「・・・で?なんだ、このまずそうなのは」
テーブルの上に乗っている『モノ』へ、遠慮会釈ない言葉を発した神田に、リナリーの拳が飛んだ。
「ユウ?!」
壁際まで、一気に吹き飛ばされた神田の姿に、ラビが悲鳴を上げる。
「バースデーケーキよ!まずそうで悪かったわね!」
「え・・・?これ、リナリーが作ってくれたんですか?」
しん・・・と、静まり返った室内に、アレンの声が、いやに反響した。
「・・・・・・リナ、正直に言うけど、お世辞にもうまそうじゃないさ」
神田への暴行を目の当たりにしたためか、ラビの声は震えていたが、次代のブックマンとして、偽りやお世辞は言えなかったらしい。
こわごわと、しかし、確実に頷いた子供達にも勇気をもらって、ラビは、溶け崩れたようなケーキ・・・というより、生クリームの山を指し示した。
「なんで・・・!ここに運んだ時は、まだましだったのよ?・・・キレイにできたとは言えないけど・・・」
「ホイップのたて方がゆるかったんさ、きっと。それで、こんなにどろどろになっちまったんだな」
作った当初は、ケーキの頂上にあったのだろう、16本のロウソクは、生クリームが流れ落ちると共に崩れ、全てがあらぬ方向を向いている。
それらを抜いては、スポンジに挿し直してやるラビに、リナリーは、顔を真っ赤にして、大きな目に涙を浮かべた。
「ジェリーの言う通りに作ったのに・・・なんで?!」
「姐さんがついていてこのザマ?・・・ってことは」
全てのロウソクを挿し直したラビは、ケーキの周りに手をかざして、その周辺の温度を確かめる。
「・・・リナ、暖炉の傍に置いてたら、クリームが溶けるに決まってんさ・・・」
リナリーが、しばらく前からケーキを置いていた場所は、暖炉の熱が、十分届く場所だった。
「そんな・・・!生クリームって、溶けるの?!」
アイスじゃないのに!と、悲鳴じみた声を上げた彼女に、ラビが心底呆れる。
「・・・リナ、そんなことも知らないって、料理下手以前の問題さ・・・・・・」
「うっ・・・!」
本気で泣き出しそうなリナリーに、アレンが慌てて歩み寄った。
「大丈夫ですよ!ジェリーさん直伝なら、溶けてたって、味は変わらないでしょうから!」
「アレン君・・・!」
アレンの気遣いに、目を潤ませたリナリーの前に、しかし、血と怨念にまみれた神田が立つ。
「モヤシの場合、味より量だからな」
神田の言葉に、リナリーのこめかみが震えた。
その様に、アレンとラビが、慌てて神田にたかり、その口を塞ぐ。
「神田!シーッ!」
「ユウちゃん、なんでそんなこと言っちゃうわけ?!命が惜しくないんさ?!」
ラビに迫られ、神田の目が、凶悪に吊り上がった。
「俺はただ、正直に・・・!!」
「正直がなんですか!口は災いの元ですよ!」
「そうそう!
アクマ100体と戦うのと、この教団の婦女子を敵に回すのとじゃ、後者が圧倒的に分が悪いさ!」
「コムイさんに聞かれたらどうするんですか!!
ここでは、思っても黙ってる!!それが、命を無駄にしない、唯一の方法ですよ!!」
リナリーの耳をはばかりつつも、怒涛のようにまくし立てる二人に、さすがの神田も、説得を受け入れる他ない。
青筋を立てつつ、同意を求めて緊迫した視線を向ける二人に、神田はようやく頷いた。
「・・・よし!
リナリー!ちょっと崩れちゃったのは、残念でしたね!でも、一所懸命作ってくれたなんて、嬉しいですよ!」
リナリーを振り返るや、ころりと表情と口調を改めたアレンに、ラビがひどく感心した様子で、神田に囁く。
「・・・・・・さすが、天然ナンパ少年。
ユウも、ちょっとは奴を見習うさ」
「・・・誰がっ!!」
忌々しげに吐き捨てた神田の眼前では、しかし、アレンが、いかにもまずそうなケーキを口に運んでいた。
「あ、やっぱり!味は全然問題ないです!
さすが、ジェリーさん直伝ですね。おいしいです」
「ホント?!」
にっこりと微笑んだアレンに、リナリーの機嫌もすっかり直り、一時、緊迫した室内は、ようやく元の賑やかさを取り戻した。
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