子食べよーv
 のんきな鯰尾の声に、忌々しげだった長谷部の表情も緩む。
 「ちっ・・・。
 だが、データは取れた。
 角櫓は廃止して、砲台にする。
 それで外からの砲撃に対処しよう」
 「ふむ・・・。
 なにやら物々しくなりそうだな」
 少なくとも、歌仙の好みではないだろうと、三日月が肩を竦めた。
 「では後は・・・和睦の宴とするか。
 江雪。
 足労をかけるが、和睦の使者として一期一振のもとへ行ってくれ。
 形式もたまにはいるだろうよ」
 「承知しました」
 微笑を浮かべて立ち上がった江雪が、袈裟を翻して本丸を出る。
 「これで満足かな・・・主よ」
 にこりと笑った三日月の囁きに、長谷部と鯰尾が目を丸くした。


 「あー・・・!
 もっと攻めたかった!」
 せめて門は破りたかったと、不満げな鶴丸の杯に、同田貫が酒を注いだ。
 「いやいや、きつかったぞ、お前の攻め!
 あそこまできっちり盾を敷き詰められたら、崩すのも大変だった。
 てっきり、二の曲輪の門も爆破されると思ったんだが」
 なぜやらなかった、と不思議そうな彼に、前田と平野が顔を見合わせ、訝しげに首を傾げる。
 「それは・・・そちらの作戦だったのでは?」
 「僕達が運んだ火薬が、濡れて使い物にならなくなっていたんですよ。
 それも、内部に水を入れた袋を仕込んで、運んでいるうちに使い物にならなくなるように仕組まれて」
 「そうそう。
 虎口で使った時はまだ、水が染みてなかったから爆破できたんだ。
 それで油断させて、中まで運ばせて、肝心なところで使わせない作戦か、って・・・思ったんだが?」
 実際に使えなくて、苦戦してしまったと不思議そうな鶴丸を見やって、堀川がにんまりと笑った。
 「お前か!」
 「お前だな!」
 両側から山姥切と山伏につつかれ、堀川は得意げに頷く。
 「ちょっとしたいたずらですよv
 奇襲は見破られたんですから、このくらいは活躍しないと!」
 実は他にも誉が、と言いかけた堀川の口を、和泉守が慌てて塞いだ。
 「どうした、和泉守」
 「我らが弟がなにかしでかしたか!」
 「なんでもないっ!!
 本当ーっになんでもないっ!!」
 「そっ・・・それより、二人の作戦もすごかったね!」
 「重歩兵率いてたのに、なんであんなに早かったの?!」
 和泉守を援護するように、加州と安定も割って入る。
 「カカカッ!
 それはひとえに、修行の成果であるなぁ!
 拙僧もそれなりに、統率の経験は積んでおる!」
 「まぁ・・・統率もだが、今回は相手の手の内がわかっていたことが最大の利点だったな。
 弟は和泉守を攻めるとすぐに頭に血が上って、途端に調子を崩すんだ」
 「・・・・・・兄さん達なんて嫌いだ」
 思いっきり舌を出す堀川に、山姥切が珍しい笑みを浮かべた。
 「今回は一騎打ちにならなかったようだが、あちらの兄弟も大変そうだ」
 山姥切が顎で指した先では、自棄酒に溺れる蜂須賀を浦島が必死になだめ、長曽祢がなにやら呆れ顔で話しかけている。
 「あーあ。
 ほっときゃいいのに、長曽祢が加わると火に油だよ」
 ようやく怪我人の治療を終えて、宴に参加した薬研が呆れた。
 「戦の間は暇だったのに、終った途端、どっと来たな。
 ま、五虎退とにっかりは戦の間も走り回って大変だったみたいだったが。
 陸奥守は全治3日だ」
 真っ先に吹っ飛んだ彼に、その場の全員が献杯する。
 「けど、ま。楽しかったぞ。
 またやりたいな!」
 杯を干した鶴丸の一声に、敵も味方も楽しげに頷いた。


 その頃、誰もいない本丸御殿の中では、モニターに囲まれて一人、博多が怪しい笑声を上げていた。
 「ひーっひっひっひ・・・!大儲け大儲けv
 電卓を叩く指が、弾みまわって止まらない。
 「いち兄も鶴丸も、えらい壊してくれたけん、修繕費用の貸付で・・・ふふふふふv
 弾き出された数字に、笑いも止まらなかった。
 「見物の審神者から、見積もり依頼もたくさん来て・・・こらぁ、まだまだ儲けるばい!!」
 小さなこぶしを、力強く握る。
 「真の勝者は俺ばい!!」
 勝利の雄たけびは、本丸中に響き渡った。




 了




 










刀剣SSその6です。
城好きが高じて、本を読んでいるうちに自分でも城を建ててみたくなりまして(笑)
だったら、攻城戦も一緒にやるか、ということで戦術や兵器も調べて、こんな話ができました(笑)
ケンカではなく、本丸主宰の体育祭みたいなノリ、すっかり黒くなってしまった本丸の大掃除です(笑)
なのにうちの黒田組はどうも、あちこちでケンカ吹っかけて、実にすみません;;
いち兄がどす黒くなってしまって本当にすみません;;
陸奥・・・マジでごめんなさい、本人悪くないのに彼を見る度に吹くように・・・!>酷いな!
今回、機動力や指揮できる兵の種類はゲームの設定に準じていますが、『機動力を上げるために岩融は単騎』など、本来の戦術を使っているものもあります。
ゲームでは、歩兵でも刀装をつけた方が機動があがるんですが、それは本来の戦術ではないと思われますので。
新撰組の兵力を更に二分する、って戦術も、本来なら絶対やってはいけないんですが、ここはビジュアル重視です(笑)
堀国も『本物』ってことで話を進めていますよ。
そして三日月の言う、『下々の言う、ざまぁみろという気持ち』というのは、幻水5のママ上の台詞です(笑)
結構これ、よく使わせてもらってます(笑)
あとこれは絶対違和感だったろうな、と思いますが、重さなどの単位は現在のものを使ってます。
というのも、貫とかの重さは時代によって変わっていくので、たろじろの思う『貫』と幕末組の知ってる『貫』の重さは違いますのよ。
なので、ここでは現代の単位を使いました。>たろ兄は本当に4.5kgしかないそうです。三日月の重さは知りませんが。
自分以外、誰が読んで楽しいんだろうとは思いましたが、これでお城や戦略に興味を持ってくれると嬉しいです(笑)

SS読んでも戦況がよくわからなかったと言う方へ。
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