リナリー作成のケーキを試食し、身をもって安全を確認したアレンの勇気を称えてか、火の灯ったロウソクを前にしてのバースデーソングは、異様な盛り上がりをみせた。
が、ロウソクの火が吹き消された後、ラビが喜び勇んで持ってきた『バースデープレゼント』と称するものに、アレンは、さっと表情を強張らせる。
「・・・・・・明らかに動いてますよね、ソレ」
キレイな紙と鮮やかなリボンで、丁寧にラッピングされたプレゼントに、アレンは、引きつった声を上げた。
と、
「なぁに、ラビ?また動物?」
「お前・・・毎回毎回、希少動植物を密輸しやがって、世話する方の身にもなれよ!」
リナリーと神田の、迷惑そうな声音に、しかし、ラビは満面の笑みを返す。
「確かに希少っちゃあ希少さ。けど、これはアレンと俺の、思い出の品でもあるんさ!」
なぁ?と、無理やり押し付けられたものを手にして、アレンは、しばし固まった。
「いや・・・なんかね・・・・・・すごく・・・・・・予想はしていたんですよ・・・・・・。
発芽させるのさえ難しい『彼女』を、発芽させたラビですもんね・・・・・・」
アレンの声が、低く、暗く沈んでいく様に、しかし、ラビは笑って首を振る。
「ちげーよ、アレン!
これは、マドモアゼル・マリー・アルベルティーヌ・ヴィクトワール・ジェルトリュド・フロランスを株分けしたもんじゃねぇさ!」
「ホント?!
僕があげた食人花じゃないの?!」
必死の形相で迫るアレンに、ラビは笑って、何度も頷いた。
「株分けするには、時期も悪いし、時間もなかったんさ。
それに、クロちゃんに聞いたんだけど、お前が世話してたって言うロザンヌ様は、俺が育ててるマドモアゼルとは、品種が違うんだろ?」
「・・・え?そうだっけ?」
訝しげに眉を寄せて、アレンが、ラビの部屋にいる食人花―――― マリー・アルベルティーヌ・ヴィクトワール・ジェルトリュド・フロランスの花容を思い浮かべていると、ラビは得意げに頷く。
「クロちゃんが言ってたぜ。
クロス元帥が持ってきたのは、花弁が一重の、どっちかってぇと蘭みたいなヤツだったって。
俺のマドモアゼルは、多重咲きのバラ型だもん」
「あ、そっか!そう言えば、クロウリー城には二種類ありましたね!」
あんな状況でもきちんと観察するとは、さすがはブックマンの後継者、と、感心するアレンに、ラビは、改めてアレンに渡したものを指し示した。
「開けて開けて 絶対驚くさ!」
「ハイ!」
ラビに急かされ、アレンはプレゼントのリボンを解く。
「・・・絶対、怪しいもんだぜ」
「アレン君・・・ラビを信じるなんて・・・・・・!」
神田とリナリーが、ひそひそと囁きを交わしつつ、さりげなく数歩を引いたことには気づきもせず、アレンは、無防備に包装紙を取り去った。
途端、
「わぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
神田とリナリーの予想通り、鋭い牙を持った食人花に迫られたアレンが、悲鳴を上げる。
「ラビ!!食人花じゃないって、今!!!」
「食人花じゃねぇとは言ってねぇさー♪
俺のマドモアゼルから株分けしたんじゃない、って言ったんだよん 」
驚いたか、と、嬉しそうに言うラビに、神田とリナリーが、深く吐息した。
「やっぱりな・・・」
「アレン君、かわいそうに・・・・・・!」
早速、食人花に噛み付かれているアレンを、リナリーはハラハラと見守る。
だが、ラビにはラビの言い分があった。
「お前らは知んねぇだろうけど、アレンは、3年もお花様の世話をしてたんだぜ!
そのお花様が枯れたと聞かされた時・・・心優しいアレン君が、お花様との永久の別れを、どれほど嘆いたことだろうかと思った俺は、少しでもその悲しみを和らげてやろうと、クロちゃんに種を取り寄せてもらい、部屋に作った温室の中で、俺のマドモアゼルに嫉妬されながらも大事に大事にお育て申し上げ、今、ようやくアレン君に渡すことができたってわけさ!」
「ラビ・・・!ごめんなさい、私・・・!」
「ラビって、いい奴なんだねぇ・・・!」
「俺、感動したなぁ!」
わざとらしいほどに感情を込め、切々と訴えたラビに、リナリー他、子供達は、感激の目を向ける。
が、
「嘘だな。単に、モヤシに仕返ししたかったんだろ」
神田にばっさりと一刀両断され、ラビは慌ててその口を塞いだ。
「ユウちゃん?!ついさっき、余計なことは言うなって、忠告しなかったさ?!」
必死の表情で迫ってくるラビに、反駁しようとした神田だったが、
「そっか・・・ありがと、ラビ」
意外にも、すんなりと受け止めたアレンの言葉に、反駁を封じられる。
「気づいていたんだね、僕があの時、ロザンヌ様とのお別れを、悲しんでいたって・・・!」
しんみりと言われて、ラビの良心が、ざっくりと切り裂かれた。
「ありがとう・・・!彼女をロザンヌ様だと思って、大切にするよ!」
アレンの、キラキラとした笑顔に、ラビの良心は、更に深い傷を負う。
「・・・騙されてんじゃねぇよ、ラビ。あのモヤシは、結構腹黒いぜ?」
すっかり打ちのめされた様子のラビに、警告を発した神田だったが、その言葉はラビの耳に届かず、その上、リナリーまでもが感嘆の声を漏らした。
「なんて素敵な友情かしら!これでこそ仲間ね!」
「仲間・・・・・・・・・・・・?」
この室内でただ一人、アレンの背後にある闇が見えていた神田は、リナリーの言葉に、深く首を傾げた。
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